monomerone《1》|暗号の植物標本 & 壊れた肖像画
Text|Kayoko Takayanagi
monomeroneの作品は、架空のアンティークと名付けられている。
新しく創られた作品でありながら、その背後には物語を背負っているのだ。存在したかもしれない元の持ち主に想いを馳せて、その人物が生きた時代やその人の人生を想像する楽しみが、そこにある。
花の名前で綴られる暗号。
ダイイングメッセージというにはあまりに美しく儚いこの作品に秘められた言葉のひとつは「毒」であるという。
シャーロック・ホームズの作品でも、毒は頻繁に現れるお馴染みのアイテムだ。ホームズは化学や植物学に詳しく、自分でも実験を行い確かめる科学者としての気質を備えている。
そしてもうひとつの言葉は「心臓」。生命の源であり心の象徴でもある心臓は、その鼓動を永遠に止めることで、死の象徴ともなり得るのかもしれない。
標本にされて尚その色を留める可憐な草花の名前の頭文字は、古風で奥ゆかしい方法でメッセージを伝える。淡い菫色の縁取りとタッセルが、かつての持ち主の不在を囁きかける。暗号を解いてわたしを見つけてと。
*
*
描かれた人物がいない肖像画は、その不在故に観る側の想像をかきたてる。残された額の破片にはタイトルだけが残され、物語の主役は消え去ってしまった。
ホームズの物語の中でも『バスカヴィル家の犬』は、まさにそのタイトルだけでイメージが一人歩きするほどのインパクトを持つ。炎を吐く魔犬の遠吠えは、さぞかし恐ろしいことだろう。
monomeroneはそのイメージを”HOUND”というタイトルに昇華させた。地獄の番犬ケルベロスの恐ろしくも崇高な姿のように、2種類の菫色で作られた額の破片は複雑な模様を描く植物に装飾され、涙のようなモチーフが揺れる。
monomeroneの作品は、どれも驚くほど軽く、そして繊細でありながらもとても扱いやすい。とっておきのドレスに合わせるも良し。お気に入りのTシャツに着けてあり得たかもしれない時間に想いを馳せるも良し。
作品の魅力を余すところ無く伝えてくれる美しい写真は、作者のmonomerone自身の撮影によるものである。
ブローチやネックレスなど様々な着け方ができる使い勝手の良さも、着用写真から見てとれるだろう。
monomeroneの作品は、物語を携帯する楽しさに満ちている。
ホームズが活躍した19世紀ロンドンの、架空の時空を身につけてみませんか。
*
*
*
*
作家名|monomerone
作品名|暗号の植物標本
樹脂粘土・金属パーツ・ガラスビーズ・レーヨンタッセル
作品サイズ|約9cm
制作年|2021年(新作)
*
作家名|monomerone
作品名|壊れた肖像画(金紫・黒紫)
樹脂粘土・レジン・メタルパーツ・生地・淡水パール・ガラスビーズ
作品サイズ|8cm
制作年|2021年(新作)
*
↓モーヴ街MAPへ飛べます↓