見出し画像

【アーカイブ記事(2018/11/17公開記事)】「2018世界選手権女子大会 おっかけ観戦記〜イタリアが見せた強さと将来性〜(前編)」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界バレー #世界のバレーから


イタリア女子ナショナルチーム、世界選手権で16年ぶりの表彰台(銀メダル)に輝く!

 2018年10月20日(土)、イタリアは16年ぶりに世界選手権の表彰台に登りました。

 セルビアとのフルセットの激戦の末、惜しくも敗れて金メダルは逃しましたが、銀メダルを首にかけた選手たちの表情は、どこか穏やかで充実感に満ちていました。

画像1

《銀メダルを首にかけ、笑顔の監督と選手たち》


 8年ぶりに日本開催となった今年の世界選手権。イタリアは1次ラウンド、2次ラウンドと中国やトルコ、アメリカ、ロシアなど実力ぞろいのチームを次々となぎ倒し、見事に決勝ラウンドへと勝ち上がってきました。

 今大会は日本全国6都市で開催されており、イタリアはそのうちの4都市(札幌、大阪、名古屋、横浜)を移動するという過酷なスケジュールを強いられたため、選手たちの疲労は想像以上に大きかったと思います。

 そのような状況の中で、イタリアの選手たちは、1戦1戦、素晴らしいパフォーマンスを多くのバレーボールファンに見せてくれました。

 3次ラウンド2戦目のセルビア戦に敗れるまで、なんと破竹の10連勝で決勝ラウンドへの進出を決め、ベストスコアラーなど各種個人ランキングにおいても、多くの選手が上位に名を連ねました。

 リオ五輪では予選リーグ敗退と苦汁を嘗(な)めたイタリアでしたが、今回の世界選手権で世界トップの実力を持ったチームに生まれ変わったことを、全世界に知らしめてくれたと誇りに思っています。


 前置きが少し長くなりましたが、本記事では2018年世界選手権女子大会のイタリア代表について、選手や監督、特に印象に残った試合などを綴っていきたいと思います。

 前回、全日本女子(眞鍋JAPAN)について色々と書かせていただいた私ですが、今ではすっかり海外バレーに目移りし、中でもイタリア女子のバレーボールにハマっています。

 大いに主観(とイタリア愛)が詰まった観戦記となっていますが、イタリア女子ナショナルチームの魅力が皆様に少しでも伝わって、今後のイタリアのバレーボールに注目する方が増えてくれたら嬉しい限りです。


世界選手権で活躍した、パワフルでキュートな選手たち

 今大会、感動的なプレーを見せてくれたイタリアの選手たちの中でも、3人の選手を採りあげて紹介したいと思います。

※ バレーボール・スクエア編集部より
各選手の所属が記事公開当時と変わっている場合があり、2020/21シーズンの所属クラブ名を編集部にて追記しております。


・パオラ・エゴヌ選手
(オポジット、Igor Gorgonzola Novara 所属)

※ 2020/21シーズンは Imoco Volley Conegliano 所属

画像2

《名実ともにイタリアのエースとして成長したエゴヌ選手》


 ベテランの風格が漂うエゴヌ選手ですが、彼女はまだ19歳。2年前に開催されたリオ五輪のヨーロッパ大陸予選で、当時イタリアの監督だったマルコ・ボニッタ監督の下、スタメンに抜擢され活躍し、それ以来、若くしてイタリア代表のエースとして活躍を続けています。

 今大会も全試合に出場し、スパイクに、ブロックに、サーブに、とバランス良くチームの勝利に貢献しました。


 準決勝の中国戦では、世界選手権における個人最多得点記録を更新するなど、その高い攻撃力に目が行きがちですが、ディグやセットなどの「つなぎ」でも良いプレーを披露していました。正面に来た強打をただ拾うだけでなく、常に高く返球して2本目へと繋げ、自らが2本目にボールを触る際には安易にアンダーハンドを用いず、必ずオーバーハンドでセットしていました。

 攻撃だけでなく、「つなぎ」の面でもエースにふさわしいプレーを魅せてくれた今大会。来年以降のさらなるパフォーマンスの向上に、期待せずにはいられません。


・アンナ・ダネージ選手(ミドルブロッカー、Imoco Volley Conegliano 所属)

※ 2020/21シーズンは Saugella Monza 所属

 エゴヌ選手同様、リオ五輪のヨーロッパ大陸予選からスタメンで起用されるようになったダネージ選手。今大会では、ベストミドルブロッカー賞は逃したものの、1セットあたりのシャットアウト本数は準決勝終了時点まで1位(大会終了時点で中国の顔妮選手に抜かれ、最終的には2位)と、数字でも結果を残しました。

画像3

《同い年のカンビ選手(写真手前3番)との息の合ったプレーも見どころの一つ》


 イタリアのブロックは基本的に3人のブロッカーがコート中央に集まる、いわゆるバンチシフトを敷いており、大会を通じてしつこくワンタッチをとり続ける戦いぶりを見せましたが、ダネージ選手はキャプテンのクリスティーナ・キリケッラ選手と対角を組み、そうしたイタリアのブロックシステムの中軸として貢献。シャットアウトの本数を稼ぐだけでなく、ワンタッチを取ってからのトランジションアタックへの展開の一助を担っていました。


 今年のナショナルチーム合流前のクラブシーズンでは、シーズン後半から怪我で離脱した選手に代わりスタメンとして出場、所属クラブ(Imoco)のセリエA1での2回目のスクデット(*1) や、ヨーロッパチャンピオンズリーグでの銅メダル獲得に大いに貢献。

 これらの経験が、ダネージ選手のプレーの質の向上と自信につながっていると思います。


 今季の所属クラブでは、脚の怪我で離脱していたオランダ代表のロビン・デクライフ選手とイタリア代表のラファエーラ・フォリエ選手がコートに戻って来ます。熾烈なスタメン争いを勝ち取り、プレーにさらに磨きをかけて、ナショナルチームに戻ってきてくれることを願っています。


・ミリアム・シッラ選手(アウトサイドヒッター、Imoco Volley Conegliano 所属)

画像4

《コミカルなキャラクターで、チームのムードメーカーでもあるシッラ選手》


 イタリア女子の選手は、レセプションの処理をオーバーハンドで行う場面をあまり見かけませんが、今大会でシッラ選手は相手のジャンプフローターサーブに対し、軌道が変化する前にオーバーハンドで処理するプレーを何度か見せていました。軌道が変化する前にサーブを処理することができれば、それだけ素早く攻撃参加の動作に切り替えることができ、相手ブロッカーへのプレッシャーにもなります。

 今大会イタリアと対戦した各国は、サーブのターゲットを彼女に集中させてくる場面が目立ちました。シッラ選手がこうしたプレーを身につければ、チームとしても隙がなくなるのではないかと思います。


 その彼女ですが、実は昨年のワールドグランプリ決勝戦後に受けたドーピング検査で陽性反応が出て、約4ヶ月もの間プレーできないという、ショッキングな出来事に見舞われました(*2) 。

 最終的に食べ物による陽性反応(偽陽性)であったと分かりました(*3) が、4ヶ月のブランクは若い彼女にとっては、精神的にも非常に辛い出来事だったと思います。


 そうした不運を乗り越え、シッラ選手は今大会、アタック決定率49.7%で2位(1位は今大会のMVPを獲得したセルビアのティヤナ・ボシュコヴィッチ選手)に輝き、見事ベストアウトサイドヒッター賞を獲得しました。彼女の努力が報われた瞬間だと、感じずにはいられませんでした。


選手たちを鼓舞し支えた、ダヴィデ・マッツァンティ監督

 リオ五輪後、マルコ・ボニッタ氏に代わり監督に就任したダヴィデ・マッツァンティ監督についても紹介したいと思います。

画像5

《良いプレーには賞賛を。時には喜びを体で表現する姿も見せてくれます》


 ナショナルチーム監督に就任する前に、マッツァンティ監督はイタリアのクラブチームの監督として、計3回のスクデットの経歴があります。

 2011年、Zanetti Bergamoで監督として初めてイタリアセリエA1で優勝を経験。2015年には、3年前まで2部(セリエA2)にいたチームだった、Pomì Casalmaggioreを優勝に導いています。今大会のメンバーとして来日した妻のセレーナ・オルトラーニ選手は当時、Pomì Casalmaggioreの選手で、マッツァンティ監督とは結婚1年目の年でした(*4) 。

 さらに、翌年の2016年にはImoco Volley Coneglianoでも優勝を果たしています。


 マッツァンティ監督がナショナルチームの指揮を執るようになって、チームが変わった点を挙げるなら、何より「選手の攻撃参加意識」です。どのローテーションであっても、常に4人のアタッカーが攻撃を仕掛けるバレースタイルへと変化したのです。

 しかも、4人が攻撃参加するスロットが重ならないように、コートを広く使って攻撃展開するスタイルに変わりました。


 昨年、アゼルバイジャンの首都バクーで開催されたヨーロッパ選手権女子大会の決勝ラウンドへ、友人とイタリアの応援にかけつけた際、マッツァンティ監督に直接話しかけられるタイミングがあったので、質問してみたところ彼は、「4人のアタッカーが常に攻撃参加するように、選手に意識させている」と明かしてくれました。

 昨年のヨーロッパ選手権では怪我人等が多く、本来の力を発揮できないまま不本意な成績で終わってしまいましたが、今年の世界選手権でイタリアのバレーがリオ五輪から、確実にアップデートされていることを証明してくれました。


 以上、イタリア女子ナショナルチームの選手と監督の紹介でした。


 続く後編では、私自身が今大会で印象に残った試合についてお伝えできればと思います。

(*1) "Scudetto" イタリア語で「小さな盾」を意味し、イタリアのプロサッカーリーグ・セリエAで優勝したチームの選手に与えられる盾形のバッジの呼称。そこから転じて「優勝」を意味する。

(*2) "DOPING CASE IN ITALY: Miriam Sylla tested positive for clenbuterol"
(『World of Volley』より)

(*3) "Doping charges withdrawn against Miriam Sylla"
(『World of Volley』より)

(*4)『月刊バレーボール 2015年7月号』(日本文化出版)P119 より

photo by FIVB

文責:Masayo Iwabuchi
2011年ワールドカップ女子大会のテレビ観戦をきっかけに、シニアの国内および国際大会を中心に観戦。
現在はイタリア女子やアメリカ男子を応援中。
https://note.com/passeggiata | note

いいなと思ったら応援しよう!