【アーカイブ記事(2016/09/10公開記事)】「#眞鍋JAPAN総括 ⑥ ~ “総合的な” ディフェンス力はどうだったか?~」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール
◎ はじめに
2012年のロンドンオリンピックで見事に、銅メダルを獲得した全日本女子バレーボールチーム。4年後のリオオリンピックで、世界と比べて身長の低い日本が金メダルを獲得するために、眞鍋監督が掲げたテーマが
① サーブ
② サーブレシーブ
③ ディグ
④ ミスによる失点の少なさ
の “4つの世界一” であった事実は、よく知られています(*1)。
しかしリオでの結果は、ロンドンの結果には遠く及ばないものとなってしまいました。
となると、ロンドンオリンピック後の4年間の眞鍋JAPANの取り組みは、正しかったのか、という疑問が出てきます。
“4つの世界一” の中に “サーブレシーブ” と “ディグ” という、通常それ自体では得点を取ることができないプレーが2つもあることから、眞鍋JAPANがディフェンス面の強化を目指してきたことは明らかでしょう。
一般にバレーボールのディフェンスは、サーブレシーブ局面とそれ以外の(トランジション)局面とに分けられます。サーブレシーブについては、その成功率と勝率との相関が弱いという事実(*2)が、ここ1〜2年の間で、一般にも知られるようになってきました。
では、ディグはどうでしょうか。
ロンドン後の4年間の取り組みはどうだったのか、そしてなぜリオで勝てなかったのかを検証するにあたり、今回はディグをはじめとした、トランジション局面のディフェンスに、注目していきたいと思います。
以下では、各検証をFIVBのVIS(*3)のデータから、日本とそれ以外のチームの平均値と標準偏差をもとに行いました。標準偏差とは各データのばらつき具合を表したもので、この値が大きいほどデータのばらつきが大きいことを意味します。
◎ 強化を明言したディグの変化
まず、“世界一” を目指したディグは、ロンドンオリンピック後の4年間で強化されたのかを検証します。
この評価は「セット当たりのディグ成功数(*4)」を比較することで行いました。
表1より、日本は2012年のロンドンオリンピック前後で数値が上昇しており、ディグの強化には成功していた、と言うことができるでしょう。また、他国の平均よりも高い値を保ち続けており、諸外国に比べ常に優秀なディグ力を発揮しているということも言えます。
リオでの結果も、諸外国と比べると優秀なものです。
このように、もともと高い日本のディグ力がさらに強化されたことはわかりましたが、ではなぜリオではメダルに届かなかったのでしょうか。
その理由は「ディグ成功数と勝率の関係」にあります。
図1からわかるように、セット当たりのディグ成功数が増えても勝率は大きく変化しません。つまり、試合に勝つこととディグ本数との間には明確な関係性はないのです。
「ディグを強化して “世界一” を達成しても、それで勝てる保証はない」ということを、データは示しています。
◎ 勝利につながるディフェンス力= “失点を防ぐ力”
では、勝利につながるディフェンス力とはどういうものなのでしょうか。
そもそも、バレーボールにおけるディフェンスの根本的な目的は “相手の攻撃を受けても失点しないこと” です。
この観点から、「 “ディフェンスを行うべき相手の攻撃” に対して、“どの程度失点をしなかったか”」ということに着目し、ブロックとディグを合わせた “総合的な” ディフェンス力を見ていきたいと思います。
“ディフェンスを行うべき相手の攻撃” とは、「相手のスパイク」のうちでネットにかかったり、アウトになったりした「スパイクミス」を除いた、「ブロックやディグでボールに触りにいかないと相手の得点になってしまう攻撃すべて」を指します。
つまり、ディフェンスを行うべき相手の攻撃は
で計算できます。
VISのSpike Faultsには被シャットアウトも含まれていますので、ダブルカウントを防ぐため「相手のSpike Faults」から「自軍のKill Blocks(=相手の被シャットアウト)」を引くことで、相手の純粋な「スパイクミス数」を算出できます。これを「相手のスパイク打数」から引けば、ディフェンスチームが対処すべきスパイク打数を求めることができます。
また、ディフェンスを行うべき相手スパイクに対して、“ディフェンスチームが失点しなかった”、言い換えれば “ディフェンスに成功した” とみなせるケースというのは
1. シャットアウトにより自軍得点
2. ブロックで相手コートに返球しラリー継続
3. 自軍がディグに成功しラリー継続
の3パターンが考えられます。
VISでは1.は「自軍のKill Blocks」として記録され、2.と3.はスパイクによりラリーが終了しなかったということで「相手チームのShots」にまとめて記録されています。
ということで、ディフェンス成功数は
で求められます。
以上を総合すると、以下の式で「ディフェンスを行うべき相手の攻撃に対してブロックやディグでどの程度失点を防いだか」という、総合的なディフェンス能力を算出することができます。
この指標をgood defenseと呼ぶことにします。
指標の中には上述の「サーブレシーブ成功率」や「セット当たりのディグ成功数」のように、勝率との相関が弱いものもあります。では、このgood defenseは勝利につながるディフェンスを評価できる妥当な指標なのでしょうか。
そこで、good defenseと勝率との関係を確認したいと思います。
ディグ成功数と勝率の関係図とは異なり、good defenseの値が大きくなるほど勝率も高くなっていることがわかります。
総合的なディフェンス力を表すgood defenseは、ディグ成功数よりも勝利と強い相関がある指標と言えるでしょう。
それでは、日本と他国のgood defenseを見ていきます。
表2より、日本の総合的なディフェンス力は諸外国と比べて常に遜色がないことがわかります。また、ロンドン前後で諸外国が若干数値を落としている中、日本は上昇しています。このことから、ロンドン後の眞鍋JAPANのディフェンス強化は確かに、一定の成績を収めていると言えるでしょう。
しかし、ブラジル・アメリカ・中国といった世界ランキング最上位クラスの国々の数値と比べると、若干ですが劣っています。
リオオリンピックでの日本の数値は他国や強豪国とも差がないので、総合的なディフェンス力の面で「普段の実力を発揮できずに負けた」という可能性は低いと言えるでしょう。
◎ 全日本女子のディフェンスの弱点はどこにあるのか?
日本のディグは他国と比べると優秀であることは先に示した通りです。にもかかわらず日本の総合的なディフェンス力を示すgood defenseの数値は、他国と大きな差がありません。これはなぜでしょうか。
これはバレーボールのディフェンスが、主にディグとブロックで構成されていることを考えると見えてきます。つまり、ディグが優秀であるにもかかわらず総合的なディフェンス力が平均程度ということは、ブロックの力が弱いからだ、と考えられるわけです。
では、日本のブロックのどういった点に問題があるのでしょうか。
この点を明らかにしていきたいと思います。
まず思いつくのは、日頃マスコミでよく報じられる「海外勢のスパイクにパワーで押されている」という可能性です。言い換えれば「ブロックには当たるものの力負けして、得点を奪われているのではないか」という可能性です。
この可能性を検証するため、相手スパイクがブロックに当たった本数のうち、“有効なブロックになった本数の割合” を考えていきます。ここで言う有効なブロックとは、“相手のスパイクによる失点を防いだブロックすべて”、つまりKill BlocksとReboundsの合計を指します(*5)。
Reboundsとは、相手スパイクがブロックに当たった本数のうち、どちらのチームの得点にもならずラリーが継続した本数を指します。
また、相手スパイクがブロックに当たった回数はBlock Attemptsという項目にカウントされています。
この指標をgood blocksと呼ぶことにします。
good blocksの値が大きいということは、ブロックコンタクトした際に有効なブロックとなりやすく、ブロックアウトや吸い込みが少ないということを示しています。
それでは、日本と諸外国のgood blocksの数値を確認していきましょう。
表3より、日本は最上位国と比べると少し劣ってはいるものの、諸外国と比べると常に遜色のない結果を残しています。
リオでの数値はロンドン以降の平均値と比べると低くなっており、有効なブロックコンタクトを行えていなかったことがわかります。しかし、リオでは他国や強豪国も平均値は下がっており、日本のデータと比べてそれほど差がないことから、「普段の実力を発揮できず、有効なブロックコンタクトが取れなかったことが原因で日本が負けた」というのも難しいでしょう。
以上のデータより、ブロックでスパイクにコンタクトすることさえできれば、日本も海外勢と同等程度有効なブロックを繰り出せているということがわかりました。「外国人選手のスパイクにパワーで押された結果、ブロック失点を重ねた」可能性は低い、と言わざるを得ません。
◎ 他国に引き離された “ブロックコンタクト力”
こうなると、次に考えられるのはブロックコンタクトそのものができていない、という可能性です。
good blocksの値が高くても、分母となるブロックコンタクトの数自体が少なければ、有効なブロックの数が多いとは言えなくなります。
この検証には、ディフェンスを行うべき相手の攻撃に対して、(失点・得点・ラリー継続といった結果にかかわらず)“どの程度ブロックコンタクトできていたか” という指標を用いることにします。
この指標をblock contactsと呼ぶことにします。
block contactsの値が大きいほど、相手のスパイクにブロックでコンタクトできていることを示します。
では、日本と諸外国のblock contactsを確認していきましょう。
表4より、 日本は外国勢に比べてブロックコンタクトを行えていないことがわかります。しかも、ロンドンオリンピック以降その差が大きくなっており、もともと諸外国に比べて劣っていたブロックコンタクト力の強化が、進んでいないこともわかります。
中でも最上位国との差は著しく、この点こそが、日本のブロックの弱点、ひいてはディフェンス全体における弱点である、と言うことができるでしょう。
リオでの成績はロンドン以前の数値に持ち直したようにも見えますが、諸外国の数値と比べると依然劣っています。また、ほかの期間と比べリオでのデータは標準偏差が小さい(平均値から大きく外れた数値が少ない)ことから、日本・諸外国とも、どの試合でもコンスタントに平均値に近い数値を出していたことがわかります。
ですから、リオでは日本と諸外国との平均値の差がそのまま直接、試合結果に影響していたことが予想されます。
◎ データが示す、 “4つの世界一” 戦略の正否
以上より、日本のディフェンスの問題点はブロックにあること、そして、その原因は海外勢にパワーで負けているからではなく、ブロックコンタクト力に弱点があるから、ということがわかりました。
そんな状況でも日本の総合的なディフェンス力が諸外国と比べて遜色がないのは、ブロックでコンタクトできないスパイクを優れたディグでカバーしているから、ということが考えられます。
眞鍋JAPANが、ブロッカーなしの状態で打たれる男子のスパイクをディグする練習を盛んに行っている、という話はリオオリンピック前によく聞きました(*6)。ある意味、そういった練習の成果が出ていたと言えるのかもしれません。
しかし、今回の検証結果から考えると、 高いディグ力をさらに高める練習をするより、ブロックコンタクトを増やすことで有効なブロック数を増やし、ブロックを抜かれたボールのディグだけでなく、シャットアウトやワンタッチボールの処理を含めた総合的なディフェンス力を高める努力をした方が、勝率の向上につながったのではないかと考えます。
もし、眞鍋JAPANの “4つの世界一” の中に “ディグ” ではなく、 “ブロック&ディグ” が入っていたなら、リオオリンピックの結果も違ったものになっていたのかもしれません。
(*1) 五輪切符獲得!真鍋監督が追求した「4つの世界一」と「世代交代」
(『サンスポ』より)
(*2) 渡辺寿規, 手川勝太朗, 佐藤文彦(2014)「『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール」
(ジャパンライムDVD, 第1巻)より
http://japanlaim.com/tokuten2/825pdf/825-1siryou.pdf
(*3) 大会や試合におけるチームや選手に関するデータを、ITを活用して収集・集計・発信するために、国際バレーボール連盟(FIVB)が開発し提供しているシステム
(岡山保美, 稲見肇(2012):「VISの話」『Volleypedia改訂版 Ver1.2』p104-105, 日本文化出版)
(*4) セット当たりのディグ成功数=(Digs+Receptions)/Sets
・Digs:攻撃につながるいいディグ
・Receptions:Digsほどではないがラリーが継続できたディグ
なお、フルセットの場合、最終セットは15点で終わるため、5セット目は15/25=0.6セット分として扱い、全体で4.6セットして算出
(*5) 固定項目:ブロッカーの能力は “Rebounds” で評価(NOTE)
(『e-Volleypedia』より)
(*6) 男子のスパイク拾え!大林素子さん明かす、真鍋J非情レシーブ特訓
(『サンスポ』より)
photo by FIVB
文責:大沢仁
Evidence-based Volleyball(EBV)の発展・普及を目指す草の根バレーボーラー