第747回「豊田英司の"今日のベトナムニュース解説"」ベトナムでも増える親族の土地”争”続の問題
本日の記事：
「不動産トラブルが暴力事件に発展」
原題：
" Property disputes result in violence "
記事リンク：https://e.vnexpress.net/news/industries/property-disputes-result-in-violence-4551606.html
【本日のポイント】
（１）ベトナム北部の省で土地相続をめぐって母親と娘三人が争い、母と二人の娘が死亡し、一人が渋滞となる事件が発生した
（２）この30年、ベトナムでは土地は必ず値上がりするという「土地神話」のもと、多くの人々が土地に熱狂し、また争ってきた
（３）ベトナムの経済成長も安定化してきた昨今ではあるが、かつて儒教的な長兄相続が当たり前だったベトナムでも、兄弟、姉妹の間で土地を巡った相続争いが増え、もはやベトナム社会の姿さえも土地が変えていく様子が伺える
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【解説】
アジアゲートベトナム代表の豊田です。
さて、今日の記事について。
仕事柄、ベトナムの弁護士事務所と一緒に仕事をすることが多いわけですが、私たちが普段、そういった人たちと接するのは「会社設立ライセンスの取得」ですとか、「会社移転手続き」などの行政手続き代行、みたいなことが大半だと思います。
しかし、実際にはベトナムのローカルの弁護士事務所で最も手掛けることが多いのは「土地」にまつわる紛争だという話をきたことがあります。
これだけ「不動産」の価値が「労働」に比べて突出して大きい社会では「さもありなん」と思いました。
で、今日の記事ですが、まさにそういった土地相続に関する争いで親族同士が暴力や裁判を伴う争いをするケースが増えている、という記事です。
まぁ、個別の事象はともかく、これも一貫したテーマがあると思うんですが、1990年代中旬頃から外国企業からの投資が本格化することで、それこそ、昨日まで荒地だった土地が何億円、何十億円、時には何百億円というお金に変わる、という
「ゴールドラッシュ」時代が始まりました。
また、そういった投資マネーをきっかけに国内経済も活性化すれば、商業施設の開発、そして、より便利な場所に住みたいという住宅市況なども共に成長し、幾たびかの波はありましたが、この30年近く、ベトナム社会は一貫して「土地神話＝土地さえあれば豊かになれる」という信仰で生きてきたと言って良いと思います。
それがこの数ヶ月、一気に大手不動産会社が倒産し、不正による逮捕者も続出し、一気に市況が下落しています。
もちろん、ベトナムの経済はまだまだ成長しますので、それに伴う商業や住宅開発がある限り、また復調するとは思いますが、もはや、「無から有を生み出す」ような
「土地神話が生み出すゴールドラッシュ」
の時代は終わり、今後は堅調な土地収益を求めるような時代に変わる、一つのターニングポイントの時期に我々は立っているような気がします。
そんな「土地神話」の只中にいるベトナムでは、土地によって豊かになった家族たちが、同時に家族間の争いを増やし、ついには家族同士で争い、時には殺人事件にまで発展しています。
先日、ベトナム北部フンイエン省では母親が所有する一等地の土地相続をめぐって3人の娘が母親の家を焼き払った事件がありました。
母親と2人の娘は死亡し、3人目の末娘は入院中だそうです。
ベトナムの土地紛争に関わる裁判件数の伸びが尋常ではなく、2017年と2018年に扱った土地紛争が立ったの1万5000件ほどだったのが、2020～21年にはなんと35倍近い53万7000件に急増しています。
まぁ、これは新型コロナに関わる経済不況が一番の要因と思いますが、この中でも「親族同士の争い」は多く含まれているそうです。
「土地価格の上昇」と「曖昧な法律」により、ベトナムにおける土地に関する紛争はますます頻発し、複雑化しています。
あるベトナムの司法当局者は
「1985年までは、裁判所が対応する土地紛争の民事事件はほとんどありませんでした。ところが2010年以降、土地に関する紛争は増加しており、家族や一族が関わる紛争が多くなっています」
と述べています。
日本でもかつては土地を巡って遺産相続ならぬ「遺産”争”続」などと揶揄される親族間の争いが話題になりましたが、最近は日本の地方の土地などは逆に買い手も活用法もないのに、相続すれば老朽化した建物の維持費や取り壊し費、また固定資産税などの負担もあり、かえって
「”負”動産」
などと言われるようにもなってきました。
土地が生み出す愛憎劇は日本もベトナムも変わらないようです。。。
以上 豊田英司
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