akaneとザセキ・ケンさんの会話。
akaneは重い体を起こし、腫れぼったい目をこすった。
そしてやり場のない苛立ちを目の前の相手にぶつけてしまう。
「あんまりじゃないですか。あなたは1枚1枚、全部残らずただの紙切れになってしまうだなんて」
「しかしきみ、それは仕方がないことだよ」
ザセキ・ケンは笑って答える。
「ケンさん。もちろんこんな状況だから仕方がないと思います。でも、私が何のために働いているのか、もう何日も休日は家でじっとしているのか分かりますか」
「それはきみ、もちろん趣味を楽しんで心を豊かにするために働いていることは知っているよ。でも別に休日はもともと家で引きこもっていたじゃないか。何も今に始まったことじゃない」
akaneは正論をつかれてキュッと唇を噛んだ。確かに言われてみれば観劇や旅行など以外、休日は家にいることが多い。akaneはダラダラすることを好む。小さな用事はむしろ平日に入れることが多いのだ。何で知ってんねん。
「まあ、それは置いといて、とにかく私はつらいのです。もともと手元にあったケンさんは2枚ともダメになってしまった。今後手に入れるはずだった2枚のケンさんもキャンセルになってしまった」
「そうかい。でもそれは少ない方だよ。もっとたくさん私を失ってしまった人も多いだろう。それに、お金も返ってきてるから良かったじゃないか」
「お金の問題ではなく、心の問題です」
「お金、きらいだったかい」
「めっちゃだいすき」
無意識にakaneの目はドルマークになっていた。ちゃう、今は金より心の問題や。あぶない。気を抜くといつもこうだ。まったく、悩みの種である。
「しかし、私にどうしろというんだい。もう紙切れになってしまった私に」
ザセキ・ケンはうんざりしたように言う。
「わかりません。別にケンさんに何かを求めているわけでもないし、今の状況も理解しています。ただ、どうしても自分の中で消化できないものをぶつけているだけです。理不尽でしょうが」
「本当だよ。仕方がない、では何かひとつお願いごとを聞いてあげようか」
「お願いごと?貯金が500万増えますように、とかでもいいのでしょうか」
「今までの流れが台無しだ。心の問題じゃないのか。目がドルマークになっているぞ」
「あわあわ。ごしごし。では、ひとつお願いを聞いてくれますか」
akaneは深く息を吸った。そして勢い良く一息で言う。
「退団発表をしている全てのスターさんたちの退団を延ばしてくれますか」
akaneはゼィゼィと肩で息をした。言ってしまった。もうなかったことにはできない。ケンさんはさぞ、呆れた顔をしているだろう。退団を延ばす?そんなことは、歴史上ありえない。前代未聞だ。なんと滑稽で無謀な願いなのだろう。
しかし、次の瞬間。
ザセキ・ケンは言うのだ。
「わかった。そうしよう」
突如、akaneの指は魔法がかかったように宝塚歌劇の公式ページをアクセスしていた。そして、その記事を目にした瞬間、akaneの重たい冴えない目が美弥さんばりにかっぴらいた。
akaneの心は震えた。こんなことがあるだろうか。
思わずロックオン!のプロローグを歌って踊りたくなったが、過去に駐輪場で歌っていたら前に停まっていた車に人が乗っててめっちゃ見られたというトラウマがあるため、それはせずに終わった。
「まさか、こんなことが本当に叶うなんて。ありがとうケンさ…あれ?」
akeneが振り向くと、そこにはもうザセキ・ケンの姿はなく、払い戻しされた紙幣のみが静かに揺れていた。
akaneはボンヤリと、まるで今までのやりとりを夢のように感じていた。
しかし、手元の液晶画面が映し出すニュースだけは、夢ではないのだった。
もしかすると、あなたの手にある紙切れ。
ザセキ・ケンとして現れるかもしれません。
完。
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こんばんは、akaneです。
休みの日の朝から、俺はいったい何を書いてんだ?
こんな頭おかしい文章を書き散らす程度に、休日は家でダラダラしてます。
あんなにブログ書くのめんどうだったのに、いざ書かないと何か文章を書きたくなるもんだなあ。
しかし、退団者の延期は本当に良かった。嬉しい。
みなさま、体調にお気をつけてお過ごしください。
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