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眼鏡と香水。印象をプロデュース。コミュニケーションするコンセプトストア 江東区森下 / 菊川「Atelier Macri」

何年経っても頭に固着する強烈な経験。長く生きるにつれて誰にでも一つや二つあるだろう。 思い返してみると朧げな視覚的な記憶に反して、瞬間の「香り」は強烈に鮮明に刻まれていないだろうか?ダイレクトに本能を揺るがす「香り」は他人を記憶するに大きな影響を与える。

朧げなる視覚だが、外見的な印象に最も影響を与えているは「眼」と言えるだろう。コロナ禍で世界中の鼻と口が覆われてもなお晒され続けた「眼」。 距離感があれば「眼」が、近距離まで近づけば「香り」が。その人物の印象を左右するという意味で共通項がある。

今回はそんな香りと視覚を掛け合わせた、眼鏡と香水のコミュニケーションコンセプトストアである「Atelier Macri / アトリエマクリ」の斎藤氏に出店の背景からスタンス、展望についてにお話を伺った。

Atelier Macriプロデューサーの斎藤氏

- Atelier Macriのコンセプトを教えてください。

「コミュニケーション」をコンセプトに、眼鏡と香水を専門に取り扱っています。 母体であるMACRIは空間演出を生業としており、ご縁の中で眼鏡や香水を取り扱わせていただくことになりましたが、身内ノリでやりたいわけではないですし、かと言って自分たちがトレンドセッターになりたいということも全然なくて。長くベーシックとして存在し続けられるものをセレクトすることをキーワードにしていますね。

- 空間演出を生業とするMACRIが、どういった経緯で出店に至ったのでしょうか?

代表の紙谷さんがMACRIを創業する前に眼鏡のディストリビューション(販売代理店)の企業に勤務していて、海外ブランドのOEMや日本国内への卸をする中でご縁が繋がったことがキッカケです。MACRIを創業した当初はお店をやろうとは思っていなかったのですが、今年10期目を迎えるにあたり中長期の計画を立てる上で、空間演出を体感いただくために自分たちで店舗を運営することが構想として立ち上がりました。

紙谷さん自身がコミュニケーションを事業を営む中で最も大事にされているので、BtoBの空間演出事業に加わる形でBtoCのコミュニケーションストアを出店することは自然な流れでもあります。香水もご縁があって取り扱わせていただいていています。

- 紙谷社長がコミュニケーションを大事にされていることから全てが繋がっているのですね。

構想自体はコロナ前からあって、コロナが終息したタイミングでオープンしたのですが小売が難しいタイミングでした。コミュニケーションをコンセプトとしている以上、来店いただかないと意味がない。お客様に来ていただくためにどうしたらよいか?を考えました。

眼鏡も香水も選びにくくて、専門性が高い分野であるじゃないですか?その一方で、眼鏡も香水もスタイリングの仕上げという共通項もあると思っていて。メンバーのみんなが眼鏡も香水も好きだったということもあって、自分達が好きな物をお客様にお伝えできることはテンションが上がりますし、コミュニーションをとってお伝えするに最適なジャンルなので、来店いただく意味をご提供できるかなと。

- メンバーの皆様が好きでやられていることがお客様にも伝わりますよね。

趣味嗜好はメンバー同士似ていますが、やはり好みは一人一人異なります。ただ母体としてインテリアを軸とした事業を展開しているMACRIがあるので、MDやバイイングは一貫しています。メンバー内では明確に「モダン」「クリーン」「タイムレス」というキーワードを共有していますね。

- 空間演出事業とAtelier Macriのキーワードも共通しているのですか?

空間演出事業はあくまでBtoBなので、クライアントの要望がベースになります。一方でBtoCのAtelier Macriは先ほど説明したように明確なキーワードを設定できます。

わかりやすく言うと、通常の眼鏡屋は黒・ベッコウなど様々なフレームを取り扱っていると思いますが、僕らは色味で言うと黒をメインにグレーなどモダンでクリーンなフレームの比率が高いですね。「クラシックよりは軽やかさがある眼鏡が僕らっぽいよね。」とオープン当初から擦り合わせ、徐々に固めていきました。

- オープンしてから今に至る過程で固まっていったんですね。

普通のお店では当たり前のようにいるバイヤーや店長を僕らは就けていないんですね。私ともう2名はこちらのショップがメインですが、空間演出のメンバーもお店に携わっています。MACRIのアトリエスペースなのでみんなで関わっていく。なので、お店と事務所を横並びでシームレスにしています。

- 双方の事業の相乗効果はありますか?

ありますね。MACRIのクライアントさんが事務所にいらっしゃってミーティングをすることがあるのですが、僕らの価値観とかテンションを伝えるためにお店をご案内した方が伝わりやすかったりしますからね。ブランディングの一つとして有効活用できていると思います。

- 確かにこの空間を体験することでクライアントはよりMACRIさんのアウトプットをイメージしやすくなりますよね。

それもありますが、クライアントさんにも一般のお客様と同じ接し方をするんですね。そこで楽しんでいただいて新しい発見を提供しています。後日にご家族を連れて来てくださることもあるんですよ。

- 仕事上だけの付き合いになってしまうと伝えきれないことってありますもんね。

仕事上の付き合いだとカッコつけたがるじゃないですか(笑)都合が出てきたりとか。そういったものを取っ払って、本当に個人の趣味嗜好でお話できるのがこの場所の良いところですね。

眼鏡も香水も好みから薫ってくることってあるじゃないですか。佇まいってその方のバックボーンが凄く見えると思っていて。同じパンツの履き方でもカルチャーが違えば異なるように、眼鏡や香水の好みからその方の理解が深まりますね。

- 私自身、普段眼鏡をかけていますが、ラウンドフレームの一山ブリッジと決めています。香りもかなり個性が出そうですよね。

最も直感的で、五感の中でも最も早く大脳皮質に届くのが香りですよね。記憶と直結しますからね。

- 顔の中で最も印象を決める「視覚」に関わる眼鏡と、近づいた時に最も本能を刺激する「嗅覚」に関わる香水を掛け合わせることって、関連なさそうに感じますが、こうして考えるとちゃんと繋がってますよね。

そうですね。また、眼鏡も香水もそプロダクトのバックボーンを掘り下げて、作り手とコミュニケーションをとって展開することが多いです。

ただ店頭でお客様にプレゼンテーションする際は基本的に「似合う・似合わない」で判断します。眼鏡だと掛けた時にその人がより良く見えないと意味がないですし、その方の元々持っていたベースに良いアクセントが加わるのが素敵だなと。香りもその方のスタイルによって例えばシンプルなスタイルであれば敢えてアクセントとなる香りをご提案します。最後はお客様との会話の中から好みに合わせて擦り合わせていきますね。



もちろん、お客様が求めてこられる場合はバックボーンもご説明しています。

香水の原料を集め、お客様とのコミュニケーションのアクセントに用いているそう。管理する木箱はMACRIのデザイナーが図面を引いて、馴染みの職人に制作してもらった特注品。

- 感度が高いお客様が多くいらっしゃっると思います。どういった方が多いですか?

最近は近所の方も増えてきましたが、基本的には遠方から来る方が多いですね。インスタグラムを見て地方から東京に遊びに来るタイミングでいらっしゃる方だったり、フジロックフェスティバルのタイミングで寄ってくれた海外の方まで様々な方に来店いただいています。

最近はご近所の方が口コミで増えてきて、ご家族やパートナーを連れて何度も来ていただけることもあり嬉しいですね。

- この空間、取り扱うプロダクト。わざわざ遠方から訪れる価値のあるお店だと思います。

実店舗はお買い物だけではなく、記憶に残る体験を提供し、持ち帰った後に浸っていただきたいと思っていて。体験価値が上がるように試行錯誤していますね。 眼鏡も香水も毎月購入するような物ではないじゃないですか。それもあって記憶に残って、人に言いたくなるような提案をしたいと考えています。

- 眼鏡と香水以外に取り扱っていきたいプロダクトはありますか?

奥はイベントスペースとして一ヶ月に一回切り替えているので、少し先にはガラスの作家さんであったり、アパレルを扱う予定がありますね。

店内奥のイベントスペース。取材時はマドエレンのオブジェと香水と新作サングラスであるヴィンテージサングラスのアップサイクルプロジェクト「Attic Series」を展示する空間だった。
ヴィンテージサングラスのアップサイクルプロジェクト「Attic Series」のプロダクト。元のブランドロゴも含めてマットなブラックでスタイリングすることで手に取りやすい存在に昇華されている

- オリジナルのアイウェアコレクションである「RIMLESS」やアップサイクルプロジェクトの「Attic Series」はどのように生まれたのですか?

全てチームで生み出しています。トップダウンは一切なくて、眼鏡に詳しいメンバー、香水に詳しいメンバー、イタリアで自身のファッションブランドを立ち上げた経験のあるメンバーなどが、明確な役割を持たずに連動して作り上げています。

- 素晴らしい方々が集まる秘訣を知りたいです(笑)

それも全てご縁ですね。リクルーティングは全くしていないんですよ。最近入ったメンバーは元々お客様だったんですが、メンバーでMACRIっぽいよねって言うお話をしていた時にちょうど前職を辞めるということだったのでお誘いしました。うちの組織ってみんなポジティブなんです。中の空気が良いので、お付き合いする方も良い方が集まっているように感じます。

- コミュニケーションを一番大切にしていることが全てに通じているんですね。

麻布台ヒルズのコンランショップで「RIMLESS」のポップアップをやらせていただいたのですが、それもご縁でしたね。お客様としていらっしゃった方がたまたま関係者の方で。コミュニケーションコンセプトストアとして掲げているので、外に持っていってポップアップすることはあまり積極的にやっていませんが、僕らのことを分かってくださっているので快諾しました。

- チームの皆様の人間性、そしてコンセプトとこの空間があるから良い方々が自然と集まるんでしょうね。

お店があまりないエリアで外から見ると少し緊張感がありますが、中に入っていただければカジュアルに対応させていただくので良い意味でのギャップを持たせられているかなと思っています。 実はカウンターの距離感がお店で一番キーとなる意匠なんです。初めましてでも緊張しない距離感を意図しています。

内装は僕らからコンセプトをお伝えして、二俣公一さんのデザイン事務所にお願いしています。普段、依頼する側に回ることがないので、MACRIでお店作りをする上でも勉強になっていますし、自分たちが行きたいと思える内装に仕上げていただけました。

お客様とAtelier Macriメンバーが絶妙な距離感でコミュニケーションできるように設計されたカウンター。
カウンターの窪みも話しているうちに無意識に肘を置けるように設計。Atelier Macriメンバーもお客様も自然と肘を置いて長くお話するそう。

- オリジナルのアイウェアコレクションである「RIMLESS」は気になっていたので是非試着させて欲しいです。私が着用して似合うか不安ですが(笑)

トレンド感もありながら、30代、40代、50代の方でも違和感なくスタイリングに落とし込んでいただけるようにデザインしているので大丈夫だと思いますよ。レンズを変えることもできるので、気分によって変えていただくことができますしね。

神谷さんの雰囲気であればこちらのフレームが似合うと思います

オリジナルのアイウェアコレクション【RIMLESS】
斎藤氏に提案いただいたRIMLESSを着用したライター神谷。縁が無いため想像以上に上品な印象に。

- 実は香水も気になってまして(笑)。私に合いそうなオススメはありますか?

「Oddity」の「Resonant」はいかがでしょうか?柑橘っぽさと金属っぽい冷たさを感じると思うんですけど、少し時間経つとアイロンをかけた時のシーツのような香りを感じます。

神谷さんは佇まいは少しエッジが効いてますけど、お話していて親しみやすさを感じたのでそのギャップにピッタリかなと思いました。

提案いただいたOddityのResonant。吹きかけた時の冷たい香りが嘘のように、時間が経過したカップ内の香りは温かい。香港のデザインスタジオが手がけ最高品質の芳香原で究極の少量生産で生み出されている。蓋の廃材のアップサイクルで制作したもので唯一無二。

- 素晴らしい眼鏡と香水に出会えました。最後にこれからいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。

ここに来たら何かしらの経験や記憶を持って帰っていただけると思います。眼鏡や香水目的でなくても、フラッと立ち寄っていただけたら嬉しいですね。お客様には周辺のオススメのご飯屋やお店もご紹介したりもするので是非お気軽にいらっしゃってください。

眼鏡と香水。心の通ったコミュニケーションの末、長く付き合っていける物を選ぶことができた。何を買うかも大事ですが、誰から買うか。コミュニケーションが源流に流れ、空間に落とし込まれたAtelier Macriはフィジカルな購買体験のあるべき姿を提示してくれているように感じた。


Atelier Macri (アトリエマクリ)
東京都江東区森下4-19-12
営業時間:12:00-20:00
Instagram:@atelier_macri

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