(ざっくり翻訳パート2) DJMAGより「サンプリングの未来」
予想外に多くの反響をいただいた前回の翻訳記事、続きの要訳です。残りの部分も応援していただければ、掲載したいと思います。(注意: 翻訳の正確さについては原文へのリンクを参照してください。また翻訳中のリンクは原文からのリンクをそのまま掲載しており、リンクの記事については本記事の翻訳の範囲を超えていますので、割愛します。)
※ 本記事はチャル・レイブンズ(CHAL RAVENS)氏によって書かれ、2023年9月19日にオンライン上で発表されました。
デジタル時代には、生産者はサンプルパックを利用することで、サンプルのをどこからか見つけ出して、データとして抽出するという面倒な作業を回避し始めた。サンプルパックは時間を節約し、費用もほとんどかからず、潜在的な法的問題を取り除くことも可能である。既成のサンプルが世界中のサウンドをより均質なものにし、他人の歴史的なイノベーションを流用したおなじみのグルーヴからプロデューサーたちが出られなくなってしまうという批判もある。 理論家でDJのスティーブ・グッドマン(別名Kode9)は、e-fluxのエッセイでこの難問を解き明かした。音楽ソフトウェアが何世紀にもわたる知識と技術を「エンコード」し、豊かな文化をアルゴリズムとして平坦化する方法を指摘したのである。 西洋ポピュラー音楽の歴史は「サンプルパックの標準化から抽象的なリズム化のプロセスをアップロードするに至るまで、ポール・ギルロイの多国籍黒人文化アイデンティティを表す言葉を使えば「大西洋におけるブラック・カルチャーと他の文化のフュージョンを自動で生成するストーリー」であると彼は示唆する。
これは、北半球に居るプロデューサーやリスナーが、南半球のダンス運動とどのように交流するかを再考する思考の流れと言えよう。 ブロードバンドと安価なコンピューターの普及により、gqom のようなジャンルがダーバンからロンドンまで移動できるようになったが、同時にロンドンのプロデューサーがサンプル パックをダウンロードして gqom トラックを実質無料で組み立てることも可能になったのである。 グッドマン氏は「イッツ・ア・スモールワールド」風の地球村のユートピア主義に浸る暇はない。 「民主化の表面」の下では、通常の搾取システムが働いている、と彼は書いている。
サンプリングは、物理的なハードウェアから構築され、マスメディアの急増によって形成されたアナログ文化から生まれた。これは、私たちが現在住んでいる世界とは大きく異なる世界である。 それ以来数十年にわたり、私たちはデジタル オーディオ ワークステーション、オンライン アーカイブ、無制限のストリーミングのクラウドに上り詰め、日々のやり取りはますます仮想化され、アルゴリズムによって決定されるようになった。 これは、サンプリングがプロセスおよび文化として進化しようとしていることを示唆するには十分な変化であろう。 テクノロジーをカルチャーの唯一の推進力と指摘するのは間違いだが、エレクトロニック・ミュージックに関して言えば、テクノフィリアの感じるスリルと引き換えにカルチャーが生まれている部分もあると言えよう。
今では、曲は物理的な世界からほとんど切り離され、広大で非物質的な音楽の塊に吸収されている。 データと引き換えにする以外には、ほとんど誰もお金を払わない。AI を活用した音楽テクノロジーの氾濫により、著作者に関するそもそもが不安定な概念が破壊され始めているのだ。 音楽評論家のキーラン・プレス=レイノルズ氏によれば、曲は完成された表現であるべきだという考えさえも薄れつつあるという。 No Bells ブログのエッセイの中で、彼は TikTok で拡散している「奇妙なマッシュアップ」やピッチアップしたリミックスが相次ぎ、今年の大ヒット曲はティンバランドの「Give It To Me」とトイレの男によるスキャット歌唱の大胆な組み合わせであると指摘している。 アルファ世代の最初のミームであると信じられているホラーショー。 レコードレーベルも、バイラルヒットの種を蒔こうとして、独自のスピードアップまたはスローバージョンのトラックを制作することに熱中している。 その影響は方向感覚を失わせるものだ。その曲がオリジナルなのかリミックスなのか、ファンメイドなのか公式なのか、誰が知っているのだろうか、あるいは気にすることさえないのだろう。
プレス=レイノルズ 氏は、スピード リミックスやファンメイドの海賊版の人気は、Bitmoji から Nike ID まで「豊富なカスタマイズ オプションを持って育った世代を反映している」と示唆している。 アルバムのリリースも同じように進むことを想像するのは難しくないだろう。アーティストが自分のステムを共有して、バージョニングに参加するよう誰かを招待するだけだとしたら、どうなるだろうか? 大作ポップアルバムは非公式ながらすでにこのような形でダンスミュージックと関わっている。ビヨンセの「ルネッサンス」はリリースから数日以内に各パートが分離され、クラブ用に編集されたものに変えられた。
50 セントや、ジョーイ・バッドアス(Joey Bada$$)、アンダーソン・パーク(Anderson.Paak)などにヴィンテージ寄りの作品を提供してきた西海岸のプロデューサー、DJ Khalil(ハリル)のようなベテランのミュージシャンたちにも根本的な変化が起きようとしている。 彼の音楽は、彼が「1ドル・レコード」の箱や YouTube から発掘したサンプルなしでは想像できなかっただろう。そのため、それらのスキルを時代遅れにする恐れのある新しいツールのアンバサダーになる可能性は低い。例えば、プロデューサーと DJ にドラムを分離する機能を提供する Serato の AI を活用した STEMS である。 ボタンに触れるだけでドラム、ボーカルとベースを分離することができる。 もしかしたら、あまり大したことがないと思われるかもしれない。 筆者も、ハリルがヴィンテージのソウルレコードからドラムを取り出して数秒でクリーンなループを作成するのを見るまではSTEMSがどれほど重要なものであるかに気づかなかった。 これまでプロデューサーは、ヒップホップの基礎であるドラムブレイクダウンなど、トラックの孤立した要素をサンプリングするか、EQ を操作して使用可能なサウンドを抽出する方法を深く理解する必要があった。
ロサンゼルスのスタジオにいるハリルの話を聞くと、彼は本当に感銘を受けているようだ。 「これは私たちがサンプリングに関して常にやりたかったことと同じです。 レコードを手に入れると、『あのドラムブレイクはヤバいけど、その後ろにフィルターがかかっている音楽を取り除けたらいいのに』と思うでしょう。 今ならそれができます。 それは私にとって正気の沙汰ではありません。」
プロデューサーにとって、STEMS を使用すると、一般的なスタジオにおける タスクがはるかに速くすすみ、容易なものになる。 しかし、DJ にとっては、同じツールがパフォーマンスに新たなレベルの複雑さと自発性をもたらし、アーティストが未知の世界に飛び込むことを可能にするかもしれない。 (ステム分離テクノロジーは、VirtualDJ やその他のいくつかのブランドでも利用できる。) 同様に、Pioneer が同期ボタンを開発したとき、彼らは n00bs 用のチート・コードをインストールするだけではなかった。Ziúr(訳注: 音楽プロデューサ)のようなマルチデッキの支持者がマスターしたようにDJにとってさらに複雑なブレンドを試行できるようにしたのである。(筆者が 2019年に書いた記事を参照のこと。)
ステム分離技術は、ハリルのようなサンプルハンターにとってはあまりにも効果的である。 「選択肢が多すぎて、クレイジーです。 あまりにも多すぎます」と彼は指摘する。 AI によって生成されたステムの音質の微妙な不完全さが、彼にとって最も魅力的なものであることは興味深い。 「これが危険なのは、100%クリーンではないことです。それがよりヒップホップらしくなっているのというのが、 私の意見です。 ポップレコードを作っている場合は、音があまり明瞭ではないので、(ヒップホップと)同じようには使えません。 まだ人工的につくられたノイズのような感じがあります。」
他の AI ツールは、プロデューサーにさまざまな問題を引き起こす。 サンプルの収集家が集まる、とある Discord コミュニティが今年発見したように、Google アシスタントは 1 秒未満のサンプルを識別できるようになった。 一晩の検索で、彼らはモブ・ディープ、トッド・エドワーズ、マッドリブらのトラックのこれまで知られていなかった何十もの音源を発掘したのである。これは、サンプルに依存しているよく居るプロデューサーを十分に不安にさせる。 さらに、Google のまだ実験段階にある MusicLM のような、テキストの説明に基づいて曲全体を生成する作曲ツールも存在する。それによって作られる音楽の例には「英国インディー ロック」などだけでなく「アコーディオンによる デス メタル」という奇妙な例もあるのだ。 YouTube での「ダブステップとは何か」という議論に参加した人なら誰でも証言できるであろう、いくつかの結果は驚くべきものである。しかしそれ以外は、私達が普段話しをする時に音楽を表現するために、いかにテキトーで主観的な用語の使い方をしているかを証明するだけのものでもある。
Daddy's Car: a song composed with Artificial Intelligence - in the style of the Beatles (ソニーCSL Music Team の YouTube)
MusicLM はまだ開発中ですが、2016 年にまるでビートルズが歌っているかのような印象を与えた「Daddy's Car」を作成したソニーの Flow Machines のようなプロジェクトは、技術者が作曲プロセス全体をアウトソーシングすることに執着していることを示している。 これらのツールの想像上の目的は何だろうか、と尋ねる必要があるだろう。 時間を節約するように設計されているのか? 音楽制作をもっと身近なものにするためなのか? それともアーティストが実際にもっと面白い音楽を作るのを助けるためなのだろうか?
仮想現実研究者のジャロン・ラニアー氏は、楽器の偏屈なコレクターであり、古い曲を分析するだけで新しい曲を作るアルゴリズムに疑問を抱いている。 「音楽は曖昧です。それは主に制作され楽しむための製品なのでしょうか、それとも音楽を作ることが最も重要なことなのでしょうか?」 彼は最近ニューヨーカー誌でこう尋ねている。 「前者であれば、音楽制作を自動化できるということは、それが良いものであるかどうかは別として、少なくとも一貫したアイデアです。 しかし、後者であれば、音楽制作を人々から引き離すことは、全体の要点を損なうことになります。」 実際に音楽制作を楽しんでいる人はきっとたくさんいる、と彼は付け加える。 「あなたがセックスする必要がないように、ロボットにセックスしてもらいたいですか? つまり、人生は何のためにあるのでしょうか?」
(いよいよ核心に迫ってきたわけですが今回はここまでとさせていただきます。もし反響があればこの続きも要約したいと考えています。応援お願いします!)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?