母親が詐欺業者に騙された体験談とその対策(ダークパターン、通販、ネット広告)
日常生活の中で、気づかないうちに悪徳商法に巻き込まれることがあります…というかありました。私の母親が先日、その被害者となってしまいました。母と子である私が体験したことを通じて、他の人も同じような被害に遭わないための注意点と対策を紹介したいと思います。
母親が詐欺業者に騙された経緯
まずはどのような状況で母が被害に遭ったのかを説明します。
母親が長年使っていたスマホが陳腐化しろくに動作しなくなったことや、高齢であることから健康管理も心配になってきたため、数ヶ月前に母親にiPhoneとApple Watchをセットで購入しました。前の機種より随分と動作が軽快になったようで、ネットサーフィンを楽しんでいるようでした。その中で今回の被害のきっかけとなった、化粧品の試供品をお得に手に入れられるというネット広告が目に入ったようでした。
ネット広告がきっかけで商品の購入をするのは自然なことかもしれませんが(私はネット広告を親の仇だと思っている(後述))、母親は申し込みの際に巧妙に仕組まれた所謂「ダークパターン」により、不利な契約を結ばされてしまったようです。試供品だけが届くと思っていたところ、いつの間にか強制的な定期購入契約に移行し、高額な契約金まで発生してしまいました。これに気がつくことが初見では難しい契約ページの設計になっていたようです。
上記のほか、実際に当該化粧品の通販ページには下記のようないくつかの別ダークパターンが見受けられました。スクショを貼って皆様にもご覧いただきたいところですが、ここでは控えておきます。
返金保証の制限: 商品が肌に合わない場合は返金すると書いてあるが、返金の申し込みには電話のみで申請を受け付ける必要があり、また到着から10日以内に連絡しなければならないという制限があった。
定期購入縛り: 定期購入の解約手数料に関しては「回数の約束なし」とあったが、実際には2回目の受け取り前に解約すると手数料が発生するという条件があった。
初回特別価格: 初回は安価に設定されていたが、その後の価格が大幅に上がりその乖離に気づくことが難しかった。また長期的に見た場合の費用が高いにも関わらず初回価格が購買決定に影響を与えている可能性があった。
限定セールや完売の強調: 「再入荷お待たせしました」や「残り僅かです」という文言で急かす手法が利用されていたが、実際の入荷状況や需要供給を反映しているとは限らず、消費者に早急な購入を促すプレッシャーを与えている可能性があった。
これらの要素は、消費者の注意を逸らしたり、購買の決定を急かすことに寄与する可能性があるため、ダークパターンと考えられます。
詐欺業者との戦い
基本的には下記のような流れで対応を行いました。
状況確認: 母が受け取った契約書と商品を確認し、ダークパターンの詳細を特定
相談先の決定: 行政機関や県警に相談して、詐欺の疑いがあることを報告
詐欺業者への連絡: 業者に電話やメール、書面で特定商取引法に違反している可能性を指摘し、行政処分の対象になる可能性があることを警告の上契約解除及び契約金返金の要請
母親は既に受け取ってしまった商品を送り返そうと、送り状にあった送り元住所に返送していたようです。そこで判明したのですが送付元の住所にオフィスあるいは事業所が存在せず、商品が返ってくる始末でした。もうこの時点で完全に黒やんこの業者…と怒り心頭でした。
このままでは延々と商品が送られ、料金も発生することになるのでまずいと考え、いくつか手段を講じました。
なおネット通販などの通信販売には、法律上のクーリング・オフ制度はありません。これは、通信販売は広告を見て自らの意思で申し込むもので、不意打ち的に契約させられるといった状況ではないため(最早そんなことはないが)とされています。この点を悪徳業者は逆手に取って不意打ち的に契約させられるような状況をダークパターンを用いて作り出そうとしていることが多いです。
基本的には行政機関や県警に相談の上、電話、メール、書面にて特定商取引法違反として行政処分の対象となり得るという主張を伝えることを武器に戦うことにしました。
改正特定商取引法によるダークパターンへの対応
2022年に特定商取引法が改正され、ダークパターンによって消費者を誤認させ契約を結ばせる手法への対応が強化されました。この改正により、申込み書面や画面での表記の厳格化、誤認表示の禁止、契約撤回や解除を妨げる行為の禁止などが規定されました。これにより、不意打ち的な有償契約を避け、消費者を保護するための法的基盤が整備されました。
2022年改正特定商取引法の施行-ダークパターン等への対応 |ニッセイ基礎研究所
今回の広告からアクセスした当該化粧品の通販ページには、前述のようにダークパターンが多数含まれ、また本商品の解約手段の乏しさにおいてもダークパターンであり不適正な販売手法と見做され行政処分の対象になり得るということを業者に電話、メール、書面にてしつこく伝えました。
電話が掛かりづらかったり担当者をたらい回しにされる等、最初はかなり不躾な対応をされましたが、メール及び書面の通知も来ていることがどうやら担当者側に伝わったからか、最終的にはかなり丁寧な喋り方をされる担当者から電話があり、契約解除に持ち込むことが出来ました。
契約金等については返金され、商品については先方に伝えたうえでこちらで破棄しました。
そもそもどうすれば対策できたのか(広告ブロックの導入)
生まれたときからインターネットに居た私は悪質広告やダークパターンの類を親の仇くらい嫌っているので、広告詐欺に引っかかる事自体信じられないのですが、親世代にはそれは厳しいようです。
一方で親には折角買ってあげたスマホを存分に使ってほしいという気持ちもあるので、私が行っている簡単な対策を母親のスマホにもすることにしました。
それはブラウザ拡張機能である「広告ブロック」の導入です。
詐欺の温床となる広告を根本的にシャットアウトするという考えです。
広告ブロックを導入することでまず広告の煩わしさから解放されるという利点がありますが、それに加えて今回のような不意打ちの詐欺や不正な広告クリックを未然に防ぐことができます。他、データ量の大幅な削減などといった利点もあります。
なお、広告ブロックは利用者がサイト等からダウンロードしたデータを全て読み取ることが可能というかなり強権な機能を、システムの都合上持っています。開発元やユーザー数、オープンソースかなどを参考に信用できるものを選んでください。
参考: 広告ブロックがマルウェアになった例
Chrome向け広告ブロッカーが突如マルウェアへと変貌、アンインストールを呼び掛け中【やじうまWatch】 - INTERNET Watch
なお私が推奨する広告ブロックアプリ・拡張機能は下記です。
私同様、iOS及びWindowsユーザーを想定しています。
iOSにおける広告ブロック(有料)
280blocker - 広告ブロック-コンテンツブロッカー | App Store
導入方法や効果は下記GIGAZINEの広告記事が参考になります。
なぜiPhoneユーザーは「広告ブロッカー」を使うべきなのか?をSafari専用広告ブロッカー「280blocker」を実際に使用して調べてみた - GIGAZINE
PCにおける広告ブロック(無料)(私はWindows 11でEdgeを使用)
uBlock Origin - An efficient blocker for Chromium and Firefox. Fast and lean | GitHub
PCでは現状これ一択だと思います。
また、母親には日常的に注意してもらいたい点として、見慣れないリンクやメッセージはクリックせずに、不明な送信元の連絡は無視するようアドバイスをしました。最初は少し手間取っていた母も練習(?)を重ねるうちに、すぐに習慣化され実践するようになったようで、安心してインターネットを楽しむことができるようになったと思います。
広告は本来、良い商品を消費者に紹介し購入を促すためのものですが、現在のウェブ広告は多くの人に不快感を与えています。画面を埋め尽くす広告や誤クリックを誘う動きのある広告が多く、広告本来の目的を失っていると感じられます。その結果、消費者は広告ブロックを使用するようになるのでしょう。広告主は、有益で購買意欲を引き出すような広告を提供すれば、ブロックされることもないでしょう。
最後に
正直言って今回契約解除ができたとしても契約金が返金されるという好例に至ったのは、単に運が良かったからだと考えています。自分は法律の専門家でもありませんので、主張した改正特定商取引法違反を指摘したところで素人だからと最後まで強気に業者側が立ち回ってくる可能性もあったと思います。おそらく業者側に「こいつ面倒だから早く手を切っておこう。」と思われたため、このような結末を迎えたのではないかと考えています。
契約解除まで持っていくことは出来ても、法外な契約金を勉強代として支払って泣き寝入りする例が大半なのではないでしょうか。
となると、やはり前述の通りそもそも詐欺の類に引っかからないための対策を怠らないことが大切だと思います。
私は母親を扶養に入れています。つまり金銭的援助を母親に対して行っているということです。詐欺業者に自分のお金が流れ、彼奴らの懐が温まるなんて考えただけで全身の毛が逆立ち、全てを破壊し尽くしてしまうところでしたが、その怒りを今回の記事に書いたような行動のモチベーションに切り替えて良かったと思います。
詐欺に引っかからないために大切なことは、常に疑いの目を持つことです。広告ブロックの設定は一例ですが、特に親世代の方々には何かしらサポートしてあげてください。予防策を講じ、家族みんなで詐欺被害から身を守りましょう。
参考: 特集 消費者を欺くダークパターンとは
2024年3月号【No.139】(2024年3月15日発行)(国民生活)_国民生活センター