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本野/物書き教員
2025年1月15日 19:05
授業中、先生にあてられた。五年生の算数、立方体の体積の問題。そうっと周りを見ると、みんな魂が抜けている。ちんぷんかんぷんといった表情。まあ本当は分かるけど、目立ちたくないしなあ。渋々立ちながら、いつものように『分かりません。』と言おうとした。すると、言葉の代わりに手からぽろぽろと出たのは、小さくてピンクの花だった。口をパクパクさせても声が出ない。「うわっ。」と言う周りの子たち。先生
2025年1月15日 18:54
「光生!なにこのテスト!?」ゲームをしている息子の目の前に、ゴミ箱に捨ててあったテストを突きつける。100点中30点。惨憺たる結果だ。光生は、ぎくりとした顔でヘッドホンを外し、「いやぁ~・・・。」と頭を搔きながら苦笑いをした。「この点数は低すぎる!それに、テストは私に見せる約束でしょ!」テストを見せたまま続ける。自分が般若のような表情になっていることが分かる。そんな私の顔に怯んだの
2025年1月15日 18:44
『あそこに行けば、天使が迎えに来てくれる』という、島に昔から伝わる言い伝えがある。「一緒に行こうよ。」君はそう言って微笑み、手を差し伸べてきた。俺は黙ったまま、その手を握り返した。ここに生まれた時点でいい人生は諦めた。鬱蒼としたマングローブ。蔦の這う苔むした地面。年中暑く、雨がじとじとと降る。そんなこの島にある仕事は、観光業と季節工ぐらい。学もない金もない奴らばかり。そん
2025年1月14日 19:16
僕の住むアパートから徒歩五分。「プレイオネ」という新しいパン屋ができた。早朝7時から開いている。カフェコーナーもあるので、平日の朝、デュラムファインと惣菜パン、コーヒーを買って、食べてから仕事に行くのがお決まり。小麦の素朴な甘みや香ばしさが味わえる素晴らしい店だ。しかし、何より素晴らしいのは、一人で店を切り盛りしている彼女である。人より頭一つ分飛び抜けた身長。すらっと長い手足。くりくり
2025年1月14日 19:08
お見舞いに行った友人が透明になっていた。 「随分柔らかくなっちゃったよ。だから、まだ学校には行けない。」と言い、友人はベッドに横たわったまま朧げに僕を見上げる。憂鬱にも眠そうにも見える微妙な表情だ。僕は、なんと声を掛けていいのか分からないまま、ベッドの傍に立ち尽くしていた。そんな僕の様子を見て、友人は「ほら」と苦笑いしながら手を開いて僕の方に向けてくる。肌が透明な膜のようになり、透かした向