「特別な日の、特別な一着」ができるまで —VIVITA ARTISAN CLOTHES PROJECT in 二子玉川 Powered by 東急 レポート
このプロジェクトについて
2021年の春、9名の子どもデザイナーが、第一線で活躍するアルチザンやクリエイターと共創する「VIVITA ARTISAN CLOTHES PROJECT in 二子玉川 Powered by 東急(株)」に参加しました。
自分の身の回りに当たり前にあるものは、誰の手によってどのようにしてつくられているのか。モノづくりの科学や歴史を知り、みんなで衣服の新しいあり方を探究するプロジェクトです。プロフェッショナルの仕事に触れながらアイデアを磨き、商品開発を目指してモノづくりに挑戦します。
「特別な日の、特別な一着」をつくろう
君だけの ”特別な日” は、誰かにとっても特別な日。子どもたちがいつか叶えたい「最高の一日」をモチーフにして、誰もが「特別な日」に着たくなる「特別な一着」をデザインしました。
新しい衣服づくりのプラットフォームを提供する「シタテル」協力のもと、ていねいなアプローチで自然のモチーフをデザインへと昇華させる「koike.」デザイナーの小池優子氏、服飾専門の学校「エスモードジャポン」でファッションを学ぶデザイナー、パタンナーの卵たちと一緒に衣服づくりに取り組みました。
▶︎実施概要
|活動日|2021年3月28日(日)〜5月30日(日)
|場 所|二子玉川ライズ(世田谷区)+オンライン
|対 象|小学3年〜中学1年生
|主 催|東急株式会社 / VIVITA株式会社
|協 力|koike. / シタテル株式会社 / エスモードジャポン / 二子玉川ライズ
みんなで取り組んだ、5つのmission
このプロジェクトは、一方的に教えたり教えられたりするような活動ではありません。参加する全員が、自分の頭で考えて自分の手を動かします。そして他の誰かと対話しながら共創することを楽しみ、その過程で出会ったことを自らの経験としていくものです。
今回は「5つのmission」にみんなで取り組みました。
1)「特別な一着」をつくる
自分の「最高の一日」を分解して再構築し、誰にとっても「特別な一着」として表現しよう
2)シャツを再発明する
シャツとは何なのか?を考えて再定義し、機能や役割の意味をとらえ直して再発明しよう
3)素材を考える
再利用された素材や廃材を使い、サスティナブルなモノづくりを考えよう
4)ボーダーを超える
性別も年齢も関係なくボーダーレスに着用できる衣服をデザインして、自分と他者(世界)をつなごう
5)世界観を伝える
その一着が持つ世界観を言葉にして、自分たちの方法で世の中に発信しよう
「特別な日の、特別な一着」ができるまで
ほとんどの子どもたちにとって、衣服づくりは初めての経験です。エスモードジャポンで服飾を学ぶ学生さんたちにとっても「他の誰かと共創する」ことは貴重な経験のひとつになったのではないでしょうか。
約2ヶ月に渡って、オンサイト(二子玉川)とオンラインの活動を使い分けながら、大きく4つのプロセスで取り組みました。
プロセス(1)「特別な日」を考えよう
活動の軸は、デザイナーが自分自身の内面やルーツからオリジナルを生み出し、唯一無二のデザインとして表現するプロセスに挑戦することです。活動を始めるにあたって、デザイナーはどうやってデザインを生み出しているのか、服づくりのアプローチを「koike.」デザイナーの小池優子さんに伺いました。
その後、自分自身を観察するところから始めます。自分を分解するマインドマップをつくって見える化し、自分にとって「最高の一日」がどんな一日なのか考えました。10年後、20年後?どんな人になっている?どんな世界になっている?それぞれ叶えたい未来を思い描き、言葉で表現しました。
言葉にできた「最高の一日」のマインドマップをつくり、さまざまな角度から分解して観察しました。これをもとにして、デザインのもとになる「ムードボード」づくりのためのモチーフを集めていきます。
プロセス(2) 衣服について考えよう
このプロジェクトでデザインするアイテムは「シャツ」です。しかし私たちは普段、シャツについて真剣に考えたりしているでしょうか。シャツをつくるからには、シャツに関心を寄せ、理解しておきたいものです。
そこで、シタテルの廣瀬雄太さんと一緒に、シャツっていつ生まれたんだろう?だれがどうやってつくっているんだろう?ということについて考えました。えりやカフス、ポケットなどの役割や形状には由来があり、理由があることを知ることができました。
シャツの歴史や成り立ちに触れた上で、改めて人間にとってシャツの役割は何だろう?ということをみんなで考えます。そして「シャツとは何か?」という定義について、それぞれの考えを共有しました。
「シャツについて、こんなに考えたことなかったよ!」と言っていた子どもメンバーがいましたが、大人のクルーでもそんな経験はなかなか無いです。
また、その翌週のオンライン活動では、今ファッション産業でおきている問題、環境に与えている影響について取り上げ、環境によい持続可能なファッションを実現するために私たちにできることは何だろう?ということをみんなで考えました。
同時に、ミッションのひとつである「ボーダーを越える」ことについて話し合いました。性別や年齢の概念にとらわれず「人間」として自分らしく生きること、何かで線引きをすることなく自分と他の誰かの境界線を越えていくこと、「あたりまえ」にしばられず自由に考えていくことを、この活動では大切にしたいと考えています。
プロセス(3)「特別な一着」のデザインを考えよう
これまで集めた「最高の一日」のモチーフで、デザインのもとになるムードボードをつくります。自分の頭のなかをイメージにしていく作業です。使いたいモチーフを選んで切り貼りし、自分が好きな色を色画用紙や絵の具で一緒にレイアウトしていきます。それぞれ、個性溢れるムードボードが完成しました。
さて、実際にデザインを起こす作業に入る前に、布を使ってどんな表現ができるのか、ファッションブランド「koike.」デザイナーの小池優子さんがレクチャーしてくれました。今回優子さんが紹介してくれたのは、13個のテクニック。立体的になったり、優雅さやかわいらしさを演出できたり、デザインにアクセントを付け加えることができそうです。
また、デザインを考案する際に「できること・できないこと」を共有しました。まず、著作権の話です。デザインを起こすときは、自分の著作権と同様に、ほかの人の著作権を守る必要があります。
そしてコストと時間の問題です。つくるのにコストや時間がかかりすぎてしまうと、結果として、みんなが気軽に買えない値段のものになってしまいます。何を表現したいのか、そのかたちにする理由はなにか、ということをしっかり考えてチームで話し合うようにしました。
優子さんがデザインしてくれたトワル(仮縫いのサンプル)のパターンをベースに、それぞれのチームでデザインを検討します。このプロジェクトで生まれた9作品は、さまざまな色やカタチのバリエーションがあり個性豊かですが、実は、ひとつのパターンをもとに展開しています。
デザインが固まってきたら、その表現が実現可能かどうか、シタテルの廣瀬さんに確認しながら検討を進めました。そして生地やボタンなどのマテリアルをサンプルから選び、スタイル画を仕上げて完成です!
終了時間ギリギリまでデザインを考えたり、廣瀬さんに相談するために行列したり、素材を選んだり、スタイル画を描いたり。みんな最後まで闘い抜いて、完全に燃えつきたのでした...。
プロセス 4「特別な一着」を発表しよう
考案したデザインは、シタテルさんにサンプル制作を依頼します。「生田プリーツ」という縫製工場さんが、子どもたちのこだわりをていねいに仕上げてくれました。とても手間がかかり、大変だったそうです。
そうして、これまで誰も見たことがないような、唯一無二の「特別な一着」たちが完成しました。一枚一枚に、子どもたちの未来がぎゅっと詰まっています。
たくさんの人に、この「特別な一着」の魅力を伝えるために、その世界観を言葉にして自分たちの方法で世の中に発信します。ここで言う「世界観」は、その作品がもつ雰囲気や意味、作品を通じて表現したい理想のことです。
それぞれ、デザインに込めた魅力やメッセージを言葉にして「特別な一着」の物語を編集してプレゼンテーションの準備をします。発表のしかたや、資料や素材のつくり方は自由。チームごとに話し合い、それぞれ最適な方法を模索します。
自分でデザインのモチーフを手描きしたり、アーティスト写真を撮ってもらったり、思い思いの方法でプレゼンテーションの素材が完成したら、スティーブ・ジョブスも世界的プレゼンテーションの前にはたくさん練習したんだよ!ということで、入念なリハーサルです。
そしてついに、成果発表会に挑みました。みんな初めてのプレゼンテーションに緊張した様子でしたが、ひとたびマイクを握れば堂々たるものです。その頼もしい姿と、それぞれの作品が持つ豊かな創造性と革新性に、発表を見守る皆さんから驚きと感動のコメントがたくさん寄せられました。
このプロジェクトで生まれた作品は、現在クラウド販売に挑戦しています。各作品の詳細もこちらでご覧いただけます。
▶︎「特別な日の、特別な一着」クラウド販売サイト
▶︎「特別な日の、特別な一着」の全作品を二子玉川にて展示中です!
展示期間:6月21日(月)〜7月4日(日)
展示場所:二子玉川ライズS.C. タウンフロント4階
〒158-0094 東京都世田谷区玉川2丁目21−1
東急電鉄 田園都市線・大井町線 二子玉川駅
さいごに
約2ヶ月間に渡るプロジェクトも、ついにゴールを迎えました。
プロジェクトを完遂した子どもたちの、晴れやかな笑顔が印象的でした。何より、誰ひとり諦めることなく、みんなで完走できたことを誇りに思います。
他の誰かとの共創活動や、一枚のシャツが完成するまでの過程を通して、いつもとは少しだけ違う角度から世界を見つめたり、新しい自分を発見したり。大人も子どもも、このプロジェクトで情熱や好奇心の種を見つけることができたなら、ぜひ、大切に育ててほしいと思います。それはいつか、花を咲かせ実を結ぶかもしれません。
VIVITA ARTISANは、これからも活動を続けていきます。
次回より、ひとつひとつの作品が生まれたストーリーをご紹介します。
お楽しみに。