2022.12.25. Radio Crazy①簡易総括(FM802弾き語り部・スガシカオ・THE BACK HORN)
振り返ってみれば凄まじい振れ幅、良く言えば個人的には刺激たっぷりな1年を過ごすことができた2022年。自分も長年の念願であるオリジナルバンド活動を激動の末に充実の形で開始することが出来た今、あらためて見る側としてのライブは毎度これまで以上の刺激がある。
高ぶった感性ゆえに凄まじい解像度で得た刺激がまた自分の血肉となって染み込んでいく。そうして素晴らしい毎度ライブばかり見ることができた今年の締め括りの場となったのは、クリスマス当日の今年度のRadio Crazy初日。
Radio Crazyとは音楽シーンをリードしてきた関西の大手ラジオ局・FM802開催の年末フェス。ロッキンオンが主宰する年越しフェス・COUNTDOWN JAPANはかつて幕張と同時に大阪開催していたが08/09年に終了。09年末よりRadio Crazyが後を引き継ぐようなニュアンスで、同じ会場インテックス大阪にて開催。
パンデミック以降はSummer SonicやFuji Rockをはじめとしたフェスにも参加できていなかったし(今年のサマソニが久方のフェス参加)、それでなくても自分は邦楽アーティストのみのフェスに行く機会が減っていた。そんな自分がなぜこの日参加することにしたかと言えば、シンプルにこのラインナップに惹かれたからである。
見てください、このアラサー殺しにかかってるとしか思えないL・Rステージのラインナップ笑。そこに集結した名前の多くが、自分が10代の頃にロックに目覚め青春を共にしたアーティストばかり。10代後半〜20代前半をメインターゲット層にした昨今の主要フェスシーンにおいては相当珍しいセレクトだと思う。久しぶりに観たいバンドたち、ずっと観たいと思ってたけど観たことないアーティストたちを一挙に観られる機会となった。
パンデミック以降、有観客ライブが徐々に再開していく中で自分が足を運んでいるライブは、海外アーティストを除くとGRAPEVINE・ストレイテナー・DIR EN GREY・THE NOVEMBERSとなっている辺り、自分の基盤を構成してきたロック/ライブ原体験の初期衝動を再度求めていたのだなと思う。だから今回の出演陣を見るのはタイミングとして完璧だったと言える。
※当日のことをダイジェスト的に記していこうと思うが、この日見た中でも“くるり”・“9mm Parabellum Bullet”・“ストレイテナー”に3組は事細かに記しておきたい素晴らしい内容だったので、今回は割愛し別記事でそれぞれ記していくこととします。
FM802弾き語り部
Radio Crazyのフードスペースに設けられた神社を模した境内ステージにて、LAMP IN TERRN松本大の主催によるFM802ゲスト出演ボーカリストによる弾き語り“部活動”メンバーによる緩いトークとアコースティックライブ。この日は自分が到着したタイミングの13:30~より開催。
この日の自分の目玉でもあった、9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎とストレイテナーのホリエアツシが出演するとあり、会場到着後真っ直ぐ境内ステージへ向かう。部長・松本大氏の弾き語りながらパッション炸裂の演奏を目撃した後、2番手で菅原卓郎登場。
個人的にはこの後見る本家バンド編成含めても偶然にも“9”年ぶりに見る卓郎さん。その間に精力的な弾き語り活動をしていたことや、9mmメンバー同士の滝さんとのキツネツキなる課外活動を経ていること、また9年見ていない間にどんな人になっているかとても楽しみだったのだけど、もうそれは予想を遥かに超えるタフな男になっていたことをこの弾き語りで知ることになる。
ものすごく正直に言えば、菅原卓郎は9mmがデビューして一気にスターダムに上りつめた頃からしばらくずっと、ボーカリストとしての力量を問題視されることもあった人だ。声質やボーカリストしてのキャラクターは個性があり、9mmのボーカルは誰も彼の代わりは務まらないのは確かだったが、9mmのアンチにとやかく言われるとすればボーカルというところもあった。
しかし9年ぶりの見る彼の歌は別人のような力量、それによって元々の個性的魅力に凄まじい説得力が伴っていた。アコースティックという、実力が裸になってあらわれてしまうスタイルでこれほど魅了できる境地になっているとは、最後にライブを見た頃からは考えられなかった。言葉を一つ一つ丁寧に音に変えていき、その文学的な詩の情景を豊かに聴き手の頭に浮かばせる。
しかも元々はギタリストとして定評ある人だから、抜群の安定感で一人の弾き語りと思えない厚みのある演奏を届けていく。その堂々とした佇まいは、少年的青い魅力が持ち味だった昔とは違った、大人の男としての威風堂々とした魅力。でもそれと同時に純粋な子供のような目があの頃と何一つ変わらず、そのアンビバレントな状況にワクワクする。
この後登場するホリエアツシも、ストレイテナーがアコースティックライブをやり出した頃から発声の仕方が変わり、安定した高音を連発したり、語尾のニュアンスやファルセットと地声の鮮やかなグラデーション的切り替えなど、歌の表現力がそれまでと格段に変わった。
言えば、楽器の一部として溶け込むボーカルではなく、バンド演奏のアシストをもらって歌の力できっちり表現していくという意識に切り替わっていった印象があった。アコースティックはボーカリストがネクストレベルへ向かうための力になるのだと思う。アコースティックだけが卓郎氏の成長要因ではないとは勿論わかっているが、大きな要素なのも間違い無いと思う。
今年出た最新アルバム“Tightloap”にもそこに連動したような、長年活動してきたバンドだからこその威風堂々な魅力があって、それで今の9mmを見たくなりこのレディクレに参加したところも大きかった。だから弾き語り一曲目はそのアルバムから“One More Time”を演奏していたのも興奮したし(この後のバンド形態でも演奏したけど、元来ダンサブルな曲を弾き語りでこなす力量のすごさ)、“白夜の日々”“淡雪”とメロウで切ない詞世界の曲は磨きがかかった彼の声の魅力と表現技術を実感するにピッタリで、充実の選曲だった。
ホリエアツシは未発表の“Invisible”という曲からスタート。菅原卓郎と同じくもう長いこと精力的な弾き語り活動をしているため、近年はストレイテナーやentに派生していく前の段階の新曲を弾き語りで披露することも多いよう。タイトル通りの“目に見えない”絆や愛といったものを肯定しようとする印象の詞とメロディが自分にとってタイムリーでグッときた。
聴き慣れたアルペジオを挟んでからコードバッキングに入った2曲目は、もしかしたらと思っていたらやはりスピッツ“魔法のコトバ”のカバー!彼のスピッツ好きはそれなりに有名で、既に“渚”も何度もカバーを披露済み。とはいえ今日ここでこの曲を聴けるとは全く予想できず。
キーは下げているが、ホリエアツシの声質としては草野正宗のようなファルセット色強いミックスではなくチェスト寄りの強い発声でよりエモーショナルになるのが魅力的。それで放たれる“また会えるよ約束しなくても”が響かないわけがない。
“クリスマスソングというわけではないけど、back numberのカバーを”と“ヒロイン”を歌い上げ、JPOP的なメロディの良さへの憧憬を包み隠さず披露してみせたあとは、“No Cut”というこれまた本家ストレイテナーからのニクい選曲で締めた。
パンデミック渦中、有観客ライブが行えない中製作されたアルバム“Applause”、そのハイライトを飾るこの曲でのこの飾り立てない真っ直ぐなメッセージ。この感覚こそが今のストレイテナー、そしてホリエアツシという男の歌の強さだ。背筋がただされるようでグッときた。
スガシカオ
メジャーデビュー25周年、しかも彼の場合脱サラからミュージシャン転身で30歳でのデビュー。つまり今や56歳!それでいてこの第一線での活躍、そして挑戦的な楽曲を生み続けている事実は得難い。
自分が本格的にロックに傾倒する前の中坊の頃、お茶の間規模のJPOPシーンで活躍しつつも尖った姿勢を維持していた人たちに惹かれていた。LOVE PSYCHEDELICOや野狐禅といった人たちに並び、スガシカオが特に早い段階で自分にカウンター精神を根付かせていてくれた節がある。
FM802弾き語り部のホリエアツシを最後まで聴き見届けてから向かったため、一曲目の“19才”が始まっていた(リハーサルでは“Party People”を演奏した模様)。アレンジは原曲とかけ離れてファンク色は薄く、かなりロック色の強いアレンジ。続け様の“ドキドキしちゃう”では自身もレスポールでボーカリスト兼任とは思えないカッティング捌きを披露しながら、ファンクサウンドをJPOPとして成立させる彼の面目躍如なパフォーマンスを展開。
続け様KAT-TUNに歌詞を提供した“Real Face”セルフカバーで一体感を煽る(やはりこうした大きな会場で、多くは自分に対して初見の客に対して訴求力のあるヒット曲があるというのは、素直に強い)。来年25周年イヤーを締め括る充実のニューアルバムのリリース、そしてFM802の落合氏から要望がありその中の曲を演奏するというMCがあり、披露された新曲“さよならサンセット”がとても良かった。
このパンデミックの最中で亡くなった友人に宛てたというその曲は、悲しさより思い出の温かさや美しさといった面にフォーカスされており、切なさがありながらも満たされた気持ちになる曲だった。そのご友人がお好きだったという夕暮れの景色が目に浮かぶように伝わってくるようだった。元々今回のアルバムはかなり期待していたので益々楽しみとなった。
その上で続くのが“Progress”である。言わずと知れ大名曲。タイトルすらストレートな強さを帯びて、最早今の時代全ての人にあてはまる応援歌にすら聴こえる。“さよならサンセット”の後だと、死別ですら超えて人は進んでいくニュアンスに聞こえてくる。彼の詩は人生の苦味を直視するところから始まっているから、前向きな曲も全く野暮に聞こえない。
最後は意外にも同じパーティーチューンでも“午後のパレード”ではなく“コノユビトマレ”の方だったけれど、これはこれで今にはぴったりの選曲にも聴こえた。孤独を知る者だからこそ照らせる光がある、この曲の演奏中の眩しい照明、会場の隅から隅まで手を振るオーディエンスの景色、スガさん自身「本当に綺麗な景色、ありがとう〜!」と叫ぶほどだった。
THE BACK HORN
自分の青春を彩ったバンドたちと同じ世代を歩みながら、常に独特なポジションであり続け、かつとことんライブバンドとしての強みを持つTHE BACK HORN。自分の周りにも彼らのファンが多いが、自分はこの日が初めてのライブ観戦となった。
くるりを見た後Lステージに戻ってきたタイミングでちょうどはじまり、“シンフォニア”でいきなりパッション全開のスタートを切ってみせる。山田将司は配分とか考えてないんじゃないだろうか、と映像を見ている時も思っていたけどやっぱりそうだ。ライブが始まった時点でネジが外れている感覚、これが他のボーカリストに比べて一際以上に感じる。
“希望を鳴らせ”の爽快なメッセージも、“罠”の不穏な空気も、全て同じ熱量で矢継ぎ早に放っていくし、それは後半の“ヒガンバナ”〜“コバルトブルー”〜“刃”という鉄板キラーチューンの嵐においても全くブレなかった。ドリーミーなチャイムの音が印象的な、彼らの中ではクリスマスソング的な立ち位置になり得る“羽根~夜空を超えて〜”のスイートな空気が絶妙に中盤の穏やかな時間を作ったのを除けば。
まさに“怒涛”という表現が相応しい。ある意味ではクサくなりがちなほど、一貫してサビでの爆発力が大人数のオーディエンスを束ねて賑わせていく展開なのだけど、彼らがそれをやる場合は他のバンドと違ってクドさもなくもっともっとやってくれという気持ちにさせる。
それが何故かを推察するなら、その一体感を生む詞世界の内容がネガからポジを見ているからでは無いだろうか。生存本能とでも言うような剥き出しの歌、そしてこのデカイ会場において有利に働くギター(1本)・ベース・ドラムのシンプルなバンド編成による一丸となった演奏による猪突猛進な演奏。ありふれているようで唯一無二、彼らの強さを理解するにはこの7曲のパフォーマンスで十分すぎた。
総括
午後から参加のスロースタートに見せかけて、結局半日中ずっとライブを見ていた。パンデミックが一応は収束へ向かいつつあり、ここ数年の音楽ライブシーンにおける制約がかなり改善に向かっているその兆しと解放感を象徴するような、前向きなヴァイヴのアクトばかりだった。
年末というシチュエーションは、今年のつらかったことは来年に向けて…というテーマからか、選曲が自分が音楽に求めているような流れにシンクロしがちなのかもしれない。今後別記事で書いていく“くるり〜9mm〜テナー”の3組は特に、この1年自身に対して正直になっていった自分に対する思し召しかのような、今必要な言葉を余すことなく届けてくれるライブとなった。多分、あの日あの場所で俺以上にこの3組に感動していた人間はいないだろうと思う笑
自分のバンドでサポートギターを務めてくださっているギタリストが参加していたこともあるMega Shinosukeも少し見にいくことができた。福岡県から向かって参加したため、小山田壮平のアクトに間に合わず、ビッケブランカでベースを弾くex HaKUの三好春菜さんの姿も見たかったけど残念ながらインフルエンザで不参加だったため見られず残念だったけど、本当に充実した2022年のライブ参加納めだった。