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【アーカイブ記事(2018/12/18公開記事)】「2018世界選手権女子大会 おっかけ観戦記 〜 イタリアが見せた強さと将来性 〜(後編)」#コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界バレー #世界のバレーから
イタリア女子バレーボールの魅力を伝えたい!
その思いで綴る観戦記の後編です。
・(前編)はこちら → https://note.com/volleyballsquare/n/n32ea38c92b86
(後編)ではイタリアの今大会で印象に残った試合や今後の展望、そして、あのぬいぐるみについて、お伝えしたいと思います。
私自身、世界選手権を「現地で」観戦するのは、実は初めてでした。
今大会、札幌→大阪→名古屋→横浜と、イタリアがいる全ての会場へ観戦に行きました。国際大会を、開幕戦から決勝戦まで大会全体をとおして観戦したことも初めてだったので、この大会は私にとって忘れられない大会の一つになりました。
観戦した試合の中で、私が最も印象に残っている試合は、準決勝の中国戦です。
もちろん、決勝戦も素晴らしい試合であったことは間違いありませんが、何より、この世界三大大会のメダルをかけた試合で「中国に勝てた」というのが、心の底から嬉しかったのです。
4年前の雪辱を果たした準決勝の中国戦
4年前の2014年、イタリアは、世界選手権・女子大会において、初のホスト国を務めました。
かつてのイタリアの中心選手であったベテラン勢を集結。
順調に勝ち進んだイタリアは、準決勝へと駒を進め、10月11日、中国と対戦しました。
結果は3−1で中国の勝利。
イタリアは3位決定戦へと回りブラジルと対戦しましたが、フルセットの接戦の末に敗戦。
自国開催の世界選手権で、4位という悔しい結果に終わりました。
そして、4年後。
イタリアは3次ラウンドPool Gを2位で通過し、Pool H を1位で通過した中国と再び、準決勝で顔を合わせることになりました。
決勝ラウンドの舞台となった横浜アリーナには多くの中国人サポーターが駆けつけ、会場は熱気に包まれました。
《赤いシャツに身を包み、中国の選手たちを後押しするサポーター》
リオ五輪後、マッツァンティ監督体制となってからのイタリアは、リオ五輪の覇者である中国相手に、今大会の1次ラウンドの成績も含めると5勝1敗と大きく勝ち越していましたが、中国が侮れない相手であることに変わりはありません。
1次ラウンドでイタリアに負けた以外、1つも取りこぼしなく勝ち上がってきた中国との再戦となった準決勝は、点数が示すとおりに、熾烈を極めた戦いとなりました。
イタリア 3(25-18, 21-25, 25-16, 29-31, 17-15)2 中国
この試合、私はアリーナエンド(SS席)から観戦しました。
最初から最後まで観戦した今大会の中でも唯一、エンド席からの観戦ということで、両チームの選手の攻撃の仕掛け方やセットの高さ、ブロックの位置取りなどを観察できる楽しみを満喫しようと、試合に臨みました。
試合前のプロトコル(公式ウォームアップ)を見て、「中国のセットが低いなー」と感じていました。この練習どおりのパフォーマンスであれば、試合中にイタリアが中国の攻撃に対し
多くのワンタッチを取って、
カウンター攻撃を繰り出すことができるのではないか …
その期待は、現実のものとなりました。
イタリアのブロックは試合序盤からよく機能していました。試合序盤はブロックの上から打ち込んできた朱婷選手のスパイクに対しても、試合が進むにつれて、中国のセットが低くなったことでワンタッチが取れる回数も増え、切り返してパオラ・エゴヌ選手やミリアム・シッラ選手がスパイクで勝負に持ち込むという、イタリアが狙ったとおりの展開へと試合を運んでいくことができていたと思います。
対する中国も、サーブでシッラ選手とリベロのモニカ・デジェンナーロ選手の間を執拗に狙って、シッラ選手のカバーに入ったデジェンナーロ選手のレセプションミスを誘うなど、サーブから優位な展開へと持ち込んできました。
イタリアが第1、3セットを、中国が第2、4セットを取って、迎えた最終第5セット。イタリアファンとしては、直前の第4セット終盤にマッチポイントを握りながらも、セットを奪うことができない展開だったことから、選手たちがそのイヤな流れを引きずらないかが心配でした。
ですが、そうした心配もなんのその、第5セットに入っても、中国の低くなったセットに対し、機を逃さずにブロックで仕留めるイタリア。攻撃面でも中国とは対照的に、セットを高いままで維持できていたイタリアは、エゴヌ選手が中心となって、着実に得点を重ねていきました。
第5セットで特に印象に残っていたプレーは、10点目のアンナ・ダネージ選手のスパイクと、14点目のエゴヌ選手のノータッチエースです。
1つ目に挙げたプレーは、エゴヌ選手と朱婷選手の打ち合いの中、まさに中国の「意表をつく」ダネージ選手のファーストテンポの攻撃。
ダネージ選手がきちんと助走に入っていたことは勿論、セッターのカルロッタ・カンビ選手の選択も素晴らしく、観戦していた私も思わず唸ってしまいました。(その直前のエゴヌ選手のプレーも効果的で、十分な体勢でスパイクが打てなかったのですが、中国のセッター丁霞選手にプッシュを取らせて、中国のトランジションからの攻撃の選択肢を減らし、トータルディフェンスを機能させることで、中国の得点を阻止していました。)
《リリーフサーバーとして交替で入り、
短い時間ながらにしっかりゲームメイクしたカンビ選手(3番)》
そして、2つ目に挙げたプレーは、中国のリベロ王梦潔選手の目の前に突き刺さる、見事なスパイクサーブ。
このセット、1回目のサーブでサーブミスをしたエゴヌ選手ですが、2回目のサーブではそのミスを修正して見事なノータッチエースを取り、イタリアは1回目のマッチポイントを握りました。
しかし、中国も譲らず、デュースにもつれ込みます。そして、16−15、イタリア4回目のマッチポイント。イタリアが17点目を取った瞬間は、今でも鮮明に覚えています。
キャプテンのクリスティーナ・キリケッラ選手のサーブで中国がライトから攻撃できない状況を作り上げ、ミドルブロッカーの袁心玥選手のファーストテンポに対して2枚ブロックで牽制。キリケッラ選手とシッラ選手がなんとかボールをつないで中国コートに返します。中国はそのチャンスボールを丁寧に処理して、4枚攻撃を仕掛けてきましたが、イタリアのブロッカー陣はコミットせずに冷静にリードで対応。ライトにセットが上がって龔翔宇選手が繰り出したファーストテンポの攻撃に対して、ルチーア・ボゼッティ選手と遅れながらもダネージ選手がプレッシャーをかけ、ブロックの抜けた先でエゴヌ選手が待ち構えて1球目をきちんと高くあげ、セッターのマリノブ選手が素早くボールの下に入り、アンダーハンドパスでアタックライン付近へ丁寧にセット。ディグ直後に攻撃に入っていたエゴヌ選手に、打ちやすいボールを供給しました。
エゴヌ選手のこの日88本目のスパイクは、中国のエース朱婷選手のディグを弾く強烈なスパイクでした。
《16年ぶりの決勝進出を決めた直後の1シーン。
ベンチにいた選手たちがコート上の選手に抱きついてもみくちゃに》
歓喜の瞬間に立ち会えたことの喜びは、サポーターとしてこの上なく大きなものでした。最高のプレゼントを届けてくれたイタリアの選手、スタッフのみなさんに、感謝の気持ちで一杯でした。
横浜の会場には、元代表セッターのエレオノーラ・ロビアンコ選手やイタリアバレーボール連盟の会長であるピエトロ・ブルーノ・カッタネオ会長も駆けつけていました。選手たちとともに、大舞台での大一番の勝利を味わっていました。
2年後には表彰台の頂点へ、さらにその先を見据えて
銀メダルを獲得したイタリアは、決勝戦の翌日、休む暇なく帰国の途につきました。
選手とスタッフの帰りを待つローマのフィウミチーノ空港と、ミラノのマルペンサ空港には多くのサポーターが出迎えに駆けつけており、キャプテンのクリスティーナ・キリケッラ選手は到着後のインタビューで、「このサポーターの情熱は金メダル以上の価値がある」と語っていました(*1) 。
さらにセリエA開幕戦後の10月29日には、セルジョ・マッタレッラ大統領がイタリア女子ナショナルチームをクイリナーレ宮殿(イタリア共和国大統領官邸)に招き、銀メダル獲得の功績を称えました(*2) 。
イタリア国中からたくさんの祝福を受けた選手たちですが、彼女たちはすでに、2年後の東京五輪を見据えています。
イタリア女子ナショナルチームの戦術はいまや、金メダルを狙えるレベルへと高まっていると思っています。トータルディフェンスにおけるディガーの配置や、サーブの威力と狙う場所の修正など、私自身が今のイタリアを見ていて感じる課題もまだあるのですが、多くのチームから学ぶ姿勢を忘れない、ダヴィデ・マッツァンティ監督なら、東京五輪での優勝を目指してさらに知識を高めてくれると信じています。
さらに言えば、東京五輪はイタリアにとって一つの区切りに過ぎず、そのさらに4年後、8年後と戦いは続いていきます。
昨年主力として活躍したアウトサイドヒッター(ウイングスパイカー)のカテリーナ・ボゼッティ選手やミドルブロッカーのラファエーラ・フォリエ選手が、クラブシーズン中に立て続けに、前十字靭帯を損傷する大怪我をしましたが、この2人の選手に替わって、エレーナ・ピエトリーニ選手やマリーナ・ルビアン選手など、才能ある若手が選出されました。
これまでの監督と違い、マッツァンティ監督は、若手選手を積極的に選出している印象があります。
事実、彼はイタリアの強化策の1つである「Club Italia」(*3) の監督である、マッシモ・ベッラーノ監督の活動をコーディネートしており(*4) 、今後も有望な若手を育成・輩出していくことが期待されます。
この若手選手たちが東京五輪、そして次のパリ五輪以降どう活躍していくのか、イタリアサポーターとしては楽しみは尽きません。
あの “猫型ロボット” はどこからやってきたのか?!
さて、冒頭でお伝えしたとおり、最後にあのぬいぐるみについて、みなさんにお伝えしてこの観戦記を締めくくりたいと思います。
今大会、イタリアの試合勝利後の記念撮影では必ず、かの有名な猫型ロボットが写真の中に収まっていました。
《2次ラウンド、ロシア戦での勝利後の記念撮影》
「ITALIA!」の文字がプリントされたトリコローレ (*5) が巻かれており、記念撮影の際はエゴヌ選手が大切そうに抱え、撮影後にリベロのベアトリーチェ・パロッキアーレ選手がキスをする場面が、カメラに収められていました。
あのぬいぐるみは、いったいどこからやってきたのか?!
私は、世界選手権前の合宿地であった仙台市で、イタリアファンの誰かからもらったのかと予想していましたが、どうやら違うようでした。
なんとか選手に聞いてみようと機会を窺(うかが)い、名古屋大会の際にパッロキアーレ選手に話を聞くことができました。
彼女によると、
「よくわからないけれど、スタッフがゲームセンターで取ってきたみたい」
とのこと ... 。
もともとは、特に深い思い入れのあるぬいぐるみだったわけではないようです。
ですが、1次ラウンド初戦のブルガリア戦に始まる10連勝と、準決勝・中国戦の勝利の影の原動力は、もしかしたら、この猫型ロボットにあったのかもしれません(笑)。
《イタリアでも有名な猫型ロボット》
(*1) Pallavolo, festa a Malpensa: Chirichella: "Questa passione vale più dell’oro”(『La gazzetta dello sport』より)
(*2) IL PRESIDENTE DELLA REPUBBLICA SERGIO MATTARELLA HA RICEVUTO LA NAZIONALE FEMMINILE(『Federazione Italiana pallavolo』より)
(*3) 1998年にイタリアバレーボール連盟の下で創設された、14歳以上の将来有望な若手選手でチームを編成し、国内リーグを戦うクラブチーム。2018/19シーズンは、Serie A1 に所属。パオラ・エゴヌ選手やアンナ・ダネージ選手もかつて、「Club Italia」でプレーしていた。
(*4)『月刊バレーボール 2018年12月号』(日本文化出版)より
(*5) イタリアの三色(緑・白・赤)の国旗を意味する
photo by FIVB
文責:Masayo Iwabuchi
2011年ワールドカップ女子大会のテレビ観戦をきっかけに、シニアの国内および国際大会を中心に観戦。
現在はイタリア女子やアメリカ男子を応援中。
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