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ショーソン:詩曲 Op.25

E.ショーソン(1855-1899)

パリ音楽院にて、マスネ、フランクの教えを受けたフランスの作曲家。
彼の作曲活動は3つの時代に分けられる。詩曲は1894年(父が亡くなった年)から始まった第3期の1896年に作曲された。この時期の彼は印象派の詩人たちと付き合いがあり、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、トルストイといったロシアの小説家の作品を多々読んでいた。このことは彼の内向的で思索にふけりがちであった性格に加え、彼の心の奥底にペシミズムをしのばせいていくこととなる。そしてこれらの思考は「詩曲」などの作品の中の旋律となって再現される。

詩曲について

この曲の自筆譜には、「ヴァイオリンとオーケストラのための詩曲」という題名のほかに「勝ち誇れる恋の歌」という書き込みがある。これはツルゲーネフの小説の題名である。なお、彼は後に標題による束縛を嫌ったためか、題名から小説の名前は消され、「詩曲」とのみ名付けられた。小説の舞台は16世紀のイタリア。2人の若者、画家ファビユスと音楽家ミュシユスは、美しい女性ヴァレリアに狂おしいまでに恋をする。しかし、彼女がファビユスとの結婚を望んだために、ミュシユスは東方に向けて旅立って行く。しかし数年後、突然彼は魔法に精通した召使いを伴い帰って来た。ある晩夫妻に招かれた彼は、その酒の席でヒンズー風のヴァイオリンで民謡や情熱的な旋律(勝ち誇った恋の歌)を弾く・・・ショーソンは小説の流れを追いつつ、登場人物の持つ神秘的な雰囲気を見事に表現している。
「詩曲」は五部に分かれた古典悲劇の枠に従って構成されている。第一部のレント・エ・ミステリオーソは、脅かされた幸福のように厳かで暗い前奏曲から始まる。物思いに沈んだような雰囲気を漂わせつつ、次にヴァイオリンソロが叙情的で女性的、そして静かに深く夢を見るような歌「ヴァレリアの主題(第1主題)」を奏する。ヴァイオリンの長いカデンツァを経て一層緊張感が高まっていき、第二部のアニマートに入り第2主題となる「ミュシユスの主題」が奏される。第三部は同じ妖術に捉われたヴァレリアとミュシユスの様相が、長く熱狂的なクレッシェンドとヴァイオリンのオクターブによって表現される。第四部は古典悲劇の形式に倣って、悲劇のクライマックスが訪れる。導入部の動機がさらに神秘的で悲劇的になり、第1主題と第2主題が反復される。そして第2主題が壮麗で勝ち誇ったニ長調となり奏されるのだが、すぐに暗雲が立ち込める。ファビユスが登場し、友人であるミュシユスを殺してしまうという血なまぐさい惨劇が起こるのだ。登場人物のそれぞれの叫びがヴァイオリンとオーケストラ(ピアノ)によって表現される。第五部、場面は一転する。第一部が復帰し、妖しい魔法が解けたことによる一種の勝利が第1主題の回帰により現される。重苦しい雰囲気も徐々に消えていき、嵐の後に小鳥が囀るかのように、ヴァイオリンがE線の高みから徐々に降りてくる。そして終結感を与えずに、傷ついた魂を柔らかく包み込むようにして幕が下りる。


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