<vol.10> GeoScore × GeoMPCで実現する“確かな場所”と“プライバシー”の両立
「場所(位置情報)はビッグデータ時代に欠かせないリソースになった」と言われる一方、私たちの居場所がいつどこで収集されているのか、またそのデータをどのように使われるのか不安に思う方も多いでしょう。さらに近年では、ブロックチェーンや暗号資産の世界で「どこにいるか」を厳格に証明する需要が高まりつつあります。しかし、従来の仕組みだとGPSデータをそのまま共有してしまい、プライバシーが著しく侵害される可能性がありました。
この課題を解決しうる2つのキーワードが、「GeoScore」 と 「GeoMPC」 です。前者は「場所ベースの信用評価(スコア)」を算出する仕組み、後者は「複数ノードで位置情報を秘匿計算する」暗号技術。これらを組み合わせると何が起こるのか? それはまさに、“確かな場所”を証明しながらも“プライバシー”を同時に守るという難題の解決策になり得ます。本記事では、GeoScore × GeoMPCという新しいアプローチの核心をわかりやすく解説し、期待されるユースケースや技術的ハイライトをご紹介します。
1. なぜ「確かな場所」と「プライバシー」が対立してきたのか
■ 場所情報の活用範囲が拡大
セキュリティ分野: 金融機関・取引所が「ユーザーが本当に日本国内にいるか」を確認して、不正送金やマネーロンダリングを防止したい。
マッチング/SNS分野: ユーザー同士が一定距離内にいるかでマッチング精度を高める。
スマートシティや公共サービス: 混雑状況や交通データを基に効率的な都市運営を行う。
いまや場所情報はあらゆる業界で不可欠なデータとして扱われています。
■ プライバシー侵害のリスク
しかし、その一方で「ユーザーの居場所をリアルタイムに追跡する」ことは、
居住地や行動パターンが筒抜け
特定個人の趣味嗜好を逆算される
他のデータと照合されて不本意な利用をされる
など、深刻なプライバシー問題を引き起こす可能性があります。
ここで登場するのが、GeoScore × GeoMPC。場所情報を安全に扱いながら、必要な判断やスコアリングだけは正確に行うという、画期的な組み合わせです。
2. GeoScore × GeoMPCとは?
■ GeoScoreとは
「GeoScore」は、ユーザーの位置情報を基に行動パターンや安定性などを評価し、“信用スコア”を算出する仕組み(詳しくは別記事「GeoScoreとは何か?」参照)。たとえば毎日同じ地域で生活している、オフィスや学校への通勤・通学が規則正しい、といった要素をポイントに加味して「行動が安定している」「リスクが低い」と判断できるわけです。
しかし、それを実現するには位置情報を取得し、分析する必要があり、プライバシー面で大きな懸念が生じます。
■ GeoMPCとは
一方で「GeoMPC(Geographical Multi-Party Computation)」は、MPC(複数ノードでの秘匿計算)技術を位置情報に応用し、ユーザーの座標をそのまま渡さずに必要な判定や計算だけを行う方法を指します。
複数ノードが分散的に座標データを保持し、単独ノードが復元できない
距離判定やエリア包含判定などを暗号的に実行
結果(Yes/Noや数値)だけを復号して得るため、誰も生の位置データを見ない
こうして「正確な場所」を取り扱うにもかかわらず、ユーザーが“どこにいるか”を漏らさずに済むわけです。
3. 組み合わせのメリット:
“場所ベース信用スコア”を秘匿しながら活用できる
GeoScoreは、ユーザーの行動安定性や利用実績を総合評価してスコアを算出しますが、データの蓄積には大量の座標・時刻情報が絡みます。ここでGeoMPCを導入すると、以下のようなメリットが得られます。
ユーザーが具体的履歴を公開しなくても、スコアリングが可能
MPCプロトコル下で分散管理された位置履歴を暗号的に評価し、算出したスコアだけを参照できる。
企業側は「このユーザーは安定スコアが高い」と知るが、“どの場所をどれだけ訪れたか”の詳細は知れない。
結果の再利用が簡単
ユーザーが「私のGeoScoreは70点以上です」とゼロ知識証明的に示せれば、複数のサービスでワンストップに利用できる。
いちいち位置履歴を提出して審査を受ける手間が減る。
リスク判定やトラッキング対策にも応用
AML/CFT的に危険地域への渡航履歴が多いかどうかを判定する場合も、ユーザーの全履歴を開示せずにYes/Noだけを得られる。
プライバシーを守りながら厳格なコンプライアンスチェックができる。
4. 主なユースケース
(1) 金融・ローン審査への適用
場所ベースの安定度評価:従来のクレジットスコアにプラスして、GeoScoreを参照することで、“転居の多さ”や“通勤ルートの一貫性”を信用材料に加えられる。
GeoMPCで守られるプライバシー:銀行や金融機関が生データを持たずに「点数だけ」を取得するため、ユーザーにとっても情報流出リスクが低い。
(2) Web3/DeFiでの個人認証
DeFiレンディング:担保が少なくても「行動安定性が高い=信頼度が高い」というモデルを組み込むことで、新しいローンやクレジットサービスを展開可能。
GeoMPCを使ったスマートコントラクト:ユーザーの正確な位置データをブロックチェーンに晒さず、条件(“国内にいること”など)を満たすかどうかだけを自動判定。
(3) 保険・不動産・シェアリングエコノミー
賃貸契約審査:GeoScoreで安定度の高いユーザーは敷金・保証人要件を緩和するなど、新たなサービス設計が可能。
Car Sharing:車両保険や不正利用防止に位置情報を多用するが、GeoMPCで“移動履歴”を具体的に持たずに、必要なルール違反だけ検出できる。
5. 技術的ハイライト
■ GeoScore側:評価ロジック
行動の安定度: 一定期間における住居・オフィスなど“滞在地”の変遷回数、もしくはGPS履歴から算出される移動パターンの規則性。
訪問場所の属性: 安全な公共施設・職場・教育機関が多いほどプラス評価、危険地域や高リスクエリアが多い場合はマイナス評価。
期間や頻度: たとえば「直近6か月間での移動の傾向」に重点を置くなど、時間軸も加味する。
■ GeoMPC側:秘匿計算
秘密分散(Shamir’s Secret Sharing等): ユーザーの位置履歴を複数ノードに分割。誰も単独では復元できない形にする。
幾何学的MPC: 含まれる演算には「多角形への包含判定」「2点の距離計算」などの幾何処理があるため、最適化とプロトコル設計が課題。
ZK証明との組み合わせ: 特定の地域にいた事実だけを証明し、座標を開示しない形で信用評価を更新できる。
6. 課題と注意点
端末偽装対策:
ユーザーがGPSシミュレーターなどで虚偽の位置情報を提供したら、GeoScore自体が無意味になる。ハードウェアレベルのセキュリティや衛星信号の偽装困難化が必要。評価バイアス:
“場所が安定している=信用が高い”とする考え方がライフスタイル多様化の現代に合わない場合もある。移動が多い人を一律に低評価にしては不公平なので、設計時にバイアス除去を検討すべき。計算コストとユーザー体験:
GeoMPCは高度な暗号プロトコルで、通常のサーバー集中型計算よりも通信・計算負荷が増す。リアルタイムスコアリングなどでユーザー体験を損なわないよう最適化が課題。
7. TRUSTAUTHYの取り組み(例)
当社「TRUSTAUTHY」では、この「GeoScore × GeoMPC」分野での実装を推進中です。
GeoScoreエンジン: 各ユーザーの位置履歴(暗号化済み)を解析し、生活安定度や場所属性に基づいた信用スコアを算出するモジュール。
GeoMPCフレームワーク: 複数ノードによる分散管理を徹底し、どのノードも生データを知ることなく信用評価を処理。セキュリティとパフォーマンスのバランスを追求。
API/SDK連携: 金融機関やシェアリングサービス、不動産管理システムなどが簡単にスコアを参照できるAPIを提供。ユーザー承認のもとでのみスコアを開示し、ライフスタイルの詳細は不開示のまま評価できる仕組みを構築。
8. まとめ:新時代の信用は「場所×秘匿計算」がカギに
暗号資産やWeb3業界の急拡大、マネーロンダリング防止策の厳格化、リモートワークの一般化など、私たちの暮らしは「場所」と「信用」の関係が複雑化してきています。そんな中、GeoScoreを用いてユーザーの行動安定度や信用度を図りつつ、GeoMPCでプライバシーを守るアプローチは、次世代のソリューションとして大きな注目を集めるでしょう。
企業にとって: ユーザー情報を扱うリスクを抑えながら、正確な場所ベース判断が得られ、より高度なサービス提供が可能になる。
ユーザーにとって: 具体的な移動履歴を公開せずに「実は高い信用を有している」ことを複数サービスで使いまわせるメリットがある。
社会全体にとって: 監視社会への不安を軽減しつつ、暗号技術によるプライバシー保護を伴った“新しい信用モデル”が浸透すれば、多様な働き方や地域コミュニティの発展にも寄与するかもしれない。
もちろん、技術的・運用的課題はまだ多く残っています。しかし、GeoScore × GeoMPCという組み合わせは、「場所情報の活用」と「プライバシー保護」という二律背反を超える大きな一歩になるでしょう。もし興味があれば、TRUSTAUTHYや同様のソリューションをチェックし、未来の信用社会を形作るうえでどのように役立てるか検討してみてはいかがでしょうか。