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「自社で人事評価制度の改革できるかな?」というお客様への返信

下記は実際に私がある企業様からの表題の質問について回答した内容です。
「自分たちでなんちゃって人事評価制度を作ってみたんだけど、こんなんじゃまずいよねー?」というメールに対して、下記の返信をさせていただきました。
私の現時点での人事評価制度に対する考えをまとめる上で長文ですが書いてみました。
(匿名性担保と、読みやすさのために、内容は少し加工しています)


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「メリハリのある人事評価制度、報酬制度」の落とし穴


⚪︎⚪︎様

いえいえー、私の持論は「人事評価制度はご自身で納得、理解して作られたものが一番いい」と思っていますので、「なんちゃって」なんてとんでもないですよ。

【「メリハリのある評価」の”落とし穴”】
https://note.com/vnhr/n/n823b4ba19d44

こちらのコラムで書いたのですが、結局、いろいろな会社が

「メリハリのついた評価制度」

ということで、ABC評価による昇給や賞与の額の格差を広げようとしたり、人事考課の項目をより「数字で表せるもの」「定量的なもの」に変えることだけを「人事評価制度の改革」だと思いがちだと思います。

しかし、これらには副作用もあって、問題として


(1)格差が拡大すれば、低評価を受けた人(Aが最高なら、BもCも文句を言います)の「不満」は今より拡大します。

(2)そうすると経営者は「じゃあ、文句が出ないように数字でわかりやすいKPIにしよう」と考えます

(3)しかし、目標は数字かすればするほど以下の問題が出てきます
 ー 目標が高すぎるOR低すぎるようになっちゃった問題(熟練してきたり、環境が変わったり)
 ー 目標がズレてる、足りない、過剰、などだが、数字で目標設定して走っているので、途中で変更を言い出せなくなる

(4)で、結局、「目標が変で会社も不満、従業員も不満」

(5)永遠に「誰も文句を言わない、公正で、数字化された完璧な目標」を探し続ける

と、まぁ、こうなってしまいがちですが、これについては、あまり人事コンサルや人事系の本も触れようとしません。

この話をすると

「じゃあ、評価項目変えるのやめる?」「定量化するのやめる?」

ってなってしまい、それでは人事コンサルの仕事が減ってしまいますので。

ですので、みなさんが「人事評価制度の変更」というとパッと頭に浮かぶ「目標項目の変更」や「成績の差による報酬の差の拡大」に着手することは副作用も結構ありますし、けっこう、扱いが難しいものです。

まずはこれを頭に入れておいていただいた方が良いと思います。

「優先すべきは”悪い評価もきちんと納得させられるか”」

それをやるよりも、まず、最初に着眼すべきことは

「今の自分たちの会社の評価項目において、成果を挙げていない、能力が低い人に、きちんとその事実を伝え、そして本人たちも納得できているか」

という「コミュニケーションのインフラ整備」をすることのほうが絶対に良いと思います。

「コミュニケーションをきちんと取れる=悪い事実も共有し、お互いが納得できる」

lこの状態を作ることには副作用がありません。

どこの世界にも「うちの会社は、納得いくまで目標を説明してくれて、こちらの意見も聞いてくれて、期待と現実のズレが生じないので不満だ!」という人は存在しませんので。


(「格差」が「不満」を増大させるのは人の世の性(サガ)ですね、、、)

これができていないのに、「評価項目を変える」「報酬の差を拡大する」ことをしても、「ボロボロの下水管」に、報酬差の拡大から生じる「不満・嫉妬・憎悪」という「濁流」を流して、決壊して汚水が溢れ出てしまうようなものですので。

人は「給与が下がる」「他人より低い」と思ったら、どんなに数字化したり、KPI項目を変えても、それだけでは納得しません。

やはり、低評価にせざるを得ない人に対してのコミュニケーションとして

・面談回数/時間の多数回化(半期に一度→四半期ごと、毎月)
・面談時期の早期化(昇給決定直前ではなくいかに早期に面談を行うか)

・面談者の見直し(より実務状況を知る人の追加など)
・面談内容の整備(コーチング技術の習得、ヒアリング項目の”型”化など)

こういう、「地道な合意形成のためのインフラ整備」を優先すべきだと思います。

「多くの会社で”良い人に良い報酬”を与えられない訳」

多くの会社様で、「成績がいい人に、いい報酬を与えられない」ことの原因は、評価項目のズレや抽象的な評価項目のせいではなく、

「成績が悪い人に、それなりの報酬しか与えないことを、従業員に納得させることができていない」

ことだと思います。

(低い評価を伝えることは誰でも嫌なものです)

特に日本に比べて、そういう不満を隠さず、口に出して不平を言うベトナムでは、日本人は妥協してしまいがちですので。

そして、結局、みんな、同じような報酬にせざるを得ないところから、

「良い人に良い報酬を与えられない状況」

が生まれていることが大半ですので。


(成績差を納得感ある報酬差に落とし込むには十分な「話し合い」が必要です)

特にベトナムでは「評価の差をつける」ことを嫌がるマネジャークラスの方が非常に多いですので。

「コミュニケーション強化」より「項目変更」「定量化」が優先される構造的理由

一般に人事コンサルさんの収益というのは

「評価項目を変えるべきなのでそのために従業員の方にヒアリングをして現場の声を反映したものを作成しましょう」

という

「作業工数 x コンサルの時間単価」=「業務フィー」

で決まるので、こっちの作業を優先したがります。

が、極端かもしれないですが、やはり、「従業員の個別目標」というのは、順番で言えば、まず会社の目標からトップダウンでブレイクダウンされるもので、それをボトムアップ主導で従業員側から聞けば、

「自分がやりたいこと」「自分がやれそうなこと」

に傾いてしまうのは、これもまた、人の性(サガ)だと思います。

「あなたは性悪説すぎる!人は性善説で信頼すれば、会社のためになる目標を掲げる!」

と言う方もいらっしゃるとは思いますが。

もちろん、「現場の声を無視しろ」という話ではなく、「主軸は会社全体の目標があって、そこから、個人に降りていくものですよ」という順番の話です。

これは賛否両論あるのはわかっていますが、現実的な話、

「金と時間と企業側の担当人員」

これが無尽蔵にあるなら別ですが、副作用もあり、作業工数もかかる

「目標項目の変更」
「目標の定量化」

から始めるのは非効率的ではないか、という私のあくまでも「仮説」です。

そして、企業様側の担当者レベルで考えても「人事評価の改革をせよ」と命じられた場合に、やったことを明確に示すためには

「目標項目を変えました」

「目標項目を定量化しました」

「評価差による報酬の差を拡大しました」

という方が「きちんと話し合いをして、低評価者に合意をさせられる体制を強化しました」という話より上司に示しやすいのもあるとは思いますが、、、


(評価制度の見直し→評価項目変更、目標の数字化、報酬差の拡大、と考えがちですが、、)

(最後に)

長々と書きましたが、とにかく、まずは、きちんと「会社が期待する達成度」と「本人たちが思っている達成度」が合致する状態を作れる話し合いのインフラ整備を強化できれば、そこで望ましい「予算分配」ができ、成績の良い人にそれを回せば済むことですので。

極端な話、KPI目標なんて、話し合いがきちんとできる状態ができていれば

「会社が目指す目標と利益を上げて、みんなでその利益を分け合って給与も上げてハッピーになれるよう、従業員、それぞれが自分が行うべき行動と成果を考えて、全力で頑張ろう!」

で十分なわけです。

実際、昭和の日本の会社なんて、ほとんど、これでやっていたわけで。。。

ということを四半世紀、人事のことに携わってきて、今、思い至っております。

結局、人事とは会社目標達成に向けて、従業員の「感情」と「理性」をどうバランスさえ、生き生きと頑張っていただくこ、これに尽きるわけですから。

極端な論だと思われるのは百も承知でしたが、自分の考えをまとめる上でも、少し長文を書いてしまいました。

以上 豊田

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