<vol.3> なぜ“位置情報”が次世代の認証キーになるのか? 〜ZK技術との組み合わせ〜
インターネットの黎明期から今日に至るまで、私たちの「ログイン認証」の仕組みは、主に「IDとパスワード」という組み合わせに依存してきました。近年では、二段階認証(2FA)や生体認証(指紋、顔認証など)の普及で少しずつ安全性が高まってはいるものの、大規模な情報漏えいや不正アクセス事件は相次いで報道されています。セキュリティを担う要素が「人間の記憶力(パスワード)」や「盗み見可能なトークンコード」に依存している限り、抜本的な解決には至らないと感じる方も多いでしょう。
そこで注目され始めているのが、「位置情報」を活用した新しい認証キーのコンセプトです。場所を鍵にするなんて本当に意味があるの? と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、近年の暗号技術、特にゼロ知識証明(ZK)との組み合わせによって、“プライバシーを守りつつ、強固な認証を実現できる” というまったく新しい世界が見え始めています。
本記事では、「なぜ位置情報が次世代認証キーとして期待されているのか」を丁寧に解説し、ゼロ知識証明(以下ZK)と組み合わせることで生まれるシナジーについてもわかりやすく紹介します。
1. 従来の認証方式が抱える課題
■ パスワードへの過度な依存
多くのサービスではパスワードを使った認証が基本ですが、パスワードを使い回したり、単純な文字列にしてしまうユーザーは依然として多いです。また、フィッシングメールやキーロガーを仕掛けられれば、簡単に流出してしまいます。二段階認証(2FA)を導入する企業は増えていますが、SMSコードなどもスマホ紛失やSIMスワップ詐欺で突破されるリスクがあります。
■ 生体認証の限界
指紋認証や顔認証は便利ですが、例えば高額取引やクレジットカード情報など「さらに高いセキュリティが要求される場面」では、しばしば補助的な確認手段が必要とされます。また、生体情報の漏えいは取り返しがつかない大問題です(パスワードなら変えられますが、指紋や顔の特徴は変えにくい)。
■ リモートワークや国際利用が増加
社員が在宅や海外出張先から業務を行うケースが増え、「その人が本当に“どこ”にいるのか」を確認できないまま重要システムにアクセスさせるのは大きなリスクを伴います。地理的制約のないネット環境では、攻撃者も世界中のどこからでも不正アクセスを狙える状態です。
2. “場所”を鍵にするという発想
これらの課題を解決する新アプローチとして、一部のセキュリティ企業やブロックチェーンプロジェクトが注目しているのが「位置情報を使った認証」です。具体的には、GPSやその他の衛星測位技術(GNSS)から得られる位置情報を、ユーザー本人の“固有の条件”として認証フローに組み込むわけです。
■ 位置情報が生み出す強み
「なりすまし」を物理的に遮断
ユーザーのIDとパスワードが盗まれた場合でも、攻撃者が遠方から接続しているのであれば、位置情報と矛盾が生じます。たとえIPアドレスを偽装しても、GPS信号までは簡単に偽装できません。パスワード記憶の手間が不要に近づく
いずれは(生体認証+位置情報)だけでログインを済ませる仕組みが定着すれば、複雑なパスワードを大量に管理する負担は軽減できます。ユーザー体験も向上すると期待されています。高リスク操作の“現場限定化”
企業システム内で特にリスクの高い操作(大規模な送金・機密データ削除など)に関しては、指定された物理エリア(たとえばオフィス内)でのみ実行可能にするなど、多層防御を構築できます。
3. 位置情報によるプライバシー侵害への懸念
しかし、位置情報と聞くと「監視社会」「常に追跡されるのでは?」という不安を覚える方も多いでしょう。確かに、ただGPSデータを丸ごとサーバーに送信するだけだと、ユーザーがいつ・どこにいるかが全て記録されてしまいかねません。これでは、便利さのためにプライバシーを犠牲にすることになり、導入に抵抗感を覚えるユーザーも多いはずです。
4. ZK(ゼロ知識証明)との組み合わせがもたらす革新
そこで鍵となるのが、近年ブロックチェーン分野を中心に注目が高まっているゼロ知識証明(ZK)という暗号技術です。ZKは、「証明したい事実そのものを明かさなくても、事実であると証明できる」という仕組みを提供します。ここに位置情報を掛け合わせると、以下のような“プライバシー保護と認証の両立”が可能になります。
位置情報を“丸裸”で送らない
ユーザーのデバイスが「GPSによる緯度・経度データ」を取得したとしても、サーバーには「そのユーザーが指定エリア内にいる」ことのみを暗号的に示すことができます。実際にどこにいるのか、正確な座標は不要なのです。リアルタイム検証でもプライバシーを確保
たとえば「この取引は東京都内にいるユーザーが実行していることを証明せよ」というリクエストに対し、ユーザーのデバイスがZK証明を生成してサーバーに送信。「確かにこのユーザーは東京都内にいる」という事実だけが証明され、具体的な住所や地図上のピン情報は開示されません。従来の2FAや生体認証と併用できる
さらに、パスワードや生体認証を組み合わせることで、「確かに本人であり、かつ正規の場所にいる」ことを多段階で検証でき、セキュリティの強度が一気に高まります。
5. ユースケース:Web3、企業システム、国際規制対応
位置情報×ZKによる認証は、実は多くの領域で大きなインパクトをもたらすと考えられています。ここでは代表的なユースケースをいくつか紹介します。
■ Web3(分散型金融、NFT、メタバースなど)
DeFiの地域制限: 一部のDeFiプロトコルでは、国際規制に対応するため特定地域のユーザーを排除する必要がある場合があります。しかし従来はIPアドレスの遮断だけで対応していたため、VPNによる偽装が容易でした。ZKを使って「本当に対象外地域にはいない」ことを証明すれば、フィルタリング精度が上がります。
NFTのエリア限定販売: メタバースやNFTイベントで「この場所にいる人だけが購入・参加できるトークンを配布したい」といったシーンでも、位置情報が使われます。たとえば、リアルのイベント会場に行かないと買えないNFTグッズをZKで実現可能に。
■ 企業システムのセキュリティ強化
リモートワーク下での権限管理: コロナ禍以降、在宅勤務や海外リモートが広がった今、どの国・地域で作業しているかによってアクセス制限を設けたいケースがあります。位置情報とZKを併用すれば「本当に国内にいる社員のみ、高リスク操作を許可」といった運用が可能に。
内部不正の抑制: 社員が人為的に不正を行おうとしても、認証時にGPS+ZKの照合があるため「会社の許可されたエリア以外の場所では送金やデータ改ざんができない」など、未然に防止しやすくなります。
■ 国際規制対応(AML/CFTなど)
制裁対象国との送金ブロック: 金融機関は、国際的に制裁対象となっている地域へ送金を行わないよう管理しなければなりません。ZKと位置情報認証を組み合わせることで「海外の誰かが偽装しているのではないか?」という疑念を大幅に減らしつつ、適正な地域からのアクセスであればスムーズに認証できるように設計できます。
6. TRUSTAUTHYの位置情報認証:位置情報とZKでプライバシーを守る
私たちTRUSTAUTHYも、こうした「位置情報×ZK」の可能性に着目し、独自の認証プラットフォームを開発しています。ポイントは以下の通りです。
GNSSデータを暗号的に処理
ユーザーのデバイスが取得した衛星測位データを、サーバー側で“生”のまま受け取らずに、ZK証明を生成して「所定のエリア内にいること」を証明するだけで済む方式を採用しています。リアルタイム認証でもユーザーの座標は開示しない
たとえば暗号資産の高額送金を実行する際、TRUSTAUTHYが「本当に日本国内の正規ユーザーか?」をチェックしますが、具体的な住所や建物情報までは収集しません。ユーザーのプライバシーを守りながら不正を防ぐという発想です。企業への導入が簡単
既存のログインフローやウォレットシステムにTRUSTAUTHYのSDKを組み込むことで、比較的スムーズに「場所ベースの二段階認証」や「社内権限管理」が実装可能です。ユーザーや社員にとって、専用アプリで位置情報チェックが追加されるだけなので、学習コストも抑えられます。
7. 課題と未来展望
もちろん、位置情報の偽装(GPSシミュレーターなど)への対抗や、ZKプロトコルの大規模実運用でのパフォーマンスなど、解決すべき技術的課題は残っています。しかし、これらは日進月歩で改善が進んでおり、特にブロックチェーンコミュニティではZK技術の進化が加速しています。
GPS偽装対策: 地上局データや複数の測位衛星の相関をチェックする「MPC(マルチパーティ計算)」を使った仕組みなどが提案されており、簡単には位置を改ざんできないレベルまで到達しつつあります。
ZK証明の高速化: 「Plonky2」や「Halo 2」など新世代のZKライブラリが登場し、モバイル端末でも実用的な速度で証明生成が可能になりつつある。
将来的には、パスワードすら不要な「本人確認+位置確認+ZKでプライバシー保護」という認証フローが普及すれば、私たちのセキュリティ意識と利便性は大きく変わるかもしれません。
8. まとめ:場所が開く新時代のセキュリティ
私たちがインターネットを利用する以上、パスワード漏えいや不正アクセスのリスクをゼロにするのは困難です。しかし、「暗号技術×位置情報」という新しい視点を取り入れることで、大きくセキュリティ水準を高めることが可能になります。そして、そこにゼロ知識証明を組み合わせれば、“ユーザーのプライバシーを守りながら” 確実に「ここにいる人」しか操作できない認証システムが実現するのです。
TRUSTAUTHYは、こうした次世代認証を実際の事業やユーザー体験に落とし込み、暗号資産の高リスク取引から企業内システムの権限管理まで、幅広い用途をサポートできるようサービスを展開しています。「誰かのパスワードを盗めばそれで終わり」だった従来の脆弱性を抜本的に変えたい——そう願う企業やエンドユーザーの皆さんにとって、位置情報が持つ可能性は大きいでしょう。
もし詳しい導入事例や技術仕様にご興味があれば、ぜひTRUSTAUTHYの公式サイトをご覧ください。 私たちは、ZK証明のような先端暗号技術がさらに発展する未来を見据え、より安全で、誰もが安心して利用できるデジタル社会を目指しています。あなたも、場所を鍵にした新しいセキュリティの世界へ、一歩踏み出してみませんか?
Vlightup(ブライトアップ)株式会社
東京都千代田区丸の内1−11−1パシフィックセンチュリープレイス丸の内
公式X https://x.com/Vlightup_offl
Webサイト https://trustauthy.jp/