【アーカイブ記事(2016/08/23公開記事)】「#眞鍋JAPAN総括 ② 〜選手育成面(底辺カテゴリ)の視点から〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール
日本のバレーボールにおける課題について、ロンドンオリンピック以降の4年間の眞鍋JAPANの過程を追うと、様々な課題は底辺(育成)カテゴリとトップカテゴリという、相反するカテゴリにそれぞれ原因がある、ということが見えてきます。
日本バレーの育成現場を預かる立場から、この「2つのカテゴリ」という視点を持って、考えてみようと思います。
◎ 「MB1」や「ハイブリッド6」の “失敗” によって露呈した、
「トップと育成現場との断絶」
ロンドンオリンピック以後の眞鍋JAPANで個人的に注目したのは、世間でも話題になった「MB1」や「ハイブリッド6」といった試みに着手した点でした。
選手やポジションごとの得点能力をデータ化した結果 、MB(ミドルブロッカー)の得点力が低いことに気付き、そこを改善すればさらに強化できるはずだ、という取り組みだったと思います。この点には大変期待をしていました。
なぜなら、かれこれ2年前になりますが、インタビュー記事(*1)でも答えたように、
「なぜ日本のMBの速攻は得点できないのか?」
「なぜ日本のMBの速攻は出現頻度が低いのか(使えないのか)?」
という点に、議論が発展するだろうと思ったからです。
日本代表女子でMBの得点力が低い理由は、日本の育成世代や底辺カテゴリにおける課題が直結しています。
代表的な課題を挙げておくと
① 育成段階のかなり早期にポジション固定がなされ、 上のカテゴリに進んでも、 一度やった(やらされた)ポジションから変わることが少なく、特定のポジション経験しかないトップカテゴリの選手が多い
② 発達段階の実情に合わない、画一的な型はめ指導でプレーが矯正されている
③ 指導者のワンパターンな理論を言われたとおりに実行するよう強要され、選手の柔軟な対応や思考が生まれがたい環境下にある
④ 今はできなくても将来、上のカテゴリで活きるような基本スキル、プレーの幅を広げるような考え方を体系的に伝達していこう、という視点が指導者側にない
などの問題があります。
これらは日本代表女子のMBにも当てはまっていて、日本では高身長の選手はすぐにMBとして、ブロックの要にされます(①)。クイックの機能特化がなされ、クイック以外の攻撃をさせてもらえません(②/ ③)。その結果、バックアタックもハイセットも打つことができず、守備ではリベロと交替するためディフェンスのスキルや意識をもたない(④)、そういう日本代表MBを、育成世代や底辺カテゴリの指導者が量産してきたわけです。
つまりは、MBの能力をどう育てるか、どういう戦術をすれば世界の舞台でMBは活きるのか、という課題は、育成世代と積極的に連携して盛んに議論されるべき問題なのです。
トップカテゴリにおける「MB1」や「ハイブリッド6」といった取り組みが、世界のスタンダードと日本のプレースタイルとの違いを明らかにし、育成世代や底辺カテゴリにおけるセットの方法、MBのスパイク動作の方法、ディフェンスの方法などの改善へと広がる可能性があったのです。
ところが結果はどうだったかというと、「MB1」や「ハイブリッド6」はその実、得点力の低いMBを「コートから排除する」というだけの単なる「選手の配置システム変更」に過ぎなかったため、日本のMB陣のモチベーションを下げる結果を招き(*2)、それ以上の発展がみられないまま、2014年の世界選手権での惨敗後に跡形もなく消え去ってしまいました。
こうした結果に終わってしまう背景としては、トップのコーチ陣が、国際大会の総括や分析をしていないことに尽きると思います。
むしろファンの方が、世界のMBとの溝を埋めるために何が必要なのかを、分析できているといっても過言ではありません。
ここ5〜6年の間のファン同士での議論から、日本のトップにおける課題として
❶「高さとパワー」から目をそらしたツケ
❷ 日本オリジナルの間違った考え方
❸ 育成現場との連携のなさ
などの問題が挙げられてきました。
その代表的な例が日本で言われている「高さとパワー」です。
海外勢の高さとパワーには日本は勝てない(❶)、ゆえに日本はスピードで勝負する。スピードはストップウォッチで計測してなるべくプレーの時間短縮を図る。
トップのコーチが世界のスタンダードを知らないまま「高さとパワー」から目をそらしてきた結果、選手は十分なパフォーマンスを発揮するための準備動作もできなければ、思考の余裕も持てなくなり、実力どおりの高さとパワーすらが発揮できずに「得点力の低いMB」という烙印を押されたわけです。
本来なら、世界のスタンダードを肌身で感じ取ることができるのはトップの関係者だけなのですから、そのことに責任をもち、それらを下のカテゴリにどのように還元し、体系化するかを研究し、提供し続けなければいけないはずです。
ところが、国際大会の総括や分析をせず独自の戦術やスキル論を展開した(❷)結果、仮に育成現場で有能な選手が輩出されても、トップで活かされないこともめずらしくありません。トップの閉鎖的な中でなされる指導が、選手の力を奪うことも起こり得るわけです。
日本のトップはこれまで、育成をあまりにも人任せにし過ぎてきました(❸)。「トップと育成現場との断絶」は、育成カテゴリの独自指導を生む温床にもなっていたわけです。
◎ 「育成カテゴリ内」での断絶
育成カテゴリで独自指導がはびこる要因は、「トップと育成現場との断絶」以外にも、「育成カテゴリ内での断絶」という問題もあります。
小学生、中学生、高校生、大学生 ・・・ それぞれに日本一というタイトルを争う、熾烈な競争があります。本来は各カテゴリでの全国大会はあっていいものだと考えます。地域間の交流や研修の機会にもつながるからです。
しかし実際はその逆で、勝ち負けの競争を意識するあまりオープンな交流や議論が閉ざされ、閉鎖的な状況となっているのが日本の現状です。
それぞれのカテゴリでは1~2年スパンでしか選手に指導がなされません。カテゴリの変わり目にはブランクがあり、カテゴリをつなげる指導もなされないため、長期スパンとスケールの大きなビジョンによる育成をしづらい環境を生み出してしまっています。
さらには、過剰な練習量や練習負荷による選手のオーバーワークや故障、またはバーンアウト(燃え尽き)、選手獲得のリクルート競争、さらには指導者間の摩擦や保護者の指導への過度な要求や介入などもあって、とても「育成」と呼べる環境にはなっていません。
◎ 日本のトップに求められる “問題意識”
少し話題が変わりますが、同時期に男子では、ゲーリー・サトウ氏が初の外国人監督として招聘されたものの、短期間で解任されるという動きがありました。
ゲーリーは日本の選手の「基礎基本からの洗い出し」をテーマのひとつにしていたようです。実際、メディアの記事でもレセプションのスキルなどを世界のスタンダードにしていこうとしていたことが書かれています(*3)。
ところが残念なことに、その方向性も最終的には、コミュニケーションの問題を口実に(*4)道半ばで閉ざされてしまい、日本バレーが世界に開かれるチャンスを短期間で失ってしまいました。
理想的な環境を言えば、日本代表レベルのトップ選手やスタッフが、基本の洗い出しのような、育成世代で身につけさせておけば何の問題にもならないようなことに、時間やエネルギーを費やすべきではないと思います。しかし、ゲーリーがまずそこに着手したことからわかるように、男女を問わずトップと育成現場が断絶している日本の現状を鑑みれば、トップとして避けては通れない道だったと思います。
その意味で、眞鍋JAPANのロンドンオリンピック以降の取り組みは、日本の育成現場に一石を投じる試みに着手した点では評価できますが、実際に育成現場への投げかけや発信という点にまで広がらなかった点は残念でした。
それ以上に、OQT(最終予選)やリオデジャネイロオリンピック本番という、8年間の集大成とも言える最終段階に至っても、MBの機能や得点能力の改善に向けての明確なアクションが見られず、戦術的にもブロックやアタックにおいてMBが活かされているようには見えず、「トップと育成現場との断絶」はもちろん「世界のスタンダードとの断絶」を、自らが打破しようという問題意識はみられなかったという点において、非常に不満が残る結果でした。
◎ 「育成現場の立場から」今すぐにでも取り組むべきこと
こうした状況において、私たちに求められるものとは何でしょうか?
まずは、世界に開かれたバレーボールを各方面で取り組むことです。
基本の考え方、指導の体系、一貫指導のシステム、各カテゴリにおける指導内容と留意点 ・・・ これからはカテゴリの上下に関係なく、一人一人が当事者意識をもって実行していかなければなりません。
もうすでにメディアからは、今後の代表監督人事や代表チームの方向性についての言及が報道されています。そこにある「監督の続投を含め」「及第点を与えた」「監督は男女とも日本人が基本方針」等の文字を見る限り、日本のバレーが世界に開かれるチャンスは果たして本当にやってくるのか、大変不安に思います。
一日も早く、世界のバレーボールの今の実情を分析し、リオデジャネイロオリンピックに出場できなかった男子、そしてメダルを獲れなかった女子の総括を行い、その結果をトップの強化のみならず、「世界と整合性のとれた育成」につなげられるよう願っています。
日本代表チームの強化の成否は、育成現場に関わる指導者や関係者一人一人の努力と、地域やカテゴリを超えた連携という大きなムーブメントにかかっていると思います。
(*1) 【ワールドグランプリ2014で、日本女子代表チームが披露した「ハイブリッド6」を採用するに至った経緯について】(『バレーペディア編集室 Facebookページ』より)
(*2) 島村春世インタビュー「大野と二人、全日本の対角でやるのが理想です!」(『バレーボールマガジン』より)
(*3) バレー界初の挑戦はあっけない幕切れ 埋まらなかった外国人監督と協会の溝(田中夕子)
(*4) なぜ外国人監督は解任されたのか(松瀬学)
photo by FIVB
文責:杉山哲平
中学校教諭、バレーボール部を指導。
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