![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/40201116/rectangle_large_type_2_162050c0ec50eef4c019bc3653854545.jpg?width=1200)
#3 - IPOへのチャレンジ: Direct Listing, SPAC, 非上場市場 (2)
前回の記事では、著名ベンチャーキャピタリストであるBenchmarkのBill Gurelyさんが既存のIPOプロセスを強く批判する「Going Public Circa 2020; Door #3: The SPAC」という投稿に関して、本当の問題は投資銀行の悪さではなくて、「IPOにおけるより精度の高い価格決定モデルの不在」であることをお話ししました(前回の記事はこちら)。
第2弾である今回の記事では、その価格決定モデルの課題やアロケーションの課題の解決として最近注目を集めてきている以下の方法に関して話を深めたいと思います。
- Direct Listing
- SPAC (Special Purpose Acquisition Company)
Direct Listing
Directly Listingは一言で言うと、投資銀行によるIPO価格を設定するステップ及び特定の投資家に新株のアロケーションを行うステップを省いたものです。今までの非上場株がDirect Listingを通じて上場株になるのです。
以下の図は既存のIPOプロセスとDirect Listingをそれぞれ表しています。投資銀行がIPO価格を(意図的に)策定する「Handpick Price」とどの投資家に投資枠を割り当てるのかを決める「Handpick Allocation」ステップが、Direct Listingでは省かれていることが分かります。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/40201196/picture_pc_aa69ca8e4b9ff23361ffd827f627b5bb.png?width=1200)
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/40201200/picture_pc_8ae66519ecb68dfe93450abc634e1f68.png?width=1200)
(出典:上記のBenchmarkのBill Gurely氏の投稿)
これにより、IPO価格は誰かによって決まる訳ではなくて、IPO初日に公開市場の価格決定メカニズムによって決まることになり、要するに価格決定が公開市場の需要と供給によって決まるので、DCFによって算出された価格や人為的に決められた価格よりはある程度精度の高い価格だと判断することができると思います。さらに、初日から特定の投資家だけではなく、一般投資家たちもRobinhoodやPublic、Charles Schwabのような株の売買サービスを使って手軽にIPO株を買うことが出来るので、アロケーションへの不等な機会の問題も解決することができます。
Direct Listingでは新株を発行することができないことが同仕組みのもっとも致命的な制限として挙げられていたのですが、今年の8月に米国証券取引委員会(SEC)によりDirect Listingの際にも新規株の発行ができるように承認が降りているので、より魅力的なオプションになっています。
ただ、一般的なIPOとは違ってDirect Listingではマーケットメーカーとして流動性を供給する投資銀行がいないので、規模や認知度が足りない会社は流動性の確保などを同手法のリスクとして検討しなければなりません。今までDirect ListingにてIPOを果たした会社はPlantirやAsanaやSlackなど、規模が大きくすでに市場にてある程度認知度の高い会社に限られたのもその理由になります。
SPAC (Special Purpose Acquisition Company)
特に今年大きな注目を浴びているSPAC(Special Purpose Acquisition Company)についても簡単に話したいと思います。
SPACというのは非上場会社の買収を目的とした上場会社です。アメリカの場合大体18ヶ月以内に買収ターゲットを見つけ買収をすることを前提に投資家から資金を集めます。もし18ヶ月以内にターゲットが見つからなかった場合、集められた資金は投資家に還元されます。ターゲットが見つかると、両社は合併し、非上場会社は上場することになります(このプロセスはDe-SPACと呼ばれる)。最終的には非上場会社はSPACが投資家から集めた資金を「資金調達」しながら上場する形になります。
SPACは迂回上場とも呼ばれ、今まではネガティブな印象が強かったです。さらに、ターゲットを物色し、買収後に上場する会社へ経営陣としても参加する「SPACのスポンサー」へのインセンティブ(Promoteと呼ばれる)設計が不透明だったりもして、課題も多いです。ただ、最近SPACの数が多くなりVirgin Galatic Holdingsといった成功事例も増えていて、興味を持つファミリーオフィスなどの投資家が増えてきているなど、投資家がSPACに持つ印象はかなり変わってきているようです。また、ターゲット会社を探すSPACの会社が多ければ多いほど、SPAC同士の競争が激しくなりターゲット会社に有利な市場になるので(Seller's market)、より公平性及び合理性の高いインセンティブ設計が促され、他の条件の交渉もしやすい環境になっていくと考えられています。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/40201214/picture_pc_b5bd756d2df1b96258cddf6a0bffb0cb.png?width=1200)
(出所:Earning the premium: A recipe for long-term SPAC success McKinsey & Company)
SPACは非上場会社にとっては、IPOへのオプションを増やしてくれたとの観点から非常に嬉しいことで、これからも多くの会社に採用されていくことが期待されています。しかし、私が冒頭であげた既存IPOの課題、「IPOにおけるより精度の高い価格決定モデルの不在」の直接的な解決策にはなりません。企業価値及び株価や他の合併条件はターゲット企業とSPACのスポンサーの交渉で決まるからです。
その反面、SPACは上場会社であり、上記で話したRobinhoodなどのサービスを使えば誰もがSPACの株を買うことはできます。株を持つと株主として、SPACが実際にあるターゲット会社の買収を行う際に議決権も持ちます。このような観点から、既存IPOプロセスに比べ、アロケーションへのアクセスはほんの少しはベターではないかと思います。
次のトピック
最後の第3弾では最後の切り口である、イノベーションによる非上場マーケットの活性化(e.g., SharesPost, CartaX, LTSE)について話します。それではまた!