【「ベア」と「定昇」の違いと、昇給率のざっくり計算方法】
ベトナム人事労務コンサルティングのアジアゲートベトナム代表の豊田英司です。
「ベア」と「定昇」の違いについてピンとこない、という方が結構、いらっしゃいます。
「ベア」は「ベースアップ」、「定昇」は「定期昇給」の略です。
すごく単純化していうと、「ベア」は個人の成績や勤続年数などには関係なく、物価の上昇などに対応するため、賃金テーブルの金額全部が一斉にアップすること、「定昇」は定期的(一般に1年一回)に勤続年数や成績、能力向上に応じて賃金が上がることを指します。
例えば、ある会社で、同じマネジャー(M)の中での給与ランクとして
の3区分があったとします。
ある年、物価がすごく上がったので、この、それぞれのランクの金額自体を以下のように$25ずつ上げたとします。
これが「ベア」です。
一方で、去年、ランクM1($950)にいた人が成績が良くて、今年はランクM2*($1025)に上がったとしてます。
これは「定昇」です。
結果、この方は昨年$950の給与が$1025と$75ドル上がったことになります。
日本ではこの30年、物価がほとんど上がらず、「ベア」がほとんどない企業も多く、「定昇」だけが実施されていた企業が多い状況があります。
一方でベトナムは毎年4%程度、物価も上がっているので、まず、「ベア」として何%かあった上で、さらに能力や業績の向上に対する反映としての定昇が3%くらいあっての合計7%くらいの昇給、というような年が多かったように思います。
ただ、大半の日系会社では、このように「ベア」「定昇」などで積み上げて考えてはおらず
だけしか考えていないので、この辺りが整理されないまま、
と日本側から言われても「みんな、このくらいなんですよ」としか反論できないので、今年の賃金アップ相場を証明できる資料ないですか?というご相談が殺到する、と言うことになります。
大事なポイントとして、「ベア」は原則、成績が良いとか能力が上がったとか関係なしに全てのランクの賃金額がアップしますが、定昇は成績も良くない、能力も上がっていない、仕事内容も変わらないなら、特に上げる必要はない、ということです。
ただし、今まで、実質的に「1年勤めれば、必ず定昇がある」という「勤続年数=定昇」文化になっている会社では、そもそもの「人事評価制度」を見直す必要があるように思いますが。。。
要するに、
ということです。
ちなみに「じゃあ、定昇って、毎年、何%くらいにすればいいの?」と言うご質問も多いのですが、これはそれこそ本が一冊書ける内容ですが、一番簡単な方法をご紹介します。
(1)今、一番、下のレベルの新卒従業員の方の給与が500ドルだとします
(2)管理職になるマネジャークラスの給与が1200ドルだとします。
(3)この(1)から(2)に上がるのに必要な年数イメージが約15年だとします。
(4)これらをCAGR(年平均成長率)の法則を利用して計算すると1年あたりの昇給率は
となります。
(5)これにより、仮にある年にインフレやベアなどが全くなかった場合には、1年あたりの標準評価者(いわゆるB評価者)の定昇は4.0% - 4.5%くらいと設定できる。
(6)そして、前年に比べて消費者物価が上昇していれば、その数字を加算することで、大体のその年の標準的な昇給率が算出できます。
例えば、2022年のベトナムの物価上昇率は年間で3.15%でしたので、これを足すと、概ね標準評価者の昇給率イメージとして「4.0% - 4.5%」+「3.15%」=「7.15% - 7.65%」くらいの仕上がりになろうかと思います。
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もちろん、これは職種や業界によって変わりますので、悪しからず。
「うちの業界は30歳くらいでマネジャーになり、その時は2000ドル払ってもいい」のであれば、500ドルが8年後に2000ドルになるので、一年あたりの定昇率は18.92%と算出できます。
これにインフレ率を加算することで標準評価者の平均昇給率が出せることになります。
これはあくまでもこれはざっくりした話ですが、この辺りは賃金施策の一丁目一番地の話なのですが、意外と整理されないまま、見過ごされがちなので、今回、取り上げてみました。
(アジアゲートベトナム代表 豊田英司 )
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