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Nの不倫未遂。
上京してそれなりの時間も経って、地元にはいなかったゲイの友達の輪もそれなりに広がってきた頃。
すでに長い年月を一緒に暮らしているというカップルと親しくなって。彼らは付き合い始めて割とすぐ、たしか20代半ばから同棲しているカップルだけど、ひとりはまったくの下戸、一切アルコールを飲まない人でした。
僕は、飲んで大騒ぎするのは嫌いだけど、美味しい食事には美味しいお酒を合わせて楽しみたいたちで、人並みには飲む。なので、どうしてもそのカップルのうち酒を飲む方の人、Nと出歩くことが多くなってました。
当時、僕の仕事もNと近い業界で何かと話題には事欠かず、なんだかんだと理由をつけてはご飯を食べに行ってたんだけど、酒を飲まないNの相方が来ることは滅多になく。
その日もたしか仕事終わり、丸の内あたりで一緒に食事して、まだ少し早いのでもう一軒飲みに行こうとゲイバーに足を伸ばして、気持ちよく飲んでほろ酔い。さてそれでは帰ろうかという時、人目につきにくい階段の踊り場で、Nが僕にキスを求めてきたんだよね。
「ダメだよ。彼が家で待ってるでしょ。」
その日は少し気まずい空気のまま帰宅することになりました。
Nとも、Nの相方とも、今でもいい友達でいられるのは、僕があの時キスに応じなかったからじゃないだろうか。