貴婦人のコルヴェイユ|ミルフィーユ|読むバレエ~香りと空想の「ジゼル」~《3》
「君の名はジゼル」序
場面を序、第一幕、第二幕の三つに分けました。
序では、企画展のテーマである 「貴婦人のコルヴェイユ(花籠)」を意識した場面を入れつつ、第一幕・第二幕の後の時代の世界を描いています。ジゼルの生まれ変わりである貴婦人を登場させ、第二幕が閉じたあと、どんなことがあったのかを示唆しています。
貴婦人とジゼルは一人二役という設定です。早着替えが大変かもしれないな、などと空想しました。
第一幕
「ジゼル」は十九世紀に作られたバレエで、ウィリー(作中では『ウィリ』としました)伝説は、ドイツの詩人ハイネの「ドイツ論(精霊物語)」で紹介されている地方伝説です。当時の人々が強く抱いていた、(女性が)未婚のまま死ぬことへの恐怖・偏見の見られる民間伝承は、現代の私たちに違和感を覚えさせます。
「君の名はジゼル」に登場するジゼルは、十四歳の聡明な少女。身体が弱いことの不自由さ、少女であることの窮屈さを敏感に感じ取っていて、ウィリ伝説にもすぐに疑問を抱き、自由奔放な少年たちのようになりたいと願っています。
第一幕ではそんなジゼルとバチルドとの友情や、ジゼルに共感し味方するウィルフリード、無邪気に少年らしさを見せつけるアルブレヒトとヒラリオン、ふたりの少年に張り合ったことでジゼルに訪れる悲劇を描きます。
第二幕
第二幕は一転して幻想的な精霊ウィリの世界。
バレエ「ジゼル」の見せ場である白のバレエ(バレエ・ブラン)を、「君の名はジゼル」ではキーワード/テーマ―カラーの「菫」色のバレエ(バレエ・ヴィオレ)に仕立て直しています。
少年になりたいというジゼルの願いは、菫色のバレエ/バレエ・ヴィオレを通して、叶えられます。萩尾望都さまの漫画「トーマの心臓」や「ポーの一族」がお好きなかたなら、自分も永遠の少年になりたいと願ったことが一度はあると思います。「トーマ」「ポー」に憧れたという漫画家ヤマザキマリさまも「少年になりたかった」とおっしゃっていて、それを知ったとき(私だけじゃなかったんだ、ヨカッタ)とどこかホッとしたものです。皆さまもジゼルになったつもりで、永遠の少年になってください。
「君の名はジゼル」のもう一人の主役とも言えるのが精霊ウィリの長、ミルタ。ジゼルの親友バチルドと一人二役にすることは、ミルタを描いている途中で思いつきました。バチルドもミルタもジゼルに対して深い理解があるという部分では共通しています。「白鳥の湖」で一人のバレリーナが白鳥と黒鳥を演じ分けるように、無垢なバチルドと冷徹なミルタを一人が演じ分けるという設定にしてみました。
装幀について
シンプルなデザインしかできませんので、内容に合った色の組み合わせを考えるほかは、「こんな感じにしたい」というイメージを元にしています。今回は霧とリボンさまとのコラボレーションですから、菫色は必須で、菫色には銀色を合わせたい、と決めていました。
デザインは、これまでの本でもよく使ってきた大好きなダイヤ型を取り入れたい、と思っていました。アラザンのような小さな丸をあしらって、中央にラベルが貼られているようにして、そこにタイトルを入れる、といイメージが何となく浮かびました。
仕上がった本の画像をノールさまに送ったところ、菫色の小部屋を思い出しました、と言っていただきました。確かに、惜しまれながら閉店された吉祥寺のギャラリーショップの壁紙の色と同じ組み合わせでした。
手に取ってくださる皆さまへ
私が物語を描くとき、手にした人に「これは私の/僕のための物語だ」と思ってもらえたら、と願いながら創っています。本はいつもそばにいてくれて、開けばいつでもそこに貴方の居場所があります。
物語を読み、ポプリを嗅ぎ、アクセサリーに触れた鑑賞者が思い浮かべる世界が、いま、色づき、動き始めます……。
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著者名|ミルフィーユ(伊藤裕美)
書名|『君の名はジゼル』
新書判/80ページ
[表紙]紙:菫色/印刷:銀
[遊び紙]トレーシングペーパー:菫色
発行日|2024年11月17日
発行|mille-feuille
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