見出し画像

言葉に捉われない作品を生み出す――VRコンテンツクリエイターの"現在"「PROJECT: SUMMER FLARE」制作インタビュー

―――夏を壊せ。言葉を壊せ。世界を前に進めるために。

2021年9月23日に公開されたワールド「PROJECT: SUMMER FLARE」。メディアアート展「1%の仮想展」や、異色の謎解きワールド「アスタリスクの花言葉」などを手掛けたヨツミフレーム氏による待望の新作で、公開初日から多くのVRChatユーザーが訪れた。

本作はキャッチコピーやヨツミフレーム氏の発言から「夏」という愛称でも呼ばれており、バーチャルライフマガジンによる2021年VR流行語大賞企画では「メタバース」を抑え「夏」が大賞を受賞。同年12月30日には80ページ超の設定資料集「サマーフレア作戦概略」がBoothにて公開され、さらなる話題を呼んだ。

今回のインタビューでは、作者のヨツミフレーム氏に、作品へ込めた狙いや、VRChatの文化についての思いなど、VRChatで活動するクリエイターである三日坊主氏、Cap氏と共に様々な角度から話をお伺いした。
(取材の内容は、2021年10月31日時点でのものです。)

ヨツミフレーム:主にVRChatで活動するVRコンテンツクリエイター。過去作に「1%の仮想展」、「アスタリスクの花言葉」など。シナリオ、モデリング、プログラミング、音楽、映像などをすべてひとりで制作する多才なクリエイターとしても知られる。
https://y23586.net/

*この記事は、VRChatのワールド「PROJECT: SUMMER FLARE」に関する一部ネタバレを含みます。未プレイの方は、ぜひ一度プレイされてからご覧ください。

あらゆる人に楽しんでもらえる作品づくり

- 「PROJECT: SUMMER FLARE(以下:PSF)」がリリースされて1カ月ほどたちましたが、いまのお気持ちはいかがでしょうか?

みんなが夏を壊してくれてよかったですね。
Twitterを見る限り、VRChat初心者の人も含めていろんな人がやってくれたみたいで。

このワールドはアトラクション的に見て回ることもできますし、考察とかをいろいろしてもらえるようにもなっています。ライト層からディープな層までいろんな人が楽しめるようにつくったつもりなので、そういう風に楽しんでもらえてよかったなと思います。

- 英語字幕がついていることもあってか、海外の方も多くプレイされていますよね。

そうみたいですね。ストーリーがわからない方でも、ゲームワールドとして遊べるようになってると思うので、そこだけでも楽しんでもらいたいなということで、今回はがんばりました。

三日坊主:いろんなレイヤーから楽しめるのがこのワールドのすごいところ。

それは前作(アスタリスクの花言葉)の反省点ですね。(笑)

画像1

- このワールドは、ゲーム作品として考えると、ストーリー内で明かされないまま終わる謎がとても多いと感じましたが、あえて謎を残したのはなぜでしょうか?

むやみやたらにけむに巻くといい、というわけではないですけど、最初から最後まで全部しゃべっちゃうと、ジェットコースター的な、プレイして「ハイ終わり」みたいな感じになっちゃうと思うので。
いろいろ考えてもらって楽しんでもらえたらいいなと思い、あえてぼかしているところはたくさんあります。

- そのあたりも、いろいろなレイヤーで楽しんでもらうための配慮なんですね。

そうですね。VR機器でもデスクトップモードでも、ひとりでも複数人でも遊べるようになっていますし、ストーリーは追っても追わなくてもいい。
それと、このワールドはゲームオーバーがなく、いくら攻撃を食らっても、ちょっと痛いって感じで一応進めはするので、ゲームが苦手な人でも楽しめるようにつくっています。

- 前作の「アスタリスクの花言葉」はプレイする人を選ぶような側面も少しあったと思いますが、今作はそれを解消した作品になっている。

技術力の限界はありますが、がんばっています。

VRChatのワールドって、一目見ただけではどれくらい力を込めてつくられているかがわからないじゃないですか。
動画サイトだと再生数やコメントとか評価とか、ニコニコ動画で言うとユーザーが考えたおもしろいタグとかがついているので、内容がどんなものか、どれくらいおもしろいか、観る前からだいたい予想がつくと思うんですよ。
一方で、VRChatって作者名とサムネイルと容量くらいしか出ないので、どんな感じなのかぜんぜんわからないんですよね。

いきなり迷い込んできてしまった人とか、フレンドと会いたくてふらっと来てしまった人が楽しめなくて帰ってしまうと残念なので、行き先を見失わないようにマーカーが置いてあったり、途中から参加した人が追いつけるようにリスポーン地点もちょくちょく変わったり、そういうところはこだわっています。

画像2

「寝てる人」がいてもクリアできるゲームデザイン

- ワールド内には、ロープやハシゴを手で掴んで移動するシーンがありましたが、あのギミックはVRChatユーザーに運動を促すためですか?

あれはストーリーとかどうでもいいって人でも楽しめるようにっていうのと、歩いて回るだけだと単調かなとも思ったので。単調じゃなくなりすぎたような気もしますけど。(笑)

Half-Life: Alyx」や「BONEWORKS」、Questのアプリで「The Climb」とか、ああいうのを参考にして、VRだからこそできる要素として入れています。
私はそういうのに慣れすぎてるから、あの「悶絶の空中庭園」ができてしまった説がありますね。

Cap:銃を持ったまま、片手でハシゴを登ろうとしている人もいましたね。

えっと、それは…。(笑)
銃はもう使わないかなとか、ハシゴを登った後にリスポーンがあるのかなとか、そういうゲーム的なお約束は考えると思うんですけど、そういう文脈を当てはめられる人がまちまちなのでそこが難しいと思っていて。

例えばタレットで言うと、撃ち続けたらオーバーヒートしてパカっと蓋が空いて、その中にコアっぽいものが出てくるという、ゲームとして出てきたらめちゃめちゃわかりやすい敵キャラなんですけど、「壊せるの知らなかった」って言ってる人も結構いるみたいで。
普段からゲームをやっているかどうかによって難易度が変わってしまうというのが個人的な反省点です。

ダイダンもレーザーの間隔があくので、陰に隠れれば当たらないんですけど、陰に隠れるという発想がない人もいて、そこで当たりまくっちゃったという人もいるみたいですね。

- そうなると、チュートリアルをつくる必要があるかもしれませんね。

そうですね。でもチュートリアルをつくっちゃうとかなり興ざめというか、いろいろアレなので。VRChat向けにインタラクティブコンテンツをつくるのってすごい難しいんです。極力がんばってますけど…。

画像3

感想を見ていると、ひとりでやっている人も結構いるみたいで。
ひとりでやる場合と複数人でやる場合と両方クリアできるようにするというのが、めちゃめちゃ難しいんですよ。

例えばひとりだけ先に進んじゃったら後の人どうするかとか、銃のようなキーアイテムは人数分用意するか、1個だけ用意するかとかそういうので変わってきちゃうので大変でしたね。
銃は人数分を用意しちゃうと人海戦術で進まれちゃう感があるので、代わりに剣を出して、タレットは剣の人がいないと進めないようにすることで、ある程度人の流れを制御しています。

一人でやる場合は両手で持って、剣で防いで銃で撃つってできますし、多人数で行った場合は、剣の人がいないとタレットに撃たれちゃうので、剣の人がひとりいて、他の人がそれを脇目に通りつつ、銃を持っている人が倒す、というプレイングができるようにして、がんばってゲームとして成立させるようにしてます。

- 僕らもプレイ中、「デュランダル(剣)の人きて~!」って叫んでました。

そうやって協力できるのも楽しいと思うので。
ひとりで先に進んじゃう場合も、FPSとか普通のゲームとかだと、ボス戦っぽい「落ちたら戻れない箇所」って、誰かひとりが行ったらムービーシーンになって、ムービーが終わると全員落ちてるっていう感じなんですけど、VRだとそれができないのでがんばってこじつけをしてます。

ファンがたくさん置いてあるエリアは、ひとりが下に落ちたらファンが勝手に付いて他の人も全員、強制的に落とされるっていうふうになってますし、ファンより手前にいたら自動的にリスポーンされるので、どちらにせよひとり落ちたら絶対に全員が行くようになっています。

最悪、誰かが寝てても最後までクリアしてくれるようにはなってるんです。ユーザー、よく寝るじゃないですか。

- 確かに普通のゲームでは考えられないケースです。

誰かが寝てる可能性があるゲームデザインの設計とか、もう無理ですよね。

Cap:チェックリストを用意したらおもしろそうですね。VRChatのゲームコンテンツチェックリスト、「寝てる人がいる」。(笑)

寝てる人がいてもクリアできる。あとは、デスクトップモードで片手しか動かない人がいてもクリアできる、とか。(笑)

(編集部注:VRChatは、VR機器を使うことなく通常のPCゲームと同じようにデスクトップ画面でプレイすることもできるが、その場合は片手しか動かせない。なお、VRモードでPSFをプレイする際は、両手コントローラが必須となる。)

画像4

発展させることに伴う「覚悟」

- ここからは少し内容に踏み込んだお話を聞いていきたいと思います。まず初めに、PSFはどういったコンセプトでつくられたのでしょうか?

私の過去2作、「1%の仮想展」と「アスタリスクの花言葉」、そして今作も含めて「VR」を共通のテーマにしてはいるんですけど、ちょっと趣向をいろいろ変えてつくっています。

「1%の仮想展」は、単純にVR楽しいねっていう内容。
「アスタリスクの花言葉」はクリアしたことのある人とない人でずいぶん感想が変わると思うんですけど、どちらかというと性善説的な感じででつくっていたので、今回は完全に性悪説に振り切ってつくっています。
ベースはVRなんですけど、方向性は真逆ですね。

- PSFの時代では、現実世界が大変なことになっているにも関わらず、人類は「狂気」がつくった「夏」に取り込まれてしまっており、滅びるのをただ待っているだけの状態です。
ある意味で、いまのVRChatユーザーたちに警鐘を鳴らしているようにも感じる内容ですが、そのあたりはいかがですか?

VRChatをやめろという警鐘ではなくて、「覚悟を持っていきましょうね」というメッセージとしてつくっています。
この辺りは設定資料集にも書かれているんですが、ストーリー的には、エンディングが終わった後も、人類はアレをつけ続けるんですね。

VR界隈の人たちって、「VR」を信仰しているというか、これさえあれば実体的な制約もないし、時間・空間的な制約もないし、自由に生きられるんだ!という思想を、多かれ少なかれみんな持っていると思いますけど、
やっぱり原子力と同じように、技術があったら人間が自動的に救われるわけではなくて、たいてい良いこともあれば悪いこともある。

VRも楽しい技術として将来的に使われるだけじゃなくて、PSFのように使われるのがたぶん現実的にはあり得るラインだと思いますので、そういうことを覚悟して発展していってほしいなという気持ちを込めてつくりました。

画像6

- なるほど。VRを発展させていくということは、世界があのような未来を迎える可能性や、自分たちがそうなってしまう可能性も考えておかなくてはならない。

ストーリー的にもプレイヤーが正義の味方というわけではなくて。組織的には、LCって元国連の組織下なんですよね。なので一応、世界的に正しいことをしているという体にはなっていますけど、それで例えば、VRChatが「お気持ち」の温床だからサイバー攻撃を仕掛けるって言ってる人たちとどう違うのかというと、かなり難しいものがあるじゃないですか。

夏を壊すことももちろん正しい行為ではあるんですけど、向こうの人類が核を使ってプレイヤーをぶっ殺そうとしているのもまた一応正しい選択ではあるということで、どちらが正しいわけでもないというストーリーになっています。

みんなのツイートを見ると、「夏を壊してきた」って嬉々として言ってるんですけど、自分が何を壊してるのか本当にわかってるのかな?って思う時はあります(笑)

画像5

- ちなみに、工数が一番かかったのはどのあたりでしょうか?

この作品って技術的に難しいところは特になくて、順番につくっていけば完成するタイプのワールドなのでそんなに難しいことはなかったと思うんですけど、ダイダンはキツかったですね。

モデリングも大変だし足をガシャガシャするのも大変だし。
あと、途中で橋を壊しに行ったりとかダメージを受けたりとかそういう演出を実装して、かつほかのプレイヤーと同期させるというのがすごいめんどくさかったです。公開の数週間前までバグだらけでしたね。

でもやっぱりデカいのやりたいじゃないですか。デカいボスは出したいし、それを倒せてほしいし、拳銃から拳銃の弾が出るのもVRだとナンセンスなので拳銃から大砲の弾が出てほしいし。

- 明らかにデカすぎる薬きょうが落ちるのを見て、テンションが上がりました。

最初の演出なので、ここはヨツミワールドなので、入ってください、という意味で強い演出にしてます。

Cap:ヨツミさんの作品は、全体的に隙のなさみたいなのを感じます。

単純にどこで手を抜くかをがんばって考えているというのがあると思います。例えば夏側のところってギミックらしいギミックは全然なくて、エレベーターとかはUDONの練習としてつくったもので、ここらへんってめちゃめちゃ手を抜いてるんですよ。特にモデリングをがんばったわけでもないし。

個人的に大切だなと思っているのは演出とかストーリーとかそこら辺のところなので、ここらへんはかなり手を抜いたりして、逆に向こう側の演出でいろいろがんばってる。
そういう意味で隙がないと思われるのは大事なところに工数をかけてあとはサボってるからということですね。

Cap:それも含めてちゃんとしているということですよね。あるものはちゃんと丁寧に実装されているし、手を抜かれているものはあっても、中途半端なモノがない。

ひとりでやっていると永遠に完成しない、いわゆる「エターナる」っていう現象がよくあるので。というか私もつくろうとして完成しなかったゲームすごいたくさんあるので。その経験もあって、手を抜くところはバッサリカット、というのはかなりたくさんやってます。この作品に関してもストーリーが本来は倍の長さがあったんですけど、最終的にはカットしていますね。

- それは驚きです。ちなみにそのストーリーは今後公開されるのでしょうか?

あ、でもだいたいいっしょなんですよ。序盤Lupiちゃんが案内してくれると思うんですけど、本当はFASルートがあって。コンビニを右手に見て、T字路があると思うんですけど、そこの右側の工事中のところ、あそこ本当は行けるようになる予定で、そっちにも箱が3つあって、それを起動するとFASルートがスタートするという予定だったんです。完成しないので、めちゃめちゃ削って、そこを長くするよりはクオリティをあげましょうということでストーリーが半分になりました。

- 作者としては身を切る思いですよね。

そうですね。クリアに4時間かかったと言ってる人もいるので、ストーリーの長さ的には結果OKだったかなと思うんですけど、いろいろ断腸の思いで削ったりはしています。

画像7

純度の高い作品を生み出すために

Cap:このワールドに限らず、ヨツミさんは個人制作をずっとやってるじゃないですか。作品の純度というか純粋性のためにはやっぱりそれが一番という想いでそのスタンスになっているのでしょうか?

個人制作でやってるのは、単純に自分がつくりたいものをつくりたいからですね。職業はぜんぜんこういうクリエイティブなこととは関係ないんですけど、仕事とかでやっちゃうと、依頼されたモノをつくるってなってしまうので。
誰の指図も受けずにつくりたいものをつくります、ということをやると、必然的に個人制作になると思います。

Cap:集団制作だと、例えばモデルをたくさん用意できるとか、ビジュアル面でのクオリティとかは出しやすいけど、純度としての強さを出すには少し手間がかかるし、よっぽど文脈が共有された仲じゃないとすり合わせがしづらい。
完全にひとりで制作する場合は純度100%だけど、クオリティアップするには時間と力がいる。そのかわり、成功するとめちゃめちゃ純度の高いこういう作品ができてしまう、というお話だと思うんですけど。

そういう話だと思います。VRChatだと趣味ベースで集団制作しているという例も結構あると思うんですけど、趣味でやってるとみんな立場的に平等だから、誰かが強く出ることができない。そういう意味で、平均して意思の取れた内容ができると思うんですね。

例えばアニメとかだと、原作の良さがすごく表れているアニメって結構あるじゃないですか。それって結局原作者が一番強くて、その人に従ってアニメ制作会社の方々がアニメを作ると、原作通りのものができるとか、たぶんそういうことってあると思うんですよね。
なのでやっぱり作品の強さを出せる強い人がいるかどうかも関わってくるかと思います。個人制作だとひとりしかいないので、その人が直接見ることになります。

画像8

あとはネタバレをせずに耐えられるかですよね。ネタバレ管理はすごいがんばってやっているので。次回作もエンディングは頭の中ではできているんですけど、つくるのに何年かかかるので、その間はネタバレをしないように耐えないといけない。

ダイダン、1年隠してますからね。

- ネタバレ管理を徹底しながら、制作のツイートも欠かさずやっているのはなぜですか?

単純に「こういうのをつくってますよ」っていうのを見てもらいたい、というのもあるんですけど。つくる方も見る方も、ネタバレが回収される瞬間ってすごく楽しいじゃないですか。なのでそういうのは気を使ってます。

次回作のネタバレも思いっきり出てるんですけど、プレイしないとわからないので大丈夫です。
その辺のネタバレ管理は前作からすごいがんばってるので。

- 大変そうですね…。

心労が大変です。PSFは正直、ネタバレはそろそろ自分のアカウントからしても良いかなとは思うんですけど。前作とかもう一生ネタバレできないですよね。
ちなみにPSFに関しては、ワールドの中の写真とかをふつうに出してしまっても最初に見た人はよくわからないと思うので、ネタバレ全開でOKです。

そもそも夏の後のパートってPVでも出てますし。というか、PVぐらいあからさまなところで出さないと夏の後のパートがあるのがわからないっていう人も結構いるんですよ。VRChatのワールドはどれくらい力を込められてるかわからないので。

- 普通のワールドなら、この水族館で終わってる可能性もありますもんね。

ここで終わってる人もいるらしいです。それはそれで、現代アートとして成立してしまっているので。(笑)

画像9

「夏を壊せ。言葉を壊せ。世界を前に進めるために。」

三日坊主:ヨツミさんの作品に時々出てくる「前に進む」っていう言葉があるじゃないですか。ヨツミさんの前って、どの方向なんですか?

いろいろあるんですけど、ワールド制作っていうところで言うと、やっぱりVRChatのワールド制作文化の発展という面で、物語を含んだワールドとかがもっと増えてほしいなと個人的には思っていて、そういう思いをこめてこのワールドができています。

このワールドの、ワールドとしてのジャンルは何ですかと聞かれたときに、答えられる人ってあんまりいないと思うんですよね。
Twitterの感想を見てると、謎解きと言ってる人とゲームワールドと言ってる人、ホラーと言ってる人も若干いたりして。でも結局どれでもないじゃないですか。

特にVRChatのワールドってジャンル分けが歴史的な経緯で決まってしまっていると個人的には思っていて、ミラーが置いてあるワールドとか、謎解きとかホラーとか、ゲームとか。あとパーティクルライブとか。そういうのってVRでできる体験を完璧に網羅しているわけではないと思うんですよね。

人間って、言葉で認識できるものしか認識できないという致命的な問題があって。例えば、日本人は「お湯」って言われたら認識できると思うんですけど、英語には「お湯」っていう単語がなくて、「hot water」がだいたい同じようなモノなんですけど、アメリカ人は「水の温かいもの」としか認識できないんですよ。

- 日本人だったら「水」と「お湯」は区別して考えますよね。

そういう感じで人間って言葉を使って生きていると思いがちですけど、実際は言葉に縛られていて。このワールドに関しても、ワールドをつくったことのある人だったらたぶん、何にも分類できないものだなと分かってもらえると思うんですけど、そこまでわからない人だと、そもそも何かわからなくて無理やり近い概念に当てはめようとしまうっていう現象が起きると思うんですよね。

なので謎解きとかゲームワールドとか言われてしまうと思うんですけど、そういう意味でも、VRChatのワールドのジャンルをもうちょっと開拓してほしいなという思いも込めています。私的な「前に進める」っていうのは、そういう新しいジャンルのワールドをつくりたいなっていうことです。

画像10

VRChatユーザーって、流行りのアバターを着て流行りのワールド行ったら楽しいみたいな感じがすごく多い印象で。それは別に悪くないんですけど、それだとただ消費してるだけ。
お金を払ってるし、アバターはどんどん増えて行ってますけど、それだと文化の方向性がずっと同じでどんどん停滞していっちゃうんじゃないかなと。

当然、人は増えてるんですけど、いずれは新しい文化とか楽しい作品がなくなって、人が鏡の前にいるだけになっちゃうんじゃないかと思うので、その人にしかつくれないような、奇抜なものがたくさん増えてくると個人的には嬉しいなと思います。

- ヨツミさん自身がジャンルになっているというお話もあります。

だとうれしいです。個人的には、ワールドのジャンルが名前で固定されてしまうって避けた方が良いと思っていて。どちらかというとVRChatの人って趣味でワールドをつくっている人が多いと思うので、こういうモノをつくっている人がいるから、自分もこういうのをつくろうって思う人って結構いると思うんです。

ホラーワールドっていうジャンルがあるからホラーワールドつくろうとか、謎解きっていうジャンルがあるから謎解きをつくろうとか、そういうのってあると思うんですけど、そういう知られているジャンルのものをつくっていても、クオリティはどんどん上がっていくと思うんですけど、発展というか、「作品」、そういうものって生まれないと思うんですよね。

VRChatのワールドでメジャーなものだと、きれいな風景のワールドってあると思うんですけど、そういうのって極論を言ってしまうとUnityのアセットストアにあるデータを全部アップロードしてしまったらその時点で文化が終わるじゃないですか。そういう意味で、いろいろ作家性が強いものとか主義主張が重いものとか、分類するのがすごく難しいものとかそういうのが増えてほしいなと個人的には思いますね。

私は毎回ジャンル的に分類しづらいものをつくっているので、ヨツミフレームというジャンルが成立しているみたいな言われ方をするんだと思います。

Cap:言葉でカテゴライズされるよりは、クリエイターや作者そのものがジャンルみたいな扱いになっていった方がいいのかな。

その方が楽しいと思います。

- ヨツミさんのように、言葉にとらわれない作品をつくることもすごく大事だと思いますが、個人個人がジャンルになっていくには、どうすればいいんでしょうか?

作品をつくることだけが大正義ではなくて、例えば写真を撮るとかそういうことでもいくらでも新しい文化はつくれると思いますし、そういう感じで単純に女の子のアバターをつくったとかきれいな景色のワールドをつくったで終わりじゃなくて、もう少し深みのある文化が生まれてほしいなと思っています。

- ちなみに、ヨツミさんがこれは良いなと思ったワールドはありますか?

難しいですね。なんだろう。みんなでつくってる、マーケット系のワールドとかよりは、個人が好きでつくりましたとかそういう系のワールドが好きですね。phiさんのワールドとか、「Amebient」とかもそうですし、そういうワールドの方が好きです。

画像11

つくることでしか解消されない「欲求」

- 既に次回作のエンディングも考えているということですが、作り続けるモチベーションはどこから来るのでしょうか?

単純につくりたいからですね。
小学校中学校ぐらいのころからプログラミングとかよくやってて、いろいろつくってると、あれつくりたいこれつくりたいってなっちゃう。それってつくらないと解消されない欲求なので、それに従ってつくっています。

- 創作活動の場にVRChatを選んでいるのはなぜでしょうか?

VRChatを始める前はブラウザゲーみたいなのをつくっていたんですが、VRのゲームをつくるとなると、自分でどこかで配信とか配布とかやっても、つくる側としてもプレイする側としてもハードルが高いじゃないですか。VRChatだとみんな行き場所を求めているので、なんかつくったら行ってくれると思うんです。

- なるほど。ゲームクリエイターという視点から見ると、VRChatは作品を公開する場所としても有効ということですね。

やっぱり表現力というか自由度でいうと最初からゲームをつくっちゃうよりはだいぶ劣るんですけど、VRのゲームを超簡単につくれるプラットフォームとしては、多分一番有力なプラットフォームがVRChatだと思うんで、インディーゲームクリエーターの界隈とかもVRChatに興味を持ってもらえるとうれしいですね。

ただ一方で、VRChatでは界隈の外に出るコンテンツをつくるのが結構難しい。強いて言うならバーチャルマーケットとかは、宣伝をすごくしてるので外にリーチしてるとは思うんですけど、ユーザーが個人でつくって外に何かを届けようとするのは大変ですよね。
なので、VRChatというジャンルを飛び越えて作品として成立してるものをつくりたいなっていう意味も込めてこのワールドをつくったりしています。

ニコニコ動画とかYouTubeとかゲームプラットフォームでいうとRPGツクールとかそういうのってちゃんと外に出て名前が知られてるものって時々あるじゃないですか。そういう感じのものがVRChatにも欲しいなと個人的には思っています。

画像12

- 最後に、ヨツミさんの今後についてお聞かせください。

次回作はどうなるんでしょうかね…。

- リリース予定は決まっていたりしますか?

もう、未定です。(笑) 何年かかるかわからないので。
でも、方向性は過去3作とぜんぶ違う感じにします。ぜんぜん違います。
「うさぎ」って言ってるやつですね。うさぎ以外のことも一回だけツイートしたことがある気がしますけど、いまのところ「うさぎ」が次回作ということで。

- 完成がいまから待ち遠しいですね。次回作も、楽しみにしています。

画像13

ヨツミフレームさんは、たった一人で年単位の時間を費やして、ひとつひとつワールドを生み出していく、VRChatにおいても非常に珍しいタイプのクリエイター。「最大の狂気はヨツミフレーム」などと巷では言われているが、今回のインタビューから感じたことは、「創作活動」、そして「ユーザー」に対して、真摯に、誠実に向き合うヨツミフレームさんの姿勢だ。

プレイした人にはわかってもらえるだろうが、「PROJECT: SUMMER FLARE」という作品はただのエンタメコンテンツではない。
あらゆる人に楽しんでもらうためのゲームデザイン、VRを活かしたギミック、VRChatユーザーを巻き込んだ世界観、そしてプレイした人に覚悟を問うストーリー。これだけの熱量を込められた作品を体験できることは、幸福の一言に尽きる。

では、私はこれから「サマーフレア作戦概略」を読んで、もう一度あの「最高の夏」を破壊しに行こうと思います。


企画・編集:タカオミ
編集:FUKUKOZY
インタビュー:タカオミ三日坊主Cap
撮影:rocksuch

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?