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製品への信念とユーザー理解の両立:TOTOの対応に学ぶものづくりの要諦
一週間前の毎日新聞の記事ですが、TOTOのトイレ便座(ウォシュレット)をトイレットペーパーで拭いたら傷が付いたため「もっと丈夫な素材で作ってほしい」と嘆くXの投稿が話題になり、TOTOは次のようにコメントしているそうです。
ウォシュレットのプラスチック樹脂をトイレットペーパーや乾いた布で繰り返し拭くと表面に目に見えないほどの小さな傷ができて、そこに汚れが付着して黒ずむ場合がある。
したがって、水でぬらして十分絞った柔らかい布で拭くことが推奨される。
材質は品質、安全、価格などのバランスを考慮して選定しており、傷への耐性が高い素材の研究は進めているが、現時点で素材の変更は予定していない。
TOTOのコメントは塩対応に見えるかもしれません。しかし、ウォシュレットの目的と価格、品質を総合的に考えれば現状の素材で問題はないと結論づけ、拭き掃除は柔らかい布で行うように代案を提示しているところからすれば、冷静で丁寧な対応だと考えられます。このように自社の製品に自信をもって冷静かつ丁寧に説明をする姿勢は一見簡単なようで実は難しいことだと思います。
私の経験にまつわる例で言えば、販売管理システムの選定をする際に、ユーザー側が自社の業務フローに合わせて大小様々な要求を挙げることがあります。しかし、要求を全て叶えられるシステムはパッケージではまず存在しませんし、カスタマイズするにしても相当な費用がかかってしまいます。
ユーザー側にとって重要なのは、まずそのシステムの設計・運用思想を正確に把握することでしょう。裏返せば、システムベンダー(ないしコンサルタント)にとってはその設計・運用思想をユーザー側に正確に伝えることが重要です。
相当数のユーザーに使用されている業務システムは一般的に、その業界及び業務に詳しい専門家の監修を受けて開発されているので、それを使ってできないことは原則的にはありません。そうしたシステムが業務に適合せず導入に手間取る要因は、ユーザー側の業務フローが標準化されていなかったり、効率化されていなかったりする場合が多いと考えます。
以前は、システムベンダーもユーザー側の要求を最大限実現しようとして、多大な工数のカスタマイズを提案する(その見積もりにもエンジニアが相当な工数を割いているわけですが)ことをしていたように思いますが、近年はパッケージの機能を拡充してカスタマイズを最小限にする動きが定着してきたように思えます。
最たる例はオービック社のOBIC7で、最近ではカスタマイズよりもOBIC7と連動する他社ソリューションのラインナップを揃えることで、細かな要求に応えられるような体制を敷いているそうです。OBIC側も自社ソフトの設計・思想を明確に伝えることで、ユーザー側の理解と期待の不一致を防止しているようです。
ユーザー側としてはシステムに限らず自分が利用しようとする製品やサービスの使い方――それは本質的には製作者の意図ですが――を理解することが必要でしょう。一方でシステムやその導入に関するコンサルティングを提供するベンダー側としては、その製作者の意図を自信をもってユーザー側に説明し、理解をしてもらうことが重要です。そのためにはブレない信条と思想のもとに製品やサービスを作ることが前提になるのは言うまでもなく、実際にはそれこそがものづくりの本質の一面とも考えられるかもしれません。