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能ある田淵(智也)は意味を隠す

どうも、みゆう・うぇいんです。

本当は自己紹介したいし、書籍紹介もしたいし、物語紹介もしたいし、そもそもソーシャルワーカーですけど、今日も今日とて歌詞紹介です。最高。

皆様は、UNISON SQUARE GARDENを、ご存知だろうか?
愚問だ。
ベースの田淵智也氏が主に作詞作曲をしていることは、ご存知だろうか?
愚問の二乗だ。
それでは、そんなユニゾンの曲は、緻密で繊細で、グッと来てトキメクことはご存知だろうか?
これは……愚問ではなく、意見が分かれるかもしれない。


ということで、本日はUNISON SQUARE GARDEN の、「セレナーデは止まらない」。
(「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」と死ぬほど悩んだが、こっちの方が好きなラブソングなのです……)

ユニゾンの歌詞と言えば、「意味がありそうでよく分からない」と評されることが多い気がする。
実際、的外れでもない気がする。

だって、「ママレード&シュガーソング、ピーナッツ&ビターステップ 甘くて苦くて目が回りそうです」とかいきなり言われたって、何のことやらさっぱり意味不明だ。
共感できるのは、技術向上のために試食し過ぎたパティシエくらいだろう。

そう思えてしまう要因は、作詞家・田淵(敬称略で謝罪します)の特筆すべき点が、「さりげないズラし方」だからである。
これは、他アーティストに提供している楽曲においても、共通する部分があると考えている。

能ある鷹は爪を隠すように、能ある田淵は意味を隠す。

では、本曲にフォーカスを当てて、そのポイントを紹介していこう。
意味を探し出すのは大変な労力なので、例によってまあまあの歌詞を紹介する羽目になる。

なお、私は本曲を極上のラブソングとして認識している。
以下に、齢三十を越えたおじさんのキュンキュンポイントも付随しているが、食事会の最初に出し忘れて、後半で出て来た、お通しくらいの感覚で楽しんでほしい。




一番Aメロ

負けない事に精を出す前哨戦
深呼吸⇒ためらう のスパイラル
コーヒーはほら 飲みかけ wait for step
出ない 行かない 君をさらわない 時は止まんない

茶目っ気たっぷりの失恋模様。

このAメロを説明するとしたら、そんなフレーズがピッタリだ。

主人公は冒頭から、マジで失恋する5秒前だ。
好きな彼女と別れたくない必死な気持ちが、「負けない事(関係性の現状維持)に精を出す前哨戦(本戦ではないので、心のどこかでフラれると予感している)」という、情けない表現方法なのが、思わずグッと来てしまう。

そこだけでも十分なのだが、自分から言い出せない様を、「深呼吸⇒ためらうのスパイラル」と独特な表現をするのは、田淵をおいて他にいないだろう。

というか、曲の歌詞で「⇒」←これいらないだろ、と思わず笑ってしまう。

最後のフレーズは、是非とも曲を聞いてみてほしい。
バチバチにシンクロするドラムとギターと共に、「出ない」「行かない」「君をさらわない」「時は止まんない」と、テンポの良いリズムで、気付いたら主人公が失恋している様は、もはや華麗な手品ショーだ。

さらにこのフレーズは、既存の恋愛ソングの価値観からさりげなくズラしている。

  • 君と別れないために、出て行ってでも引き止める(ベタオブベタな展開)

  • 君をさらってでも、恋をしていたい(ヒロインとライバルの結婚式に、「待った!」なんてのはベタな展開)

  • 時を止めてでも、君との愛を成就してみせる(SF恋愛モノなら、近い描写があったりする)

田淵の手にかかれば、悲しい上にウジウジして情けない失恋場面も、さりげなくズラしてポップに仕上げてしまう。


一番Bメロ

世界が終わっても このままでいつまでも
あの日そう願ったのは誰だ
星座のフリして漂ってばかりです


世界が終わる、という強いフレーズに対して、星座のフリして漂うばかり。
失恋から前へ進まず、過去に留まることを肯定する、異様な表現だ。

それにしても、流星だのオリオンだの星座だの、田淵が繰り出すフレーズは、ベタベタにロマンチックである。

一番サビ

触れたはずの手がなくなって空を切る
君の事を考えたって 会えるわけないのに
嘘はもう沢山だ 誰もが涙するセレナーデは聞こえない
孤独を埋める様に吠える


田淵の箱庭ロックショーならぬ、天才ズラしショーは、ここから開幕する。

まずは最初の二行。
ここは、恋愛ソングどストレートだ。失恋の切なさを、ズラすことなく歌い上げている。

ベタを踏まえた上で、圧巻なのは次の二行。
普通に聞き流せば、単なるオシャレフレーズとして消化されるかもしれないが、田淵は意味を隠してみせる。

ここを理解するためには、「セレナーデとは何か」を理解する必要がある。

セレナーデと聞いて、どのような音楽を想像するでしょうか。
~中略~
この「平穏な音楽」であるセレナーデ、もともとは男性が女性を口説くための曲だったんです!
演奏されるのは夜。
ギターなどの楽器を片手に男性が女性の家の前まで赴き、そこで口説きの言葉を歌い、女性が窓から顔を出すのを待っていました。
たまに楽器の弾ける友人を連れて豪華な演奏もしていたそうです。

大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その14


……皆様は、お気付きだろうか?

田淵が言うところの、「誰もが涙する」セレナーデなんて、初めから聞こえるわけがないし、嘘はもう沢山なわけがない。

なぜなら、セレナーデは特定の男性が恋心を抱く特定の女性へ送る(口説く)曲だ。
主人公に対して聞こえやしないし、ましてや誰もが聞けるわけでもない。

このセレナーデに対するズラし具合は、主人公の失恋に対する気持ちの向き合い方の、メタファーだと推測する。

最後まで聞けば、田淵のズラし方の妙に、きっと驚くことになる。
二番はベタな表現なので、本当に申し訳ないがディレクターズカットして、次のサビへと進んでみよう。


二番サビ

話題の知った風なラブソングなんかで
何十億分の1なんて当たるわけないのに
風が吹いたくらいでふらついてしまうなら
セレナーデをちょっとだけ 僕がそう僕のために歌う


失恋した以上、慰められたいし励まされたいはずだ。
しかし、既存のラブソングは主人公に届くことはない。なぜなら、自分のために歌われていないから。

ならば、と主人公は決意する。
自分のためのラブソングがないのならば、セレナーデを自分のために、ちょっとだけ歌ってみせる。

このズラしの妙、お分かりだろうか?

一番のサビでは、セレナーデは聞こえないと嘯いているし、孤独を埋めるように吠えるだけだった。
二番のサビでは、既存のラブソングを聞いても満足できないので、セレナーデを自分のために歌っている。

さりげなくズラすことによって、曲中で本来のセレナーデに近付いている。
このズラしがどこに着地するのか、楽しみにしてみよう。


ブリッジ

何気ないフレーズでも 何気ないアイテムでも
懲りずに蘇っちゃうから
もう少しこのまま漂っていたいのです

失恋アンビバレンス。

意味が分からないかもしれないが、ここを評するのに、これ以外の表現が思い浮かばない。

主人公にとって、振られた相手はさぞ好きだったのだろう。さぞ、素晴らしい恋をしていたのだろう。

「何気ない」ことすら忘れられない気持ちと、「懲りずに」蘇っていてはいけない(このままではいけない)という、アンビバレンス(両価性)を見事に表現してみせる。

これだけでもキュンキュンしてしまうのだが、田淵のズラしはさらに時を越える。

「星座のフリして漂ってばかりです」(一番)

「もう少しこのまま漂っていたいのです」

漂い具合で、失恋からの立ち直りレベルを描写する。
曲を跨ぐことなく、田淵はこの曲で、主人公が失恋から立ち直る兆しを見せてくるのだ。


サビラスト

触れたはずの手がなくなって空を切る
君の事を考えたって 会えるわけないのに
嘘はもう沢山だ 誰もが涙するセレナーデは聞こえない
孤独を埋める様に

ここで重要なのは、孤独を埋めるように――

所詮は lonely only ただそう 君を歌う
誰かに聞こえちゃうなら意味なんてないのに
世界が壊せそうな気がするから叫んでみる
セレナーデは止まらない 思い過ごしだけど だから歌う

吠えることなく、僕のためでもなく、君を歌う。
一番から丁寧に意味をすくいとれば分かる、このズラし具合。
さあ、ここから先は、ズラし率100%で怒涛の展開田淵学苑だ。

誰もが涙するわけもなく、君にしか聞こえなければセレナーデではない。

君を歌っているはずなのに、どうしてセレナーデではないのか?
もう恋は終わっており、君を口説くことはできないと受け入れたからだ。
つまり、ここでは失恋への未練を断ち切る様子を、主人公のセレナーデに対する捉え方で、見事に表現している。

そして、世界が終わってもこのままでいたいと願っていた主人公が、最後には世界が壊せそうだから、叫ぶ。 

ここで言う世界とは何か。皆様なら、お気付きだろう。
失恋から前に進まない空間である。
そんな世界を壊すということは、失恋から完全に立ち直る、ということだ。

そして最後。
セレナーデは、止まらないのだ。
どうして思い過ごし(考えすぎ)なのか?
私見も私見だが、ここの解釈は二つに分かれると思っている。

  • それでもやっぱり、君が忘れられない。君にだけ届くように、だからこそセレナーデを歌う。

  • まだ恋している人はいないけれど、次の恋をするかもしれない人に向けて、だからこそセレナーデを歌う。

どちらであっても、ロマンチックなエンディングには変わりない。


終わりに

抑えようと思ったのに、この分量になってしまった。
ここまで読んでいただいた方、感謝感謝感謝である。

自分なりに感じていた、ユニゾン曲の「さりげないズラし」を紹介できて、本当に満足だ。

実はこの曲は――とエピソードトークをしようかと思ったが、あいにくこのラブソングで私の恋愛観は形成されなかったので、本日はこれにて終了。

また、逢う日まで。

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