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ニライカナイ(一話「殻の中で大海の夢を見る」) 【#ジャンププラス原作大賞】【#連載部門】
「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。――――」
そこは、理想郷。
青い海の中には、赤黄緑、色とりどりの魚たち。真っ白な砂浜。桜色の貝が砕けて陽の光を反射させてキラキラ煌めく。目の前には銀髪の少女。
そして、少女が振り返り僕に屈託なく笑いかける。
「ここは自由な世界よ。」
嬉しい。これで誰も傷つかない。
でも、君は誰?
………………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハッと目を覚ます。
なんだ、いつもの夢か。
僕は、浜辺でうたた寝していたみたいだ。
あーあ。
膝に顔を埋める。
「他の島に行ってみたいなぁ」
と思わず呟いた。
温かい穏やかさと冷たい残酷さを併せ持つ海。
僕らは海の中の孤島、「海神の杜」で育った。
海神の杜は、海の創世主である「海神様」から護られている神聖な島。
昔は周りに「八十島(やそしま※多くの島々のこと)」があって、そこには今より沢山の人々が生活していたらしい。
しかし、「悪鬼」によって人々は命を奪われた。
悪鬼とは、海神様に仇をなすもので、人の負の力から萌えいづるもの。
僕も見たことは無い。
悪鬼には、島をも沈めるほどの力を持つものもいて、この辺りで残ったのは、ここ海神の杜だけ。
今もこの世界のどこかで島が沈められ、人々が滅ぼされている。
僕らは「海神の仔」と呼ばれていて、悪鬼と戦うために生まれてきた。
僕の呟きを聞いてすかさず、
「あるじゃねえか、そこら辺に沈んでる。」
にっと微笑みながら言うのは入鹿(いるか)。
勇魚「そうじゃない。僕はもっと広い世界に行きたいんだよ。こんな狭い島の中じゃなく。」
入鹿「…俺たちは海神様に護られて生かされてるんだ。それに、もう15になる。悪鬼との戦いで外に出れる。」
勇魚「そうだけど、」
入鹿の揺れる短い金髪を見ながら思う。
『結局、囚われたままじゃないか。』
言いかけて辞めた。海神様を否定するような言動は許されない。
僕らはここを離れられないし、出られたとしても、戦いの中で命を落とす運命だ。
入鹿「それに、お前カナヅチだろ。海に出たらあぶくだぜ。」
勇魚「…うるさい!」
凪咲「勇魚(いさな)、入鹿、もうすぐ訓練の時間。」
短く顎の下で切りそろえられた黒曜石のような髪の毛。透き通るような白い肌。濡れているかのように潤った目元。長いまつ毛に縁どられている。真っ赤で小さな唇。
そして…、白衣(しらぎぬ)の前が全開。
帯を手に持っている。
僕は咄嗟に目を逸らした。頬がカッと紅くなるのが分かる。
勇魚「その前に白衣!!」
入鹿「おい、凪紗(なぎさ)!お前はこの前も…っほんと人として大事な感情が欠けてるぜ…。」
「ん。」と後ろを向いて、凪紗は『着せろ』とばかりに僕の前に立つ。
うなじが白く光る。
僕はどぎまぎしながら帯を締めた。
凪咲「ありがとう。」
と、涼しい顔で凪紗は戻って行った。
僕と入鹿と凪紗は生まれた時からずっと一緒。
幼い頃から支えあって生きてきた。
海神の杜では、15になった仔らは、三人一組を組んで世界中の悪鬼の討伐に向かう。
討伐から戻る度にボロボロになっていく仔たち。強く哀しい仔たち。
20歳まで生き残るのは稀だ。
それでも、希望はある。
「ニライカナイへ行けば、願いが叶う。」
という言い伝えがある。
ニライカナイは、海神様のおわす場所。この世の果てにある理想郷。そこへ行けば、人類は救済を得る。と。
ニライカナイへは、海神様の神具である剣を持てば自ずと導かれるという。
ただ、剣は悪鬼に奪われ粉々に砕かれ、破片は世界中に散らばっているそうだ。
僕は剣の破片を見つけ出す。
僕の願いは、「自由を得ること。」
この狭い島が今の僕の世界の全て。
でも、僕は、奪われることを恐れなくていい未来が欲しい。
「また夢物語言ってら。」
なんて馬鹿にされても、入鹿と凪紗と3人で。
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訓練用の白衣に着替え、凪紗たちと合流した。
訓練は、実際に悪鬼と戦う『実戦訓練』と自らの能力を高めるための『適合訓練』の二つがある。
入鹿「今日は、実戦(実戦訓練のこと)だな。俺の『精霊』も今日はやる気だ。」
と目をらんらんとさせながら言う。
15歳まであとひと月。最初は年長の仔らと組んで、実戦へ赴く訓練が始まる。訓練とはいえども実際に悪鬼と闘う訳で、生命を落とす仔もいる。
勇魚「実戦は初めてだよね。何事も無ければいいけど…」
自信なさげに呟く僕に、
凪咲「勇魚、大丈夫。私がいる。」
涼しい顔で言った。
入鹿「流石首席様は違うね~!」
と茶化す。
勇魚「凪紗も入鹿も適合訓練、首席だったもんな。それに比べて僕は…」
入鹿「勇魚の精霊はいつ起きるんだろうな。」
そう言って、ケラケラ笑う。
凪紗「私の中では勇魚が一位よ。」
勇魚「それ慰めるために言ってるよね…。」
僕らは『精霊』を生まれつき体内に宿していて、赤子には能力に応じた名前が付けられる。
『精霊』は海神の仔に与えられる、悪鬼に対抗しうる唯一の力だ。
発現には個人差はあるものの、15までには能力を行使できるようになるという。
しかし、僕はまだ『精霊』の力を使えたことがない。
これは、滅多に無いことらしく、原因も不明だ。代わりに僕は、精霊の力が込められた『神具』を用いる。
入鹿「でも、勇魚の状況判断力や知識量は俺たちの組に無くてはならない力だ。」
凪咲「それに神具の操作はピカイチ。ここまで扱えるのはこの島でそういないわ。」
2人が微笑む。
ーーーいつも入鹿は僕を茶化す。でも僕を安心させるための優しさだと知っている。
凪紗も、表情は乏しいし口数も少ないけど、不器用な優しさを持っている。
僕にとって世界一大切な2人。強く優しい2人。そんな2人と組めてよかったし、心から誇らしく思うんだ。
照れ臭くて鼻をこする。
「2人ともありがとう。よし、じゃあ学兄の仔らとの合流地点まで行こう!まずは、海神の杜の東側の……」
ドンッッ
地面が突き上げられるような大きな衝撃。
勇魚「…何だ?アレ?」
ニライカナイの上空に浮かんだ禍々しく光る数多の剣。中心には人のような姿のものたち。
入鹿「なんだ?」
勇魚「剣??真ん中にいるのは人か……?」
凪紗「こちらに向かってくる。」
姿形は人のようだが、頭部が変形している。
獣のような者、刀のような者。
勇魚「っ悪鬼だ…!」
見た瞬間に分かる。僕らはあいつらには勝てない。悪鬼は上位であるほど人の姿に近づくと言われている。頭部以外はほぼ人のような形状。
実力があることは間違いない。
悪鬼たちはニタニタとしながらこちらへ向かってくる。
僕らを狙っている!
入鹿「とりあえず勇魚は下がれ。」
凪咲「私たちが引きつける。助けを呼んできて。」
勇魚「そんな…!僕達では無理だ!一旦…」
それは、一瞬の、出来事。
刀のような悪鬼が入鹿を切り裂く。
獣のような悪鬼は凪咲に喰らいつく。
吹き出す鮮血。鮮やかな赤が僕の目に飛び込む。
「え…あ…」
そんな、そんな、そんな!!入鹿、凪咲!??
「嫌だァァァァァァ!!!!」
崩れこみ泣き叫ぶ。嫌だ嫌だ苦しい助けて誰か二人をどうすれば……!
その時、僕を貫く、1本の剣。
不思議と痛みは無く、倒れ込んだ。
暗くなっていく視界。
『見つけた。』
薄れていく意識の中声が聞こえた。
禍々しい光が僕を照らし、思わず目を閉じた。