リアルを知るからこそ追求した「物理的に不可能な映像表現」ーーバーチャルクラブにおける映像演出の"現在"「CLUB REGULUS DELTA」制作インタビュー
2022年3月19日にVRChat上で開催されたクラブイベント、「CLUB REGULUS DELTA」。縦横無尽に空中を移動する6面のスクリーンを使用した、他に類を見ないVJ演出が話題となった。
今回は、そんな「CLUB REGULUS DELTA」でのVJ、および移動するスクリーンのオペレーティング等を担当したHatoto氏と、CLUB REGULUSの仕掛け人であり、ワールドの制作者でもあるKeisuke Kimura(以下、キムラ)氏をお呼びし、インタビューを行った。
また、Hatoto氏は21年の歴史を持つクラブ「ageHa」等で活躍するVJでもあり、キムラ氏は関西のクラブで音響・照明のオペレーターを担当するなど、物理現実のクラブでも活動する両氏。今回のインタビューでは「REGULUS」についての話に留まらず、バーチャルクラブの印象や、バーチャルにおけるVJの未来や可能性まで、様々なテーマを語っていただいた。
毎晩のようにクラブイベントが開催されていることへの衝撃
――まず初めに、おふたりがVRChatに触れたのはどういったきっかけだったのでしょうか?
キムラ もともと僕らはずっとリアルのクラブで活動してたんですけど、コロナのタイミングで現場でのイベントがほとんどなくなってしまって。イベントをやったら炎上する、ってぐらいの状態になったときに、周りの人たちがみんなTwitchとかYouTube LiveでのDJ配信イベントに移っていったんですよ。
そのタイミングで国内や海外のとある方が、「(バーチャルプロダクション技術を用いた)xRライブ」っていうのを始めて、xRライブ自体は結構前からあったんですけど、僕らの界隈ではそのタイミングで一気に盛り上がった。
僕はそれを見た時に初めて「DJの前にカメラを置いて配信する」以上のことができるって知ったんです。xRライブは合成なので、どちらかというと実写の自分をバーチャルに入れ込む形なんですが、そのあたりの情報をいろいろ調べている中でVRのことも詳しく知っていきました。
VRChat自体は前から知っていたんですが、VRChatの中にクラブがあることを知ったのはその時が初めてです。そこから調べ始めて「楽しそう!」と思って、配信からVRに移ってきました。それが去年の6月くらいかな。
Hatoto 自分は、もともと自分がスタッフとして所属してる「VJ概論」っていうVJのコミュニティがあるんですけど、そこでVRChat上のクラブイベントである「CLUB CAVE」の特集をして、その運営をしてる人たちに話を聞こうっていう企画が組まれたんです。
その時に初めてVRChatでクラブをやってる人がいることを知ったんですけど、自分が行かないとわからないから、まずは行ってみようって形で入り始めたのがきっかけですね。
――バーチャルクラブに初めて入ったときの感想はいかがでしたか?
Hatoto VRChatの中で毎晩のようにクラブイベントがあることを知った時は、かなり衝撃でした。
僕らみたいなリアルのクラブの業界だと、基本的に次の日が休みの日にしかやらないですし、平日にやるとしてもそんなに夜遅くまではやってない。そういう点で羨ましいところもありました。
自分的にはいろんなVJも見たかったので、どんなものかなっていろいろ回ってたんですけど、やっぱり毎晩やってるってことが衝撃だったかもしれないですね。
キムラ 僕はもともと配信をやっていた人間なので、バーチャル合成はフォトリアルな方面で伸びてる印象があったんですが、Twitterに上がっているVRChatの写真を見ていると、ライティングもフォトリアルじゃないところが多くて、ローポリのイメージが強かったんですよ。
だから実際に入る前は「本当に楽しいのかな?」っていう感じで、あんまり期待はしてなかったんです。けど、自分でゴーグルを買って入ってみて、フォトリアルすぎなくても臨場感はあるんだなってすごく感じた。
Hatoto そうですね。
キムラ 光の反射もないような、板ポリみたいなワールドで適当に動いてるライトとか、1枚画の映像とかでもHMDを通して見ると臨場感があって、「あ、VRChatっておもしろいんだ」とすごく思いましたね。
それとは別に、フォトリアルは僕が好きな方向なんですが、VRChatで初めてワールド巡りした時に教えてもらった「Waves」というワールドにとても衝撃を受けました。VRChatでも、これだけフォトリアルなワールドをつくれるんだって感じて、あそこを見てなかったら、僕はたぶんVRChatを続けてないですね。
あのクオリティをクラブでやりたいっていうのが、僕がVRChatを始めた当初、初めて入ったバーチャルのクラブで感じて、今でも感じてることです。
バーチャルのクラブとリアルのクラブは”違うもの”
――物理現実側のクラブで活動されていた方からすると、バーチャルのクラブは「これはクラブだ」と感じているのか、それともまったく別のものだと感じていますか?
Hatoto ほぼほぼ違うものと思って、僕らは生きてますね。
キムラ 別物だと思う。どっちも体験なんですけど、体験のベクトルが違うというか。「どこに楽しさを見出すか」っていうポイントが若干違っている印象があります。
バーチャルって、がんばってもヘッドホンでしか音楽を聴けないわけじゃないですか。体で感じる音響もないし、眩しいとか真っ暗みたいな視覚的に直接訴えかける表現も、そこまで強くない。
そういう意味ではバーチャルのクラブってリアルのクラブに及ばない部分もあるんですけど、楽しむポイントをコミュニケーションとかコミュニティ側に見出してるんだな、と感じてます。音楽が主役なのではなく、音楽を軸とした「場所」に人が集まっているイメージです。
Hatoto やっぱりどちらにもいい面があって、バーチャルならではの魅力というのもやっぱり好きです。余計なことを考えなくていいというか、自由にできるのがいいんですよね。
現実のクラブだと、お金の面も含めて制約がいっぱいある。じゃあその中でやろうって言っても、そんな財力もないし、結局なかなか実現できない。一方でVRの中なら色々と好きなことができる。それは本当にデカいと思います。
キムラ 参加者側としても、イベントを打つ側としても、リアルとバーチャルではメリット・デメリットが全然違うなと思いますね。
「物理的に無理」な表現方法をやりたかった
――そういったことを感じられていた中で開催されたCLUB REGULUSですが、このイベントはどういったきっかけで始まったのでしょうか?
キムラ 今回のCLUB REGULUS DELTAは2回目で、1回目に「BETA」をやったんですけど、それ以前に僕はxRライブを何回かやっていて、そのクオリティをVRに持ち込みたかったっていうのが一番初めにありました。
配信だと画面越しに見るだけなんだけど、VRなら「xRライブ」を体験できるし、バーチャルでしかできないことをやりたい、と思って始めたのがREGULUSです。
なので、どれだけお金をかけても現実で同じセットはできない、っていう方向に持って行きたかった。技術的な面でもできないし、物理的に無理な表現方法をやりたいって気持ちがすごくあって。「現実ではできないことをやろう」っていうのが一番大きいところにありますね。
――なるほど。REGULUSの発端はキムラさんなんですね。
Hatoto そうです。僕はただ、ワールドでVJをしてるだけ。
キムラ 僕は、自分でできることは一人でやりたいっていうスタンスでいるんで、いろんなことは自分で勉強してやるんだけど、絶対に自分じゃできないことがどうしてもあって、それがあの映像表現なんですよ。
それを頼む人が欲しいって思った時に、もともとREGULUSをやる前から付き合いがあったHatotoさんにお願いしました。お願いしたっていうか、やらせたっていうか…。(笑)
Hatoto やらせたが正しい。(笑)
――お話を受けてHatotoさんはどう感じました?
Hatoto REGULUS以前のものも含めて、キムラさんのつくるワールドでのVJは基本的に全部自分がやってるんですけど、その中で映像ギミックのシステムなど、これはこうすればできるっていうのをお互いに話しながら、試してつくっていく形なんで、自分的には「力試し」みたいなところがあるんですよ。
――REGULUSは実験的なプロジェクトでもあるわけですね。
Hatoto そうですね。だから続けようとは最初から思ってなくて、一回きりで全て終わらせるみたいな形ですね。
キムラ 「何ができて何ができないか」の確認みたいな感じが強いよね。Hatotoさんができるって言えるんだったら、プラスアルファしてやろうっていう心があって、お互いギリギリできないところを攻めていったらこうなったみたいな感じですね。
Hatoto ふたりで一緒につくってるんですけど、バトルしてるような感じでつくってる。
――DELTAを終えて、おふたりの感想はいかがでしょうか?
Hatoto ふたりで話してたんですけど、とりあえずやって良かった、というのが一番大きいですね。
こういうキューブとか、スクリーンが動いて形が変わるっていうのは、僕たちがやらなかったとしても、いずれにせよ絶対出てくると思うんですよ。なのでそこを1発目にやっとくことは、自分の中では重要なポイントだったと思っています。
新しい技術を使わず、既に出てる技術の中から演出に使われてないものや、思いついていないアイデアをやるっていうのが、やっぱり大変なことではあるんですけど。
キムラ エンタメで言うと、お客さんを楽しませることが第一みたいな考え方を持つのが大事みたいに思われがちですけど、僕らは「自分がどんだけ楽しめるか」を重要視してるとこがあって。
やってみたことで、お客さんが感情を揺さぶれてるかはどっちかっていうと結果論。
自分のスキルがレベルアップして良かったとか、自分ができること、できないことが分かって良かったみたいな、そっちの意味でやって良かったっていう印象が、僕は強い。
Hatoto そうですね。結局、自分が楽しくないとできないし、続かないので、自分が楽しむのは第一。
当日はここのフロアでVJをやってたんですが、自分が出した映像にちゃんと反応がもらえて、フィードバックがあって、それによって楽しくなってどんどんやるみたいな面もあったので、やっぱり成功して良かったとは思いますね。
誰もやってないことだったじゃないですか。やってるかもしれないけど。それを最初に出した時にスベるかスベらないかはやっぱり重要だから。
これで、めちゃくちゃスベってたら俺は泣いてましたよ。(笑)
バーチャルだから実現できた「ただの線」が映える演出
――今回、6面モニターを動かしながら行うVJ演出をやってみて、ご自身としてはいかがでしたか?
Hatoto 難しいっちゃ難しいですよね。
自分も仕事で、キムラさんがさっき言ってたようなxRライブとかをやっていて、3Dの立体物に対してのVJをすることはたまにあるんですが、今回は特に「平面が動いて立体になったりする」っていう、現実ではまずほとんどない試みだったので、動くことを前提にした演出を組むのはやっぱり難しかったですね。
でも、楽しかったです。
――流していたVJ映像は、このイベント用につくられたものですか?
Hatoto 最初の方は全部そうですが、前回のBETAの時につくった素材や、今まで使っていたVJ素材も使ってますね。
新しくつくったものについては、黒が完全に抜けるんで、真っ黒ベースで白ラインだけとか、白ラインと白の点とか、点と線のシンプルさに重点を置いてます。平面上だと、6枚に四角い線が入ってるだけなんだけど、キューブ状にした時に相当見え方が変わって、すごくスラっと整って見える。
ただの線だけが映えるっていう表現がやっぱり、こういうスクリーンじゃないとできないので、そこがおもしろかったですね。なので、線の細さにはかなりこだわりました。
――線の細さも、VRで見てみないと確認が難しいですよね。
Hatoto そうなんですよ。これは自分のこだわりなんですけど、VRのクラブってやっぱり明るすぎるんですよね。
リアルのVJだと、プロジェクターで投影すればランプの光源があってスクリーンが照らされるだけなんですけど、LEDスクリーンだと自発光だから、それ自体が明るさを持っていて、めちゃくちゃ明るい。
でも、VRのクラブは自発光どころか、目の前の画面そのものが発光してるわけじゃないですか。だから明るさがもろに目に入るんですよ。その明るさのコントロールっていうのも、デスクトップモードで入ってるのとVRで入ってるのとでは全然食らい方が違うので、VRでわざわざ入りながらチェックをするってことを毎回やって。
――調整して、VRで確認して、また調整の繰り返し。
Hatoto そう。なので、デスクトップで作業して線の細さを決めても、結局VRで入ったら何かちがうな〜、みたいなのがあるから。HMDで見た時のちょうどいい、ちゃんと見えるいい感じの細さみたいなのは追求しましたね。
キムラ 知らないところで苦労してたんですね。
Hatoto 苦労しましたよ。
――こういった立体的なVJ表現は、物理現実でやっているものもあるのでしょうか?
Hatoto ないことはないですね。Eric Prydzっていう海外のトランスのアーティストさんは、それこそ透過のLEDだったり、キューブもやっていて、僕もかなり影響を受けています。
ただ、コスト面や安全面を考えると、僕らがリアルでできるレベルではないから、VRでやってるというのが大きいですね。こんなデカいスクリーンを動かしたら、本当に怒られちゃうので。(笑)
そういった点を考えなくてよいというのは、バーチャルの魅力ですね。
フォトリアルと非現実が融合する空間
――ワールドはどのようにつくっていきましたか?
Hatoto 最初、REGULUSの企画は僕とキムラさんだけでつくっていて、ワールドについては基本的にキムラさんに全てお任せしていました。ですが、僕が忙しくてロゴのデザインとかも追いつかなくなってきて、PONYOさんという方にヘルプをお願いしたんです。
手伝ってもらう上で、PONYOさんに「ちょっとこういうのがあるんだけど、どう?」みたいな感じでワールドをお見せしたところ、いろいろ指摘されまして。
システムへの負荷を気にしていたので、その時のワールドは質素な感じで、壁とか内装が何もない状態でした。エントランスもなかったんですけど、あった方がいいぞとか、壁の質感や岩に当たるスポットライトなんかも、かなり議論して、ここに着地したという感じですね。
――洞窟のような空間になったのは、どういった理由がありますか?
キムラ テクノ中心のイベントにすることはもう決まってたから、テクノとは?という解釈から洞窟になったんです。
音楽のジャンルって、ブチ上げる系の曲だったらキラキラした場所でピカピカしたのがかっこいいとか、ヒーリングミュージックだったら草むらで川が流れててみたいな、そういう音楽に対する解釈ってあるじゃないですか。
テクノに対する僕の解釈はモノクロで暗くて、見えるか見えないかのギリギリくらいのもの。言葉にするのが難しいんだけど、その解釈をワールドの内装に組み込んだのがこれだった。
HatotoさんとかPONYOさんが、この岩肌を追加したワールドを見て、これは違うよって言わなかったから、解釈が一致したんだなって僕は思ってます。(笑)
――Twitterでは、エントランスの質感にこだわったとも仰っていました。
キムラ そうですね。フォトリアルにするんだったら質感にこだわりたいなっていうのがあって。光の反射具合とか、ちょっと床の地面が濡れた感じとか、リアルで言うと「あるのは知ってるけど、そこに行く方法がない」みたいな、そういう場所の雰囲気を出せるようにつくりましたね。
xRライブで僕がつくっていたのもそうなんですけど、フォトリアルの現実味があるところの中に非現実があるっていうのが好きで。
ここも、洞窟をくぐり抜けたら広い空間に出る、っていうのは、リアルでもありえるシチュエーションなんですが、そこの中に映像が浮いてるっていうのがすごく非現実的ですよね。その融合が好きなんですよ。
――これだけ巨大な映像演出が縦横無尽に動く中で、ワールドとVJのバランスを決めるのはかなり難しいと思うのですが、そのあたりの設計はどうやって進めましたか?
Hatoto ワールドのサイズは結構変わりましたね。
キムラ キューブのサイズが固定だったんですよ。映画館といっしょで、この位置から見たら一番綺麗に見えるっていうキューブのサイズがまずありきで、そこからワールドをつくっていったんで。
これだとフロアが狭すぎてキューブ全体が見れないから楽しくないとか、これだと広すぎてちょっと遠いところから見ることになっちゃうから、キューブがちっちゃくなって臨場感がないとかって感じで、基準点がキューブにあったから、ワールドサイズのバランスは、あんまり難しくはなかったですね。
Hatoto ただ、立方体の角度に関しては相当調整しました。もともとはDJブースを見下ろすような高さにフロアがあったんですが、ワールドに岩を追加した段階で、フロアの位置が下がったんですよ。
なので、キューブ自体の見え方も変わってしまい、そこの調整は大変でしたね。あと十何度下げて、とか。あれおかしいね。もうやりたくないね。
――ワールドと言えば、DJブースを映しているサブモニターもありましたよね。
Hatoto アレは不評だったんですけど。なくていいらしいです。インターネット(SNS)にそう書かれてました。
――会場ではDJブースがちょっと遠くに感じたので、僕は「良いな」と思いましたが…。
Hatoto 「BETA」をやった時に「すごいけど、DJブースが遠くて、DJさんが見えない」みたいなことを書いていた人がいて、それでサイドのモニターを出したんです。
カメラのアングルとかも、VJの映像ソースからできるようにしてるんですよ。でも、結局手が足りないのもあり、あんまりウケてはなかったですね。
――中心の演出が強くて、あんまり目線が行かないっていうのはあったかもしれないですね。
キムラ そうですね。REGULUS自体、DJを見せようっていう気はなかったからね。
――すごい。割り切ってますね。
キムラ こういうクラブサウンド的な界隈のスタンダードとして、まずDJがいて、そこに演出があるっていう順番があって、DJがタレント化してますよね。でも、クラブより前の、ディスコとかその辺の時代はDJさんってタレントじゃなくて、あくまで「曲を流す人」だったんです。
僕はDJに対してそっちのイメージがすごく強いし、ここのワールドは映像演出を詰め込んだワールドで、DJさんはその映像を解釈して音を出す人っていうポジションにいてほしかったから、僕としてはDJさんが見えなくても全然いいんですよ。
ただ、「DJさんが見たい」という意見もあったので、今回はDJブースが見えるようにモニターを付けたんです。距離を近くするっていう選択肢も、技術的には簡単なんですけど、DJブースを近くすればするほど、スクリーンのサイズがちっちゃくなって臨場感が減っちゃう。
このワールドはどうしてもスクリーンありきで始まってるから、ブースとフロアを近づけるっていうのはできるだけ避けたかった。けど不評だったね、あのモニター。
Hatoto しょうがないよ。過ぎたことはしょうがない。次に活かします。
「解釈」にこそ、VJの魅力がある
――流れる映像やスクリーンの配置だけでなく、岩に当たるスポットライトなんかも、Hatotoさんがリアルタイムに操作していたんですよね。
Hatoto 全部リアルタイムですね。自分で全部組み立てても、おもしろくなくなっちゃうんで。岩のライトは手動でコントロールできるんだけど、手が足りなくて全然扱えなかったというのはあります。(笑)
キムラ 事前に仕込むと、どうしてもパーティクルライブには勝てないからね。もともとこのシステムは、一人で全部やれるように組んではないんですよ。でもHatotoさんはそれを一人でやってる。
Hatoto やっぱりこのVJ的な、ライブ感みたいなアプローチをやっぱり大切にはしたいと思っているので。確かに、後から自分で見てて「この素材、ここ映えてないな」って思うものもある。そういう迷いとかもやっぱもろに出てきてるんで、難しいですけど。
――それも含めて、おもしろいですよね。
Hatoto そうそう、それも含めてのやっぱ「VJ」なんで。
――「音楽を楽しむための空間演出」という意味では、オーディオリアクティブを使ったワールドも流行っていますが、そういった表現についてはどういう風に捉えていますか?
キムラ 入ってくるオーディオの信号に反応して演出効果を出すっていうオーディオリアクティブは、今のVRChatの中ではよく見ますが、僕は少なくともそれを「演出」だとは思ってないですね。特にリアルタイム演出ではないと思ってて。
Hatoto オーディオリアクティブは僕も昔から上の年代のVJさんとかにも言われてきたんですけど、音に反応して映像が出るとか、映像の明るさが変わるとか、お客さんがその仕組みを理解すると「音が出てるから映像が変化してるんだな」っていう印象しか与えられなくなっちゃうんですよ。
一発のネタでしか使えなくなってしまうから、それで一晩持つかって言われたら、やっぱり持たない。
ただ普通に音楽を聴くためのワールドだったら、何も考えなくても演出の効果が得られるって点ではとてもお手軽だし、良いことだと思ってるんですけど、クラブとはまた別のところだなとは思っています。
キムラ 映像でもシェーダーでもいいんだけど、それを自由に触れないと「解釈してる」とはならない。いかに音楽を聴いてオペレーターがそれを解釈したものをアウトプットするかっていうのが一番おもしろいとこだと思ってるのに、ただシェーダーが音に反応してとか、複雑な動きをして〜って、そういうのは僕は好きじゃないんですよ。
なのでどっちかっていうと、僕ら的にはそういうのが、ただ演出としてあるのはいいんだけど、その演出をどれだけいじれるか、どれだけオペレーションで触れるかっていうところが発展して欲しいってすごく思ってるんですよ。
誰でも触れるのはいいことだから、誰でも触れるくらい簡単に、複雑なオペレーションができる環境っていうのがすごく欲しい。
Hatoto 欲しいですね。僕はそういうのも一緒にして一回やりたいんだよね。例えば、パーティクル的なやつがコントロールできる形で出したり、消えたりとかっていうのができるんだったら全然盛り込みたいし、やりたい側の人間です。
VRならではのVJ表現は出てくるか?
――おふたりの周りにいるVJの方々は、バーチャルクラブに対してどういう印象を持たれているのでしょうか?
キムラ リアルでVJやってる人がVRChatに対してどう思ってるかってことだよね。
僕がさっき言ったような、VRChatを始める前の「VRChatなんてローポリのワールドでただ会話してるだけでしょ?」っていうイメージはどうしても前提にある。だから悪い印象はないけど、「リアルのクラブでできることをあえてバーチャルでやる必要はない」って思っている人は結構いるんじゃないかな。
ゴーグルを被って、実際に入って体験してみないと、いくら言葉で説明しておもしろいって言っても伝わらない。
――あらゆるVRChatコミュニティの人がぶち当たる問題ですね。
Hatoto VRChatには、映像をメインとして立ててるクラブイベントがあまり見当たらないんですよ。僕の周りだと結構アーティスト寄りの人も多いのですが、お客さんがDJを聴きに来て、後ろにただ映像が出てるっていうイベントに対して、周りの人たちは「やりたい」とは思ってないですね。
ですが、REGULUSのようなイベントだったらやりたいって人はいますし、今回は自分が主催していることもあり、VRChatをやってないけどやってみたい、VRChatをわざわざ始めてでも来たいって人が結構いて、そういう人には入り方を教えたりしました。
僕の周りは普通のVJに飽きてる人たちしかいないんですよ。僕もそうなんですけど、新しいことをやりたがってる人は多いので、そういうイベントが増えればいいなと思います。
――逆に、物理現実のVJとは違う表現が生まれてきている、というのはありますか?
キムラ 個人的には、現状まだ黎明期というかスタートアップなタイミングだなとは思っていて、みんな探り探りだけど、アウトプットは現実の焼き増しのVJみたいなことをしてる人が多い印象です。
どっかに起爆剤ができたら、ガラパゴス化して全然違う界隈になりそうだなという期待感はあります。
Hatoto それはあると思う。だからこれも今回やって良かったと思うし。どんどんいろんなことをいろんな方向に対してアプローチしていって、新しいものができたらいいなとは思いますね。
キムラ いやでも本当に速いと思うよ。1年も経たない、半年後におもしろいのができると思う、僕は。
Hatoto 今後が楽しみです。
REGULUSの今後について
――REGULUSの今後の展望はありますか?
Hatoto 次回も、やりますよ。こういうことは、やりますって言っとけばやるだろうから。(笑)
キムラ 現状やりたいことの6〜7割くらいは今回でやれましたが、思いついてたけどやれなかったことも2〜3割はあって。でも、それだけじゃイベントは開催できない。そこにまたアイデアをプラス6〜7割足さないとひとつのイベントにできないから、できるかどうかわかんないですね。
Hatoto やり残したこと、次はやりましょう。また、半年先ぐらいに。(笑)
――VRChatのクラブシーンやVJコミュニティに期待することはありますか?
Hatoto 僕的にはこのイベントもそうだけど、自分でもやってみたい!的な感じで、どんどんより良い方向に進んでいってくれたらいいなとは思います。
新しくVJを始める人が増えるのもそうだし、オーガナイザーとしてこのワールドでやりたいというのもそうだし、ワールド制作としてこういうのつくりたい、もそうだし。なにかいい影響が与えられたらいいなとは思ってます。
キムラ 上からだね~。
Hatoto 超いいこと言いましたよ。キムラさん、ありますか?
キムラ おもしろいものが見たいよね。
Hatoto そうね。おもしろいものが増えたら。
キムラ 僕も、僕よりもっとすごい人がいて、その人のxRライブを見て感動したところから、バーチャルへの興味が始まってるから。
このイベントで誰かが感動したら、その感動した人がおもしろいものをつくるんだし、そういう連鎖が続いたり、逆に僕もその人の作品を見てすごいなって感じて、お互いが上がっていくみたいな。
そういう流れができたらすごい、いいよね。
Hatoto 切磋琢磨ですね。
――REGULUS DELTAはまさにそういう刺激をもらえるイベントでした。今後もいろんなアプローチで、新しいものやおもしろいものが出てくるのだろうと思うと楽しみですね。
VRChatのワールド設計にはまだまだ制約も多い中、物理現実に存在し得ない演出を、物理現実のクラブに勝るとも劣らないクオリティで実現することを目指すHatoto氏とキムラ氏。
バーチャルの世界だからといって、何もかもが自由にできるわけではない。しかしこのふたりがつくる世界は、「CLUB REGULUS」は、人類が未だ触れたことのない表現を体験できるのではないかという可能性を強く感じさせてくれる。
「クラブ」は、いまVRChatで最も熱い盛り上がりを見せているシーンと言っても過言ではないが、その熱量は、常に新しいことに挑戦しようと模索し続けるクリエイターたちが日々戦いながらつくり上げているのだと改めて実感した。次回の「CLUB REGULUS」も、本当に楽しみだ。
また、今回インタビューに応じてくれたHatoto氏は、「#VRCVJスクール」と題した、VRChatでのVJワークショップ・講義を開催している。VJに興味のある方はぜひこちらもチェックしてみてほしい。
インタビューにお付き合いいただいたHatotoさん、キムラさん、改めてありがとうございました。
企画・インタビュー・編集:タカオミ、FUKUKOZY、かわうそ
撮影:rocksuch