#4 多肢を同時に使う動作を引き起こす光刺激により、皮質の構造を明らかにした
本日はこちらを紹介します。
https://doi.org/10.1101/2024.07.05.602302
Khanal, Bauer, Concurrent optogenetic motor mapping of multiple limbs in awake mice reveals cortical organization of coordinated movements, BioRxiv, Jul 6, 2024
概要
脳への刺激によって、運動野の神経回路や分散した皮質の運動制御システムについて明らかになってきた。ペンフィールドやその他の実験によって、ヒトをはじめとする哺乳類で、運動と感覚のホムンクルスが大脳皮質に存在することがわかった。さらに細胞構築学的に定義された M1, M2 という領域以外にの活動が動きの生成や plannning に重要であることもわかった。例えば齧歯類においては前足を動かす領域として、RFA (M1) と CFA (M1, M2, S1 にわたる) という 2 つが知られている。最近の研究では、複数の肢の情報を統合し、複雑な運動プログラムを準備する領域が、motor cortex 内に存在していることが明らかになった (Heiney, Medina, Neuron, 2021) 。さらに、motor と APC, PPC (parietal) が sensorimotor のネットワークを作っている。
複数の肢の統合の理解のためには、従来の体部位マップだけに囚われていてはいけない。fMRI での知見によると、M1 は各部位に対応した領域であると同時に体全体での action planning のための領域であって、この2つを織り交ぜたような領域である。マウスで long-train (LT) ICMS を frorelimb cortex に行うと、外転、内転をしたり、リズミカルな運動をしたりなど様々な異なる motor dynamics を行う。他にも RFA, CFA への LT-ICMS により natural behavior に見られる複雑な動きを誘起できることが示されている。(Brown et al., Cereb. Cortex, 2023)
さらに他の複雑な動きは運動野以外の刺激で引き起こせる可能性がある。
筆者らは、皮質への光刺激によって四肢を実験者の思ったような場所に動かす Multilimb Optogenetic Motor Mapping (MOMM) という系を立ち上げている。DeepLabCut を用いてどの領域を刺激したときに肢が動くかの validation をとっている。刺激は sensorimotor 領域を超えて行い、cortex の 64% で反応があった。そのうち 14% は semosorimotor 以外だった。
Fig. 1 MOMM とそれを検証するための実験系
A: 実験系。Head Fix で、ベルトをマウスに巻いて、四肢は自由に動かせるようにしている。十分 habituation をして固定しているらしい。
B: 脳への刺激系。300 µm 間隔で左側の皮質に 378 sites 刺激できる。1 photon stimulation で 10ms 刺激 (50Hz) を 500 ms。
C: 200 Hz の CMOS カメラで四肢の動きをとらえた様子。DeepLabCut で 3 次元的に手足口の動きをトラッキングできる。
D: 脳への刺激マップを作る方法。手足の位置のユークリッド空間上での変化をトラッキングして、刺激してからの AUC を評価基準としている。その値を脳上にマップしている。
E: D の方法で完成した motor map。M1 におさまらず、M2 や sensory、parietal、retrosplenial に広がっている部分がある。左右で Max の違いはあまりなさそう。
Fig. 2: 足の大きな動きは、位置を変える運動と細かい足の運動に分類される
A: Forelimb の詳しいマップ。Fig. S2A では Hindlimb についても記載しているが、こちらでは rostral と caudal が逆になっているところが見られる。(伝統的に Bregma より前が Rostral で 後ろが Caudal とされるが逆転しているところあり)
B: 手の中の固定された 3 点をトラッキングすることで、手のひらの向きを観測し、手首の動きや関節の動きなどの Finer articulations を観察して、LT-ICMS による刺激と対応づけている。
C: 2B で見られる Finer articulations の組み合わせで、grasping-like motions ができる
Fig. 3 うまく調整された動きは、個々のマウスにおいて誘発された運動に裏付けられる
それぞれの行動 (Grasp, Rhythmic など) に対応した刺激領域
仮説
筆者らは、motor map が overlap している部分が、multilimb を使って動かす運動を誘発する部位なのではないかという仮説を立てている。
仮説を検証するために Fig. 4 以降の実験をデザインしている。
Fig. 4 四肢を統合して行う動作は、単体動作の地図の交わりに存在する
A: Forelimb の overlap する領域。刺激できる点としては 10 点ある。
B: 刺激した時の両手の動き。両手で reaching を行っている。
C: 10 点のそれぞれを刺激した時の trace。どの刺激点でも等しい運動をする。
D-F: Forelimb と Hindlimb の交わりでも同様の現象が見られる。left forelimb を引っ込めて、同時に right hindlimb は large cyclic motion らしい
Fig. 5 四肢を統合した動作は、皮質上のマップに存在している
B: 食べるような動作をさせている
C: "locomotion" 様の動作をしている。これは parietal, retrosplenial の領域。
→ このような領域が皮質上に存在するという事実から、多肢を統合して行う動作をうまく行うための仕組みは、皮質上の回路によると考えられる。
Discussion
動物の acclimation が難しく、麻酔下で似たようなことを行った論文はあるが、自然な動きを抑圧せずにこのような系を構築したのはこの論文が初めてであり、さらに DeepLabCut を用いてそれらを定量できたことがえらい。
一つの領域の刺激で複数の部位が動くようなものが存在することから、そもそも motor cortex のなかにそういう回路が存在することがいえる。
また ipsilateral の筋肉が動いたことについては、10% の Corticospinal neurons が ipsi に投射をもつことでも説明できるが、それだけでなく刺激した対象の中には皮質レベルで contralateral と結合を作るものがある。
他にも、軸索に発現した ChR2 は問題になる
eating-like, locomotion-like behavior が M1 の外での刺激で起こることから、motor control に 2 つの parallel な network が存在すると考えられる。(サルでの知見と consistent)
このように 2 つの pathway が存在することは、皮質の機能的な構造が muscle-based でなく movement-based であることを示している。
→ 行動によって駆動される spiny projection neurons (SPNs; striatum にあり時空間的にバイアスがかかった状態で存在する) は行動の種類によらずにているが、似た行動は representation が似る。(Klaus et al., 2017)
今回の実験で得られた map は、一つの側面にすぎない
→ 機械学習などでもっと精緻に運動を分類できたら、ちゃんとした map ができるかも?
まとめ
運動と言えばホムンクルスと思っていたのですが、multi-limb の運動はそうはいかないようですね。
個人的には、M2 だとか parietal とかは、どういう運動をするのか決める領域で、そこから M1 に指令が行くものだと思っていましたが、SPN への direct pathway があると筆者らは考察していました。
もうちょっと勉強してみたいと思います。
あと、英語がよく練られていてうまく日本語に変換するのが難しかった。。。
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