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OPEC+は今こそ「先制対応」のルールを破るべき時


2024年6月2日、OPEC+の「グループ8(G8)」は、2024年10月から2025年9月にかけて「自主的」な減産を段階的に解除することを決定しました。このニュースは原油市場に大きな驚きを与え、原油価格に対して即座に下押し圧力をかけました。しかし、9月5日にはOPEC+の8カ国が、合計220万バレル/日(b/d)の減産解除を2か月延期し、12月1日から開始することを発表しましたが、それにも関わらず原油価格はさらに下落しました。

9月6日、11月納期のブレント原油先物価格は1バレルあたり71.06ドルと3年ぶりの安値で取引を終了しました。これは、アメリカ経済のリセッション(景気後退)懸念と、それに伴うリスク資産の大規模な売りが原因で、8月から広がっていた悲観ムードが影響しています。特に8月の米国の雇用データが予想を下回り、労働市場の弱体化や、米連邦準備制度(FRB)の適切な政策対応への不安が市場心理を悪化させました。

6月のOPEC+の決定が市場を驚かせた一方で、7月にはガソリンやジェット燃料の需要増加期待が高まり、原油価格は一時的に回復しました。しかし、8月以降、米国経済の不安や世界的な原油需要の減少見通しが強まり、価格は再び下押しされました。この時期にOPEC+のG8が約18万バレル/日の供給増を10月から市場に投入する計画が注目されました。

特に、サウジアラビアのエネルギー大臣、アブドゥルアジズ・ビン・サルマン氏は、状況次第では減産を停止したり、さらなる減産を行う用意があると述べていました。OPEC+は公式には原油価格の目標を否定していますが、市場ではブレント原油価格を1バレル70ドル以上に保つことが重要視されていました。

今回、G8が2か月の減産延長を決定したのは、原油価格の急落を防ぐためであり、彼らの言葉通りの行動を示すためでもありました。この決定は、サウジアラビアが以前から強調していた「先制的」かつ「迅速な」対応を強調するOPEC+の基本方針と一致しています。

しかし、現在の状況では、このルールを一時的に例外とする時かもしれません。実際、市場は2か月の延長をあまり重要視しておらず、G8の減産措置が短期的には十分な効果を発揮していないことが示されました。加えて、イラク、ロシア、カザフスタンが年初からの割り当て超過分を補償する形で、10月と11月の実際の供給量はさらに減少する予定です。

市場がOPEC+の減産の効果を軽視し始めているのは、米国やカナダ、ブラジル、ガイアナなどがOPEC+メンバーの減産分を補う形で市場シェアを拡大しているためかもしれません。このような状況下では、原油市場全体の供給と需要のバランスが崩れ、予測が難しくなっています。

現状では、米国経済やFRBの金融政策の見通しが不透明で、悲観的な見方が市場を支配しています。今後、FRBが9月17-18日の会合で金利を引き下げる可能性は高いですが、その結果が市場に与える影響は予測困難です。このような混乱の中では、OPEC+も市場の動向を慎重に見守り、過度に先制的な対応を控えることが賢明かもしれません。

原油市場が揺れ動く中、OPEC+は来年以降、米国経済や世界の需要動向がより明確になるまで、現状維持を図るのが最善の選択肢かもしれません。


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Tokyo⇄シリコンバレー AI,クライメートテック Web3 -武富正人
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