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Upper Deck と Yu-Gi-Oh!

はじめに

『Upper Deck』という言葉は、海外版 Yu-Gi-Oh! のプレイヤー及びコレクターであれば一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

某カードショップにて海外版カードにメモシールが貼ってあるのを見かけました。『Upper Deck版』と書かれていたのですが、当時の私は意味が分からず…

そこで『Upper Deck』について調べてみると大変興味深いことが次々と分かったので、記事にまとめてみます。


Upper Deck とは

アメリカ合衆国カリフォルニア州を本部所在地として、1988年に設立した会社です。主に《トレーディングカードの製造》会社として知られています。
この記事の見出しに使用しているロゴ画像は、公式ホームページより引用しています。

2002年より、日本の遊戯王OCGを展開しているKONAMIが世界展開へ向けてUpper Deck社に海外事業を委託します。

それから約7年間、『Yu-Gi-Oh!』TCGとして世界中に《遊戯王》を発信してきましたが、2009年に遊戯王TCG事業から撤退しました。

Upper Deck社は、世界大会の運営や大規模な大会を頻繁に開催するなどTCGを盛り上げるために尽力してきましたが、その反面 KONAMI との契約解除に至るまでには大きく分けて4つの出来事により混乱を巻き起こしています。

その中の1つにおいて、冒頭で紹介した『Upper Deck版』の意味が判明することになります。

①レアリティと封入率の変更

●PHANTOM DARKNESS

1つ目は、当時の日版OCGにおける『強カード』を海外版TCGでレアリティを上げて封入率が変更された出来事です。

ここで1種類のカードを例に挙げます。

遊戯王データベースより引用

《ダーク・アームド・ドラゴン》は2007年11月に日版OCGで発売された『PHANTOM DARKNESS』において、R(レア)のレアリティで収録されたモンスターカードです。

遊戯王データベースより引用

比較的容易に召喚可能であるにも関わらず、打点が高く強力な効果を持ち合わせています。レアリティ(R)ということで手に入り易いこともあり、当時のプレイ環境で猛威を振るっていました。

日版OCGの収録から3ヶ月後である2008年2月、海外版TCGにおいて『PHANTOM DARKNESS』が発売されました。

このTCG版におけるダーク・アームド・ドラゴンのレアリティは何と《シークレットレア》へ変更されていたのです。

何が問題なのかというと『封入率』が変わります。

〈TCGの場合〉
・当時のTCGシークレットレア封入率は約1枚/2BOX
・このBOXは全10種のシークレットが存在

この中から狙った1枚を引く封入率と考えると…
24p/1box × 2 ×10種 = 480
TCGにおいては約『1/480p』の確率となります。

※更にダーク・アームド・ドラゴンはシークレット枠全体の中でも封入率が低かったようです。

〈OCGの場合〉
・当時の字レア封入率は約27枚/box
・このBOXは全18種の字レアが存在

27枚 / 30p / 1box / 18種 = 1/20
OCGにおいては約『1/20p』の確率となります。

つまり……『OCGにおいて環境で活躍しているカードが、TCGでは入手困難』という事態となってしまったのです。

TCGのプレイヤーはダーク・アームド・ドラゴンを引き当てるまでパックを購入したい
        ↓
購入数が増加すれば Upper Deck は売り上げ増……

という構図が浮かんでしまいますよね。

OCGとTCGで封入率に極めて大きな差が出ることは良くありません。レアリティを上げるのであれば再録で実現すべきだったのではないでしょうか。

●THE DUELIST GENESIS

2つ目は、海外版特有の 1st EDITION (初版)に関して販売方法を変更した出来事です。

【GH】スターダスト・ドラゴン
PHOTO BY 亜レリ収集班Aチーム

《スターダスト・ドラゴン》は2008年4月に日版OCG『THE DUELIST GENESIS』において、ウルトラレアおよびホログラフィックレアとして収録されました。

日版OCGの収録から約4ヶ月後である2008年8月、海外版TCGにおいて『THE DUELIST GENESIS』1st EDITION パックが発売されますが、それが通常とは違う販売方法だったのです。

TIN画像①

COLLECTIBLE TIN SERIES 5 WAVE 1》
・STARDUST DRAGON(SEC)
THE DUELIST GENESIS(1st)× 2p
・PHANTOM DARKNESS(Unlimited)× 2p
・LIGHT OF DESTRUCTION(Unlimited)× 1p

THE DUELIST GENESIS は初版のBOXが存在せず、上記の『TIN』にのみ 1st 表記のパックが封入されているという事態になりました。

当初は 1st において通常通りBOXでの販売を予定していたようなのですが、急遽発売日直前にUpper Deckは『TIN』での販売へ変更しました。

これにより小売店や購入者において、大変大きな混乱を招く事態となったのです。

一度、整理してみましょう。

《従来のBOX》
1st BOX(24p入り)が発売される
    ↓
Unlimited BOXが発売される 

《THE DUELIST GENESIS》
TINとして 1st パック(2p入り)が発売される
※BOXとして 1st の販売は無し
    ↓
Unlimited からBOX(24p入り)が発売される

ここで《スターダスト・ドラゴン》の話へ戻ります。このカードは原作主人公のエースカードであり、イラストのカッコ良さ、モンスター効果が非常に強力なことからOCGで人気のカードです。

海外版TCGの特徴である初版の 1st 表記はコレクターの間で、その希少性から高値で取り引きされる傾向があります。

今回のケースは先に紹介した《ダーク・アームド・ドラゴン》と同様に封入率が鬼畜です。

スターダスト・ドラゴン(1st)の封入率
・最高レアリティは『GHOST RARE(GH)』
・レギュラーBOXの(GH)封入率は約1枚/12BOX
・TINは2p/缶の内容

12box × 24p / 2p(缶)= 144缶
つまりTCGにおけるスターダスト・ドラゴン(GH)1st EDITION は約1/144缶という封入率となります。

人気カードのため、特にコレクターは目的のカードを引き当てるためにTINを買うしかない。でも封入率が過去最悪クラス……。でも買うしかない!!

TINが当時どれぐらい生産され 1st のTDGSパック流通量がどれぐらいなのか不明ですが、TINは限定版商品となるため通常版と比べると製造数量は少ないと考えられます。

そうなると、買いたくても買えない事態になっていたのかもしれませんね。

カードショップにおける販売金額や、買取り金額を初めて見た方は、その価格に驚愕したと思います。

・TDGS-EN040
・STARDUST DRAGON
・1st EDITION
・GHOST RARE

この条件が揃うことで販売金額『●●万円』という価格となるのは、その鬼畜封入率による希少性が大きな要因となります。

【GH】ブラック・ローズ・ドラゴン

この『THE DUELIST GENESIS』と同様に、後続の『CROSSROADS OF CHAOS』についても 1st が TIN のみの販売であったことから、人気カードである《BLACK ROSE DRAGON》の GHOST RARE が大高騰しています。

TIN画像②

興味がある方は、現在の価格相場を調べてみると良いでしょう。

②ルール・裁定の変更

Upper Deck社はTCGの大会運営やルールの制定についての業務を行っていました。しかし、その中で突然のルール・裁定変更によりプレイヤーを混乱の渦に巻き込んだ事件があります。

その内容の1つは……

『Upper Deck社が主催する大会においては
 KONAMIが発行するカードは使用できない』

というものです。
※当時のOCGではTCGのカード使用可能でした

つまり、「レアリティと封入率の操作」の項目で挙げた《ダーク・アームド・ドラゴン》は比較的安価で手に入るOCGの使用は禁止、高価なTCGでなければ使えないという読み替えができます。

Upper Deck社は『KONAMIのカードでなく、自社のカードを買わないと大会に参加できないとして、TCGの購入を促した』と考えざるを得ないですね。


2つ目の内容は……

『OCGとTCGで裁定が異なるルールに変更』

これは、『カードに記載されたテキストの内容に対してOCGとTCGで解釈が異なる』と言い換えることができます。

OCGでできていた事がTCGではできなくなるという事態が起こり、プレイヤーへ混乱を招くことになりました。

具体例として2008年頃に起こった「Gladiator Beast Bestiari」(剣闘獣 ベストロウリィ)に関する裁定変更を紹介します。

遊戯王データベースより引用
遊戯王データベースより引用

「Gladiator Beast Bestiari」は、「剣闘獣」デッキで重要なカードであり、このカードがフィールドに出ると、フィールドのカード1枚を破壊できる効果を持っています。

このカードを素材にして融合モンスター「Gladiator Beast Gyzarus」(剣闘獣ガイザレス)を召喚するコンボが非常に強力で、この効果をどのタイミングで発動できるかがプレイヤー間で重要な問題となっていました。

遊戯王データベースより引用
遊戯王データベースより引用


●日本(KONAMI)の裁定

「Gladiator Beast Bestiari」の効果は一度フィールドに出たときに発動し、その後、速やかに「Gladiator Beast Gyzarus」を融合召喚するのが標準的な動きでとなります。

この裁定は一貫しており、ベストロウリィの効果は無効にされたり、タイミングを逃すことなく発動可能とされていました。

●海外(Upper Deck)の裁定

海外では、「Gladiator Beast Bestiari」が特殊召喚される際、その効果が「Optional Trigger Effect」(任意誘発効果)として扱われました。

このため、他の効果の処理中に特殊召喚された場合や、別のチェーンが発生した場合、効果が「タイミングを逃す」可能性があるとされました。このため、必ずしも効果を発動できない場合が発生しました。

また、特定の状況では「Gladiator Beast Bestiari」の効果が発動しない、あるいは無効化されることがありました。この結果、融合素材として利用される前に効果を発動しない(あるいは発動できない)ケースが増えたのです。

この裁定の違いにより、海外プレイヤーからの混乱や不満が生じ、最終的には KONAMI が Upper Deck との契約を終了するきっかけの一つとなりました。

遊戯王TCG/OCGの運営がKONAMIによって統一されることで、現在では日本と海外でのルールや裁定の統一が図られています。

③強力な海外新規カードの作成


3つ目は、強力すぎる海外新規カードを作成した出来事となります。日本より早い時期に海外先行としてあまりにも強力なカードをリリースしたこと問題が生じました。

まずは、強力カード例として以下の紹介をします。

遊戯王データベースより引用
遊戯王データベースより引用

このカードは「ライトロード」デッキや墓地を活用する戦略において非常に強力で、デッキの回転力を飛躍的に高めます。《強力》と言われる理由は大きく4つあります。

●デッキ圧縮とサーチ効果
デッキからモンスターをサーチする効果自体が強力です。「ライトロード」デッキの主要カードである「裁きの龍」などのキーカードをサーチしやすくなり、安定した戦術展開が可能となります。

●墓地肥やしと戦術のシナジー
効果でデッキの上からカードを3枚墓地に送ることで、墓地を活用する他の「ライトロード」カードの発動条件を満たしやすくなります。

●コンボの起点
「光の援軍」は、他の「ライトロード」カードや墓地活用カードと組み合わせることで、さらなるコンボを生み出す起点となります。

●手札の補充とデッキの加速
効果によってデッキからサーチしたモンスターをすぐに展開できるため、手札の補充とともにデッキの加速も同時に行うことができます。これにより、特に長期戦において有利に立ち回ることができます。

このようなカードが海外先行でリリースされることで挙げられる問題は以下のようなものがあります。

●ゲームバランスの崩壊
他のカードに比べて圧倒的に強力なカードの登場により、デッキの多様性を損なう原因となりました。これにより、特定のカードやデッキが環境を支配する状態が生まれ、ゲームバランスが崩れる結果となりました。

●プレイヤー間の不公平
日本のOCGと海外のTCGでカードプールが異なるため、日本のプレイヤーは『光の援軍』のような強力カードにアクセスできず、特に世界大会などの国際的なイベントで不公平感が生まれました。このような地域間の格差は、プレイヤー間での不満を増大させました。

④偽造カード事件

最後に紹介する出来事は、トレーディングカード業界において歴史的な『事件』となります。遊戯王TCGの製造販売を行っていた Upper Deck が、自らの手で偽造カードをつくり流通させていました。

●偽造カード事件の経緯
2008年10月に日本の KONAMI 社員がアメリカへ出張した際に、ロサンゼルスのカードショップで偽造カードを発見しました。

そのカードの出所を調査すると、信じ難いことにKONAMI から海外版TCGの販売を委託されていたUpper Deck社が製造していたことが判明したのです。

●偽造されたカード
具体的にどのようなカードが偽造カードとしてつくられたのでしょうか。Upper Deck が標的にしたカードは《1st Edition》カードとなります。

イラスト左下に 1st Edition 表記
※これは偽造カードと無関係のサンプルカードです


海外版TCGは3種類のカードに分類されます。
1st Edition 表記(初回生産版)
Unlimited Edition(表記なしの再販版)
Limited Edition表記(限定版)

この中で 1st Edition は Unlimited Edition と比べると希少性が高いことから高値で取り引きされるケースが多いです。そのため 1st Edition は偽造カードに適したカードだと考えられます。

●偽造カードと正規品の違い
偽造カードの見分け方として正規品と明確な違いがあります。それは『偽造防止ホログラムの色』で見極めることができます。

上記カードの画像において、右下の偽造防止ホログラムをご覧ください。正規品の場合 1st Edition はこのホログラムが金色となります。そして Unlimited は銀色となります。

偽造カードはどうなっていかというと、偽造防止ホログラムにおいて 1stEdition の色が《銀色》となっています。これが見分けのポイントです。

● Upper Deck 社の末路
偽造カードの製造および流通に Upper Deck 社が関わっていたことから、KONAMIはTCG事業に対して契約の打ち切りを申し出ます。

しかし、Upper Deck 社は KONAMI 側の契約違反だと主張して裁判沙汰となります。この裁判においては KONAMI 側が証拠不十分でまさかの敗訴。

このままでは終われない KONAMI は十分な偽造カードの証拠を用意し再び裁判となります。結果としては Upper Deck 側が敗訴寸前で KONAMI と和解するという結末となりました。

その後、Upper Deck社は遊戯王TCG事業から撤退することとなります。

Upper Deck 版カード

話はこの記事の冒頭に戻ります。この記事を書くキッカケとなった『Upper Deck版』という意味がここでようやく分かりました。


Upper Deck版カードの正体は……
《Upper Deck社の偽造カード》となります!!


偽造カードは正規品と比べて加工に違いがあるものがあります。それがコレクターの間で人気になっているものがあるのかもしれません。

※アルティメットレアは彫り加工に違いがあるみたいです

また、偽造カード事件を知っている人からすれば『正規の製造会社がつくった偽造カード』としてネタになるカードなので、一部のコレクターで人気なのかも(笑)

おわりに

Upper Deck は調べてみると興味深い事実が分かり、海外版遊戯王カードの歴史について知識を得ることができました。

まさかカードショップで見かけた『Upper Deck版』をキッカケとしてここまで長文の記事を書くことになるとは思ってなかったです。

『知りたい』『興味深い』というテーマがあれば今後も記事にして紹介していきます。

ではまた次の記事でお会いしましょう!

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