vPro よもやま話
昨年7月から多くの皆さまにご覧いただいてきたvPro友の会、これまで皆さまにはインテル vPro® プラットフォームの強力なリモート管理機能にはどの様なものがあって、それを活用するにはどう設定すれば良いか、技術的な情報をご提供して参りました。その方針が変わる訳ではないのですが、今回から数回に渡っては少し趣きを変えまして、インテル vProプラットフォームが誕生した当初から、事務方として関わってきた筆者による、まるで技術的ではない内容の記事をご紹介して参りたいと存じます。
大変恐縮ですが、これから数回の記事はご覧いただいてもインテル vPro® プラットフォーム(以下vProと記述します)の技術面に詳しくなることもありませんし、vProの設定方法が分かる訳でも、vProを利用したシステムが動作するようになる訳でもございません。
しかしながら2006年の誕生から今日まで、既に20年近く幾度ものアップデートを繰り返しながら継続されているこの技術、インテル社の中でも最も長生きをしているブランドの1つです。そんな長い間皆さまにお使いいただいているvProについて、それがどのように生まれ、どのように進化し、どこで利活用されているか・・・ 今や長年横断的に関わった人間もすっかり少なくなってしまいましたので、ここで一度とりまとめさせていただきたいと思います。
読者の皆さまにおかれましては、ちょっと寄り道をするような、そんな感覚でお付き合いくださいますと大変ありがたく思います。
社内のニーズから生まれた遠隔管理機能 (と聞いています)
インテル vPro テクノロジー(プラットフォームと改名されたのはつい最近で、長い間こう呼ばれて来ました。以下vProと記載します。)がここ日本で発表されたのは2006年の9月8日、ビジネスPC向けのCore 2 Duo ブランドCPUの発表と同時でした。
インテル社はvProの発表当初から、ビジネスPCに求められる4つの大切な要素として、「生産性(処理性能)」「セキュリティー」「管理性」「安定性」の4つを挙げています。そしてこの4つは同時にvPro対応ビジネスPCがユーザーの皆さまに提供するアドバンテージでもあるのですが、発表から18年が経過した今日現在でも、インテル社は引き続きビジネスPCに重要な4要素として同じものを提唱しているのです。この点に関しては、当時の担当者は先見の明があったと申し上げていいのかもしれません。
そしてこの4点の中で、vProをもっともユニークな存在にしているのは「管理性能」だと筆者は考えています。
PCが生まれてから今日までの数十年、スマートフォンなどとは違ってPCには一貫して電源オンとオフの状態が存在しています。電源がオンの状態で、OSとリモート管理ツールが正常に動作していれば、IT管理者は遠隔地からPCの存在や状態を確認し、 その時に必要な対策をリモート環境で施すことが可能です。ただひとたびPCがハングアップしてしまったり、電源がオフだったりすると、必要な対策が行えないばかりか、そもそもPCがあるべき場所に存在しているかどうかすらリモートでは分からなくなってしまいます。
さまざまな組織において業務を遂行するために無くてはならない存在になったPCは、小規模な組織でも数十台から数百台、大規模になると数万台から数十万台という規模で利用されています。そんな数多くのデバイスが全て管理者の目の届く場所で使われるということは物理的にあり得ませんから、必ずそのうちのある程度の台数はリモートで、何らかのネットワーク通信を利用して維持管理される必要があります。「全てのビジネスPCは正しく管理される必要がある」と考えたインテル社は、電源が入っていない、ハングアップしているなどのリモート管理できない状況、「遠隔管理の死角」をなくすべく、あらゆる状況で「半導体の力を用いて」遠隔管理可能な状態にする、遠く離れた場所に存在するPCが、あたかも手許にあるように管理できることが重要だと考えました。これがvProの根底にある思想です。
一方でインテル社は世界有数の半導体製造企業です。世界各地に広大な敷地を持ち、そこに大規模な半導体工場を保有し、日々さまざまな半導体を製造、出荷しています。
皆さまもお聞きになったことがあると思いますが、半導体という製品は「クリーンルーム」と呼ばれる、工場内の空気中に浮遊している微粒子や不純物を徹底的に排除している場所で生産されます。そのクリーンルームにおいても、一般的な工場と同じように製造ラインを制御するPCが数多く稼働していますので、時にはそれらが不具合を起こし動作を停止することもあるでしょう。となるとシステム担当者は現地まで行って、不具合により停止しているPCを再起動してやる必要があるのですが、これがクリーンルームに存在するということになると、そう簡単にはいかないのです。担当者は、クリーンルームに外界のホコリや不純物を持ち込まないために幾つかのステップを踏んでようやく立ち入ることが許可されます。
不具合の報を受けて、広大な敷地を対象の工場まで移動し、クリーンルームに入室するための様々なステップを踏み、ようやくPCの前にたどり着く・・・ その時には不具合発生から既にかなりの時間が経過していて、その間ラインが止まっていた・・・ ということが想像に難くないのです。
「PCが何らかの問題でハングアップしても現地に出向くことなく、ネットワークを介してPCを再起動し、必要な対策をすべてリモートで施すことができないか・・・」
vProはこのような半導体製造企業特有のニーズから生まれてきた技術だと関係者に教えてもらいました。
Business Pro =vPro ?
vProのルーツをお話したところでもう一つ、vProが生まれた頃聞いた話をご紹介します。
「vProって、なんでvProって言うんだろう・・・」そんな疑問は、vProという製品に関わり始めた頃、極めて自然に生まれてきました。だってそうですよね。Proは何となく分かる気もしますが、「v」が何を表すvなのかよく分からない・・・ 仮想化のv? 映像のv? どちらも直接的にvProに結びつかないのです。
そこで当時、勇気を振り絞ってvPro事業の中心にいる人たちに聞いてみたのです。「ところで、vProってどんな意味?」「vは何を表しているの?」と。
すると、当時の担当者から返って来た答えはこんな感じでした・・・
「これはビジネスのプロが使うべき製品、Business Professional 向けの製品だ」
↓
「Business Professionalをそのまま製品に使うのはちょっと長いので、短くするとBPROかな」
↓
「Bっていまいちじゃない? じゃちょっと発音の似てるVはどうかな? Victoryとかかっこいい言葉が想起されるし」
↓
「そうだね! じゃVPROで行こう!」
そんな経緯で「vPro」に決まったという話を聞いたことがあります。
うーむ、物事の始まりって、そんなものかもしれませんね・・・
この「vPro」、我々日本人は「ブイプロ」と読みたくなりますが、正式には「ヴィープロ」としっかりとVの発音をするようです。
かくしてvProが生まれました
このようにしてインテル社内のニーズから生まれたインテル vPro プラットフォーム、この技術が搭載された最初のビジネスPCは2006年9月7日に発表されました。(日本での発表は冒頭にお話しした通り翌9月8日)
当初のバージョンでは、ネットワークを経由した電源コントロール機能が有線LANのみで実現されていたこともあってか、vProを搭載したビジネスPCはデスクトップモデルのみでした。
そしてvPro 搭載PCにはこのようなシールが貼られていました。
その後長い間、vPro搭載PCの目じるしは各世代のCPUのバッジに小さく「vPro」と書かれるスタイルに変更されたのですが、初代はこの様な形でvPro技術搭載であることを高らかにアピールしていたんですね。
ただ、このシールのせいなのかどうかは定かではありませんが、当初はちょっと誤解を生んだこともあった様です・・・
そのお話はまた次回ということで、vProよもやま話の第1回、お付き合いくださいましてありがとうございました。