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16幕・千穐楽は心の恋人味



コウくん、そう言うお話だったの。
長々聞いてくれてありがとう。

そうだったんだ。
紅子ちゃん急にへたり込んだから、本気で心配しちゃったよー。

でも、何で記憶に蓋してたの?

うーん、5歳位の時かな?母におじいちゃんとおばあちゃんと劇場行くんだって話したら、烈火のごとく怒鳴られてね。
仕事も忙しい時代だったから、ストレスもあって、そういうの嫌いなんじゃないかなーって思って。

そこから親には一言も言わなくなって、封印してたっぽい。
でも所作は覚えてて、不思議なこといっぱいあった。

そっかあー、勿体ないね。
でもさ、こないだここ見た事あるって言ってた建物あったよね。
ああ、新しく建った劇場でしょ?
紅子ちゃんの記憶の欠片、まだ出てくるかもね。

こうして夫婦で劇場まで散歩してみた。
立派な劇場がきらきら輝いている。
そこにはノボリが沢山あって、人気と本気の度合いを感じさせる。
じーっと眺めて続けた時、子供の時に見たことがある芸名と特徴のある化粧の人がいる。

あっ!この人だ!!
ほぼ間違いないと思う人を見つけた。
私は急いで夫に言った。
コウくん、ちょうど夜の部始まるから見るの付き合ってくれる?
良いよ。こういうの見たことないから、楽しみかも。

人情芝居は夫に思いのほかウケて、笑ったり泣いたりと観劇していた。

送り出しの時、最後まで待って思い当たる節のある俳優さんに声を掛けてみた。

昔〇〇商店街の外れにある劇場に乗ってませんでしたか?

〇〇商店街かあ、僕が二十歳の時かな?
懐かしいなぁ。よく知ってるねー。

昔おばあちゃんとよく行ったんです。
心の恋人だって言ってました。
それから、時代劇にも出演されてなかったですか?

切られ役だけどね、出てたよー。
本当によく覚えてるね。

いつも見てたんです。
おばあちゃんたら、少女のようにはしゃいじゃって。

ホッコリとお話してくださる優しい人で良かった。

せっかくだからご飯行こうよ。

ぇえ・・・。

夫が待っているので、じゃあ、また来ますね。
ありがとうございます。

あまりの出来事に口にしたのはそれだけだった。

おばあちゃんの心の恋人様とお話できただけでいいやと思っていたら、お食事会に誘われてしまった。

後になって行けば良かったと思いつつも、夫と帰った。

何ナンパされてんの、紅子ちゃんー。
夫が家路に着くまでからかってくる。
やめてよー。
でもお墓参りの時、おばあちゃんにお土産話できたからアリかも。
そうだねー、面白いお墓参りになるね。

紅子ちゃんの思い出を、時々見に行こうね。
ありがとう、また行こうね。


これにて幕引き。
千穐楽までお付き合いありがとうございます。

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