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実バラ(実態バランスシート)の重要性と注意すべきBS科目


実バラ(実態バランスシート)とは

 企業の決算報告書のうち貸借対照表(BS、バランスシート)は、企業価値を算定するための重要な参考資料のひとつです。なぜなら、BSはその企業がその時点で解散・清算したときの価値(清算価値)を表しているからです。清算価値は一般的には資産と負債の差である純資産が目安になると言われますが、現実には監査法人が付いて厳密な監査が行われている上場企業や大会社などでない限り、純資産額を企業価値の目安にするのは危険です。

 というのも、監査法人が付いていない、特に社歴の長い非上場会社や中堅・中小企業の中には、BS上の金額とかけ離れた価値しかない資産や、帳簿に載っていない(いわゆる簿外)負債が存在することがよくあるためです。そのため金融機関は中小企業に対してしばしば「実バラ」(=実態バランスシート)の提出を求めます。実バラというのは、前述した実態がない(または過少な)資産や簿外の負債を正しく計上し、実態に合うように修正したBSを言います。金融機関は実バラを見ることで、その会社を清算したときに幾らの価値になるのか、つまり担保がどの程度取れるのかを計算し、融資の判断材料にしているわけですね。

BS鑑識眼は経営者・財務責任者の必須スキル

 また、いまの時代は大小問わず様々な会社が他事業者のM&Aを実行していますし、個人でも退職後のセカンドキャリアとして中小企業のオーナーになる方が増えているそうです。M&Aをしたりオーナーになったりする際には、原則的にはその企業の株式を購入することになりますが、その株式の購入価額、すなわち会社の価値を算定する際にこの「実バラ」が重要な参考資料になります。会社を売る側にはファイナンシャルアドバイザー(売りFA)が付いていますが、売りFAは良いことしか言わない、なんてことも少なくありません(不動産会社と似ています)。

 従って、会社を買う側がBSを観察し実態を検証する、いわゆる財務デューデリジェンスを行う必要があります。もちろん財務デューデリジェンスをコンサルタントに依頼することは可能ですが、BSに対する鑑識眼は経営者や財務責任者にとって重要なスキルのひとつです。M&Aだけでなく、取引先の与信を判断する際にも決算書は重要な参考資料になるためです。売掛金を回収できなければ、売上はなかったのと同じになってしまいますからね。

要注意BS科目(そこに実態はあるんか?)

 前置きが長くなりましたが、私が今回紹介したいのは「決算書上の注意すべきBS勘定科目」です。あくまで私の経験をもとにしており、細かい点は省いていますので全てを網羅するものではありませんが、大まかなイメージを持っていただくのに役立てていただければ幸いです。

売掛金

 得意先の数が多ければ決算書(勘定科目内訳書)には一部の得意先名しか載らないので、架空の売掛金があっても決算書だけからは分かりません。したがって、得意先別の債権残高一覧表を見る必要があります。数年分の債権残高一覧表を見て、金額が動いていない得意先があれば要注意です。架空でないとしても、実際には倒産していたり連絡が取れなくなっていたりして、債権回収が不可能なこともあります。得意先の債権残高検証は財務デューデリジェンスの肝のひとつですが、得意先の数が多ければ多いほど骨が折れますので、労力と相談して一定金額以上の債権残高がある先だけ実態を検証する、という割り切りも、時には大切になるでしょう。

棚卸資産(商品、製品、半製品、仕掛品、原材料)

 棚卸資産もまた、実態のないまたは実態が過少な資産が計上されているリスクの高い科目です。監査法人付きの会社では必ず商品評価損を計上しますから簿価が実態と大きく乖離することは起こりにくいのですが、そうでない会社では商品評価損が計上されず、結果的に棚卸資産の額が過大になっていることも少なくありません。在庫管理システムのデータを精査して、いまある在庫が何か月、何年滞留しているのかを品目ごとに検証し、かつ実物を実地で確認する必要があります。これもまた非常に骨が折れる仕事ですが、在庫もまた財務DDの肝なので、何らかの基準を設けて効率的に検証したいところです。

貸付金

 役員や親族、従業員、子会社に対する貸付金は要注意です。契約書の内容とその通りに定期的に返済が行われていることを確認する必要があります。契約書がなかったり、返済が止まっていたり、気まぐれな動きをしていたりしている場合は、全額の回収は難しいかもしれません。会社のガバナンスを評価するのに有用な科目です。

減価償却資産(建物、建物附属設備、機械装置など)

 既に廃棄したのに除却処理をしておらず資産の簿価が帳簿上に計上されていたり、減価償却費の過少計上により資産の簿価が過大になっていたりします。監査法人付きの会社では減価償却費の過少計上は当然認められませんが、そうでない会社では営業利益を底上げするために減価償却の先送りが行われることもあるのが現実です。固定資産台帳から取得年月と資産種別、耐用年数を見れば各資産の正しい簿価を算定できるので、検証は比較的容易でしょう。実物があるかどうかの実地確認も必要です。

土地

 都心部にある土地を除き、1980年代以前に購入された土地は大抵の場合、価値がとんでもなく暴落しています。公示価格を使って価値を算定するのが一般的です。多くの場合、バブル崩壊の恐ろしさを思い知ることになるでしょう。

電話加入権

 BSの飾り。価値はゼロです。何か知らない方は「NTT 電話加入権」で検索してみてください。電電公社がなぜ全国に電話網を張り、設備を整えることができたのか。すべてがここに詰まっています。価値はゼロです。

関係会社株式

 子会社を設立するときに払い込んだ資本金の額がそのまま載っていることが多いです。子会社の業績が良ければ実態は簿価よりも大きくなりますが、そうでないことも多く、子会社が債務超過ならば資産でなくむしろ負債になりえます。子会社の決算書を見に行く必要があります。私の中では、簿価が当てにならない科目ナンバーツーです。

ゴルフ会員権

 簿価が当てにならない科目ナンバーワンです。バブルの恐ろしさを思い知るでしょう。一部の名門ゴルフクラブを除いてゴルフ会員権の価値はゼロ、むしろ名義変更にお金がかかるためマイナスです。帳簿には数千万円の価額が載っているでしょう。当時は会社が実際にそのお金を出して買ったのです。そしていま、会社には借金だけが残っています。本当に、哀愁しか感じません。

 なんだか長くなってしまったので今回は資産の部だけで終わります。負債の部にも未払残業給与や厚生年金基金など香ばしい科目がありますのでまた次回ご紹介したいです。


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