Rくんと僕は釣り合いが悪かったのか。
当時僕は渋谷区の某所に住んでいて、おおむね皇居の西側ならどこでも、ちょっと奮発して買ったSCOTTのカーボンフレームの自転車で出掛けてました。
そんなときにアプリでマッチングしたRくん。
「今、自転車なので、そっちに行けますよ。」
シャーッと自転車で飛ばして、待ち合わせ場所の道玄坂のロイヤルホストに着いたときには、Rくんはもう先にアイスコーヒーを飲んでました。
アプリのプロフ画像よりは実物の方がイケメン。プロフどおりの30代半ばかな。
どこに住んでるんですか、何をやっている人ですか、出身はどこですか、趣味は何ですか、付き合っている人はいますか。はじめましてっぽい話題で、いい感じに会話が盛り上がって。
「仕事で海外に行くことも多いんだけど、やっぱり海外は旅行で行きたいんですよね。」僕はそんな話をした覚えがあります。
「俺も海外旅行は行きたいです。でもなかなか行けないっすよね。」
行くとしたらどこに行きたいですか、何日間くらい行くのがちょうどいいですか。そして、Rくんはいやに具体的に「海外旅行にはいくらくらいかけますか。」と聞いてきたんです。
「どこにどれくらいの期間行くかによるけど、まあとりあえず30万円くらいはかかるよね。」
Rくんの顔が一瞬曇ったのがわかりました。Rくんはホテルで清掃やベッドメイキングのバイトをしていると言ってた。仮にそれで都内一人暮らしだとしたら、そんなに生活に余裕はないはずだ。彼はきっと、マッチングした相手の生活レベルというか、経済的にどのくらいの豊かさの生活をしているのか見当をつけていたのだと思う。
そこに出てきた「30万円」という数字。ロイヤルホストのお勘定を済ませて外に出てみたら、渋谷の真ん中になんかスカした自転車で来てる男。彼の中で、彼の前に立っている僕は、自分に釣り合わない人だと判断されたのが分かりました。
「これからどうします?」「LINE交換しましょうよ。」
そんな僕の声にあいまいな返事をしながら、Rくんは渋谷の雑踏の中に消えていきました。