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“隙間”が人生を豊かにする。石山恒貴さん、北野貴大さんと「キャリアブレイク」の可能性を探る

2024年11月6日(水)、『キャリアブレイク — 手放すことは空白(ブランク)ではない』(以下、本書)を出版した法政大学大学院 政策創造研究科 教授の石山恒貴、一般社団法人キャリアブレイク研究所で代表を務める北野貴大さんをお招きし、イベントを開催しました。

キャリアブレイクとは、「離職・休職などを通じて一時的に雇用から離れ、人生と社会を見つめ直す期間」を指します。単なる「ブランク」ではなく、自己成長や新しいビジネスアイデアの創出に繋がる貴重な時間であり、イベントではその可能性についてディスカッションをしていきました。

本レポートでは、当日の様子を一部ご紹介できればと思います。

当初は「女性の離職における課題」に焦点が当てられていた

「今まで中心的に活動してきたキャリアの役割を手放すことによって、新しいキャリアの役割に向けて自分と社会を見つめなおしている期間」

キャリアブレイク — 手放すことは空白(ブランク)ではない

本書ではキャリアブレイクの定義について、このように記されています。

イベントの冒頭では、この定義が生まれるまでの3人の出会いやキャリアブレイク研究所の取り組みなどについて語られました。

石山さんがキャリアブレイクという言葉に出会ったのは、会社員での勤務を経験後、法政大学大学院で新たなキャリアを歩み始めたころ。ゼミ生だった(本書の共著者である)片岡亜紀子さんが修士論文のテーマにしたのが、「女性の離職期間における気持ちや出来事の変化」でした。

当時、女性の離職期間を表現する言葉として「キャリアブランク」という言葉が使われており、育児や介護などで離職をしてしまうとその期間が社会的に評価されず、再就職で苦労するという実態がありました。

片岡さん自身も意図せぬ離職期間を経験したことから、公的な職業訓練について研究を進めていく中、ある論文を読んだ際に「キャリアブレイク」という言葉を見つけます。そこからインスピレーションを得た片岡さんは研究テーマを変え、キャリアブレイクに関する修士論文をまとめたといいます。

その後、修士論文について発表するオープンゼミの参加者が片岡さんの発表をブログで公開したことをきっかけに、北野さんとの出会いも生まれていきました。ブログでキャリアブレイクの概念を知った北野さんはその言葉に惹かれ、国内における実態の調査研究やコミュニティプラットフォームを運営する「キャリアブレイク研究所」を立ち上げます。

キャリアブレイク研究所の取り組みを知った石山さんがその取り組みに共感し、XのDMでコンタクトをとったことから、3人の出会いが始まりました。

片岡さんが論文を発表した当時、キャリアブレイクの定義は「女性の離職における課題」に焦点が当てられており、休職期間は含まれず、かつ「離職期間の経験が自己効力感を高めるものであり、その後のキャリアに役に立ったと本人が主観的に認知している場合に限る」とされていました。

しかし、キャリアブレイクに性差は関係なく、かつ離職や休職に限らず、普遍的に生じる現象であると考えられたことから、本書では冒頭で紹介した内容が定義として定められています。

その他、イベント時には「定義が生まれるまでの経緯」や「日本型雇用とキャリアブレイクの関係性」「8人のインタビューをもとにしたキャリアブレイクの実態とプロセス」などを石山さんから紹介いただきましたが、そちらは本書に詳しく記載されているため、ぜひ手にとってみてください。

コントロール不可能なことが、良いきっかけになることも

後半のディスカッションは、参加者の皆さまから石山さん・北野さんへの質問をいただきながら、キャリアブレイクについての理解を深めていく時間となりました。レポートではその一部をご紹介します。

質問1.今社会人なのですが、会社以外のことを色々やっていて、仕事中もずっとそのことを考えています。働いているけれど心ここにあらずで、こういった場合もキャリアブレイクになるのでしょうか。

A.

石山さん:必ずしもそうは言えませんが、「人生そのものがキャリアブレイク」みたいな人がいてもいいとは思います。あと、体は会社にいても、心はどこかのコミュニティに長く所属をしていて、そのコミュニティで持っている役割を手放すときなんかは、キャリアブレイクといえるかもしれません。

北野さん:誰かにつけられるラベルより、自分で納得してつけるラベルのほうが良いと思うので、「楽しく生きてほしい」でいかがでしょうか(笑)。

質問2. 私の場合、「残業を辞める」決断をしてから、空いた時間で副業やプロボノをやったことで、人生の熱狂が生まれた気がしています。これはキャリアブレイクといっていいのか、もしくは全て職を手放すものなのか、そのあたりのイメージがまだ湧いておらず、ご意見を伺えたら嬉しいです。

A.

石山さん:ちなみに、「残業を辞める」と決断したのはなぜなんですか?

質問者:コスパが悪いなと思いまして。残業代で少し給料を増やすよりも、全く別の活動に取り組んで「自分の経験値にしたほうがいいよね」と思い、残業を辞めることを決めました。

石山さん:そうだったんですね。基本的には、北野さんがお話しされていた「自分のラベルは自分でつける」で良いと思っているんですけど、キャリアブレイクには「喪失」と「獲得」が裏表にあって。副業やプロボノを通して「獲得」した経験がある一方で、そこに「喪失」があるかどうかはポイントなのかなと感じています。何か失った感覚があって、そこから得られたものがあるというのは、キャリアブレイクの共通プロセスといえます。

8名のインタビューをもとにした、キャリアブレイクの共通プロセス

質問3. キャリアブレイク中の望ましい過ごし方はあるのでしょうか。

A.

北野さん:キャリアブレイク中にやってよかったこと」という100人を対象とした調査をしまして、Web上に公開されているので、ぜひ見てほしいんですけど。結構面白くて、おじいちゃんに会いに行くとか、小さいころに読んでいたマンガを読み直す、日記を毎日つけるなどの回答がありました。

ある女性の発言が印象的で、「人生の隙間でした」と言われたことがあったんですよ。これまで運や縁が入ってくる隙間のない人生を送ってきたけれど、キャリアブレイク中は運や縁がやたらと入ってきたんだと。それは「手放すことと」と裏表かもしれませんが、重要な視点なのかなと思います。

質問4. キャリアブレイクのきっかけについて、突発的にしなくてはいけなくなった場合と、自主的に始める場合があると思うのですが、その違いや関係性みたいなのはあるのでしょうか。

A.

石山さん:きっかけによる違いはないと思っているのですが、おっしゃる通り、きっかけは多様なケースがあります。例えば、メンタルの調子が悪くなって退職をしたり、パートナーの転勤だったりでやむを得ず始まること、あるいは「海外留学に行きたい」などと自主的に始める場合もあります。

最近は「プロティアンキャリア」や「バウンダリーレスキャリア」といった、自分でキャリアを選択していく考え方が広まってきています。

そうした考え方も重要ですが、一方で自分でキャリアを全て決めるというのは難しくて、どうしても予測できないことが起こったり、いくら頑張ってもコントロール不可能なことが、人生ってありますよね。ただそこで苦労や葛藤したことが、実はキャリアにとって良いきっかけになるということがあって、そうしたところは両者に共通して言えることかもしれません。

質問者:きっかけがポジティブだったとしても、ネガティブだったとしても、その経験から何かを見出すことができれば、キャリアにとって良いことにつながっていくというのが面白いと思いました。

転職先を決めず会社を辞めるのはリスクと感じるのですが、逆にいうとそれほど大きなエネルギーがあるのだと感じます。ワクワクしたり、悔しかったり、エネルギーの色はいろいろあると思いますが、そのエネルギーがキャリアにとって良いきっかけになるというお話しに、とても共感しました。

ディスカッションを終えた後、登壇者と参加者を交えた懇親会が行われ、イベントは終了いたしました。Vlag yokoahamでは、今回のようなイベントをはじめ、1日店長Barやワークショップなど、さまざまな企画を実施しています。ご関心のある方は、下記のPeatixをぜひフォローください!

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