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【赤報隊事件】朝日新聞阪神支局襲撃事件を「やったのは私の霊の親なんです」という、使い古されたナラティブに反証する
本稿では、表題の件に絞って反証する。
表題の発言のように、「赤報隊=統一教会」犯人説を想起させるナラティブ(語り)がある。以下の代表的な3つは、ほぼ同様の内容である。
有田芳生「赤報隊と統一教会を結ぶ点と線」(「週刊文春」1997年5月15日号)
一橋文哉『赤報隊の正体』(新潮社、2002年4月)
樋田毅『記者襲撃』(岩波書店、2018年2月)
まずは、有田氏による記事の当該箇所を確認しよう。
「(統一教会)信者の中に、疑惑を招く発言をする者もいた。……『ところでみなさん、朝日の新聞社襲撃事件があったでしょ? あれは私の霊の親がやったんですよ』」(有田芳生「赤報隊と統一教会を結ぶ点と線」、「週刊文春」1997年5月15日号)
次に、一橋氏の著書の当該箇所を引用する。
「統一教会信者らを内偵捜査中に、
『87年5月5日、都内で開かれた信者の集会で、幹部の一人が壇上で「皆さん、朝日新聞社の襲撃事件がありましたね。あれは私の霊の親(その人物を信仰に導いた先輩信者)がやったんです」と話し出し、会場では『サタン(宗教上の敵の意味で、朝日新聞を指す)を、ついに倒した』と割れんばかりの拍手が起こった』
との内部証言を得たことだ。
5月5日と言えば、阪神事件のわずか2日後、信者を思わせる人物からの脅迫状が届いたことは、まだ知られておらず、この発言が疑惑を招いたのも当然だろう。
『統一教会への捜査は確証を得られず、一応、シロと判断している』(警察幹部)
というのが実情だ」(一橋文哉『赤報隊の正体』p.128)
最後に、樋田氏の著書の当該箇所である。
「(1987年)5月3~5日の3日間、東京・八王子市にあった教団の施設で(マイクロ部隊の)講習会が行われた。この講習会の2日目、つまり5月4日の朝会で、マイクロ部隊の中山隊長(仮名)が90人のメンバーを前に、『皆さん、関西で起きた朝日新聞の襲撃事件を知っているでしょう。実は、やったのは私の霊の親(α教会へ誘った人)なんです』と話したという。聞いていた人たちの中から拍手が起きたのを、(元信者の)桜(明美)さん(仮名)は覚えていた。……中山隊長の行方についても、他の脱会者からの情報収集を重ねたが、本人に会うまでには至らなかった。つまり、発言内容の真偽を明らかにはできなかった」(樋田毅『記者襲撃』pp.142~143)
ちなみに、この証言をした桜明美さん(仮名)は、「86年10月から87年11月までα教会(統一教会)の信者だったが、新潟の福音キリスト教会の松永堡智牧師の説得で脱会していた」(同上)という。
一橋氏や樋田氏による記述を読めば、「マイクロ部隊の中山隊長(仮名)」の「霊の親」(統一教会へ誘った人)が、「赤報隊事件」(朝日新聞阪神支局襲撃事件)を「やった」のではないかと、疑念を抱いても不思議ではないだろう。
しかし、このナラティブは「虚偽だ」と断言できる。
以下に、実際に松永堡智(やすとも)牧師に脱会説得を受けた被害者(生還者)の、大変説得力のある反証を紹介したい。
* * *
この桜氏(元信者)の証言は嘘だと思います。
その根拠は、朝日新聞阪神支局襲撃事件(1987年5月3日)が起こってから、桜氏が松永牧師の説得を受けて脱会する(同年11月)までの期間が、半年間だったということです。
もし、桜氏の経験が事実なら、桜氏は脱会後すぐに、自身が見聞きした、たった半年前の恐るべき経験(マイクロ部隊の講習会で聞いたことなど)を松永牧師に話さないわけがありません。脱会したら真っ先に話すはずです。そんな話が出れば、松永牧師は真っ先に警察に通報したはずです。
残忍な殺人事件が起き、犯人の足取りを必死に追っていた警察にとって、これほど有益な情報はありません。
松永牧師をはじめ、統一教会に反対する人々にとって、統一教会の犯罪を特定する絶好の証人が現れたわけですから、松永牧師は彼女を連れて警察に行き、警察はその人物(「中山隊長」やその「霊の親」)をすぐに特定し、犯人はとっくに捕まっていたはずです(しかし、実際にはそうならなかった)。
よって、彼女の証言はデタラメだと思います。
* * *
以上、朝日新聞阪神支局襲撃事件を「やったのは私の霊の親なんです」という、使い古されたナラティブについては、白黒ハッキリしたのではないだろうか。
巧妙なナラティブには要注意である。
「赤報隊事件」については、以下の記事も参考にしてほしい。