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ネルドリップの思い出

喫茶店にも色々あるけれど

私がネルドリップと聞いて思い出すのは、
10年以上前に『一般家庭を喫茶店として開放しているお店』へ
行ったときの事です。
当時確かブログで見つけたお店で、
普通の家庭を喫茶店として開放しているとはどんなだろう?と
好奇心もあったし、
なによりそのブログの文章の書き方、作り方が、
とても人柄や温かみを感じて惹かれたのだと思います。
行ってみると、本当に普通の住宅街にある戸建てで、
低い石の門を入るとお庭があって、
そこを抜けると、
玄関の前に喫茶店の小さな手作り看板がありました。
可愛い看板は出てるけど、入っていいものか?
人様のご家庭を訪問しているけれど、これは本当に営業中か?と、
かなり玄関前でモタモタしてしまいました。
それでも、もう自分は門を抜けてこの敷地内に入っているのだから、
不審者ではないと、堂々と訪問の意図を主張しなければ、と思い返し、
勇気を出してチャイムを鳴らしました。
すぐに家の主の女性が出てきて、
ブログを見て来店した旨を伝えると、快く迎え入れてくださり、
さあどうぞ、と言われて玄関に入った途端、
私は一瞬怯んでしまったのでした。
間口の広い玄関で、ツヤツヤに光る上がり框(かまち)が高い…
普通の一般家庭の上がり框より明らかに高いのです。
これは…、いや、門を入る時からそんな雰囲気だった、、
石を積み重ねた門と、きれいに手入れされたお庭の花壇、
この住宅街で一番の立地の角地、、、
ここのお宅は、そこはかとなく品が良かったのです!
立派な日本家屋でもないし、
どちらかというと
可愛らしさのほうが前面に出ている洋風な佇まいで、
一見、これみよがしの豪華さはないのですが、
それでも隅々に、
確かな見識を受け継いできたような余裕とか貫禄とか、
何かそんなものを、その若干高めの上がり框に感じながら、
私は恐る恐る靴を脱ぎ、スリッパをはき、
案内されてリビングに入りました。
そう、リビング、なのです。
訪問する前に私が勝手にイメージしていたのは、
一般家庭の一角に造作された店舗で、
靴のまま椅子に座れるような、
こじんまりとしたお店というようなものでしたが、
そんな想像はあっけなく消し去られ、
心構えもないまま、
見も知らない由緒のありそうなお宅の居間に
お邪魔している人になってしまったのです!
超緊張!😅
ソファーをすすめられて座り (ソファー!)
心を落ち着かせて、それとなく周りを見回してみると、
足元には絨毯、掃き出し窓からさっきのお庭の花壇が見えて、
テレビがあり、ソファーセットと目の前にセンターテーブル、
対面式のキッチンカウンターとダイニングセット、
壁にかけられたカレンダー、飾り棚にはレース編みの敷物、
いや、ちょっとまって、、、本当に品の良い一般家庭のリビング!

その家の主の女性は、おそらく60〜70代くらい、
にこやかに、キッチンから手作りのメニュー表を持ってこられて、
「ランチセットがおすすめで、自慢の料理を出せるのだけど、
今は材料がなくて用意できない、良かったら次回は予約をしてくださると
用意しておきます、でもドリンクとケーキセットならすぐに出せる、云々」
とのことなので、私はコーヒーのケーキセットを頼みました。
妙な緊張の中でも、聞かれるままに会話が進んで、
色々話しているうちに、少しずつ事情がわかってきて、
町内近辺の人たちの寛ぎの場所にしたいと始めたとか、
もともと料理が好きだったとか、
ブログに書いたけれど、それを見て来店したのは私が初めてだとか😅
普段は、掃き出し窓にちょっとした縁側のようなスペースがあって、
そこにテーブルと椅子を出しているのだけど、
今日は仕舞ってあるから、このソファーでどうぞ、とか、
成人した息子さんのお話とか、ご自身の趣味のお話とか、
そんなことを話しているうちに、出てきたコーヒーが、、
お待たせしました、ネルドリップコーヒーだったのです。
当然それまで何度も飲んだことがあるネルドリップだけど、
一般家庭のリビングのソファーに座っていただいたネルドリップの、
尖りのないまろやかな味が、
本当にお店レベルで (いや、お店なんだけど家庭という…)
なんと寛いだ親しみと気遣いのある美味しさだろう、と、
今でも忘れられないのです。
完全に私は、初めて伺ったお宅で素敵にもてなされていたのでした。
セットのケーキも出されて、それも手作りだったと記憶しているのですが、
正直どんなケーキだったか覚えていないくらい、
コーヒーの美味しさと、それを味わってるシチュエーションが強烈でした。
お話が進んでわかったことは、
その女性は地元の乾物問屋の娘さんだったこと、
嫁いでこの場所に家を建てたこと、
自慢のお料理にはその出汁を使っていること。
ご主人が、ではなく、奥様が、というのが、
なるほど、前面には出ないけれど、そこかしこに、
>確かな見識を受け継いできたような余裕とか貫禄とか、
などと感じた要因だったのかも、と、
そんなことを思ったりします。

それにしても、よく考えてみると、
突然来訪した知らない人を、
自分の家に招き入れてもてなす、ということは、
ある意味、怖いことでもあるのだけれど、
当時はコロナもなかったし、なにせ10年以上昔のお話で、
そのドンと構えた懐の深さ自体も、
店主の度量だったのかと考えたりします。
それから私が引っ越すことになり、
その後そのお店には行けないまま、
時間が経ってしまったのですが、
検索してもヒットしないし、
場所も曖昧になってしまって、
あのお店はどうなっているのだろう。
今だと自宅開放型喫茶店、というのは珍しくないでしょうが、
本当に当時の私は、レアケースを体験したのかもしれません。
コーヒーの美味しさと、もてなしの妙を感じた体験でした。

そんな思い出とは別に

動画で観るポッドキャスト『喫茶赤い手』の
エピソード3として、ネルドリップを扱うことになり
作成したのだけれど、正直ネルの使い方や保存方法に注力してしまい、
素敵な思い出は微塵も出てこないのですが、、、😅
初老の品の良いマダム、の雛形になったのは、
この時のこの店主がヒントになったとも言えるのです。
今現在のマダム・トワの語り口と比べると、
かなりゆっくりナレーションで、
声も全然違うのですけど、、💦
サクッと終わるボイスドラマ、
まったりした寛ぎの時間に、
ぜひ、御覧ください。


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十和言(とわ いえ)
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