DEAN&DELUCAで静かに殺された話

1つだけ買うのがなんとなく恥ずかしくて欲しくもないのに追加した1個500円のパンは敗北の味がする。

トートバッグのイメージしかないDEAN&DELUCAに初めてパンを買いに行った私は、店頭に山積みにされた魅力的なパン、その心惹かれる光景の一部になりながら思ったより欲しいものがねえなと真顔で値札とパンを見比べていた。
20種類以上のパンの中から選んだ、これなら金を出してもいいと思い主体的にトレーに乗せたエッグタルトと、それだけだとなんか恥ずかしいからトレーの面積を埋めるために体積と見栄で選んだシナモンロール。お会計の918円ですの言葉と、それを払うしかない自分に若干の憐憫さを感じ始めた瞬間、ふと隣の会計中の女性が目に入った。彼女がトレーに乗せていたのは、たった一つのウィンナーロールだった。

負けた。

彼女にも。

自分にも。

自分が本当に欲しいものだけを買う、他人の目を気にせず欲望のままに生きる威風堂々とした彼女を見た瞬間、羨望と敬服の意が芽生えた。その潔さ。しょうもないプライドでカモフラージュのためにシナモンロールをトレーに乗せた過去の自分は音を立てずに殺された。

家に着いて、シナモンロールを食した。
あまりにも甘い。自分の考えのようだった。

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