ダブルクロス3rdにおけるシナリオ作成の手引き

0.はじめに

 本記事は「ダブルクロス The 3rd edition(著:矢野俊策 出版:富士見ドラゴンブック)」(以降DX3と記述)におけるシナリオ作成初心者に対して、シナリオを作成する上での参考となることを願って書いたものである。

 この記事を読んで「なんだその程度のことか」と思われる方はたぶん問題なくシナリオを作成できると思われるので、飛ばしていただいて構わない。
 「他システムを含め、TRPGのシナリオを書いたことがない」「DX3のプレイ経験はあるが、シナリオを書いたりGMをしたことはない」という方向けの記事となる。

1.1 「シナリオ」とは?

 別の記事(こちらはソードワールド2.5)でも言及しているのだが、筆者は「シナリオ」を以下の3つの情報から構成されるテキストデータとして定義し、話を進めたいと考える。

・プレイヤーの選択や判定結果に応じて
 シーンやイベントの演出分岐、ゲーム的な処理を行う「処理」

・GMからプレイヤーに語られ、物語を共有するための「描写」

・各種アイテムやエネミーの情報など、
 ゲーム中に効果や数字などを参照する「データ」

 これら3つを取り回しの良い配置でテキストファイルとしてまとめたものを、筆者は「シナリオ」として扱っている。

1-2. 「シナリオ」と「物語」について

 TRPGのシナリオ作成についてそのノウハウを語る際、「起承転結」や「序破急」といったストーリーラインに即した「物語」を作り、それに応じてゲーム的な処理を付け足していく……といった手法が語られることが多い。
 このため、「シナリオ」を作成する際には「物語」の創出が必須スキルであるかのように語られることも往々にして見受けられる。

 しかし、筆者はそこまで物語そのものに固執する必要はないのではないかと考えている。DX3を遊ぶために必要なデータが揃っていれば、物語における重厚な人間関係だとか伏線だとかはセッション中に生じる後付けでも十分楽しむことができるからだ(もちろん事前にしっかり伏線が張られたシナリオなどは物語として完成度が高いと言えるが、必須ではないと考える)。

 即ち、本記事ではセッションを遊ぶために必要な最低限の情報をパッケージングしたシナリオの作成を目標として話を進めていくことにする。

2-1. DX3のシナリオに必要な要素

 DX3はルール的にもフレーバー的にも割と複雑な部類のシステムである、と筆者は認識している。
 ルール的には侵蝕率、ロイス、タイタス、HP、アイテム……と参照物が多く、フレーバー的にもUGNに関係する様々な組織構造をはじめとしてレネゲイドビーイングやFH、更には独自勢力などととにかく緻密に作りこまれた世界観が魅力であり、同時にややこしくもある。

 そこで、シナリオ作成初心者にとっては比較的容易だと思われる「PC全員がUGN関係者」となるシナリオ作成に絞ってシナリオ要素を考えていく。

 DX3におけるシナリオでは、「PC達の住む・活動する街に何らかの脅威が迫り、PC達は協力してそれに立ち向かう」という筋書きが使いやすい。

 そこで、シナリオに必要な要素を以下のポイントに分けて考えていく。

・PC達の住む街に迫る脅威

・その脅威によってPC達が脅かされるもの

 上記の2点を骨子にして、フレーバー的に要素を肉付けすることでシナリオの作成が可能である。
 その際、1-1にて述べた3つの情報を当てはめていくことが重要だ。

2-2. PCが事件に関わる動機

 実際に前項で述べたポイントには何が当てはまるかについて考える。
 「PC達の住む街に迫る脅威」については、ほぼそのまま「登場する敵キャラクター」と言い換えて問題ない。たまに敵キャラクターではないこともあるが、扱いやすいのは敵キャラクターそのものを脅威とするスタイルだ。

 「脅威によってPC達が脅かされるもの」については、PCがどのような立ち位置なのかによってある程度幅がある。
 まずUGNイリーガル(普段は普通に生活しており、UGNからの要請があった場合のみUGN関連の事件に関わるポジション)のPCであれば、それはそのまま「日常」と言い換えて良いだろう。

 UGNチルドレン(幼い頃からUGNの組織で育てられている、生まれながらのオーヴァード)の場合、組織の指示で事件に関わることが多い。これは言い換えれば、任務を遂行できない場合は自己の立場が脅かされると言い換えても良いだろう。

 UGNエージェント、支部長も同様にUGNという組織内部での仕事として事件に立ち向かうことになる。

 即ち、参加PCの所属を全員UGN関係者とする場合、PCが事件に立ち向かう動機についてはほぼ「組織からの指示」で何とかなる(個人的な動機があってはならない理由にはならないが、最低限これでOK)。

2-3. 具体的な脅威について

 具体的にPC達の住む街に迫る脅威とはどのようなものかについて考える。

 最も使いやすいのは、「街に過激なFHエージェントが侵入してくる」というものだろう。放っておけば街が(場合によっては世界が)危険なので、PC達は力を合わせてそのFHエージェントを倒すというシナリオ形式になる。

 次点で「強力なジャームが街に発生した」というのも良い。UGNの誰かが正気を疑ってジャームになったり、何らかの事故でオーヴァードに覚醒したキャラクターがそのままジャームになる、というケースから発展する。

 上記以外の場合、例えばUGN内部に裏切り者がいたりだとか考え方が人間と大きく異なるレネゲイドビーイングが居たりだとかする場合もあるが、概ね「放っておくと大きな損害を街に与えうる」程度の脅威であれば十分だ。

3-1. 実際のシナリオ要素構築について

 前項にて決めたシナリオの骨子に肉付けを行っていく。
 また、大雑把にではあるがこの時シナリオの想定レギュレーションを決めておくと良い……ただし、DX3において経験点の配分と実際に出るダメージはビルドに大きく左右されるため、厳密にはPC達のキャラクターシートを確認してからデータの調整に入るのが望ましい

 今回は前項にて述べた「危険なFHエージェントが街に侵入してくる」という題材を使い、実際にシナリオを組み立てていく。

 この時点では「放っておくと街を滅茶苦茶に破壊しかねない危険なFHエージェントが街にやってきた。PC達は何とかしてそのエージェントを排除しなくてはならない」程度のことさえはっきりさせておけばOKである。

現時点でのシナリオ概要
・危険なFHエージェントが街に来たのでPC達が排除する

 次にこの「危険なFHエージェント」がどういう方向性で危険なのかについて味付けしていく。例えばそのエージェントレネゲイドウィルスの存在を世界に好評することで、現在の世界そのものを変えようとしているかもしれないし、極めて好戦的な性格で街中のUGN関連施設を一般人もろとも破壊しようとしているかもしれない。また、何か特定の大きな目的があって街の中で何かを探しているかもしれない。
 シナリオにおいては以下のようなパターンが使いやすい。

・世界が危ないタイプ
→既存の秩序を崩壊させる、オーヴァードが支配する世界を作るなど

・街 or 人が危ないタイプ
→強力なレネゲイド能力で街ごとUGN支部を破壊しようとする、
 PCが親しい相手(=ヒロイン)をピンポイントで狙っているなど

・目的が読めないタイプ
→UGNの記録で大量殺戮や事故に関わった可能性が示されている、
 本人は無自覚でも能力行使の際に副次的に大きな被害が出る、など

 今回は上記の中の「街 or 人が危ないタイプ」を採用してみる。
 ヒロインとシナリオボスを絡めて演出しやすいので、「ボスはPCの親しい相手を狙っている」という設定を付与してみる。
 せっかくなので主人公枠とも称されるPC1の親しい人にしてみよう。

現時点でのシナリオ概要
・危険なFHエージェントが街に来たのでPC達が排除する

・そのFHエージェントの狙いはPC1の幼馴染である

 上記の時点でかなりシナリオができていると言っても過言ではない。
 あとはもう一点、シナリオの「謎」となる「なぜそのFHエージェントはPCの幼馴染を狙うのか?」という部分を用意すれば良い。

 DX3の世界観においては、大抵それらは「レネゲイドウィルス」に関係する事情で理由付けが行われる。レネゲイドウィルスには謎が多く、未知の挙動や作用も多い……逆に言うと大体のことはレネゲイドウィルスのせいにできる。

 以下、「シナリオボスがヒロインを狙う理由」として使いやすいと思われるものを幾つか挙げる。

・ヒロインの持つレネゲイドウィルスが特別なものである
→実は既にヒロインは無自覚なオーヴァードであった、というパターン。
 ヒロインの保有しているレネゲイドウィルスが他にない特別なものであるため、シナリオボスはヒロインの身柄や命を狙っている……というもの。

・ヒロインが何らかの機密情報を継承している
→ヒロインの両親や関係者が、ヒロインに何か機密情報となるものを託した/継承させた、というパターン。
 それは両親が秘密裏に研究を行っていたレネゲイドウィルスに関するデータかもしれないし、FHエージェントの過去にまつわる消したい記録かもしれない。

・シナリオボス自身にとってヒロインが重要な人物である
→シナリオボスがPC達と近い立ち位置である場合に起こりうるパターン。
 例えば個人的な感情からヒロインと一緒にFHで活動したいと思っている、またはヒロインこそFHに相応しいと考えている、など。

 今回は二番目の「ヒロインが何らかの機密情報を継承している」を採用してみる。

現時点でのシナリオ概要
・危険なFHエージェントが街に来たのでPC達が排除する

・そのFHエージェントの狙いはPC1の幼馴染である

・実はPC1の幼馴染は両親からある秘密を受け継いでおり、FHエージェントはその秘密を狙っている

 シナリオ要素としては上記の3点があれば十分である。
 あとは上記の要素を元に、「各PCのハンドアウト/導入」「ミドルフェイズのイベント/情報収集の内容」「クライマックスフェイズ」について1.1で述べた「処理、描写、データ」の3つを埋めていけば良い。

3-2. 総シーン数についての目安

 初めてDX3のシナリオを書く場合、「どのくらいシーン数があれば良いのか?」という点で悩む方も多いと思われる。
 実際のところシーン数が多すぎるとクライマックスまでに侵蝕率が上がりすぎることが多くなり、逆に少なすぎるとPC達のエンジンが掛かり切る前にクライマックスフェイズが始まってしまう。

 そこで、筆者のおすすめの目安を以下に示す。

・各PCのオープニングシーン:1シーン
・ミドルフェイズの固定イベント:2~3シーン
・情報収集シーン:1~2シーン
・トリガーイベント:2~3シーン
・クライマックスシーン:1シーン

 上記の場合PC達が登場侵蝕率上昇を行うシーン数は7~10シーンである。
 やや強引にPC達の初期侵蝕率を30%、1d10の出目の平均値を5とした際、上記のシーン数で全員が登場したとするとクライマックスフェイズに移行し、シーン登場した時点でのPCの侵蝕率は約65~80%になる。
 また、クライマックスフェイズでは「衝動判定」を行い、その際に2d10の侵蝕率上昇が発生するため更にこれを足してクライマックス戦闘開始の侵蝕率概算は約75~90%になる。
 戦闘中に一回コンボを繰り出す・リザレクトを行うなどすれば100%付近に達することができ、ボスが2~3R粘ればちょうど良い侵蝕率・残りロイスでセッションを終えやすいと判断する。

 登場侵蝕率上昇のダイスが連続で10を出したりした場合は、PCは様子見を行うこともできる。シーンには「シーンプレイヤー」が設定されており、よほどでなければ「シーンプレイヤー:全員」と指定することは少ないからである。

 上記のような目安で総シーン数を決定し、そこまでで上がった侵蝕率を元にクライマックスフェイズでのPCの侵蝕率と残りロイス数をシナリオボスの動きで調整していくのがマスタリングの基本となる。

3-3. オープニング:各PCのハンドアウト/導入

 3-1で決定した要素を参考に、各PCのハンドアウト/導入について決めていく。先の3-1で決めた要素でシナリオを書く際の各PCハンドアウト/導入について以下のように書いていく。

 以下にハンドアウトの一例を示す。
 重要なのは3-1で決定した要素に縛られずに要点のみ決めておき、参加するPCに幅を持たせることである。
 例えばPC1のハンドアウトなら「PC1にとってヒロインが大切な人であり、PC1はヒロインを守ってあげたいと思っている」ということが書いてあれば細かいところは変更しても構わない。

・PC1 シナリオロイス:ヒロインのA
→キミは市内の公立高校に通う高校生で、UGNイリーガルだ。
 ヒロインのAとは1年生の春に知り合って以来仲が良い。
 ある日Aの父親が何者かに殺害される事件が起き、Aにも危険が迫っているのではないかと考える。

・PC2 シナリオロイス:レネゲイド研究者のB氏
→キミはUGN支部に所属するUGNチルドレンだ。
 幼い頃、レネゲイド研究者のB氏に能力制御の手ほどきやカウンセリングで助けられ、親のように慕っている。
 自由時間に久しぶりににB氏の自宅を訪ねてみると、通常の人間には不可能な方法で殺害されたB氏を発見する。
 
・PC3 シナリオロイス:FHエージェントのC
→キミはUGN支部を預かるUGN支部長だ。
 Cはキミのかつての部下であり、現在はUGNを裏切ってFHエージェントとして活動している危険な人物だ。
 街に侵入してきたCを、支部長として抹殺しなくてはならない。

・PC4 シナリオロイス:FHエージェントのC
→キミはUGNに所属するUGNエージェントだ。
 過去、キミの所属していた支部はFHエージェントのCと交戦し、キミ一人を残して壊滅した。キミはCの戦闘方法を知る人物として、PC3の元でC討伐作戦に参加することになる。

・PC5 シナリオロイス:レネゲイド研究者のB氏
→キミはUGNを主な契約相手としているフリーランスのオーヴァードだ。
 キミは一ヶ月前、UGN所属の研究者であるB氏から「娘を秘密裏に護衛して欲しい」という依頼を受ける。
 B氏の娘であるAを護衛し始めたキミだが、定時報告にB氏からの返答が無いことに気が付く。

 また、導入シーンも上記同様、重要なのはPCを事件に関わらせるモチベーションを示すことである。参加するPCの設定を見ながら適宜調整し、ハンドアウトに書かれている導入を実行すればよい。

3-4. ミドルフェイズ1:固定イベントと情報収集

 DX3のシナリオにおけるミドルフェイズは、ベーシックな形式のシナリオの場合「前半」「後半」に分けて考えても良い。筆者はそう考えている。
 具体的には「固定イベントと情報収集」「トリガーイベント」で分ける考え方である。固定イベントと情報収集によってシナリオの内容が明らかになっていき、トリガーイベントで一気に状況が動いて物語がクライマックスに突入する、という繋がり方をするわけである。

 固定イベントでは、以下のような目的を持ったシーンを入れると良い。

・全員が集合し、協力体制を作るシーン
 →事件についてPC達に改めて提示し、情報共有させる

・何人かのPCが登場し、事件について調査するシーン
 →後の情報収集とは違い、確実に情報を提示する

・シナリオボスの動向を示唆するシーン
→過去の資料やUGN本部からの情報協力などにより、シナリオボスの性格や経歴についての示唆を行う

 上記のような固定イベントを3~4シーンほど作り、進行していく。
 各シーンには「シーンの目的」を明確に定めておくとシナリオを書く際に「どのシーンが重要か」「削るとするならばどのシーンか」「付け足すならどのシーンとどのシーンを補間するものにするか」について考えやすく、また実際にプレイする際にも「そのシーンの目的を達成したからシーンを締めにかかる」というマスタリングの指針になる

 情報収集シーンではPCの人数+1個くらいの情報収集項目を設定しておくと2シーンを要する。
 トリガーイベントを多く取り入れたい、ミドルフェイズの戦闘を少し派手にしたい、という場合は情報収集項目の数をPCと同じか一つ少なくするくらいにしておくと良い。
 以下、よく使われる情報収集項目について例を挙げる。

・シナリオボスについて 情報:UGN or 裏社会 など
→シナリオボスの経歴や能力についてフレーバー的に解説する。
 特に「目的のためなら手段を選ばないタイプ」だとか、「任務のために一般人を巻き込むのに躊躇がない」と書くと如何にも危険な人物に思える。
 逆に「目的達成に際して自分なりのルールに従って行動する」とか「UGNには容赦しないが一般人には被害が及ばないように考慮する傾向にある」としておくと美学ある悪役のような雰囲気が出る。
 シナリオボスのキャラクター性と相談して決めること。

・FH(ゼノス)の動向について 情報:UGN or 裏社会 など
→そのシナリオに登場するシナリオボスが所属する組織がある場合、組織としての動向は大きな情報となる。
 例えば登場するシナリオボスがFHエージェントなら「FHは街のどこかにレネゲイドウィルス活性化剤を散布するための爆弾を設置し、テロの準備をしている」などと書けば街へと迫る脅威が一気に具体的になる。
 シナリオボスの性格と合わせ、PC達が対処すべき脅威を明確にすること。

・ヒロインの持つ秘密など 情報:UGN or ウェブ 或いは知識:レネゲイドウィルスなど
→情報自体はフレーバー的なもので良い。
 重要なのはヒロインがシナリオボスに狙われている(または脅威に晒されている)かの理由付けを行うことである。
 「レネゲイド研究者であった父から誕生日にもらったペンダントに重要な論文データの入ったメモリが仕込まれていた」とか「実はレネゲイドウィルスを異常に活性化させる体質の持ち主である」などの設定を明かすことで理由付けを行い、本情報をトリガーとしてPC1とのイベントを発生させるなどの用途がある。

3-5. ミドルフェイズ2:トリガーイベント

 トリガーイベントでは、各情報の取得や情報によって得られた場所に向かうなどの発生条件を予め設定しておく
 発生条件に応じたタイミングで、PC達が行動を起こした結果を演出する。
 また、特定の情報を得ることが条件となっている場合は情報収集シーンに割り込む形でトリガーイベントが発生することがあるかもしれない。その場合はその場合で「思いがけない出来事、展開」といった印象をプレイヤーに与えることが出来るだろう。

 トリガーイベントにはこれといって定形というものは無い(逆に情報収集などから発展するならなんでもトリガーイベントにして良い)が、必須なものは「クライマックスフェイズに繋がるトリガーイベント」である。
 概ね、シナリオボスの目的・手段が明らかになるようなタイミングで発生させ、PC達をシナリオボスの元へと向かわせるような用途のシーンになる。

4-1. クライマックスフェイズ:ボスの存在意義

 クライマックスフェイズを華々しく飾るにはシナリオボスとの戦闘が最も手っ取り早く、PC達とシナリオボスのレネゲイド能力が激突する戦闘はDX3の花形であり醍醐味と言っても過言ではない。

 戦闘のシチュエーションなどはシナリオ作成を行う人の好みやシナリオの背景にも左右されると思うので、ここでは「DX3のボスに求められるもの」から逆算して「シナリオボスは何を備えるべきか?」という観点から話を進めていく。

 メタな話をするとDX3のシナリオボスは「PCの侵蝕率と残りロイス数を調整するためのシナリオギミック」である。従って極論を言えばシナリオボスがPCと同じだけのデータを持っている必要はない。GMの好むマスタリングスタイルにもよるが、HPすら決めなくてもシナリオボスを動かすことは可能である。

 シナリオボスに求められるのは「クライマックスフェイズを2~3R、可能であればGMが判断したタイミングで終わらせる」機能である。
 芸術的なコンボを放ったり、特定のビルドのPCをハメ殺して脅威を与えることは特に必要ではない(いわばオプション的な要素になる)。

 DX3における戦闘は長引けば長引くほどPC達が不利になる。
 PCが戦闘に際して消費するものは基本的に「ロイス」ただ一種類のみであり、毎ラウンド攻撃したりリザレクトすれば侵蝕率は上がる一方である。
 その一方、シナリオボス(及びエネミー全般)は実際のところ戦闘において消費するリソースが限りなく無に近い。
 一般的なシナリオボスはいくらエフェクトを使っても侵蝕率を上げる必要はない(初期から120%とか150%とかであることが多いため)し、そもそもシナリオボスは基本的にバックトラックを行わないことが想定されているので仮に侵蝕率が際限なく上がっていったところで強くなりはしても困ることはないのである。

 この非対称性から「GMの操るシナリオボスとPC達との真っ向勝負」という概念はDX3においてはあまり向いていないと言わざるを得ない。
 GMは常にPCの状態(主に侵蝕率と残りのロイス数)について観察・考慮し、必要な分のリソース(残りロイス数に対する侵蝕率)を切らせたら戦闘を終える、という考え方が必要になってくる。

 具体的には「PCが通常振りでギリギリ帰ってこられるかどうか」という程度まで侵蝕率を上げさせ、ロイスを残した状態でボスが倒れる……というのが理想になる。
 更に具体的な話をするなら「だいたい侵蝕率が120~130%で残りロイス数が3,4個」だと良い感じにギリギリ感が出るはずだ。

4-2. クライマックスフェイズ:ボスデータの調整

 では実際にシナリオボスにはどのようなデータを持たせ、どのような観点から調整を試みるべきかについて考えていく。
 以下にシナリオボスが「PC達の侵蝕率をいい感じに上げさせ、PC達のロイスをいい感じに削る」ために必要なデータを記す。

・侵蝕率
→120%だともしかしたらジャームじゃないかもしれない。
150%だとかなり手遅れ感があり、かなり危険な状態という雰囲気になる。
筆者はミドルフェイズ戦闘の相手やボスの取り巻きの雑魚は120%、ボスは150%に設定することが多い。

・シンドローム
→必須といえば必須だが特に重要ではない。
シナリオボスのイメージに合わせて選択しよう。

・能力値
→シナリオボスの肉体/感覚/精神/社会を示すデータ。
 HPや行動値などの副次能力値もここから算出する。
 ただしエネミーエフェクトには行動値を追加したり、HPを盛るエフェクトもあるため能力値通りの行動値・HPになるとは限らない。
 極端な話、副次能力値は好きに決めても構わない。
 逆に「主に攻撃に使う数値」以外は割とフレーバー的に決めるのも良い。特に社会とか。 
 また、シナリオボスは大抵侵蝕率120%~150%程度なので、侵蝕率による判定ダイス増加の恩恵を受けやすく、攻撃を行う際には実数値以上のダイス数を振ることができる。この点もある程度考慮しておくこと。

・HP
シナリオボスが「何回PCの攻撃を受けられるか」の指標その1
 DX3は仕様上「シナリオボスのデータをGMが後悔する義務」が存在しないため、思い切ってマスクデータ(プレイヤーに開示しない情報)やゴーストデータ(数値として実は存在していない)でも構わない。

 筆者がシナリオを作成する際は下記の能力値から「HP概算」を算出して利用している。
 実際に数値を決定する際は「能力値相応のHPか」よりもむしろ「PC達の攻撃を2~3発受けられるか」という観点で決定する。
 環境にもよるものの、初期作成のPCでもクライマックスフェイズになれば30点程度、バッファーが居れば40点近いダメージを叩き出す……と仮定して90点程度にしておくとラクである。

ゴーストデータやマスクデータを使う場合、PC達の状態をよく観察して「ここで倒れたら丁度良いかな」というタイミングで「ボスのHPは0になり、もう復活もしない。戦闘終了だ!」とプレイヤーに告げよう。

・エフェクト
→シナリオボスがどれくらい強いのかを示す&PC達のリソースを削る用途で選定する。
 最も簡単でラクなのは単純なダイス増加や攻撃力増強のエフェクトを積み、そこに対象を「範囲(選択)」に変更するエフェクトを組み合わせて範囲攻撃を飛ばすことである。
 もしPC達のエンゲージが分散したら【加速する刻】などで再行動し、離れたPCを狙って再度攻撃を仕掛けるなどして対応すればよい。
 出せるダメージの目安は「命中すれば基本的にPCを即死させられる」程度である。PCの中にガード役がいる場合、ギリギリ一回耐えられそうな数値にしておくと喜ばれる。

 重要なのは「攻撃・ガード系以外どんなエフェクトを持っているか」は基本的にプレイヤーには公開しない、ということである。
 特に蘇生エフェクトはシナリオボスの場持ちの良さに直結するため、下記に別途記載する。

・蘇生エフェクト
シナリオボスが「何回PCの攻撃を受けられるか」の指標その2
 HP150の敵を削りきるよりHP90の敵を倒す→HP30で復活!を2回繰り返す方がシナリオに見せ場が生まれるし、PCの状態を見ながら「ここでボスが倒れた方が良いな」というタイミングに対応しやすくなる。

 上記のデータをそれぞれの目安に従って組み合わせ、シナリオボスデータを調整することをおすすめしたい。
 難しそうな場合はルールブックのエネミーデータのHPを環境に合わせて盛るのも一つの手である。

 ルールに習熟してきたり、愛着のあるシナリオボスが生まれたりするとついついそのボスの強さを誇示したり「ちょっと変わったこと」をやりたくなってきてしまうのが人情である。しかしシナリオボスの役割はPCと真正面から真剣勝負を演じることではなく、PCのリソースを適切に削って退場することだという認識を持たないと事故が発生する。

6.エンディング

 エンディングパートではそれぞれのPCの事件の終わりを描写する。
 基本的にはオープニングシーンに出てきた組み合わせ(単独なら単独だ)でオープニングシーンとの対比になるように演出する。

 例えばオープニングシーンで自分の日常を脅かされる気配を感じたPCのエンディングは自分が日常に戻ってきたことを実感するような内容のものが、DX3のゲームテーマ的にも相応しく演出しやすいと思われる。

 基本的にエンディングではPC達の活躍によって問題が解決され、日常が取り戻されたことを明示してやることが重要だと筆者は考えている。

終わりに

 以上、長々とDX3のシナリオ作成におけるベーシックな考え方について書かせていただいた。
 基本的に上記に挙げたことはシナリオ作成者やDX3のGMをやる方の多くが有意識的・無意識的に行っていることであり目新しいものではないと考えている。言わば古典的でベタで陳腐ですらあるが、それ故に信頼のおける手法でもある、というのが筆者の主張である。
 シナリオがベタでも信頼できるPL達が集まれば物語に彩りが生まれるのがTRPGの魅力の一つであり、シナリオ作成においても基本が身に付けば自分好みの応用を効かせられるようになる。
 本記事がDX3のシナリオ作成に初めて挑戦する、といった方の助けになれば幸いである。

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