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Contemporary http Cruise~電子チケット制ライブ配信から見えた未来~

2020年3月13日、私の大好きなceroというバンドが、無観客ライブを敢行し、そのライブの様子を配信して話題になりました(私も見たのですが最高でした・・!)。

本エントリは、ライブの興奮冷めやらぬ私が、(一度睡眠を挟んでクールダウンした後、)今回の配信が話題となった最大の理由である「電子チケット制」に関して、「電子チケット制」を採用したメンバーらの思い、「電子チケット制」の仕組み、投げ銭サービスの実装の是非について、ご紹介するものです。

■コロナウイルスとエンタメ業界を巡る現状

 ご承知のとおり、本年2月26日に、政府は、音楽ライブやコンサートなどのイベントの実施について「今後2週間は中止や延期、規模縮小するよう要請する」と表明しました。

 この要請は、政府のその後の検討により、期間を更に延長することとなるのですが、これらの政府の要請を受け、多くの講演が中止又は延期となったことについては、エンタメ関連団体が出した以下の声明文のとおりです。

 私は、ITやエンターテインメント分野を取り扱っている弁護士なのですが、お仕事上繋がりのあるアーティストやイベント関係者の方からお聞きするだけでも、今回のコロナウイルスによるイベントの自粛がもたらす深刻な状況に、強い危機感を抱いています。

■アーティストたちによる自主的な取り組み

 その一方で、多くのイベントが中止・延期となる中、アーティストたちが無観客でのライブを配信し、多くの方々に勇気を与えています。

 中でも、川崎のヒップホップクルーBAD HOPが、2020年3月1日、彼らのツアーの千秋楽となるライブを、無観客の横浜アリーナで開催し、その模様をYouTubeで無料生配信したことは大きな話題となりました。

 彼らの取り組みに関しては、ライブ直後にクラウドファンディングが立ち上がり、本日(2020年3月13日)現在、支援総額は5500万円を超えています。

 その後も、多くのアーティストが本日に至るまで、無観客ライブを敢行し、各アーティストのYouTubeチャンネルにアップするなどしています。

■電子チケット制という意義ある試み

 もっとも、私の知る限り、これまで行われてきた無観客のライブ配信はいずれも無料配信であり、そこで見込まれる収益も、YouTubeの広告収入程度のものであるため、およそ、公演の中止を補填しうるものではありませんでした(BAD HOPの例を除きます)。

 そのような中、ceroのメンバーとceroの所属するカクバリズム(角張さん)は、2020年3月13日、"Contemporary http Cruise"と題して電子チケット制のライブ配信を開催することを決定しました。

 その理由を、カクバリズムの角張さんは次のように述べています。

「もちろん無料で配信したい気持ちもあるのですが、有料でのライブ配信を開催するに至ったのは、いつまでこの状況が続くかも見えない中で、この有料配信が少しでも形になれば、全国のミュージシャン、ライブハウス、さらには演劇関係者など皆さんの活動の基礎となる部分をフォローできる、ひとつ明るい材料になるのではないかなと考えたからです。これがほんと素直なところです。」
(引用元:https://kakubarhythm.com/news/post/8359)

 また、ceroのボーカルの髙城さんも、今回の選択に関して、Twitterで同趣旨の発言をしておられます(ツリー全体の参照推奨)。

 個人的な意見としても、終わりが見えないこの現状に鑑みれば、どこかのタイミングで、現実的かつ持続可能な方向への舵切りが必要だと考えていましたが、今回のcero・カクバリズムの試みは、1つのロールモデルになるのではないかと感じています

 また、「ピンチはチャンス」という古い言葉ではないですが、ライブの後半のMCで髙城さんが、今回の試みに対し、カクバリズムにおける新しいコンテンツになりうるという感触を感じておられたように、平時におけるマネタイズ手段にまで昇華できたら最高だなあ、などと考えていました。

■今回の電子チケット制度の仕組み

 今回の配信は、電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」が提供するZaiko Live Streaming」というサービスを利用して、「電子チケットの購入→ライブ配信の視聴」という流れで行われました(個人的にはスムースに視聴できました。また、アーカイブの画像がきれいで驚きました)。

 もっとも、このサービスには以下の特徴があります。

 ①電子チケットの購入可能期間が定められている(現在は購入不可)
 ②チケット購入者のみ、配信終了後1週間限定でアーカイヴ再生可
 ③投げ銭機能

 このうち、①②を端的に言うと、電子チケットを購入できなかった人は、事後的にはアーカイブにアクセスすることもできず、お金を払ってコンテンツを視聴することもできない、ということです。
 ですので、残念ではありますが、例えばこの記事やTwitterで話題となっているのを見て、視聴したいと思っても、視聴する手段はないようです。

 次に、③投げ銭機能については、様々な視聴者の声が寄せられているところでもあり、また、法律家としても興味深い点でしたので、次の項で触れようと思います。

■一般的な投げ銭(ギフティング)機能

 皆さんは「投げ銭」「ライブ」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

 確かに、しばしばライブハウスでは「投げ銭ライブ」なるものが行われていますが、最近では、まずはSHOWROOMや17Liveなどのライブストリーミングサービス上で、視聴者が配信者に対して配信中にギフトを投げる行為(ギフティング)をイメージされる方が多いのではないでしょうか。たぶん。

 こうしたライブストリーミングサービスのユーザーであれば、視聴者が配信者に対して投げているのはギフト(デジタルコンテンツ)であって、「現金」そのものではないことをご存知かもしれません。

(☆この理由については、詳しく知りたい方は、私が所属する事務所の以下のブログ記事に詳細が掲載されていますのでご参考まで。)
「SHOWROOMに学ぶ、資金決済法に抵触しない投げ銭サービスの作り方」
https://storialaw.jp/blog/5089

 興味のある方は是非読んでいただきたいのですが、かいつまんで申し上げると、銀行以外の一般の事業者がお金の送金を行うには、資金決済法という法律に基づき「資金移動業者」としての登録を受ける必要があります。

 しかしながら、この「資金移動業者」の登録のハードルが高く、「現金」そのものの送金(投げ銭)が行われているサービスは、一部の大手サービスを除いて事実上ほぼありません。

 そのため、多くのライブストリーミングサービスでは、

①現金を「前払式支払手段」というポイントに換価
②ポイントでギフトを購入
③配信時にギフトを投げる(投げているのはお金ではない)
④配信者は投げられたギフト数等に応じて収益をサービス事業者から受領(視聴者から直接受領するわけではない)

 という設計になっています。このような設計とすることで、適法に、資金移動業者としての登録を受けずにギフティングサービスを運営しているのです。

■ZAIKOには、ギフティング機能がない。

 話をZAIKOに戻します。それでは、ZAIKOでは、SHOWROOMをはじめとするライブストリーミングサービスのように、ギフティングを行うことが可能な設計になっているのでしょうか。

 結論から言うと、本日の時点では、このようなギフティングが可能な設計にはなっていません。

 そのためか、「cero 投げ銭」という条件で、Twitter検索をかけてみると、SHOWROOM型のギフティングに慣れている視聴者の方々(あるいはライブハウスでの現実の投げ銭に慣れている視聴者かもしれません)から、

「投げ銭追加したい」
「投げ銭上乗せって今から出来る?」

 という阿鼻叫喚(?)や、

「投げ銭しておいてよかった」

 といった、安堵の声が多数見受けられました。

■ZAIKOの「応援投げ銭」機能

 では、最後に、ZAIKOに備わっている投げ銭機能とは、どのような機能なのでしょうか。

 実は、ZAIKOの投げ銭機能は「応援投げ銭」といって、チケット代金を購入する際に、投げ銭の額をオプションとして選択できるような設計となっています。

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(↑決済前の画面)

 つまり、ZAIKOでは、チケット購入時にしか投げ銭ができず、先に述べたように視聴中のギフティングを行うことができないため、先ほどの投げ銭をしなかったことを後悔している方たちのように、少し物足りないと考えるユーザーもいるかもしれません。

 他方で、視聴中のギフティングが可能であることが必ずしも良いこととは限りません。たとえば、極端な例ですが、先に紹介したSHOWROOM型のライブストリーミングサービスでのギフティングをそのまま導入するとなると、肝心の画面内に、視聴者や飛び交うギフトが写り込んだりし、ライブに集中することはできないでしょう。

 私自身は、フラットな立場ですが、結局は、事業者側で以上のような良し悪しを判断した上でのサービス設計なので、利用者の側も、このようなサービス設計を理解し、あるいは今後慣れていくことで解消される問題なのではないかと感じています。

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 なお、ZAIKOの「応援投げ銭」は資金移動に当たらないのか?と思われた奇特な方向けにこの点をお伝えしておきます。

 まず、上に表示した「決済前の画面」では、確かに「応援投げ銭」という現金をそのまま一方向に送金することを選択しているようにも見えます。

 しかしながら、以下の「決済後の画面」では、現金をそのまま一方向に送金するのではなく、選択した「応援投げ銭」の金額がチケットの金額に組み込まれていることがわかります。

 ここで、ZAIKOのカスタマー向け(視聴者向け)利用規約9条3項は次のとおり定めています。

第9条 (本サービスの内容及び本サービスを利用する場合の遵守事項)
3. カスタマーは、イベントチケットの購入代金について、オーガナイザーから、オーガナイザーに代わって代理受領する権利の付与を受けた当社に対し、当社が指定する方法により支払うものとします。カスタマーは、本サービスを利用して購入したイベントチケットについて、オーガナイザーに直接支払いをしてはならないものとします。

 残念ながら、ZAIKOとオーガナイザー(配信者)間で締結されている契約は見当たりませんでしたが、上記太字部分から、ZAIKOとオーガナイザー(配信者)間で締結されている契約により、オーガナイザー(配信者)が、ZAIKOに対して、チケット代金(ここに応援投げ銭の金額が含まれることは上述のとおりです)の代理受領権限を付与したことがわかります。

 このように、売主から代理受領権限の付与を受けて代金を受領するサービスのことを収納代行サービスと呼ぶことがあるのですが、収納代行サービスは、資金決済法が規制する資金移動に当たらないとされています。

 よって、ZAIKOの「応援投げ銭」についても、チケット代金の一部として収納代行サービスの枠内で行われるものであるため、資金移動には当たらないという結論になります。

【補足】
 ただし、個人的には、チケット代金の内訳として「応援投げ銭」という文字が見えているのにはやはり少し違和感があり、たとえば、noteのクリエイターサポート機能のように、チケット代金はオーガナイザーが設定した額以上で、カスタマーが定める額を入力し、代金額を定めるという方がより明瞭と感じています。
(☆収納代行サービスについて詳しく知りたい方は、投げ銭サービスにおけるSHOWROOMと同様、メルカリを例に上げて弊事務所ブログ内で紹介しておりますのでご参考まで。)
■メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠
https://storialaw.jp/blog/4998

■おわりに

 最後にceroを見に行ったのは、ちょうど半年前。事務所の同僚3名、別事務所の友人、そして嫁と一緒に。場所は大阪の味園ユニバース。

 もう何回目に見たceroかはわからないけど、「今日も最高だったな~」と言いながら、みんなで帰ったことだけは覚えている。

 その時には、まさか今日、家からceroの無観客のライブ配信を見ることになるとは想像だにしなかったけれど、しかしなかなか、家でゆったりとビール片手に見るceroも良い。
 これで1000円なら、浮いたドリチケ代を考慮してももう少し投げ銭してみようかな。しかし、ZAIKOでは配信中の投げ銭が…(略)

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 というようなことを、私だけでなく、多くのceroそしてカクバリズムのファンの方々が思ったであろうことは、配信後のTwitterを見れば一目瞭然の、それだけ素晴らしいライブでした。

 また、新たな試みとして採用された「電子チケット制」について、「もっと払っていたら良かった」という声があることは既に記載したとおりです。しかし、私がTwitter検索などで調べる限り、これに反対する方はほとんどおらず、多くの方が無料配信を行っている現状に、少なからず疑問をいだいていいたのではないかと感じました。

 それ以上に、収益額を計算して持続可能な取り組みなのかを検証されている方や、投げ銭額のマーケティング調査などを行っている方も見受けられ、視聴者側も自分事として受け止めているのではないかと考えています。

 中程でも述べましたように、今回のような取組みが、先行きが見えない現状での1つのロールモデルとなること、ひいては、平時にも利用できるコンテンツとして展開できることを、業界の末席を汚す者として心より願っています。

 最後に、私が好きなceroの楽曲をご紹介し、締めさせていただきます。

*なにか内容面で誤り等ございましたら、ご遠慮無くご指摘をいただけると幸いです。

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