見出し画像

<vol.11> ZK meets Geo: ゼロ知識証明で支えるGeoMPCの可能性

近年、Web3やブロックチェーンの分野で急速に注目されている暗号技術の一つにゼロ知識証明(ZK Proof)があります。ZKは、「ある事実が真であることを証明しつつ、その事実そのものや裏付けとなる具体的情報は明かさない」という画期的な仕組みとして、多くの領域で採用が進んでいます。

一方、GPSや衛星測位(GNSS)の普及に伴い、ユーザーの「位置情報」を軸にサービスを展開するビジネスは増加の一途をたどっています。しかし、その一方でプライバシー侵害や監視社会化への懸念も拭えず、どのようにデータを保護するかが大きな課題となっています。

そんなとき、「GeoMPC」(Geographical Multi-Party Computation)と呼ばれる「複数ノードでの秘匿計算」を活用した位置情報の利用法が提案され始めました。ここにゼロ知識証明(ZK)が加わると何が起こるのでしょうか? 本記事では、ZKとGeoMPCが融合することでどのような可能性が広がるのかを分かりやすく解説します。



1. ゼロ知識証明(ZK Proof)とは

■ ZK Proofの基本概念

ゼロ知識証明(ZK Proof)は、ある主張が真であると証明しながらも、証明のために必要な情報(証拠)を相手に一切明かさない暗号技術です。たとえば「Aという数値がBより大きいかどうか」を証明する際に、具体的なAとBの値を相手に知られずに“大小関係”だけを証明できるイメージです。

  • 従来: 「あなたは何歳以上ですか?」→ 年齢そのものを相手に教えて証明する

  • ZK: 「私は18歳以上です」と証明したいが、具体的な年齢(20歳、25歳…)は知られたくない→ ZKによって「18歳以上である」という事実だけを証明

■ Web3やブロックチェーンでの応用

ブロックチェーン上では、取引履歴やアドレスが公開されがちでプライバシー面での不安がつきまといます。しかしZKを用いれば、具体的な残高や取引額を開示せず「ちゃんと担保がある」「送金可能な残高がある」といった事実だけを確認できます。これにより「公開型台帳の利便性」と「ユーザーのプライバシー保護」の両立が期待されているのです。


2. GeoMPC(Geographical Multi-Party Computation)の基本

■ 位置情報を分散計算する仕組み

GeoMPCは、MPC(Multi-Party Computation)を位置情報に特化して応用したもので、**ユーザーの座標データを複数のノードに分割(秘密分散)**し、各ノードで秘匿計算を行うことで、個々の正確な座標や移動履歴を一切見ずに結果(例えば「同じエリア内かどうか」「ある半径以内かどうか」など)だけを導き出す技術です。

  • 複数ノードが連携: 生のGPS座標を単独のサーバーが把握しないよう、複数ノードが分割されたデータを保持し合う

  • 暗号プロトコルで演算: 多角形への包含判定や距離計算、国境の越境有無などを暗号的に行い、中間でのデータ露出を防ぐ

■ プライバシー重視の地理演算

従来の地理ベースサービスでは「ユーザーがどこにいるか」をそのまま取得してサーバーが計算を実行していましたが、GeoMPCなら秘密分散を用い、誰もユーザーの座標を完全に知らないまま、必要な地理演算だけは完遂できます。


3. なぜZKとGeoMPCを組み合わせるのか?

ここで登場するのがZK meets Geoという発想です。GeoMPC自体もプライバシー保護に優れていますが、さらにZKを組み合わせることで下記のようなシナジーが生まれます。

(1) 「部分的な位置証明」だけを安全に行う

例えば「ユーザーがこのエリアにいるかどうか」を判定する時、

  • GeoMPCで“座標含む計算”を行い、結果(エリア内 or エリア外)を導き出す

  • ZKを用いて、この結果を第三者(たとえばサービス提供者)に対して「エリア内である」という真実だけを証明し、具体的な座標は知られずに済む

これにより、「座標分散+地理計算」が終わってからも、実際の場所を伏せたまま『私が○○という地区にいるのは確かだ』と示せるわけです。

(2) 多様な地理評価をZKで再利用

GeoScoreなど「場所をベースにユーザーの安定度や信用度を算出する仕組み」でも、計算を行う段階ではGeoMPCで分散化し、その計算結果のうち最終的なスコアだけをユーザーが受け取ります。そしてユーザーが別サービスを利用するときに、ZKによって「スコアが一定値以上である」とだけ証明すれば良いのです。座標や詳細な移動履歴を開示しなくてもいいため、ユーザーにとっては大きなメリットです。

(3) 不正・偽装をZKで追及

一部のユーザーがGPSシミュレーターなどで虚偽の座標を提出しようとした場合でも、ZKが組み込まれていると「適切に署名された端末」や「本物の衛星信号」を証明する仕組みを設けることができます。
GeoMPCだけでは「座標を分散管理する」ことはできても、座標の真偽判定や正しい端末利用の証明は別問題。しかしZKを活用すれば、「衛星測位の認証」「端末署名の正当性」を暗号的に付与し、シミュレーションやリプレイ攻撃を難しくできます。


4. ユースケース事例

■ ユースケース1: AML/CFTや国境越え規制

暗号資産のマネーロンダリング対策として、ユーザーが海外からアクセスしているか、制裁対象国にいるかをチェックする事例が増えています。

  • GeoMPC: ユーザーの座標を分散保管し、どこかのノードが座標を入手できないようにする

  • ZK: 「国境を越えていない」あるいは「特定リストの対象地域に該当しない」ことだけを判定結果として提供し、具体的な住所や滞在先は知られない

こうして“場所”を認証しながら、“プライバシー”を維持できるため、国際規制の遵守とユーザーの権利保護が両立しやすくなります。

■ ユースケース2: デジタルIDやレンディングサービス

  • GeoScore: ユーザーがある地域で安定して生活している証拠

  • GeoMPC: その地域に本当にいるか、虚偽のGPSでないかを多パーティ分散でチェック

  • ZK: これらの情報を最終的に融資判断に使うが、ユーザーの具体的行動履歴は一切明かさずに「信用度○○点以上」とだけ証明

これによって、金融機関は「行動安定度や場所に基づく信用評価」を得られ、ユーザーはプライバシーを保ちながら融資を受けられるかもしれません。

■ ユースケース3: オンライン投票やマッチング

  • 投票: 一定地域(自治体エリア等)に属する人だけに投票権を与える電子投票を行いたいが、投票者の具体的住所は晒したくない。→ GeoMPCで“エリア内居住”を判定し、ZKで投票資格を証明

  • マッチングアプリ: 距離が近い相手にだけプロフィールを見せる機能を、ZK+GeoMPCで実装すれば、実際の座標は伏せたまま「半径1km以内」という事実だけをやり取り可能。


5. 技術的ハイライト

(1) 幾何学的ZKプロトコル

距離計算や多角形包含判定などの地理演算をZKで処理するため、通常のZKライブラリ(例えばGroth16やPLONK)を拡張し、幾何学的演算を効率的にサポートする必要があります。

  • : 「(x, y)が円の内部にあるかをZKで示す」→ (x - cx)^2 + (y - cy)^2 < r^2 の満たす/満たさないを証明

(2) MPCノード間の通信負荷

MPCは複数ノードが連携して暗号計算するため、通信が増えがちです。大規模リアルタイム演算を行う場合、いかに高速な通信プロトコルを採用し、最小限のラウンドで結果を出すかが課題となります。

(3) 端末側の署名とGNSS認証

ZKとGeoMPCを組み合わせても、端末が勝手に偽のGPSデータを送信すれば破綻します。ここで「GNSS認証」や「端末署名」、「ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)」などが絡んできて、端末自体が偽装されない仕組みを統合することが重要です。


6. 実装上の課題と今後の展望

  • スケーラビリティ: MPCやZKは計算負荷が大きく、リアルタイム要求が高いシナリオでは最適化が不可欠。

  • ユーザーエクスペリエンス(UX): 位置情報をZK/MPCで扱うと、通常の位置情報サービスより導入が複雑になりがち。エンドユーザーへの負荷や待ち時間をどう軽減するかが鍵。

  • 運用コスト: 複数ノードを稼働し続けるコストと、ZK回路の維持管理に要するコストが大きい。どのようなビジネスモデルでこれを吸収するか。

しかし、暗号技術全体が進歩している昨今、ZK-SNARK/PLONKなどの高速化MPCプロトコルの最適化が進展しており、GeoMPCを実用化するハードルは着実に下がっています。


7. TRUSTAUTHYの取り組み(例)

当社「TRUSTAUTHY」では、ZKとGeoMPCを組み合わせた位置情報認証サービスの開発を進めています。

  1. 分散ノードによる位置秘匿計算
    複数のサーバー(ノード)がユーザーの位置情報を秘密分散し、幾何演算(多角形内判定、距離判定など)を実行。

  2. ZKで結果を他サービスに証明
    得られた結論(例:○○地域内である、GeoScoreが一定値以上など)をゼロ知識証明として第三者に示すことで、ユーザーの位置プライバシーを保持しながら必要な事実だけを伝達可能。

  3. 端末署名・衛星信号検証
    不正GPSシミュレーター対策として、端末のセキュリティチップやGNSSの認証プロトコルと連携し、「真の信号を受信している」ことを暗号的に検証。ZK meets GeoMPCを一層安全に実行。

こうしたインフラが確立すれば、Web3やFinTech、シェアリングエコノミーなど幅広い分野で、「場所を扱うなら暗号化を前提とする」 という新しい標準を打ち立てられると期待しています。


8. まとめ:ZKとGeoMPCが切り開く“場所の未来”

「ZK meets Geo: ゼロ知識証明で支えるGeoMPCの可能性」と題して紹介してきたように、

  • ZK: 秘密を明かさずに事実だけを証明

  • GeoMPC: 複数ノードで位置情報を分散管理し、安全に幾何計算を行う

という2つの技術が交わることで、私たちは「場所」という強力なデータを、監視リスクを大きく減らしながら使いこなす道を拓けそうです。

  • 国際規制の遵守: 国外からのアクセス、不正送金、制裁対象国との取引などをプライバシーを守りながらチェック

  • 新しい信用モデル: 「行動範囲や安定度」をスコア化し、ZKによって第三者に安全に証明

  • マッチングやスマートシティ: ユーザーの具体的住所を知らないまま、近い距離や地域内の特典を付与

もちろん、実装の難易度や運用コスト、ユーザー端末の信頼性など、クリアすべき課題は少なくありません。しかし、暗号技術が日々進歩を続ける今、ZKとGeoMPCの融合は、場所情報サービスのプライバシー問題を大きく解決に導く本命となるかもしれません。

もし興味を持たれた方は、私たちが手がける「TRUSTAUTHY」など同様の取り組みを追ってみてください。「本当の意味で、安全な位置情報サービス」 が当たり前になる未来へ、一緒に足を踏み出しましょう。

Vlightup(ブライトアップ)株式会社
東京都千代田区丸の内1−11−1パシフィックセンチュリープレイス丸の内
公式X  https://x.com/Vlightup_offl
Webサイト https://trustauthy.jp/

いいなと思ったら応援しよう!

Vlightup | デジタルとリアルを繋ぐ、新しい信頼のカタチ -ブライトアップ株式会社
我々の活動に関してご興味やご関心がございましたらがあれば、ぜひとも個別の記事の購入や定期購読など、よろしくお願いします。