別れ際
昔、付き合っていた彼氏が言ってくれた。
別れ際、何度も振り返って
手を振ってくれるのが好きだ、と。
振り返って手を振るとき、
彼はいつも笑顔で、
本当に愛しいものを見るような眼差しを私に向けてくれて、
自分がとびきり可愛くなったような気持ちになって、
だから私は、何度だって振り返って手を振った。
あの頃、私は別れ際がすごく好きだった。
でも今は嫌いだ。
片想いしているあの人は、じゃあね、と言った後、
すぐくるりと背を向けて歩き出してしまう。
ささやかな願いもむなしく、
振り返るといつも、そこにあの人はもういない。
振り返って手を振る瞬間が、一番可愛くなれると信じていた私にとって、
それをさせてくれないあの人の態度は、
どんな言葉よりも信じられる気がして、
残酷で、悲しい。
いつか、いつの日か。
振り返ると、彼が笑顔でそこにいてくれて、
私は、とびきり可愛く、手を振るんだ。
そして今日も、ひとり改札に向かって歩く。
言えなかった「またね」を、
心にしまいながら。