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25.02.26 ♥ 神様と聖書と制服とらヴそんぐ ( 創作文15.5 )




act,15.5 … Putting on a brave face と らヴそんぐ




ー  桜、あなたの事なんてどうだっていいの。


     なんで、どうして家の事が出来ないの?


ー  ごめ、んなさい、ごめんなさ、ママ……。


  耀太、おいで、ママと一緒にご飯食べよう。


ー え……お姉ちゃんは……、


ー ほうって置けばいいわ、"  あんなの。"


何も出来ない、役立たずで、


あの人に、そっくり。


……て来なければ、良かったのにー。


ー、ごめんなさ、ごめん、な、さい、ママー。


……お姉ちゃん。


ーうっ……う、……耀太……。


お姉ちゃん、う、うっ……僕が


……僕が


ー、僕が、……、ずっと、傍に、居るから。


もう、泣かないで、お姉ちゃん ー。


…耀ー。




『    姉ちゃん!朝!!!    』

『   ーはっ……!!!!?  』



ー朝。



耀太の声で飛び起きると、目から、何か熱い
ものが垂れている。


ー 。



『   ………………………。   』



嫌な、夢を見た。

家に帰って来ない、母さんの、  嫌な……夢。



『   …………、……。  』

『  …姉ちゃん、……、大丈夫……?    』

『 ……あ、……大丈夫、よ……も、大丈夫。……
それよか、今、何時?  』

『   8時前。 学校、もう、遅刻かも。どうする?    』

『   …………。    』



ー身体がやけに、熱くて、怠い。

ー、多分……風邪ね。



昨日耀太とバカみたいに深夜までデュエルな
ゲームやってて……気付いたら二人で爆睡して
いた……、と。

……じ、地味に皆勤賞、狙ってたのに……、

あと、今日の  サツ × イツ  タイム が……っ……!!?

とか思っていると、クラクラと目眩がして、
やるせなかった。



『  ……耀太、悪いけど、先生に風邪で1日休
むって、伝えて、……ちょう、だい……。   』

『    ん、……わかった。 ちょっと待ってて、水袋
出してあげる。……俺、お粥作ってから、行くから。   』

『   ……ありが、と……。    』



ちゃんと3限目迄には間に合わせるのよ  と、
私は相変わらず   余計なひと言  を宣い、気付け
ば眠りに落ちていた。




し、死ぬ……。耀太、

サツイツ写真を……。

た、頼……。





.*・゚.*・゚.*・゚





『   ー、あれ、今日、川澄さん 休み か?  』

『   そのうち来るんじゃないかなぁ、……しぶとい
から……。   』

『    山田くんって、川澄さんの事、好きなん?    』

『   いや、その逆、……ただの、小間使い……。  』

『  ……そ、そうか……。   』



ー、な、難儀だな、君も。

そう頬杖をつきながらイツキがいうと、前の席が
空いているのが不思議だと聞かれた山田隆行 (  
ヤマダ  タカユキ  ) は、  来ない方が不思議だよ……、  と、愚痴を零す。

その時、教室の後ろから、そっとジャージ姿の
美少年が顔を出した。



『   あ、山田、さ、ん、   』

『  ……あ、耀太くん!   』



何故か小声で話し掛けてくる。

山田が   普通に  声を発してしまった  その時  だった。



『  え、耀太くん!!?  』

『  ー耀太くん? おはよう!!!   』

『  耀太くんー!!!   』

『  ……耀太じゃん、   』

『   耀太くん、2月はチョコあげるねー!!!   』



クラスの女生徒が一斉に振り向く。



『    おおお、スゲー!!! サツキさまばり?の
人気じゃん。 いいな、俺も2月は乙女座を発揮
して……きゃーっ えへへっ……!  』

『  あわわわわわ……!?  』



お茶目、が似合うように微笑んでしまうイツキと
てんわやんわで焦る山田がいた。



『  く、耀太氏、大人気……っ   』

『  いいなー、川澄は……。   』



クラスの一部男子生徒も全力で僻んでいる。



『  ……イツキ、……サツキ、休み?   』

『   あ、秋の宮さま、残念でした、サツキはまだ
だよーん。   』

『   ……そっ。   』

『   あ!何、拗ねてんだよー。   』



黄色い悲鳴が頭上で飛び交う中、だいぶ前の席に
いる  秋の宮 愁  が  サツキ  を捜してさ迷っていた。

あいつ、なんの用だろう、イツキの独り言の中、
転びそうになりながら、山田は耀太に会いに行く。



『   ど、どうしたの!   』

『    あ、はは……、ね、姉ちゃん風邪で休みって、
担任の先生に伝えといて下さい、あとこれ、山田
さんに、俺から。 』

『 えっこれは!お腹が空いたらなんちゃら
…と、チョコ…!!! あ、ありがとう、耀太くん…!!!  』

『   ……じゃ、俺、行くんで……!   』


『   ……はい、静かに。   』



担任の先生、シスター桜庭  の講和が始まる。

全員が前を向いた。



『   せんせー!俺、めまいとはきけがします!ほけ
んしつに行かせてくださいっ!  』

『  今だけだろー!  』

『  シスター居なくなると元気だよなっ、イツキ   』

『  そ!!! いやぁー、シスターが  念仏  唱える
と、俺、堕天使  だから、全力であの世へ……。  』

『  ……滝宮くん、いい加減になさい……!  さ、授
業を初めますよ。……号令を……あら?  天宮くん
と、川澄さんは?   』



『    先生、川澄さんは、風邪でお休み……です。    』



山田が気弱に席を立ち、答える。

瞬時にガラ、と音がすれば。



『    ー、シスター、遅れてすみませんでした、
……起立……!!! 』



皆号令に従う。

タイを動かしながらサツキはカバンを抱えて颯爽
と教室の階段を登った。



『  ……礼、…………着席…!!!  』



サツキくん、おはよっ……女生徒が、サツキに
さり気なく声をかけ、手を振る。

それに気付いて振り返り、笑顔で手を振り返し
ながら、サツキはイツキの隣に、ようやっと着席
した。



『   ……悪りぃ、遅れた……っ !    』



息切れしながら隣に座り込む幼なじみを見て、
イツキは  ……ホント、リーマンになったら更に
モテちゃいそうだぜ  大親友、 と、やれやれの表
情を見せて、お互いに笑い合うのだった。





.*・゚.*・゚.*・゚





『    耀太、ギリギリ間に合ったのか、……おは
よう。 』

『  ……お、おはよ、はー。つ、疲れた、全力で疾
走したから……。  』

『  ……おはよう。   』

『  おはよ、晶。   』



教室に着いた耀太が、前の席に、相変わらずお利
口に着席している   神楽坂兄弟  を見る。

双子だが、制服の着こなしでどちらかがわかる。

インテリにきちんとブレザーを着こなして、
校章まで付けている聖。

違ってブレザーに校章などしていない、ボタンを
何個か開けて、タイを少し下げて付けている、男
らしい晶。

そしてお揃いのウルフカット。

髪型は似ているのに、違う。

そもそも、喋り方や雰囲気が違うので、霊魂不滅
ってこの事だよな……と、昨日姉としていたカー
ドゲームの、エジプトを絡めた漫画の話……を思い
出す。



『  ……耀太、昨日のドラマ、観た?  』

『  あれはもうちょっと、オチに捻りを付けるべき
、だったよなぁ。  』

『   ドラマ、あれか、家政婦の奴、か……。み、
見れなかったな……姉ちゃんと、カードゲームし
てた。  』

『  ……昨日のは、すっげえ、面白かった。 』



珍しい、とカバンを起きながら耀太は思う。

ちょっとクールで割かし落ち着いてしまってる
晶が深く、頷いていた。



『   耀太のお姉さん、可愛い人だよな。  』

『  え、あ、……そうかな。  』

『  ……結構、耀太に似てるよ。   』



聖に続いて晶がさらっと重要かつ決定的な事を
言う。



『  えっ……ど、何処が……っ?   』



身を乗り出して聞く耀太に、2人ともええー、
というような、 呆れ顔  をしていた。



『   顔、そっくりじゃん。  』

『  ……気づいてないのかよ。  』

『   へ!……あ、あ、そ、そっか……。   』



耀太は少し戸惑いながら、顔か……、と下を向く。



耀太は見掛けや顔で判断されるのが、あまり好き
では無かった。

小学生中学生時代等、誘拐されかけたり、顔でろ
くな目にあって来ていないような気がしていた。

見掛けが世間的にいいと、兎に角悪目立ちした。

オマケに一部の人からは、性格だけでは判断して
は貰えず、泣きを見ることもある。



『  ー、耀太? 大丈夫か。  』

『    あ、……う、ん……!    』

『  あんまり気にするなよ、僕達も、顔でよく判
断されるし。……な、   』

『  ……ああ。ウザイくらいには。   』



ーふふ、晶は兎も角、……相変わらず、優しいな
ぁ、聖は……。

真面目にクラス委員をこなす所、プリントを配
る所、号令をかける所、ノートパソコンを相棒に
している所……。

様々な   真面目な姿  が頭に映写機のように、
思い出される。



『   はあ、……姉ちゃん、……みたい……。   』

『  ……え?  』

『   あ、いやっ……な、なんでもない!!!     』

『  ……。  』




晶がまじまじと耀太の方を見た。



ー ヤバい。



晶って、こういうの、なんとなくだけど、
人の感情に機敏……鋭そう、なんだよな……。

もうちょっと、ふざけて、シスコン乙 とかって
言ってくれた方が、俺も、楽  なんだけど、。

でもそんなとこ……不器用?でクールなとこ?
が、姉ちゃんを思い出す……。

あああ、よく考えたら、聖と晶も、どっちも
性格が可愛いくて、姉ちゃんみたい  だ……。

よく考えたら、俺は凄い良い位置に座って居るの
かもしれない。



ー、席替えの神様、ありがとうー。


耀太はどこを見ているのか解らない惚けた顔をして、黒板を見つめていた。



『  ー、あ、そろそろ先生くるかもな、っと。   』



起立、礼、着席ー。

 聖に対する   やけに熱い眼差し  を感じ取ったのか、一限目の授業中、晶がまじまじと、少し不機
嫌に、  目を輝かせて現国の教科書を読み上げる聖を見つめる耀太   をちらちらと見ていた。



『    神楽坂……晶くん、授業中は前を見なさい。  』

『  ………はい。  』



ーふう、良かった。


ナイスタイミングだぜ、先生。

これで俺の秘密や  姉ちゃんの事が世界で一番……
 等は、バレ……ない、かな。

でも、…お、お姉ちゃんも、きっと、ああやって、
晶みたいに……サツキ先輩とイツキ先輩を眺めな
がら、怒られて、ぶ、無愛想に……。



そう、思うと



『  ー、そ、それって、最高……!!!  』



と耀太は口に出してしまい、何が最高なの!?
耀太!言えーっと、クラス中にからかわれてしま
い、『  な、なんでもないっ。  』そう言い放ち、顔
を赤らめながら、一限目を過ごした。

そんな耀太を見て、晶がそっと  ため息混じりに
呆れていた事、は、言うまでもない。





.*・゚.*・゚.*・゚




『  うう、う……ママ、ごめんなさい、……マ、マ……。  』



私だけ頭から投げかけられるお酒。

私だけ、貰えない、ご飯ー。

私だけ、怒鳴られる日々。



私、だけー。



ー耀太。耀太、だけが、私に……。


でも。


ー、いよ。




『   ……酷いよッッ……ママッッッ!!!!!?  』




ー、は……。

……自分の……寝言で、起きる……とか…。



世界が、霞んで……見える。

またボロっと目から何かが落ちていく。

……風邪の時は、嫌い、だ。

節々が痛んで、私を極限まで、追い詰めてー。



『  ふ、ふん、……こんな……事、ぐらいで……。  』



私は渾身の力でよろよろと起き上がった。

耀太が下の自販機で買って来てくれた清涼飲料
水を、口に入れる。



『   ……う、う……。   』



身体中、全身が痛い。



ー、耀太、大丈夫、だった、かな。



力無くもダイニングに行き、机の上を、見やる。

さっきは無かった………9万円が、置いてある。



ー、何よ。



お金だけ、置いておけばいいと、思ってー。

その間中もずきずきと、身体中が痛む。



『   来てくれたなら、挨拶ぐらい、してくれたって……。   』



私の母親は、デザイナー兼、ウェディングプラン
ナー だった。

結構、雑誌なんかにも載る、知る人ぞ知る、

……少しだけ、有名人、だった。

仕事に追われて月一程度しか、帰って来ない。

帰って来ない、月も、ある。

そんな時は私の口座に幾らか振り込んである。



忙しいから。



……言い訳だろう。

私達に会いたかったら、帰ってくる筈、だ。

……会いに、来て。 構ってくれる、筈だ。



ー……、ママ。



静まった広い部屋が、更に身体の痛みを悪化させ
るようで。

無愛想に、でも、風邪の時は、必ず薬を出して、
ちゃんと寝かせてくれた   あの母親の姿  が浮かんだ。



……それが、これだ。

適当に置かれた万札を見下ろす。

こんなもの、



ー破り捨てて、やりたい……。



……。私は唇を噛みながら、堪える。

……、耀太だって、これが無くちゃ、生活、出来
ないー。



部屋に戻り、溜息をつきながら外を観ると、曇り
空に日差しが陰っていた。

そのままベッドに潜る。



はぁ、こういう空、……嫌い、だわ…。

でも、此処からの  眺め  は絶景、なのよね…。


この廃墟近辺より、もっと  都内付近  まで眺め
られる、このマンションが、大嫌いで、大好き
だった。

よく、私は腕を組みながら足を窓に置いて、
その  夕暮れに照らされる街並みや、空の絶景
を  堪能  しているー。

家に帰って着た耀太に、何度驚かれて、…姉ちゃ
ん、殿様みたい……、と、突っ込まれたか、し
れない。



ーふ、私には…。



『   ……空、だけ、だったのよ……。  』



どんなに辛い時も。

泣いて、お腹がすいた夜でさえ、お月様が   優しくて、綺麗、 だった。


ーあんな、母親、なんかより。……100倍。


思い出すと、涙が出て来るのは、何故だろうか。

もう、忘れた、…筈、なのに。



ー。耀太を思い出す。

ー、耀太……まだ、かな……。



なんでもやってくれる優しい耀太は、まだ帰って
来ない。

その筈だ。今はまだ部活動の最中だろう、この
 半端な色合いの空  を見るには恐らく16時位な
気がする。



ー、今日は山田と、家で作戦会議する予定だった。



静まり返った家が、なんだか嫌だった。



『   ………………………。  』



ー、抜け出して、耀太に会いに、行きたい。

笑顔が、観たい。

ただの弟だったのに、それくらいには私は耀太が、
 ずっと傍に居てくれた耀太  が、大切だったー。




「   お姉ちゃん、僕が、ずっと、ずっと傍に居るから、大丈夫  だよ。   」


そんな、耀太の言葉を過ぎらせながら、空を見た。



耀太は、兎に角何故だか  ー、モテる。

甘いものが好きではない耀太のバレンタインデ
ーチョコを、どの位、私が食べたことか。

ー、ゴデ○バとか沢山入ってた時には、流石に
私が耀太に成り代わりたくなったわ…。

モテる家族がいる家だと、ありがちよね、…恐らく。

男性や、はたまた女性に誘拐されかけた事も、
何度かあった。

その時は、私がどうにか機転を利かして必死に
阻止した、ような、気も…する。



……と、言っても



「  耀太、何してるの? 家に帰らないと怖い母
さんに叱られるわよ、で…貴女は?  」



と、言って   キツい姉   ぶっただけ   だ。

誘拐犯?らしき女はすぐ傍にあった車に乗り込
み、颯爽と逃げて行った。

何度か見掛けていて、耀太に声をかけていたの
だが、私が睨みつけたそれ以降は観ていない。

私も、結構変なおじさんに、帰り際ストー
カー?紛いの事をされたり、自転車のサドルに
妙な液体が付着していた事があったりなんかした
事がある。……。

だが、ある日、家まで着いてきた  おじさん  に対し、 遂に睨み付けてみた  ら、怯えて去っていっ
たのだった。



ー、あれぞ   負け犬  だわ……。



どうやら   アイツら  は  しっかりしている強気タ
イプ  に弱いらしい。

……でも、弱者は怒らせちゃダメって、黄色い
パーカーのおじさんが、いつぞや言っていたわね……。

私はペットボトルを開けて、買ってきてもらった
水を、喉を鳴らしながら  飲みほしていく。

ー、なんでも、追い詰められると人は何をするか
分からない、から、らしい。

そんなの。



『   ……この私が、返り討ちに  してやるわ。   』



手元で水を拭う。

私は強い。ーでも。

……耀太は、明るくて、世話好きなくせに、余り
他人を疑わない、からな…。

今だって、きっと……クラスの女生徒に……。



『   …………………………、………。  』



そう思って、水を置こうとした手が止まる。



 『  ………はぁ……。   』



耀太に色々と教わって、奇しくも  両想い  とやら
になってから、私は色々と、凹むばかりだ。



ー、前はこんなに、感情的じゃなかった筈だ。



これは、人を、しいては  弟を愛してしまった  罪  なのだろうかー。

あまり、自分から  人を好きになった事    が、な
かった。

だから、知らない男の子に告白された時も、理解
に苦しんだ。

そっとお断りしたが、疑問だけが、尽きなかった。



『  ……あの子も、こんな気持ち、だったのかな……。   』



冷たく振って、しまった気が、して。



ー、耀太も、どっか、行っちゃうの、かな…。



……ママ、みたいに………。




ピンポン




誰よ、こんな具合の悪い時に…。

私はのそのそと起き上がり、のそのそとインター
ホンに出る。



『  ……はい。  』

『   ー、あっ川澄さん!!? 俺!おれおれ!!!   』



え、!!?

こ、この声はー、い、イツキくん  !!!!



『   お前、おれおれ○欺じゃないんだから…。  』



ーて、いうか、 サツ  x  イツ !!??

きゃー!!!?



『   川澄さん、プリント届けに来たわよ。んで、
心配だって、イツキくんが。…私も気になって。   』



ー、はっ ま、ま、まりあちゃん。



『  ー、ごめん、川澄さん、こんな大所帯でいき
なり押しかけて。…プリントと…、心配だったか
ら、様子見に来たんだ、……出れそう…かな ?   』

『  え!?   い、いや、うん、まさかっ や、い、
良いんだけど…ッ!!?   』



ど、どうしよう、私、パジャマだー。

それに、熱がー。



『    あと、耀太くんからお金預かって、
解熱剤とかも買ってきたから、渡したい。  』

『   ーえ……。    』



姉ちゃんすぐ、熱出すから、だって。

……いい弟くんだな。




ー、耀、太……。


何かが、また、込み上げてくる。




『   ー、ちょ、ちょっと、待ってて!!!   』




私は私と全員分のマスクと、アライグマの描かれ
た消毒液を持ってドアを開けようと靴を履く。

……こういう時、クラス委員とか無駄な事やって
てホントに良かったわ…。 無駄に動きがはやい
ったら…。



ー、そこで、悔しくも、固まってしまった。



廊下から見える、玄関のステンドグラスみたい
な  窓  が、寂しかった。

ー、小学生の頃、プリントを。

二人の  仲良しだった筈  の女の子に渡されて。

楽しそうに。今から遊ぶんだって、分かるように
腕を組んでいく、あの、二人が、浮かんだ。




ー。




……でも。



イツキくんのー。サツキくんの、まりあさんの、

(    あと 山田… の。   )

玄関先での落ち着く  声  を聞いていたら。

私はまれに出さない  勇気  を出して、ホックを、
重圧のある、重い   扉   をこじ開けた。



『    ー、ま、マスクしてっっ……で、今、家に誰もいないの………ひ、独りじゃなんだか…さ、寂しくて…。 よ、良かったら、是非、あ、上がってっ…!。   』



『   ーいいの?  体調、大丈夫?  』

『  …大丈夫か???  あと、補佐、川澄さんがい
ないと、サツキが泣くからぁぁあ…なーんてな!  』

『   ば、ばかっっ!? な、何 言って…っ!!!
……あ、あと、エントランスから人出てきたから、
勝手に中、入っちまったんだ、ゴメンな…。   』

『  ーっ あ、ありがとう、私なら、だ、大丈夫
よっ。 でも、風邪移しちゃいけないから、一応
マスクと消毒して…っ  』

『    おう、……じゃ、ご遠慮なくっ …おじゃまし
ます!   』

『   ゴメンな、本当に……じゃ、少しだけ、お邪魔
します。  』



ー、笑顔で。

こちらを伺って、心配してくれる皆が、そこに
居た。



『   か、川澄さん大丈夫?  あと、これ、……耀太
くん、から。   』

『  あ、山田、あんた居たの…。   』

『  ……ひ、酷いよ。  』



山田がこっそりと、泣きながら、私に何かを
手渡す。



『  ……なに、これ?   』



メモだ。




ー 1人じゃないよ。 ねえちゃん。




『 …っ  』



早く中に入って  と、山田の背中を押した。




『  ……川澄さん、……やっぱり具合、悪い
かな、……ごめんな、……俺じゃ止めきれなく…。  』



アイツら、川澄さんに、凄い、会いたがってて。

そっと、顔を出したサツキくんが言った。



『  ……どう………した……、    』

『  …ううん、……違う、の………。』

『 ………、…。   』

『     …… 嬉しい、……の…っ……。   』




頬が焼けるように、熱い。



ー、ママ、どうしたら   私  を見てくれるー?



私、お友達、全然、出来なくて。

帰ったら、どっと 疲れて

いつも、寝ちゃってたのー。

だから、ママが疲れてるの、私、知ってたけど、

なんにもして、あげられなかったー。



……ゴメン、ゴメンね、ママー。



私は その熱さを、ひたすらに、拭う。



……今度、何時か、ママに、ちゃんと  会えたら。



自分から、話しかけて、みるね

笑顔で、笑いかけて、みるから…っ。


だから。



あの子達に。

むかし  仲良しだったあの二人   に、

もう一度、  ー、話しかける、ように  ー。


イツキくんや、皆に会うように、


笑えば。


きっと、ママだって ー。




私は顔をパジャマで擦る。

大丈夫、きっと。

クラス委員で、なんでも出来ちゃうサツキくん
なら、



『   ………さ、外は寒い、……早く中に、入ろうぜ。  』

『  ………、……っ、…うん………っ……!   』



きっと、見なかった事  にして置いて  くれる筈、だから 。





⋆***




ー耀太、大好きよ。

……いつも、ありがとう。



部屋の中に入っていくサツキくんを見て、私は
弟の世話している   小さな花壇  を観やる。


小さなマーガレットが、晴れてきた空に 優しく
靡いて微笑んだ。


私の  素顔   は    彼女  もまだ、 知らない  だろう。


ー、ふん、見せてあげるわ。


私はめちゃくちゃに、 強くて、寂しがり屋  で、



でも、弱くて  ー。



それでもやっぱり


また、強がって、



 生きて  いく   ー。




.*・゚⋆  ***




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