本屋
ワールドトラベルの棚の下で本を眺める。スコットランドを探すけど見当たらない。モロッコの本を手に取る。
旅行か、彼は何をどう楽しんでるんだろう。
ぱらぱらとページをめくりながら、写真を眺める。色とりどりの街並みが目に入る。今まで訪れた国の景色が頭の中を通り過ぎる。
言われたことをそのままやる。ながれるままに身を任せる。わたしは、まるで抜け殻だ。ただぼんやりして、何も意思がない。
わたしはいつもこうだった。
今に始まったことじゃない。
だから彼が何かを楽しそうに話をする姿が好きだったし、彼が旅行が好きといえば、その「好き」を知りたくて真似をした。
きっと彼はこう楽しんでいるのだろうと、想像することで彼の喜びに触れられたような気がしたけど、わたし自身の心は動いてなかった。
どこに行っても、広がる景色の奥にある、彼の心に触れられたような気がして嬉しいだけだった。
わたしは彼の、その身体の中にしっかりとつまった魂に惹かれていたんだと分かった。
わたしの中にずっと魂なんて入ってなかった。
空っぽだった胸の真ん中は、あってほしいと願っていた魂が入っていない証だった。
そうか、わたしは魂がない人間なんだ。
何だかしっくりきた。
必死に生きなくてはともがき続けてきた苦しみとも、ようやくおさらばできると思うと、まるで重たい荷物を下ろしたように身体が軽くなった。