【声劇台本】works: death 13(サーティーン)(0:0:4)

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▲声劇台本置き場の配置版は改訂が非常に面倒なためこちらが最新版となります。
上演時間はおおよそ40分です。

登場キャラ 説明

★あおい:男性でも女性でも可能。夫婦の形に男女番である必要はないと考えています。この理由から台本のアドリブ改変は可としています。

とある理由からこの世を去った本作の主人公。溌溂とした性格だが、パートナーであるなぎさにはあることを隠している

★なぎさ:あおいのパートナー。パートナーの死に対して思うことがある

★じゅん:あおい、なぎさと長年親交がある友人。
    ※死神と同一人物であることが本文の仕掛けで分かるのですが
    その事は伏せておく必要があります

★死神:とある理由から冥界に運ばれるあおいと接触する。
 ※じゅんと同一人物。そのことはわからないようになっている。
 本文では語られないが死者を運ぶ列車を乗っ取る事件を
 この作品の前の時系列で起こしておりworksの中では重罪人の位置づけ。
 役職を剥奪されているが、本質的には意味がない。とある能力を
 保持している。元works 筆頭

★半田:死神役の兼任 刑死者 (ハングドマン) works筆頭。
人間界の名前が半田という名前なだけの冥界の住人
とあることで死神に貸しをつくっており、今回の一連の事件の片棒を担がされている。触れたものの運動能力を制限できる。



    (M)「よく一緒に通った桜で埋め尽くされた道路、野外フェス、
    お互いの夢や将来を語り合った雑居ビルのバー。
    どこに行っても君の笑顔が記憶から呼び起こされる。
    この世界には君を思い出してしまう要素があもりにも多すぎた。

0:ー4月某日、斎場にてー

じゅん:「…お悔やみ申し上げます」

なぎさ:「……」

じゅん:「その、何て…声かけたらいいのか。
    正直分からなくて、ごめん…」

なぎさ:「いいんだ…。無理もないよ。」

じゅん:「君が最初に見つけたんだって?…その時にはもう彼女は…」

なぎさ:「うん…冷たくなっていたよ…」

じゅん:「……」

なぎさ:「…もう泣きすぎてね…ちょっとハイになってるよ」

じゅん:「なんでこんなことに…。」

なぎさ:「それが分かるんだったらな…こんなに苦しんでないさ。」

じゅん:「ごめん。そんなつもりじゃ…」

なぎさ:「いいんだ。気にすんな…
    君は彼女とも仲が良かったし気にするのも仕方ないよな…。
    …おっと、もうこんな時間だ。
    ごめん、僕喪主だから準備行ってくる…。
    ……あおいのこと、ちゃんと見送ってあげてな?」

じゅん:「う、うん…」

じゅん:(M)「悲しみを抱えた彼の背中を小さくなるまでじっと見送る。
    感情の抜けた顔で参列者に会釈する
     彼女の夫 なぎさをみて思わず声をかけてしまったが、
    気の利いた言葉なんて出てくるはずもなく、
    気まずい空気だけを残してしまった。

じゅん:(M)こういう時に気の利いた言葉が言えない自分に嫌気がさす。
    …いや、本当は伝えるべきことがあるのだが、僕は迷っていた。
    僕が彼女と最後に話をしたことを。
    なぎさに話すべきなのだろうか、と…」

0:ー境界線ー 

死神:「おーい、あおいさん…あおいさんっ!」

あおい:「う、、う~ん…。」

死神:「ほら、しっかりしてください! 
   まったく…あんまりいませんよ?こっちに来て寝てる人なんて…」

あおい:(M)「深い眠りの中、誰かに声をかけられてゆっくり
    と目を覚ます。
あおい:私を呼んでいた声の主は、黒い制服に目元が見えない
   ほど帽子を深く被り眼の前に立っていた。
   ここは…列車?

あおい:「車掌さん?!あっ!ごめんさい!列車の中で寝てしまって…」

死神:「?…いいえ、私車掌じゃないです。私はここの案内人です。」

あおい:「あんない…にん?」

死神:「うーん、案内人はちょっと分かりづらかったですかね。」
   いろいろと説明が難しいですが…、
   面倒なので『死神』とでもお呼びください。」

あおい:「え?死神…?じゃあ、私は死んじゃ…」

死神:「(遮って)はい。死んでおりますよ。
  …あなた、ここに来たときのこと覚えてらっしゃらない?」

あおい:「覚えてない…かな。」

死神:「そうですか。たまにいらっしゃるんですよねぇ、
   自分が死んだことを忘れてしまう方が…」

あおい:「(遮って)ねえ、死神さん。ここはどこなの?」

死神:「ここは死者の国行きの列車の中です。
   えーっと、あなたがいた世界で言うところの
   『あの世』にいくための乗り物ですよ」

あおい:「え?!あの世って列車に乗って行くの?」

死神:「ええ。昔は『三途の河』を船で渡していたみたいですが…
   事故がたくさん起きるので今はすっかり列車です。」

0:座席の隙間や窓、吊り天井など車内を多い尽くすほど草花が咲き乱れていて、
0:まるで絵画のように幻想的な光景が広がっていた。

あおい:「この列車。すごく綺麗…ねぇ、どうして列車の中なのに
   こんなに沢山のお花が生えているの?」

死神:「手向けの花じゃないですかね。こっちに送られる時入れられる
   でしょ?だいたいこうですよ。
   乗る人によって様々です。ほら、あそこにあるワンピース。
   あれ、あなたのものでは?」

あおい:「あ。本当だ。私が気に入ってたやつ…。」

死神:「ふむふむ…。帳簿によると、どうやら貴方はレアケースのようです
   から…」

あおい:「それって…どういう意味?」

死神:「………あなたはご自身でお亡くなりになられたんですよ…。
   もうなんとなく思い出してきたのでは?」

あおい:「え?!そんなはず………あっ!そう、だった……私…」

0:ーなぎさ宅にてー

じゅん:(M)「葬儀から1日が経った。遺影の彼女は笑っている。
    俺は未(いま)だに、彼女の死を受け入れることができない。

じゅん:「なぎさ、急に押しかけてごめん。大丈夫なのかい?
    葬儀から時間が経ってないのに。」

なぎさ:「ああ、かまわないよ。どうせ一人でいても寂しくなるだけだから
     ね…」

じゅん:「…」

なぎさ:「ま、まあいろいろ遺品整理とかもしなきゃだし、
    …今日は手伝ってくれるんだろ?」

じゅん:「もちろん。」

じゅん:(M)「僕達は一日時間を使って彼女の遺品整理を手伝った。
   一昔前の女優しか被らないような大きい麦わらの帽子、
   ベアフットの靴、真っ赤なドレス、
   愛用していたドラム用のシンバル。
    もう彼女を見ることもできないのだ、と一層悲しくなった。」

0:間

なぎさ:「はあぁー。疲れたな。本当すごい量だよ。」

じゅん:「本当だね…正直疲れた。」

なぎさ:「あおいは買い物が好きだったからなー。すごい量だよね。
     まさかその片付けをすることになるなんてな。」
    「ほら。こんなもん見つけた。結婚記念のロケット!  ………。」
    「…なぁ。ご飯でも食べていきなよ、せっかくだしさ?。
     …僕もあまり一人でいたくないんだ。」

じゅん:「あぁ、そっか…じゃあ、お言葉に甘えて。」

なぎさ:「その前に、あおいに線香あげよっか。」

じゅん:(M)なぎさと並んで、仏壇に向かって手を合わせる。

じゅん:(M)しばらくの沈黙の後、仏壇の方に顔を向けたまま、
    なぎさが口を開いた。

なぎさ:「もうじゅんとのつきあいも6年か。」

じゅん:「ああ、そうだね。」

なぎさ:「みんなでよく、あおいの店に集まったよな…」

じゅん:「…うん」

なぎさ:「知ってたか?あおいとはネットで会った。いわゆるマッチングア
     プリってやつな?。」

じゅん:「…知ってるよ。」

なぎさ:「初めて会ったとき、梅田駅の大きいテレビ前で待ち合わせてね。
    彼女は真っ黄色のワンピースを着てた。(思い出して嬉しそうに)
    あんな人通りの多い場所なのにさ、誰よりも目立っててな。
    …彼女を一目見た瞬間に『あぁ、この人と一緒になるな』
    って、そう思ったよ。それから結婚して、二人で一緒に住むまであ
    っという間で
    …このままずっと二人でって、そう思ってた。

0:目に涙を浮かべるなぎさ

なぎさ:…これからだったんだ全部…。僕のせいなんだよ。
    彼女は事業を始めて、僕は転職でなかなか落ち着かなくて、
    彼女を支えてやることができなかった。
    …僕は、ダメなやつだよ。」

じゅん:「そんなことないよ…」

0:涙を流しながら床に突っ伏すなぎさ

なぎさ:「いや、そうさ。僕が支えてさえいれば…。
    これからのこと。何度も何度も話し合って…。
    ちゃんと、もっと話を聞いてやれば…。よくない事は分かってたの
    に僕がちゃんと取り合わなかったからッ!」

じゅん:「…。」

0:崩れて咽び泣くなぎさ

なぎさ:「…もう一度!頼むからッ!神様…やり直させてください!
    みんなの前で誓ったんだ!必ず幸せにするって!
    幸せになりますって…それを僕が…うぅ…頼む、お願いします…」

じゅん:「なぁ、なぎさ…落ち着いてくれ。大丈夫。違うよ。
    君のせいなんかじゃない。」

なぎさ:「……なんでそんな事言えるんだよ…」

0:(間)

じゅん:「……あの夜、最後にあおいと話したのは僕なんだ。」

0:ー境界線ー

あおい:「私…あの日もなぎさと喧嘩して家を飛び出した後、
    じゅんに相談したんだ」

死神:「(本を捲りながら) えーっと…なぎささんはあなたの
    配偶者ですよね?じゅんさんというのは…」

あおい:「私の友達。大学時代からの付き合いなの。
    本当に何でも相談できる大切で大事な人。」

死神:「あぁ、ご友人でしたか。」

あおい:「なぎさと喧嘩してる時にもう駄目だってなっちゃって
    …じゅんはもう一度話し合った方がいい
    って励ましてくれた。もう私ぐちゃぐちゃで…。
    自分を抑えれなくて…もうどうにでもなれってなって。それで……。
    …うん、そこまで思い出したかな。」

死神:「それは大変でございましたね。では、なぎささんも、
    じゅんさんも突然のことで、さぞかし驚いているでしょうね」

あおい:「…そうだと思う。なぎさが悪い訳じゃないの。
    我儘で、いつも思いつきで行動するような私をいつも笑って
    許してくれて、本当に優しくて、
    私には勿体無いくらい良い人。…本当に大好きだった。
    …あーぁ、本当に馬鹿なことしちゃったなぁ、私。」

死神:「心残りですか?」

あおい:「あるかもね…。自分勝手に死んだのに、
    今は後悔しているなんて…、勝手だよね? 
    …でも、最後くらい大好きだよってなぎさに伝えたかったなぁ…」

死神:「全て覚悟の上で死んだのでは?」

あおい:「…悪いことをしたなとは思ってるけど、
    死んだことに対しては後悔はしてないよ。」

死神:「はぁ、それはまた不思議なお考えですね」

あおい:「私ね、頑張りすぎてたんだと思う。
    自分のやりたいことをやろうって会社を立ち上げたけど、
    なかなか上手くいかなくて…自分一人だから。
    毎日が戦争って感じで、
    他のことを考える余裕なんてなかった。
    もっとたくましく生きなくちゃ。
    誰かを元気にするような働き方しなくちゃ、って
    自分にプレッシャー掛けすぎてた。

あおい:…息苦しい毎日だった。……だからもう終わりにしたかったの…。
    その終わりのタイミングが、なぎさと喧嘩をした日だった
    ってだけ…。」

死神:「…そうでしたか。過去に色々な方をご案内してきましたが、
    そこまで自分の心情を吐露されるのは初めてですよ。
    ……でも、生きているのが辛かった…。それだけですか?」

あおい:「……どういう意味?」

死神:「ほら。(本をあおいに見せる)」
   「(本のとあるページを指差し)…これ、何です?」

あおい:「…死神さんってそんなことも知ってるんだね。
    隠してたらダメだった?(呆れるように)
    ……私も治そうとしたの。
    でも治らなかった……。治る人もいるけど、
    私はそうじゃなかったみたい。」

死神:「なるほど…。これをなぎささんに告白できなかったのが、
   あなたの心残り、なんですね?」

あおい:「じゅんだけは知ってる。でも、なぎさには…
    なぎさにだけはどうしても言うことができなかった。」

 

 0:ーなぎさ宅にてー

 

じゅん:「あの夜、最後に話したのは僕なんだ」

なぎさ:「…えっ?」

じゅん:「君と彼女が喧嘩をしたあの日、僕は彼女と話をしたんだ」

なぎさ:「なんで、君と…」

じゅん:「限界そうだった…。一度落ち着いてからちゃんと
    なぎさと話をしたほうがいいって。そう言った。
    でも電話が切れちゃって。」

なぎさ:「ッ!…」

じゅん:「その後はずっと連絡がないからおかしいとは思ってた。
   それで…君からの電話で…」

なぎさ:「………んで…てたんだよ…。」

じゅん:「…え?」

なぎさ:「何で今まで黙ってたんだよっ!」

0:じゅんに掴みかかるなぎさ。壁に押し付けられるじゅん

じゅん:「…ッ!?何するんだッ」

なぎさ:「…俺達、友達だよなぁ?なんでそんなこと黙ってた?え?
    なんとか言えよ!!」

0:なぎさ、じゅんを突き飛ばす。床に倒れるじゅん

じゅん:「痛ッてぇ!」

なぎさ:「話が終わった後、俺に連絡してくれれば…あおいは……
    死ななくて済んだんじゃないか?」

じゅん:「…確かに、そうかもしれない…彼女は、なぎさ、
    君に黙ってたことが1つある。」

なぎさ:「…は?」

じゅん:「あおいは…双極性障害を患っていて、
    その治療をずっと続けてた…。知らなかったよね?。」

なぎさ:「…なんだよ。それ」

じゅん:「…心当たりないかな?元気な時とそうじゃない時の差に
     違和感を感じることはなかった?
    あおいは、ずっと苦しんでた。君に嫌われるのが怖いって。」

じゅん:「自分一人でを治すって聞かなくて。
    でも一人じゃ無理だって、ちゃんとなぎさに話をして
    理解してもらって、助けてもらったほうがいいって。
    …僕は何度もそう話したよ!…でも、迷惑かけれないって
   …僕も君にもっと早く言うべきだったけど…言うなって、
   言われてたんだ…。」

なぎさ:「(怒りをこらえるように)じゃあ、俺だけが何も知ら
    なかったわけだ…あんなに一緒に過ごしてたのに、
    信用されてなかったのは僕だけだったのか…」

じゅん:「そうじゃない!周りに隠していたんだ! 
    彼女は君にもいつかは打ち明けるつもりだったんだ!」

なぎさ:「打ち明けずに死んだじゃないか!……もういい。
    帰ってくれ。自分で誘っといて申し訳ないが…一人になりたい。」

じゅん:「…余計なお世話だってのは分かってる。
    でも、彼女が死んだのは…君のせいじゃないんだ。」

なぎさ:「うるせぇッ!!…もう帰ってくれよッ…頼むから!」

じゅん:「ッ!! …分かったよ。でも最後に1つ確認させてくれ。」

なぎさ:「…」

じゅん:「もし、あおいに会えるなら、…会いたいか?」

なぎさ:「……は?…なに訳のわからないこと言ってるんだ…。」

じゅん:「……」

なぎさ:「(嗚咽まじりに)…決まってんだろ。会いてぇよ…会いたい」

じゅん:「…僕だってどうすれば助けられたのかってずっと後悔している。
    もしあの時に違う言葉をかけていれば、
    踏みとどまってくれたのかなって
    …でも、できなかった。エゴかもしれないけど君の言う通り、
    止められたかもしれないんだ。
   (独白するように)だから僕は僕にできることをしてい
   くつもりだよ。ごめん…今日は邪魔したね。」

じゅん:(M)僕はそう言い残してなぎさの家を後にした。
   全部話してしまったな。結局。

0:誰かに電話をかけるじゅん

じゅん:「もしもし?久しぶりだね。突然だけど、ああ、例の件引き受ける。
じゅん:ただ… ……は君が手伝え。あいつはとんでもないものをこっちに置いてきたようだ。
じゅん:「…君が断れないことは織り込み済みさ。彼女次第だけど、今やれることをやりたい。もう後悔はしたくない。」

 

 0:ー境界線ー

 

死神:「そうですか…それで死んで終わりにしたかったと。
   その決断自体に後悔はないということなんですね。」

あおい:「そう…何でこんな事になったのか説明できてないまま
    こっちに来ちゃったから…みんなに手紙でも
    残しておけばよかったかな。」

死神:「…。あおいさん。あなたがこれから向かう死者の国
   ってどんなところだと思います?」

あおい:「え?検討もつかないけど…」

死神:「想像しているものとは大きくかけ離れていると思いますが、
   基本的には生きていた時と一緒ですよ。」

死神:「なーんにも変わりません。一生懸命日々を生きていく。
   ただそれだけです。」

死神:「なぎささん達があなたを忘れない限り、
   あなたは死者の国で生き続ける。
    死者の国で生きるって変な話ですけど。」

死神:「そして一年に一回。現世に帰ることができる。
   あなたが住んでた国にもそんな風習あったでしょ?」

あおい:「あ。お盆。」

死神:「そうです。日本ならお盆ですよね。」

あおい:「…さっき死者の国で生き続けるって言ったけど。
    じゃあ死者の国の人はいつ死ぬの?」

死神:「さっきも言いましたが現世の誰かが死者を覚えている限りは
   生き続けるのですから、
   現世の誰もが対象の死者を忘れてしまった時、
   完全に死ぬことになるでしょうね。」

あおい:「…そういうことね。じゃあ、結構長く生きられるかもね? (微笑む)」

死神:「そうなるといいですね…」

あおい:「んん?なんか意味ありげな言い方だけど。」

死神:「…後悔…してるんですよね?」

あおい:「うん。そうだけど。」

死神:「死者の国にも、悪いやつはいます。死者が現世に残した『思い』を
   悪い目的に使おうとしたり、ね。」

死神:「死者が残した思いが正しく現世の人に伝わらない。
    あおいさんはこれは正しく死んだことになると思います?」

あおい:「…思わない…かな?」

死神:「『思い』が大きければ大きいほどずっとそれは現世に
   残り続けてしまう。」
   「それをちゃんと片付けてくれる人もいますが、
   悪いふうに利用する人もいるのです。」

あおい:「何が…言いたいの?」

死神:「あなたは本来言うべきだったはずのことを言わずにこちらに来た。
死神:その後悔は…とても大きいものですよね?」

あおい:「…はい。」

死神:「もし誰もその『後悔』を片付けていないとしたら………
   とてもまずいのです。
死神:本来はルール違反なんですけど…。」

あおい:「えっ?」

死神:「よみがえりますか。」

あおい:「は?よみ…がえり…?」

死神:「あおいさん、私は死神です。これっからあなたにいう事は誰にも言
   ってはなりません。
   私のような者が特定の人に肩入れするようなことはしては
   ならないからです。 
   なぜなら死は等しいものだからです。分かりますよね。」

死神:「私もプライドを持ってこの仕事をしてます。」
    「あなたも生きているときはプライドを持って仕事を 
    してきましたよね?」 
    「だからこそ、いつも頑張ってきた。」

あおい:「え?何、いきなり…、ま、まあ本気でやってたけど…」

死神:「(遮るように)デスヨネ?!」

あおい:「ヒィッ!!」

死神:「あなたにプライドが分かるなら話は早い。
   なぎささん達のためにも、
    もう一度頑張ってみませんか?
   私が責任をもってあなたを送り届ける。
   だからあおいさんは何故私がここまでする理由を
   聞かないでやり遂げてください。」

あおい:「へ、へぇ? やり遂げるって…何を。」

死神:「あなたが忘れてきたもの、こちらに持って返ってきてください。」

あおい:「も、持って帰る?何を?」

死神:「『後悔』ですよ!返事は「イエス」か、「はい」です。
死神:時間がない。ついて来てください!」

 0:ーなぎさ宅にてー 

なぎさ:「俺は…どうすればよかったんだ。なぁ、あおい…答えてくれよ……」

 

なぎさ:(M)じゅんが帰った後、僕はあおいの仏壇の前にいた。
    彼女と諍(いさか)いを起こしたあの日の彼女の言葉が
    何度も頭の中で繰り返される。
    双極性障害…、どうして僕に相談してくれなったんだろう。
    僕が頼りなかったせいなのか?なんて声をかけていれば
    彼女は安心できたんだ?
    どうしたら僕は彼女の笑顔を守ることができたんだろうか。
    そんな自問自答をしていたら、突然家のチャイムが鳴り響いた。

 

なぎさ:「…誰だ?こんな時間に…はい、どなたですか?」

0:ドアを開けるなぎさ

半田:「なぎささん。ですね?」

なぎさ:「は?…誰ですか?すみません、もう遅いのでまた別の日に…」

半田:「夜分突然すみません。私、半田と申します。」

なぎさ:「はぁ…」

半田:「時間がないので手短に。あおいさんに会われますか?」

なぎさ:「は?……ちょっとあんた何なんだ。何であおいの事を知ってる?
    なんの冗談かわからないが帰ってくれ!」

半田:「あー…。こちらの身分もあかせず失礼だとは承知して
   おりますが、会わせるにはあなたの意思が必要だ。」

なぎさ:「はぁ?…いや待て、確かじゅんも同じようなこと聞いてきたな。
   …おい、あんた!じゅんから聞いたんだろ!クソッあの野郎、
   趣味の悪い嫌がらせかよ。
   …何たくらんでやがる!警察を呼ぶぞ!」

半田:「ったく…この人間風情(ふぜい)が黙って聞いてりゃ
   つけあがりやがって。
   時間がねえんだ!会うのか会わねえのかどうすんだ?え? 」

0:不思議な力で壁に逆さまに張り付けられるなぎさ

なぎさ:「グッ。なんだんだよっ!クソッ!…意味わかんねぇよ。。」

半田:「俺が何者か、何故、何のためにこんな事しているか全てを
    説明している時間はねえんだ。
    俺達はな人間じゃない。神でもない。
    でもあんたらを守るために仕事をしてる。
    マジだぜ?嘘はつかねえ。お前が望むなら
    あおいさんに会わせてやる。
    ……どうすんだ?来るのか、来ねえのか?!」

0:ー駅舎にてー

 

死神:「やっと到着しましたね。ここは死者の国の一歩手前の駅…
   生と死の狭間『キサラギ駅』です。」

あおい:「キサラギ駅って…あの?すごい…本当にあるんだ。」

死神:「?何の話をしているんです?すでに私の知り合いに、
   この駅へなぎささんを連れてくるよう手配しておきました。
   準備はよろしいですか?」

あおい:「うん、大丈夫。で、どうすれば?」

死神:「『後悔』を取り戻してください。
   なぎささんがおそらく持っています。」

あおい:「どうやって取り戻すの?」

死神:「教えることではありません。あなた自身の後悔を思い出して
   ください。それが導くでしょう。

あおい:「ねえ、何でこんな事する必要があるの?!」

死神:「(遮って)あおいさんっ!!!」

あおい:「ッ!!」

死神:「時間がない。理由は聞かずにやり遂げる。そう私に約束しましたよね?」

死神:「ことはあなたが思うよりも重大なんだ。
死神:向こうについたら教えます。やり遂げてください」 

あおい:「…分かった!」

0: ホームに走り出すあおい。後ろから見守る死神

死神:「(つぶやくように)…お前ならやれる。頑張れ。」

0:間 場面転換 

あおい:(M)ホームのベンチになぎさがいた。
    やつれきってボロボロのなぎさが、
あおい:私の愛したその人は驚いた顔で立っていた。
    私はなぎさに掛け寄り思いっきり抱きしめた。

なぎさ:「あおいッ!…本当に君に会えるなんて…夢じゃないよな?」

あおい:「夢じゃないよ!」

なぎさ:「よかった…俺、君に言わなきゃいけないことがあるんだ」

あおい:「私も。まずね、何も言わないまま勝手に死んじゃって
    ごめんなさい。
    なんでそんなことしたのか正直良くわかってないの。
    あの日、自分の感情がコントロールできなくなって、
    ぐちゃぐちゃになっちゃって…ただ楽になりたかった。」

なぎさ:「……それも病気のせいだったんだね。ごめん。
    君が病気で苦しんでることも知らずに、
    自分のことばかりで。
    もっと君の話をちゃんと聞くべきだったのに。
    それなのに僕は…。」

あおい:「なぎさは悪くない!私が早く言うべきだったのよ、病気のこと。
    それを言う前に限界のほうが先に来ちゃっただけ。
    でも、何も言わずには…違うよね。本当にごめんなさい。
    精神を病んでいるって思われたくなかった。」

なぎさ:「僕がもっと寄り添っていれば、こんな事にならずに…
    君とずっと一緒にいれたかもしれないんだ。
    君と一生一緒にいると誓ったのに…僕は…僕はッ!」

あおい:「ねぇ、もう自分を責めるのはやめて。、
    気持ちを切り替えるのは難しいかもしれないけれど
    …あんなことしたのはなぎさと喧嘩したからじゃない、本当よ。
    ……今もすっごくすっごく大好きなんだから!
    だから、ね?笑って?…」

なぎさ:「…あおい……」

あおい:「最後にわがままなお願い、聞いてくれる?」

なぎさ:「うん。」

あおい:「むこうでなぎさのことずっと待ってるからさ、
    なぎさは沢山の人に愛されて、
あおい:しわくちゃのおじいちゃんになって私に会いにきてね」

なぎさ:「…ははっ、道のりが長いなぁ」

あおい:「そんなことないよ!私がなぎさと出会ってから毎日が
    楽しかった。
あおい:だから、おじいちゃんになるのなんてあっという間だよ」

なぎさ:「そっか…じゃあ、それまでずっと待っててくれ。」

あおい:「うん、待ってる。」

なぎさ:「そういえば、じゅんがずっと気にかけてくれたよ。
    君の病気のことも、教えてくれた。」

あおい:「そうなの?じゅんにも悪いことしちゃったなぁ。
    ねぇ、現世に戻ったら、
    じゅんに『ありがとう』って伝えておいてくれる?。
    短い人生だったかもしれないけど、あなたが友達でよかったって…
    そう伝えてくれる?」

なぎさ:「わかった。って言っても僕の話を信じてもらえるかわからない
    けど。ちょっと喧嘩しちゃったからさ。」

あおい:「あはは、説明が大変だね。」

 0:なぎさの胸ポケットが光りだす。

なぎさ:「え…なにこれ……。あ、今日掃除してた時に見つけたロケットだ。

あおい:「あ…。ねぇ。それ私もらってもいい?」

なぎさ:「もちろん、良いけど…、こういうのって向こうに持っていけるの?」

あおい:「私もわかんないよ。でもいいでしょ。二人の思い出。
    向こうにも持っていきたい。

半田:「おーい。お二人さん。そろそろだ。すまんな。
   色々と立て込んでてな。」

なぎさ:「はい。行きます!」

なぎさ:「あおい、今までありがとう。愛してる。」

あおい:「こちらこそ。ありがとう。私も愛してる。」

あおい:(M)そう言ってもう一度抱きしめ合う。
    なぎさの胸に顔を埋(うず)めて、すぅっと深く息を吸い込む。
    肺の中がなぎさの匂いで満たされて、この時間がずっと続けば
    いいのにと思ってしまう。
    向こうに行く前に会えて良かった。

0:間

死神:「終点まで到着いたしました。あおいさん、長旅お疲れ様です。」

あおい:「死神さんもお疲れ様でした。色々とありがとう。
    このロケットが『後悔』なのかな?」

死神:「そうみたいですね。何も説明できないまま申し訳ないです。
    とにかくこれが現世に残るとやっかいなんです。
    一番になぎささんを傷つけることになる。
    しかしよく頑張ってくれましたよ。
    いつか……ちゃんと説明しますね。」

あおい:「何かよくわかんないけど、やり遂げたわよ? 
    死神さんも頑張って!私もここで頑張る。」

死神:「またいつか。会いましょう。全てはその時に話します。」

あおい:「約束、ね?またいつか!」

0:少し歩いて死神の方を振り返るあおい

あおい:「ねぇ、死神さんあなた……。ううん、なんでもない。」

0:歩いてその場を去るあおい

死神:「(つぶやき)全く…君は相変わらずだね…。僕の愛した人。」

0: 死神に近づく半田

半田:「なあ、兄弟…。これでよかったのかよ?」

0:黒い制服を脱ぎ捨て、帽子を取った死神。

死神:「あぁ、そんなところにいたんですか。今回は私の

じゅん:お手伝いをしていただいてありがとうございます。」

0:※死神はじゅんと同一人物であったという演出ですので死神のセリフ途中で切り替わる想定が望ましいです。

半田:「おい!その気持ちわりぃ喋り方いい加減にやめろ!兄弟!」

じゅん:「ふふ。ごめん、ごめん。人間の生活が長すぎたのか、
   なかなか戻せないんだ」

半田:「…ったく。お前何やらかしたのか分かってんのかよ。
   向こうの人間をこっちにつれてくるのは禁忌(タブー)だろ。
   どんだけ人間に入れ込んでんだよ?」

じゅん:「あおいは、ちゃんと成仏させたいんだ。
    あいつらに魂を分割させるような事はしたくない。」

半田:「…はぁ。俺達はWORKSだ。
   釈迦に説法だとは思うけどよ。
   人の死は平等に扱わなきゃいけないんだ。
   こんな特別扱いは許されないことぐらい分かってるよなぁ?!
   あの女をあいつらのおもちゃにさせないってそれだけの理由のために  
   役職付きに戻るのかよ。イカれてるぜお前。元「死神」さんよぉ。」

じゅん:「人間じゃない君にはわからないだろうね。この気持ちは。」
    「強い気持ちは強い呪いになる。そのほうが厄介だ。
    正しいことをした人が正しく評価される世の中にするために
    働く人がいるように。
    我々は死者が正しく死ねる世の中を目指す。
    彼女の強い気持ちは必ず奴らに利用されてしまう。
   …これで良かったんだよ。」

半田:「てめえも人間じゃねえだろコラッ…。 
    あーそうかよ?まじで役職付きに戻ってまでやることなのか?
    俺にはさっぱりわからねぇし、わかりたくもねぇな。」

じゅん:「はは、君の悪態も相変わらずだなぁ。」

半田:「おい、これであん時の借りはチャラだ。
    もうこんな危なっかしいこと手伝わねえからなぁ!。」
   「あとお前、俺は今は刑死者(ハングドマン)だ。役職付きだ。
    次組織のルールを破ったら吊るすぞ?アァン??」

じゅん:「あぁ、もう二度とこんな頼み事はしないよ。
    刑死者(ハングドマン)」

半田:「ったく、現世の人間になんてほだされやがって。
   あの連れてきた、なぎさってやつはどうすんだ?いいのか?
   そのまま返しちまってよぉ。こっちの世界のこと、
   誰かにでも話して俺達の存在が認知されたら…
   「works」も終わりだぜ?」

じゅん:「大丈夫だよ。僕がちゃんと監視するから。」

半田:「そーかよ。…情報漏洩に気をつけな。
   お前の罪が明るみに出たその時は、
   この俺様がお前を必ず吊るしてやる。」

じゅん:「あぁ、気をつけるよ。心配してくれてありがとう。
   じゃあ僕は現世にそろそろ戻るよ。またね半田くん」

半田:「刑死者(ハングドマン)だっつってんだろ!あと心配してねぇ!」

0:なぎさの家にて

なぎさ:(M)「僕が買い出しに家を出るとそこには半田が立っていた。」

半田:「この間は無理矢理で申し訳なかった。
   突然で恐縮だが会わせたい奴がいてな。」

なぎさ:(M) とこんなことを言ってきた。
   半田の「出てこい」という呼び声で、
   マンションの階段を上がってきた人物のその見知った顔に驚いた。

0:カンカンと階段を上がってくる音

なぎさ:(M)彼は僕にこう言った。

じゅん:「やぁ、元気にしてる?そうだな…
    色々と説明しなくちゃいけないことが沢山あるんだけど。
   …まずは僕の仕事の話からしようかな。」

0:間

じゅん:「僕はね…」

 

=完=

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