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幻のニカラグア運河:地政学の狭間で揺れる中米貿易ルート
トランプ氏が1月7日の記者会見で「我が国にとって不可欠」なパナマ運河が「中国に運営されている」と主張したと報じられています。パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領はこの主張を否定しています。トランプ氏は過去にパナマ運河の通行料が法外すぎるとパナマ政府を非難していますが、これは国内企業が輸出する際に有利な条件をパナマに押し付けようという動きと考えられます。
ところで、いまはこのパナマ運河が中米を通る貿易ルートの要衝として活用されていますが、当初アメリカが中米への運河建設を計画していたときには、パナマ・ルートとニカラグア・ルートの両方が検討されていました。アメリカは1901年にニカラグアへの運河建設権を取得しますが、ここでカリブ海の火山が噴火し多くの死者が出る災害が起きます。パナマ・ルート推進派はここぞとばかりにニカラグアにある火山が噴火する可能性をアピールしてネガティブキャンペーンを展開し、その結果、ニカラグア運河建設計画は立ち消え、1904年にパナマ運河建設が開始されることになりました。
しかしその110年後の2014年、香港企業であるHKC社傘下のHKND社がニカラグア運河建設工事を受注しました。これは総工費約500億ドル(当時の日本円で約6兆円)の大型事業でした。HKND社は中国政府の意を受けて動いていたとも言われており、中国はパナマ運河に代わる海運ルートを開拓することで、中米に影響力の強いアメリカに対抗したいという思惑を持っていたと考えられています。
しかしその後、HKND社の資金不足や住民の反対運動により建設は進まず、2024年にはHKC社の破産を受けて関連法令が国会で撤廃され、現在、ニカラグア運河建設の実現は不透明となっているということです。
(参考)外務省「ニカラグア基礎データ」https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nicaragua/data.html
こうした背景から考えると、トランプ氏の「パナマ運河は中国に運営されている」という発言も、中国が中米諸国に接近したり、あるいは中米諸国が中国に接近したりする動きを牽制する狙いがあるのかもしれませんね。
ちなみに、パナマ運河は高低差のある河川や湖を繋げて建設されており、水門を使って船舶の通行を可能にするロック式という技術が使われています。これはフィクションのような大掛かりかつシンプルな仕組みで、見ていて非常に面白いです。興味を持たれたら、以下のサイトやYoutubeの動画などで調べてみてください。
(参考)サントリー「世界の運河と人びとの技術」
https://mizuiku.suntory.jp/kids/study/k018.html