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【アーカイブ記事(2017/09/10公開記事)】「アメリカの大学バレー事情【第1章】」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界のバレーから


 アメリカ男子シニア代表のバレーボールに惹かれ試合を観ているうちに、代表メンバーの多くがまだ若く、つい最近大学を卒業したばかりだということに、強い関心を抱くようになりました。

 アメリカはヨーロッパの強豪国やブラジルとは違って、国内にプロリーグがありません。そんな中で、どのように若い選手を育成し、大学卒業後すぐに世界と戦えるよう組織化しているのだろうか ・・・ 興味を持って調べていくうちに、アメリカではバレーボールに限らずスポーツにおける育成・発展の中心が大学リーグにある事実を知り、男子バレーボールの大学リーグも観るようになりました。

 情報を調べたり観戦する過程で自分なりに掴んできた、アメリカの男子大学リーグについて、この機会に記事としてまとめてみたいと思います。1人でも興味を持ってくださる方がいれば嬉しいです。


◎ 運営システム

 アメリカの大学リーグはNCAA(全米大学体育協会)によって運営されています。大学の規模や運営費、競技会場・トレーニングルーム等の施設の充実度によって、ディヴィジョン Ⅰ(DⅠ)~ディヴィジョン Ⅲ(DⅢ)まで分かれています。

 DⅠ・DⅡ の大学は奨学金支給が許されており、競技ごと、大学ごとに奨学金を受け取ることができる人数が決まっています。男子バレーでは DⅠ・DⅡ とも1チームにつき4.5人まで奨学金を支給することができます。通常、奨学金を獲得して DⅠ の大学に通うことが認められた学生は、当該スポーツにかかる費用(用具や試合の遠征費、合宿費等)はもちろん、学費やテキスト代、学生寮の家賃や食事代、医療費も免除されます(大学によっては一部が奨学金でまかなわれるという場合もあります)が、男子バレーの場合は、各チームに割り当てられた奨学金をチーム所属メンバー全員に均等に分配するシステムを採っているようです。

 そういった奨学金や大学設備の充実のための費用の一部が、卒業生たちの寄付金によってまかなわれているという事実に、アメリカの文化を感じます。

 ディヴィジョンごとにカンファレンス(日本のプロ野球で言えばセ・リーグとパ・リーグ、大学リーグで言えば関東リーグや関西リーグ等に相当します)に分かれて戦いますが、組織的な再編成が行われるような時以外は、基本的にカンファレンスの入れ替えはありません。

 女子は DⅠ だけで330校以上、カンファレンスも30あるのに比べて、男子は DⅠ・DⅡ をあわせても38校と非常に少ないため、2010年まではディヴィジョンの区分けがありませんでした。2011年からは DⅠ・DⅡ と DⅢ の2つに分かれ、DⅠ・DⅡ でのチャンピオンシップ、DⅢ 単独でのチャンピオンシップが開催されるようになっています。カンファレンスも、昨シーズン(2017年)までは DⅠ・DⅡ で4つしかありませんでしたが、今シーズンからは Big West というカンファレンスが新設されることとなり、各カンファレンスに所属するチームの再編成が行われました。これまで MPSF に所属していた12チームのうち6チームが Big West へ移行、他にも数チームのカンファレンス入れ替え(*1)が行われ、今シーズンのDⅠ・DⅡ は以下に示す5カンファレンスでの戦いとなります。

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 この表からもわかるように、歴代のアメリカシニア代表には、MPSF 出身の選手が数多く選出されています。MPSF はアメリカ西部をカバーしており、西部でも特に、バレーボールのさかんなカリフォルニアが含まれるカンファレンスです。男子は地域によって競技人口の偏りが大きいようで、今年の高校3年生全国ベスト50のうちカリフォルニアの選手が27人である(*2)ところにもその傾向が見られます。一方、女子はカンファレンスがアメリカ全土くまなく存在し、中西部や南部のカンファレンスにも勢いがあります。


◎ リーグ開催方式

 男子はチーム数が少ないため、別のカンファレンスチームとの対戦も組まれます。カンファレンスでの成績はあくまで、同じカンファレンス内チームとの対戦成績で決まりますが、カンファレンス外チームとの対戦成績も、後述するようにチャンピオンシップへの出場権を獲得できるかどうかに影響してくることになります。

 カンファレンス内チームとは毎シーズン1~2戦ずつ、隔年ごとにホーム&アウェイで行います。その成績によってカンファレンスでの順位が決まり、今度は上位チームによるトーナメントが開催されます。トーナメントを勝ち抜いた各カンファレンスの優勝チーム(計4チーム)は自動的に NCAA チャンピオンシップへの出場権を得ることになりますが、その他に2チームが NCAA の選考委員会によって選出され、6チームがチャンピオンシップに出場することができます。


 その選考基準には

① RPI ランキング:各チームの勝率によって算定
② スケジュールの大変さ
③ 勝敗成績
④ 直接対戦成績
⑤ カンファレンス外チームとの対戦成績
⑥ ホーム&アウェイの成績
⑦ カンファレンス内チームとの対戦成績
⑧ すでにチャンピオンシップへの出場が確定しているチーム、選考対象となっているチームとの対戦成績
⑨ チャンピオンシップにふさわしい資格と能力を持った学生アスリートであること

が挙げられており、これらの選考基準はチャンピオンシップに出場する全6チームのシードの決定にも使用され、それによって試合カードが決まります。


 ただし、これらの方式は昨シーズンまでのことで、カンファレンスが4つから5つになる2018年シーズンは、またすこし変わってくるだろうと思います。


◎ アメリカ大学リーグの “特性”

 NCAA では各競技に「シーズン制」を導入しており、競技ごとに活動期間・練習時間に制限が加えられています。バレーボールの場合、女子は秋シーズンの8月下旬〜12月、男子は春シーズンの1月〜5月の、たいてい週末か平日の夜に試合が開催されます。

 男子の場合、新学年がスタートする9月頃から新チームでの練習が開始され、春シーズンの試合に備えるスケジュールとなりますが、練習時間は試合時間も含めて「週に20時間」という制限が設けられています。また、「週1日は完全にオフにしなければならない」という決まりもあります。

 これは「Student athlete(学生アスリート)」という言葉が、アスリートの前にまず学生であることを強調しているように、あくまで「学業が本業である」という考えが根底にあるためです。奨学金が「将来社会で活躍する優秀な人材を育成するための先行投資である」という意味からも、アスリートであっても学生である以上、しっかり学業を修めることが要求されています。それは同時に、彼らがスポーツで高みを目指すために必要な知力、さらにはアスリート人生を終えた後のキャリアに役立つ学力を身につけるという意味から、彼ら自身のその後の人生を支えるための制約でもあります。

 ですから、学業成績もある一定レベルに達していないと、練習や試合に参加することができないよう定められており、場合によっては大学に在籍し続けることすら難しくなります。そうした環境に身を置くことで選手たちは、学生アスリートとして「学業とスポーツの両立を図る」こと、ならびに、限られた時間を有効活用できるような「時間管理能力」を含めた自己管理能力を身につけていくシステムになっています。


 また、シーズン中に怪我や故障が発生したら、一定期間欠場する選手が結構います。後述しますが「レッドシャツ」といって、1年間欠場するという場合もあります。怪我や故障が多いというよりも、基本的に「学生アスリートには無理をさせない」という土壌のようです。主力選手であっても、体のどこかに痛みや違和感を感じる時には、しばらく試合に出場しないというケースもよくあり、選手の意向よりもあくまで「医学的見地に基づいた判断」が重視されているようです。


 これを物語るエピソードとして、2016年シーズンを制した Ohio のピート・ハンソン監督のコメント(*3)を紹介します。

 疲労骨折の一歩手前であった主力セッターのクリスティー・ブラウに対して、細心の注意やできる限りの予防措置を講じたことについて振り返りながら、ハンソン監督は自分と同じ立場のコーチ陣に対して、

「タフで怪我や逆境に負けない選手を見るのが好きだというかもしれないが、コーチとしては医者やトレーナーの意見に従うべきです」

 また、怪我を抱えてプレーしている選手に対して、

「意思決定は常に、医療側からもたらされるべきです。私たちはあなたの長期的な健康を危険にさらすことはありません。信頼して私に従って欲しい」

と話しています。


 各大学のウェブサイトには、そのシーズンの試合スケジュールの他、選手一覧(Roster)がありますが、学年表記が「1年生〜4年生」ではなく「Fr.、So.、Jr.、Sr.」となっています。中には「R-So.」や「RS Jr.」といった表記もあり、初めて見ると何を意味しているのかわからず、困惑されるかもしれません。

 「Fr.」は「Freshman(フレッシュマン)」の略で1年生、「So.」は「Sophomore(ソフモア)」で2年生、「Jr.」は「Junior(ジュニア)」で3年生、「Sr.」は「Senior(シニア)」で4年生を意味しており、「R-」や「RS」は「RedShirt(レッドシャツ)」の略になります。

 NCAA では大学在籍期間中に試合に出場できる(選手名簿に登録できる)のは4シーズンまで、と定められています。学業とスポーツの両立を要求されている彼らは、勉学を優先させるためや基準の学業成績に満たなかった場合、あるいはチーム状況から「今シーズンは見送った方が、その後に試合出場機会に恵まれるかもしれない」と見越して、あえて1年間は試合に出場しないという選択をすることも可能なのです。

 そうした選択をした選手を「レッドシャツ」と言い、彼らはその期間中は練習には参加できますが、試合に出場することはできません。So. シーズンを終えた後で1年間の休養を挟んで Jr. で復帰すると、「Jr.」の前に「R-」もしくは「RS」がつきます。

 たとえば BYU はモルモン教系の大学であるため、ミッションとしてだいたい2年間、外国で宣教活動をする学生が多いです。パッチも Fr. を終えた後2年間宣教活動に出たため、その間バレーボールも休んでいました。宣教活動の後 R-So. として復帰し、2シーズンを経てこの秋からはイタリアリーグの Vibo Valentia でプレーすることが決まっています。

 同じ BYU でもサンダーは休学期間がなく、BYU といっても全学生がモルモン教徒というわけではないようです。


 また、入学したもののその大学のスタイルに馴染めないため、あるいは監督の移籍に伴い他の大学への移籍を希望するようなケースもあります。そうした希望で大学を転校した場合は原則1年間、試合に出場できないというペナルティーがあり、その期間中はレッドシャツ扱いとなります(但し、短大から4年制大学への転校の場合は、この規定に当てはまりません)。

 現在 Hawaii でリベロのトゥイ・トゥイレタは3シーズン前までは USC で Outside Hitter としてプレーしており、クリステンソンのセットを打っていました。2015年シーズン終了後に当時監督だったビル・ファーガソンが退任(現在 Wake Forest 女子の監督をしています)すると、それが直接の原因なのかはわかりませんが、トゥイレタもその年を最後に USC を離れ、地元である Hawaii へと転校、そのため2016年シーズンはレッドシャツで出られませんでした。

 このトゥイレタですが、実はこの秋から Hawaii のアメリカンフットボール部員としても活動することとなり、クォーターバックとして選手名簿に名を連ねているのです。高校でもバレーボールとアメリカンフットボールをやっていたようで(アメリカの高校生はスポーツをやっているほとんどの学生が、2〜3種類の競技をシーズンごとに掛け持ちしています)USC でも両方にトライしていました。「シーズン制」を敷くアメリカだからこそ可能なことだと思います。


◎ アメリカ大学リーグの “魅力”

 男子は2016・2017年と2年連続で MIVA の Ohio が優勝しました。過去を振り返ってみると、UCLA が過去19回優勝と他を圧倒しており、その後に Pepperdine や BYU、Stanford、USC とやはり MPSF 所属の名門チームが続いていましたが、2012年に当時 UCI の監督だったスパロー(現 UCLA 監督兼シニア男子代表監督)が、現フランス代表のティリや現アメリカ代表のクラーク・マクドネルらを率いて優勝、翌2013年も優勝を飾り2連覇を果たして以降、ジェスキーのいた EIVA 所属の Loyola が2連覇したのに続いて Ohio が2連覇と、勢力図に変化が出てきています。

 試合内容の方は、シニア代表チームや他国のプロリーグチーム同士のゲームと比べると、プレーがまだ荒削りで、若さゆえ調子の波も大きく、ビックリするくらいあっさり負ける日があるかと思えば、よいパフォーマンスを発揮する中で想像を絶するビッグプレーが出て盛り上がり、その勢いでランク上位のチームに勝つような日があったりと、そういう「蓋を開けてみないとわからない」未知数なところが、大学リーグの魅力ではないかと思います。シーズンを通して大きく成長していく姿や、チームとしての完成度が高まっていく過程を追うことができるのも、大学リーグを観る楽しみの一つです。

 また、シーズン中の別の楽しみ方として、前述の(勝率によって決まる)RPI ランキングとは別に、各大学の監督が独断で週ごとに全大学のランキングを決めて提出し、それを集計して発表される「コーチズポール」というランキングがあります。その週の自チームの試合内容に納得がいかない監督が、自チームをあり得ないくらいに低くランクづけしていたりするので、なかなかおもしろいです。


 戦術面では、どの大学も目指す方向性はシニア代表チームが体現・実践しているバレーボールだと思います。オフェンスでは4枚の同時多発位置差(シンクロ)攻撃、ディフェンスではバンチリードブロックを基本戦術に据えつつ、対戦相手ごとに作戦を練りながら柔軟に戦っているように感じます。

 印象的だったのは2シーズン前のことですが、BYU と対戦して0勝2敗だった UCLA の監督スパロー(UCI で2連覇の後、UCLA の監督に就任しています)ならびに選手たちが、口を揃えて「相手がフィジカルで上回るチームなのはあらかじめわかっていたことなので、そういう相手と戦うための作戦を練って挑んだが、作戦どおりにプレーできなかったし、その作戦そのものが相手を倒すには不十分だった」と述べていました。大学バレーは相手に応じた戦い方や、戦術そのものを学ぶ場であることを改めて認識させられるエピソードでした。

 スタッツでおもしろいと思うのは「ブロックアシスト数」(*4) がカウントされることです。2〜3枚ブロックでシャットアウトした際、ボールがたとえ1人のブロッカーにしか触れていなくても、ブロックに跳んだ全員に1本分の「ブロックアシスト」がカウントされます。

 これは、シャットアウトを稼ぐことができたのは「2〜3枚のブロックを揃えることができたから」である、ということ、つまりは組織的なブロックの大切さ、複数人でブロックに跳ぶことの重要性を認識していることの表れだと思います。チームブロック数を算出する場合は、1枚ブロック( “Solo Block” ソロブロック)を1本、ブロックアシストを0.5本として算出、個人のブロック数を算出する場合は、ソロブロック・ブロックアシストいずれも1本として算出します。
「チームブロック数」=「ソロブロック数+(ブロックアシスト数÷2)」
「個人のブロック数」=「ソロブロック数+ブロックアシスト数 」


 そんな大学バレーの魅力にすっかりハマってしまい、ぜひ一度現地で観戦してみたい、という思いが日に日に高まり、今年の4月に思い余ってカリフォルニアへと旅してきました。

 次回は、現地での生観戦の様子に触れたいと思います。

(*1) 2017年シーズンまで MIVA 所属であった Grand Canyon が MPSF へ移動、さらに NAIA(小規模4年制大学体育協会)所属であった Concordia と Emmanuel が、大学規模を拡大させ優秀な学生を集めて NCAA DⅡに昇格し、それぞれ MPSF と Conference Carolinas へ配属された
 
(*2) California players dominate 2017 VolleyballMag.com Boys Fab 50
(『Volleyballmag.com』より)
 
(*3) Coach Hanson: Turning Weakness into Strengths
(『VOLLEYMETRICS』より)
 
(*4) A block assist(BA) is awarded when two or three players block the ball into the opponent's court leading directly to a point. Each player blocking receives a block assist, even if only one player actually makes contact with the ball.
(『NCAA OFFICIAL VOLLEYBALL STATISTICS RULES』より)

参考文献:吉田良治(2015)『スポーツマネジメント論 アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ』(昭和堂)

photo by 宮間

文責:宮間
アメリカ男子シニア代表に魅了され、アメリカの男子大学バレーボールも観るように。
カッコよくておもしろいバレーボールに惹かれます。

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