400字小説『率いる者の憂鬱』
「どうして記者会見をしないんだ! 責任を感じるだけで何もしないのか! コロナは人災だ! 初動対応の遅れがこのような事態を引き起こしている!」
国民の皆さんの声は、全て私の耳には届いている。しかし、日々動く情勢に合う言葉を考えつくことが出来ず、会見を開けずにいた。考えても考えても動かなければ時間は過ぎていく。しかし、迂闊な行動が出来ない。いっそのこと、ひっそりこのウイルスが壊滅してしまえばいいのに。もう財源は無い。どうにかしたいのは私も同じなのに、何をしても怒られる。うちで踊っても、マスクを配布しても、10万円を配っても。どうして分かって貰えないのだろう。妻の入れたコーヒーを一口飲む。いつもより苦い。妻はコーヒーを入れてくれるが、ここ一週間はまともに会話を交わしてはいない。二口目以降はガムシロップを入れる。家庭も仕事も問題は山積みだ。私が動けば解決するはずだ。しかし、怖いのだ。
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