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ヴァーチャル・キャラクターとリアリティの境目(その3)

こんなサービスを紹介した記事を見た。

「AIが『架空のモデル画像』を生成 広告・ポスターで利用可能 スキャンダルでの降板リスクをゼロに
このサービス自体の需要はあると思うし、何の問題もない。
気になったのは「スキャンダルでの降板リスクをゼロに」という紹介の仕方である。これは20年前に日本で制作されたヴァーチャル・キャラクターを紹介した記事でも目にした謳い文句である。
(20年前にもヴァーチャル・キャラクターは存在していた、ということは以前に書いた。)

ヴァーチャル・キャラクターとリアリティの境目

しかし、ヴァーチャル・キャラクターの利点は「スキャンダルによる降板リスクが最小限」ということなのだろうか?確かにここ数年「タレントの不祥事」によって「◯億円の損害を被ると計算される」というような芸能記事を見かけることは少なくない。(ちなみにその損失はタレント事務所が被るものであるから、おそらくヴァーチャル・キャラクターも事務所に所属する必要があるのだろう。)

しかし「タレントの降板による損失の大きさ」はそもそもタレントの人気に比例するはずである。


ヴァーチャル・キャラクター(ここでは画像として存在する「架空のモデル」)がスキャンダルを起こす可能性がゼロ、だからスキャンダルによる降板の可能性はゼロ。→正しい。

(例えば)ポスターに使用されるヴァーチャル・キャラクターが既に一般に知られている可能性はゼロ、だから宣伝効果は...ゼロに限りなく近い、だから(仮に)スキャンダルを起こしても降板による損失の大きさは...ゼロに限りなく近い。→正しい。

ヴァーチャル・キャラクターによる宣伝効果がゼロなら、スキャンダルによる降板リスクがゼロになったことによって損失が抑えられるという利点は、ゼロ。→正しい。

つまり「スキャンダルによる降板の可能性がゼロ」という理由だけで、ヴァーチャル・キャラクターを使用するメリットは...ゼロ。→正しい。

え?
つまりこういうことだろう。(スキャンダルの可能性を考える以前に)「この架空のモデルをポスターに使った際の宣伝効果がどのぐらいあるのか、を算出できない限り、『降板のリスクを最小限に抑える』ことによって得られるメリットは計算できない。」

では、このヴァーチャル・キャラクターを使用するメリットを創出するにはどうしたらいいだろうか。何らかの形でこのキャラクターを有名にすることがまず必要である。そのために、名前をつけて、露出を増やし、認知度を上げる、つまり通常の人間のモデルを売り出すのと何も変わらない。

このキャラクターを有名にするために何らかの「売り」が必要なのだが、「スキャンダルを起こさない」ということ自体は、まだ有名になっていないキャラクターの「売り」にはならないということに、賢明な読者の皆さんはこの時点でお気づきであろう。

20年前から使い古された宣伝文句「スキャンダルを起こさない」は、そもそもヴァーチャル・キャラクターの宣伝にすらなっていない、ということを証明するのに20年かかった、わけではないだろうけど。

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