薔薇のメイド~オリジナルSS~
洗いたての太陽が上がる頃、 メイドの一日は始まる。
まずはお屋敷中のカーテンと窓をあけて。
ご主人様お嬢様の通るところをより念入りに 箒がけをして…
朝食の用意には、可愛らしいピンクのハートのお皿とカラトリーを取りやすく並べて。
ご主人様お嬢様がいらした時にはメイド全員が気づけるように…
お出迎えの扉にはベルをおいて…
と、まぁ…やることが多くあるので メイドの朝は早い。
🌹「ふぅ、これで…よし、と。」
ある程度終わった頃には太陽も少しずつのぼりあっという間に朝食の時間となった。
が、ご主人様お嬢様の姿はまだ見えない。
🌹「もう…しょうがないんだからっ!」
なんてことを呟いて、
私は足早にご主人様お嬢様のお休みになられている寝室にいそぐ
ーーートントントン。
🌹「もう〜朝ですよ〜」
🌹「おきてくださ〜い」
部屋の中でドカドカとした音が響く
思わずしめしめといった顔になってしまう
いけないいけないっと首をふって続ける
🌹「おはようございます。 朝食のご用意が整いました。 メイド一同、 貴方様からの朝一番のご挨拶を今か今かと心待ちにしております。」
🌹「それでは私は先に行ってお待ちしてますね」
よし。
ご主人様お嬢様がこ〜んなに小さい時からお迎えしていたので、
寝室に赴いてお声をかけられるのは私の特権だ。
「まったく」なんて言いながら、
実は嬉しいなんて思ってしまっている。
足取りも軽やかに食の間に戻ってきた。
私が到着してしばらくすると
コツコツという上品な音がお屋敷に響く。
一斉にメイドの背筋がしゃんと伸びた
🌹「ちりんちりんちりーん
ご主人様お嬢様のお目覚めです❕
おはようございます、ご主人様お嬢様❕」
🌹「ドジっ子トラップにお気をつけください。
本日はお昼から乗馬がございますのでスタミナがいると思いまして
腕によりをかけたぴぴよぴよぴよひよこさんライスをご用意いたしました❕」
ひよこさんライスはご主人様お嬢様の大好物。
喜んでくれてるといいなと、顔をのぞき込んでみる。
目がキラキラと輝かせて嬉しそうな姿がそこにはあった。
🌹「ふふっ」
つい笑みがこぼれる。
こうやって可愛らしい姿を見れるだけで、
メイドの朝がたとえ早くても頑張れちゃうんだよな、なんて考える。
お食事を取りながら、一言、また一言と、
メイドに向けて本日のご予定の確認や、
最近の変化について聞いてる様子を眺めていると
突然私に声がかかった
🌹「へっ!?」
突然呼ばれたものだから驚いてしまって、変な声が出た。
🌹「んっんんっ(咳きばらい) なんで御座いましょう?」
内容は今御屋敷の庭に咲いてる花は何だ ということだった。
私は園芸が趣味で、庭師と一緒になって庭の手入れをしている。
ご主人様お嬢様もそれを知ってくださっていて、たまにこうして気にかけてくださるのだ
🌹「そうですねぇ、この季節ですと、薔薇がちょうど満開でございます。あとほ紫陽花(あじさい)や朝顔なんかも…」
危ないつい一人で盛り上がってしまうところだった 話によれば花を送りたい相手がいるそうで、「薔薇は丁度いい」とご主人様お嬢様は大層嬉しそうだった。
🌹「バラのプレゼントなんて素敵ですね。 一体どなたに?」
それはまだ秘密だ、と誤魔化されてしまった。
メイドにも秘密なんて、相当大事にされてるお方へのプレゼントに違いない。
ご主人様お嬢様は意外とロマンチストなのねっ♡と一人でうきうきしてしまった。
ご主人様お嬢様は、
決まれば善は急げだ、と言って綺麗になったお皿に手を合わせたあと
「乗馬の前に薔薇を見るぞ」
とそれだけ告げて足早に食の間を出ていってしまった。
🌹「そんなに慌てて…まったく…」
それくらい大切な方への贈り物なのかな、ご主人様お嬢様がこうして自我を押し通すことは少し珍しかった。
でもメイドたるもの、ご主人様お嬢様が望むなら、お時間の許す限り御奉仕したいし、ちゃんとよい贈り物ができるようサポートしなくちゃね❕
なぜだか私もじっとしていられなくて、庭に足早に向かった。
ご主人様お嬢様はもう少しあとにいらっしゃるようで、大きな庭には私一人だけだった。
私は、綺麗に咲いたバラのツタを辿りながら、ご主人様お嬢様にどのこを紹介しようか考える。
贈り物、らしいからめずらしいのがいいかしら?
でもシンプルなものどったら花束にしても可愛いんだよな… 自分が世話をしてるだけあって、
主にはよりいいものをベストな状況で紹介したいと思うのは、
メイドの性(さが)なのかもしれない。
🌹「あっ…」
このお屋敷にもまだ咲いたことがない非常に珍しいバラの蔦を見て、
思わず声が出た。
一生懸命世話をしてもなかなか咲いてくれず、
成長もどの薔薇よりも遅く また今年も花を見れないかなと思っていたのだが…
とその時ご主人様お嬢様が見えた、
というベルが遠くの方で聞こえた 急ぎご主人様お嬢様の方へ向かう。
🌹「はぁ…はぁ…お待たせ致しました! 早速ですが本日ほどのようなバラをご用意しましょう。」
勝手におすすめするより聞いてからの方が良いだろうと思って、聞いてみたは言いものの
「君のお気に入りがいい」と言われてしまった
🌹(そんなこと言ったら全部お気に入りなんだよなぁ)
なんて言う言葉はもちろん飲み込んで続ける
🌹「まずはスタンダードなお花からご紹介しましょうか」
そうやって私とご主人様お嬢様とお庭探索は進んで言った。
私はさながらツアーガイドのようにバラの説明をし、
興味深そうにご主人様お嬢様は聞いてくださっていた
🌹「…と…。これで全部になります あっあとは薔薇は本数や色によって意味が変わったりするお花で…」
贈り物だと聞いていたので念の為と
バラの色と本数の軽い説明をした。
ご主人様お嬢様はさぞかし感心されたご様子で次のご用事の時間になるまで私の話を聞いてくださった。
時間はあっという間に過ぎ、ご主人様お嬢様の乗馬のお時間になってしまった
「バラの用意はあとで別のメイドにさせよう」とそれだけ告(つげ)られ、私はご主人様お嬢様の背中を見送った
🌹「いってらっしゃいませ、ご主人様お嬢様〜!」
やーっと一休みだー!と伸びをして 有意義な午前中を思い出す。
別に話すのが得意な訳ではない。
だけど今日ははしゃいでしまったな、なんて振り返って少し恥ずかしくなった。
実は今日は午前中で私の当番は終わりで午後からはお暇を頂いている。
何をしたい訳でもないし、ほしいものがあるわけでもないのでメイド部屋でお昼寝でもしようかと思っていた。
「さてと…」 部屋に入って日記に今日のことを書く。
いつも2、3文の日記なのに、今日はご主人様お嬢様とお話ができたからちょっぴり長くなってしまった。
ウトウトとし始めたのでベットに飛び込む。
充実した1日だったからか、入眠までにそんな時間はかからなかった。
(ジリリリリ、ジリリリリ)
🌹「わぁっえっとえっと、ぽち」
目覚ましの音にびっくりして飛び起きる。
太陽はすっかり姿を隠して夜になっていた。
🌹「…顔洗おう…」
そう思って部屋を開けると
(トン)
物覚えもない箱にドアが当たる
重い箱ではないようで、ドアを押すとスーッと箱も動く
🌹「…? なにこれ」
誰かの落し物だといけないしいちど開けてみなくてはと思い、
リボンを外し、少し大きめな箱を開ける。
そこには赤い薔薇が13本、綺麗にラッピングされて入っていた。
【ほんとうは君の瞳と同じ青色が良かったけど、まだ庭には咲いてなかったんだ】
という一言を添えて 文字とその言葉ではっとした。
これは…っ ご主人様お嬢様からの贈り物…!
嬉しくてじわっと目頭が熱くなる。
🌹「ご主人様…お嬢様…」
バラが13本入っている ……。
――――
🌹「これで全部になります
あっあとは薔薇は本数や色によって意味が変わったりするお花で…」
「 11本は最愛 12本は告白 13本は永遠の友情… 14本は…」
――――
13本の薔薇に乗せて伝えてくださった思いを
瞳をゆっくり閉じて感じ取る。
🌹「ご主人様お嬢様、私も。
私もこの思いとこの時間が永遠であること心から願っております」
花束をぎゅっと抱きしめて、
私はこの先もずっとおそばに居ることを静かに誓った。
〜fin〜
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?