ショートショート『オンラインゲーム』、を綴る

 また短編小説を書いてみたので、載っけてみます。

暇でしたら読んでくださいー!



 このオンラインゲームは私にはハードルが高かった。誰かわからない人とチームを組んでボイスチャットをしながら協力をしつつバトルをするのが怖い。このゲームはとある架空の戦場にプレイヤーが送り込まれたという設定のFPS視点、いわゆる主観視点のシューティングゲームで、生き残るには正確な射撃力が求められる。チーム戦の場合はアイテムを分けたりしないといけないので、コミュニケーション能力も必要だ。少しでも失敗して、同じチームから舌打ちが聞こえてきでもしたら心底落ち込んでしまう。それでもオンラインゲームをやろうと思ったのは、仕事に失敗して、ヤケ酒で酔っていたからだ。自宅で一時まで酒を飲み、面白いテレビもやってなかったので勢いでゲーム機のスイッチを入れてみることにする。
 私は、飲食チェーンの女性社員として、国道近くにある中華レストランでフロアをしている。今日は、平日だったので客入りは少ないだろうと思って、従業員は少なめに回っていたが、慰安旅行か何かで集まった高齢の団体客が一気に16時頃にやってきた。休憩に入ろうと思った矢先の出来事で、私意外はフロアもキッチンも新人の大学生のバイトの子で回していたので、すごくテンパってしまった。キッチンにホールに出入りを繰り返し、団体客の対応をしていたら、サラリーマン風のスーツを着ていた五十代の男性客が会計を済ませずに店を出て行ってしまった。その時は気づかなかったのだが、テーブルの後片付けをしている時、ソファー席の隙間に丸めて捨てられていた会計表を見て気づいた。警察に連絡はしたのだが、本部にまでそのことは知れ渡り、本来今日休みだった店長を店に呼ぶことになり怒られた。
 マイク付きイヤホンを装着し、メニュー画面から、オンラインバトルモードを選択し、現在同じゲームサーバーに入っている人からランダムに2人でチームを組まされて戦う。この時間なのでプレイヤーは少ないだろうと思っていたが、意外とすんなりチームを組むことができた。テレビ画面から、若めの女性の声で「こんばんは!」と聞こえてくる。どうやら、同じチームのプレイヤーらしい。この時間帯に、女性もやっているのかと思いながら「こんばんは」と返してみる。しかし、反応がない。
「・・・あ、声もしかしたら小さいかもです。」
どうやら、私の声量が小さすぎたらしい。もう少し声を張ってみる。
「こんばんは」
「・・・聞こえました。よろしくお願いします。さやです。」
「まゆこです。すいません。・・・私、このゲーム初心者なんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫って何が?」
「うまくないんですけど。」
「全然、いいですよ。」
女性はどこかそっけない様子だ。時間帯のせいもあるのかテンションが低い。酔った勢いでプレイしたことを少し後悔する。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、私の後ろついてきてください。」
このゲームは一つのマップの中に世界中のプレイヤーの五十人が集められて、武器を拾いながら戦っていく。なのでどれだけ強い武器を手に入れつつ正確に相手を撃ち倒していくかが勝利へのポイントだ。
プレイが始まる。ゲームの世界観は近未来の荒廃した街
空から、道具箱が降りてきた。そこに戦う為の武器が格納されている。私たちの近くにも降りてきたので、それを拾う。
「まゆこさん、アサルトライフル使いますか?」
アサルトライフルは連射能力が高いので、初心者には扱い安い。
「ありがとうございます。」
さやさんは上手い人がよく扱う、リボルバーを拾った。
「あ、足音聞こえる。」
敵が近づいてきている。
「N方向に一人いる!アサルトで行ける?」
倒せるかわからないけど、とりあえず銃を持ったまま突撃する。しかし、ヘッドショットされて、即死してしまった。
「ごめんなさい。死んじゃいました。」
さやさんは私を倒した相手をすぐさまヘッドショットし返す。
「まぁ、しょうがないよ。」
そのあとは、さやさんがプレイしてる姿を見ているだけだった。残り六人となり、プレイヤーと一対一で戦っている時に横から乱入してきた敵に倒されてしまった。
「この時間帯は子供がやっていないから、強い人が多いね。」
私はそんなことも知らなかった。なんて返せばいいのか分からず言葉にもなってない相槌をしてしまう。
「・・・もう一試合やる?」さやさんは私の変な相槌など気にも留めていなかった。
「わかりました。」
次の試合も私が最初に死んで、さやさんが最後あたりまで生き残り、一位になれずに終わった。
時計を見たら、2時になっており、明日7時起きの私としては寝ていたい時間だった。酔いも覚めており、切り上げることを考えていた。
「まゆこさんってさ、何の仕事をしているの?」
突然、さやさんが問いかけてきた。
「・・サービス業です。」
ネットで始めてあった人に個人情報を話すのは少し気が引けたが、具体的でなければいいだろうと思った。
「さやさんは?」
「私? 私は風俗だよ。」
一瞬まずいことを聞いてしまったのかなと思ったが、彼女から言い出したのでどうしようも出来なかった。
「・・・へー。」
「へーってなんだよ。風俗って意外と楽しいよ。うちの店結構クリーンだし。」
「大変なこととかないんですか?」
「いろんな人の大事な所を触ったりするから大変だよ。でも、もっと辛い経験とかしてきたからそれよりマシだなと思える。」
「辛い経験?」
「聞く?」
「・・・やめときます。」
含みを持ったことを話す時、人ってなんとなくいやらしく聞こえてくるけど、さやさんはそれが無かった。
「ストレスがたまる時もあるけど、そういう時はゲームで散々殺すんだよね。」
強いワードが出てきたので思わず吹き出してしまう。
「笑ってるけど、結構有効だよ。誰かを殺したいくらいイラつくことがあっても、ヘッドショット一発でスッキリする。」
「なんか、すごいですね。私も見習いたいです。」
「やればいいじゃん。教えるよ。」
「いいんですか?」
腹が立つことがあっても、どこかで発散出来ればいいのかもしれない。
「じゃあ、もう一試合やりませんか?」
明日早起きだけど、気が変わった。少しくらい寝不足になってもいいだろう。
「いいよー。」
私はキッチンにコーヒーを入れに行った。

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