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2025年1月の記事一覧

花むけの言葉をあなたに

花むけの言葉をあなたに

授業中、先生にあてられた。
五年生の算数、立方体の体積の問題。
そうっと周りを見ると、みんな魂が抜けている。
ちんぷんかんぷんといった表情。
まあ本当は分かるけど、目立ちたくないしなあ。
渋々立ちながら、いつものように『分かりません。』と言おうとした。
すると、言葉の代わりに手からぽろぽろと出たのは、小さくてピンクの花だった。口をパクパクさせても声が出ない。
「うわっ。」
と言う周りの子たち。先生

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感情エクスプレス

感情エクスプレス

「光生!なにこのテスト!?」
ゲームをしている息子の目の前に、ゴミ箱に捨ててあったテストを突きつける。
100点中30点。
惨憺たる結果だ。光生は、ぎくりとした顔でヘッドホンを外し、
「いやぁ~・・・。」
と頭を搔きながら苦笑いをした。
「この点数は低すぎる!それに、テストは私に見せる約束でしょ!」
テストを見せたまま続ける。
自分が般若のような表情になっていることが分かる。そんな私の顔に怯んだの

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天使の羽

天使の羽

 『あそこに行けば、天使が迎えに来てくれる』
という、島に昔から伝わる言い伝えがある。
「一緒に行こうよ。」
君はそう言って微笑み、手を差し伸べてきた。
俺は黙ったまま、その手を握り返した。

ここに生まれた時点でいい人生は諦めた。
鬱蒼としたマングローブ。
蔦の這う苔むした地面。
年中暑く、雨がじとじとと降る。
そんなこの島にある仕事は、観光業と季節工ぐらい。
学もない金もない奴らばかり。
そん

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君はプレアデス⭐︎人

君はプレアデス⭐︎人

僕の住むアパートから徒歩五分。「プレイオネ」という新しいパン屋ができた。
早朝7時から開いている。
カフェコーナーもあるので、平日の朝、デュラムファインと惣菜パン、コーヒーを買って、食べてから仕事に行くのがお決まり。
小麦の素朴な甘みや香ばしさが味わえる素晴らしい店だ。
しかし、何より素晴らしいのは、一人で店を切り盛りしている彼女である。
人より頭一つ分飛び抜けた身長。すらっと長い手足。
くりくり

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テネラル

テネラル

 お見舞いに行った友人が透明になっていた。

「随分柔らかくなっちゃったよ。だから、まだ学校には行けない。」
と言い、友人はベッドに横たわったまま朧げに僕を見上げる。憂鬱にも眠そうにも見える微妙な表情だ。僕は、なんと声を掛けていいのか分からないまま、ベッドの傍に立ち尽くしていた。そんな僕の様子を見て、友人は「ほら」と苦笑いしながら手を開いて僕の方に向けてくる。肌が透明な膜のようになり、透かした向

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